【珠妃】包まれたベールからあふれ出
すリアルな感情

ドラマ『幻夜』の主題歌「光の彼方へ」、そして映画『白夜行』の主題歌「夜想曲」から放たれる歌声が大きな反響を呼んでいる、“謎の歌姫”珠妃。彼女のデビューアルバム『ヒカリ』から浮かび上がる、その姿とは…。
取材:竹内美保

鮮烈な、そしてある種の戦慄すら覚えずにはいられない作品集『ヒカリ』。ヴォーカリストである、という以外は全てが謎に包まれている珠妃のデビューアルバムから聴こえてくる、凛々しさと儚さを兼ね備えた歌声と深遠な世界観から感じたのは、心の内側にズーンと重く響いてくるような衝撃だった。そして、“まだ誰も、何も知ることができていない彼女”について、この作品集に触れることでたったひとつ確信できること…それは、珠妃はどこの誰にも似ていない、という圧倒的な事実だ。

「イメージしていたのは、自分にとってのリアルな感情が表現できる、少し陰のあるアルバムでした」

という彼女自身の言葉通り、『ヒカリ』に収められた8つの楽曲からは、絶望と希望の狭間に息づくヒリヒリとするようなリアルな感情と、その根底に横たわっている無常感の香りが濁りなく伝わってくる。アルバムのオープニングを飾るインストゥルメンタル(声色も音としての)こそ和やかな雰囲気を醸し出してはいるが、全体像から受ける印象は鋭利な感覚とどこか超然とした佇まいの共存。とりわけ、自身が作詞を手掛けている「The Shade」「ヒカリ」「「い」ないあなた」「教室」という4作品に関しては、対極かつ背中合わせに存在しているものが極めて独創的なタッチで歌い綴られており、強く深く心を惹き付けられてやまない。

「歌詞については、自分の好きな本や映画も含め、日常の生活にあるリアルに聞いたこと、見たことや感じたことを思い浮かべて書いています。だからこそ、自分の思いがストレートに言葉や表現として自然と出てきたのかなと思います。そして、それによって歌も感情を大事に自分の声で表現できたことも大きかったですね」

もちろん、すでに配信されている「光の彼方へ」や、本アルバムのパイロット曲となっている「夜想曲」といった他の作詞家が詞を手掛けている楽曲からも、歌声そのものの魅力と表現力は十二分に伝わってくる。しかし、珠妃自身の感情や価値観が100パーセントの純度で昇華されているのは、やはり自身から沸き出てきた言葉を声で表現した作品であることは確か。不穏さの漂う鋭角的なサウンドに乗せて、心の内を支配する“闇”とそこで渇望する“光”を凄みすら感じさせる歌唱で表現する「The Shade」。インダストリアル・ミュージックにも通ずるような無機質なリズムとどこか挑戦的な眼差しもうかがえる切れ味のいい言葉、そして主メロとハモにあえて少しの距離を持たせることで立体感が表れたヴォーカル(珠妃自身、

「全ての楽曲にコーラスやハモを入れることができたのは大きな収穫だった」

と語っているぐらい、コーラスやハモに対しても強いこだわりを抱いている)が不思議な相乗効果をもたらせている、タイトルも独特な「「い」ないあなた」。楽曲の位置付けとしては1曲目の「チャイム」へとリピートを促す存在でありながら、ポエトリー・リーディング的な始まりから一気にドラマチックに変貌するヴォーカリゼーションに圧倒され、しばしその余韻にも翻弄されたままでいたくなる「教室」。そして、とりわけ圧巻なのは、やはりタイトルチューンとなっている「ヒカリ」だ。水の音や風の音が織り込まれた沈みながら浮遊するサウンドをバックに、深い森の中にあるカテドラルから響き渡ってくるような“滲む透明感”を内包した歌声がスーッと心に浸透してきた瞬間、荘厳さすら感じてしまうのは決して私だけではないだろう。“死生観”と言ってしまうと重々しくなってしまうが、この楽曲での彼女の声のトーンは、そのテーマ(これは、あくまでも私個人が歌詞から感じたところ)を素晴らしくクリアーに表現しているから。
娯楽としての音楽も、それはそれでとても楽しいアイテムだ。何かをする時の雰囲気作りを手助けしてくれるような、それでいて邪魔にならないようなBGMだってもちろん必要な時がある。なんだかよく分からないうちに空いてしまった心の隙間を埋めてくれる、図らずも負ってしまった傷を癒してくれる、運命共同体にも似た歌世界も、事によっては即効性のある手当てにあるだろう。でも、目的に向けて力を借りるために存在させる音楽ではなく、音楽を音楽として純粋に聴いた時に感じられるもの、見えてくるものを大切にしたいと思うならば、珠妃の『ヒカリ』はぜひ耳にしていただきたい作品集だ。その歌としての、音楽としての聴き応えだけで、十二分な納得度と満足感を得られるパッケージになっているから。そして、ひょっとしたらあなたが気がかりで仕方ない、謎に包まれた彼女のパーソナリティやキャラクターに関しても、感じ取れるところもあるかもしれないから…。

「たくさんの人にこのアルバムを聴いてもらい、何かを感じてもらいたいです。自分が書いた詞で想いを伝えることができることに対して、思っていた以上の満足感を得られたので…何度も聴いてもらってココロで感じてもらえるとうれしいです。そして、今後はジャンルに関係なく、サウンドやビジュアルで“珠妃の世界”をもっと表現できたら、と思います」

彗星の如く現われ、新たなビッグバンを起こしそうな、新世代のアーティスト。絶対、見(聴き)逃さぬよう。
珠妃 プロフィール

タマキ:プロフィール非公開の謎のベールに包まれた女性アーティスト。2011年1月に公開の映画『白夜行』の主題歌である「夜想曲」で正式なデビューを飾る。オフィシャルHP

OKMusic編集部

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