岡田将生、故・蜷川幸雄の想いを受け
て挑むシェイクスピアの『ハムレット

蜷川幸雄演出の『皆既食-Total Eclipse-』(2014年)で初舞台を踏み、その後も毎年舞台作品で印象に残る演技を披露してきた岡田将生。2019年、ついにシェイクスピア『ハムレット』のタイトルロールにチャレンジすることとなった。演出を担当するのは、イギリスのロイヤル・ナショナル・シアターのアソシエイト・ディレクターとして活躍し、来年夏からはアメリカのワシントンD.C.のシェイクスピア・シアター・カンパニーの芸術監督を務めるサイモン・ゴドウィン。岡田に作品への意気込みを聞いた。
ーー4年前に初舞台を踏まれた際、蜷川さんから「君とシェイクスピアをやりたい」との言葉があったとか。
初舞台のとき、蜷川さんに舞台の立ち方からセリフの発し方まで、一から教えていただいたんです。そんな状態の僕に、嘘だとしてもそうおっしゃってくださったことがすごくうれしかったです。シェイクスピアをあまり知らなかったのですが、『ハムレット』は代表作で、誰もが聞いたことのあるセリフがありますし、その作品をこうしてできるということになり、蜷川さんのお墓に報告しに行かなくてはいけないなと思っています。
岡田将生
ーー『ハムレット』にはどういうイメージがありましたか。
復讐劇ですが、『ハムレット』は観る人によって見方がそれぞれ違うでしょうし、演じる人によっても印象が変わると思います。藤原竜也さんが演じられていたことがあるので、竜也さんのイメージが強い方もいると思うんです。ですので、僕ならではのハムレットを演じなくてはいけませんし、創りたいですね。高いハードルですが、これからの稽古で僕ならではのハムレットを探して、しっかりやっていきたいなと思います。竜也さんとは、初舞台を踏む前のタイミングで連続ドラマでご一緒させていただいたんですが、そのときに舞台のお話をよくしてくださって……。その中に『ハムレット』の話もあったんです。それが頭に残っていたんです。だから今回、竜也さんにも『ハムレット』をやらせて頂くんですと報告しました。体力を使うでしょうし、フェンシングのシーンもあります。覚悟が必要な作品なので、しっかり準備をしなくてはいけないなと思っています。ハムレットをいろいろな角度から解釈できるよう、柔軟でもありたいです。
ーー現時点で感じている作品の魅力とは?
やはり、ハムレットを演じられるということに尽きます。僕はハムレットの精神は壊れてしまっていると思うんです。本を読んでの印象としてですけど。でも、壊れていないように取り繕っている。『ハムレット』はあの世界に没頭してしまう濃厚なストーリーなので、冒頭の30分くらいでどう印象付けるかが大切だなと思っています。演出のサイモン・ゴドウィン​さんは、ファンタジーが混ざるとおっしゃっているので、僕としてはそこも楽しみで、早く稽古に入りたいですね。
ーー稽古に入る前ではありますが、現時点でどんなハムレットを演じたいと思っていますか?
父を失った、その喪失感や、復讐に燃えていくところとかが、色気につながっていればいいなと思っています。そこが美しくもあってほしいし、はかない感じでもある。そこが比例すれば、また違うハムレットになっていくのかなと考えていたりします。そういう感情は、表に出さなければ出さないほど、観ている側は、「この人、どう思っているんだろう?」と考えるじゃないですか。そういう余白も含めて、一つの魅力につながっていけばいいなと。独白の部分も、静かに淡々と言うということも考えられるなとか、そうやって考えることが今すごく楽しいです。考えれば考えるほど、僕はハムレットをすごくやりたいんだなと感じます(笑)。
ーー初体験となるシェイクスピアの言葉についてはいかがですか。
特殊ですし、大変だと思います。でも、この作品をやると決めたので(笑)。言葉って、自分の口にだんだん合ってくるものだと思うので、稽古を重ねれば馴染むだろうし、追求していくうちにそこから楽しさも出てくるだろうし。どうしてもわかりづらい部分ってあると思うんですけど​、ストレートにお客様の耳に入っていくようにしたいです。シェイクスピアの作品は難しそうということで、若い人たちに敬遠されがちなのかなとも思うんですが、触れたことのない方にも観ていただきたいですし、この舞台がきっかけでシェイクスピアを好きになってくださる方がいるかもしれない。自分の身体も使って、お客様にわかりやすく伝えられたらいいなとも思います。
岡田将生
ーー有名な「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」のセリフもあります。
まだ自分が口にしているのを全然想像できないですが、楽しみです。自分がどんな風に言うことになるのか、観る方々も、「どうやって言うんだろう」と思われているでしょうし。それは稽古しながら、いろいろなことを試し、正解を一つにしないで可能性を探っていきたいなと思います。ハムレットは長い独白も多いんです。感情的なキャラクターとして創るんだったら、激しく動いて言うかもしれないし、すっと立ったまま言うかもしれない。僕はまだまだ舞台の経験が浅いので、すべてをよくわかっているわけではないんですが、舞台は生き物で、毎日毎日変わっていくものだと思います。お客様の反応によっても変わりますし。これまでの経験ですごくそこは感じる部分があるので、あまり硬くならずに、舞台に立ちたいと思っています。今回、自分がハムレットとしてどういう風に舞台に立つんだろうということがすごく楽しみです。稽古場では恥ずかしがらずに挑戦していきたいなと思います。
ーー初舞台以来、定期的に舞台に立たれていますが、舞台に立つ醍醐味とは?
大変でつらいんですが、得るものもすごく多いです。毎日毎日、生の自分、生の自分の実力を試され、観られているなと思います。毎日体調をきちんとコントロールしなくてはいけませんし。それはプロとしては当たり前なんですが……。そして演者の方々も皆さん、その日のコンディションによって役の印象が変わるのがすごくおもしろくて。今日はこの役ちょっと不機嫌なんだなとか、お芝居の色、声の色が変わる、それがすごく素敵で。舞台をやっていると、映像だと得られない充実感があるんです。初舞台のときからそれは感じていました。また、未だに忘れられないのは、初舞台の際、最後に拍手をいただいたのを本当に申し訳ないと思ってしまったことです。お客様からの拍手にまだ自分が追いついていないという悔しさで、カーテンコールもすごく恥ずかしくなってしまって……。当時、いつかちゃんと堂々と立っていられるようになりたいと思ったことをよく覚えています。
ーー拍手ってある種、魔物みたいなもので、それでもう達成感を覚えてしまう人もいるように思うのですが、ご自身で「申し訳ない」と思っていらっしゃったというところが非常に興味深いです。
まだまだ自分に満足できない、ということでしょうね。どんどん追求していきたいんです。先輩たちが舞台に立っていらっしゃる姿が本当に素敵なのに、自分はまだちゃんと立てていないんだなと感じることがすごく多くて……。だからこそ、チャンスがあるならば、あまり途切れることなく舞台をずっとやっていきたいという思いがあります。『ハムレット』に関しては、楽しみはあるんですが、不安もあって、もうちょっと舞台の経験をしてから演じた方がいいのかなと悩むこともあります。ですが、それを抜きにして、僕に話をくださったのが本当にうれしくて、それに応えたいという気持ちがあります。それから、30歳前に、どうしてもシェイクスピア作品をやりたかったというのがありました。初めてのシェイクスピア作品が『ハムレット』で、すごく高い壁だとは思うのですが、覚悟を持って臨もうと思っています。
岡田将生
ーー演出家のサイモン・ゴドウィンさんとお会いになっての印象は?
オープンで、とても明るい方。そしてすごく鋭いというか、視点が全然違っていて、僕の心情をすごく大切にしてくれるという印象も受けました。ハムレットの話をしているときでも、「君はどう思っているの?」と、僕の意見をまず聞いてくれるんです。「どういうイメージがある? どう演じたい?」と言われたときに、すごく繊細な人物というイメージがあるという話をしました。これから、いろいろ話して行けば行くほど、奥深いところまで行けるんじゃないかなと思いました。僕の考えとサイモンさんの考えとをすり合わせて行くのがすごく楽しみです。
ーーサイモンさんのワークショップも経験されたそうですね。
ワークショップ自体、なかなか機会がなくて、行ったことがなかったんです。実際参加してみると、本当におもしろかったです。「こういうことするんだ!」という驚きの連続でした。自分を出すということをよくわかっていらっしゃる方ばかりのなか、僕は自分を出すということがまだ恥ずかしくて……。ワークショップをちゃんと楽しめたかどうかはわからないんですが、サイモンさんの言葉選び、何を今させたいのか、こういう身体の使い方をしてほしいとか、それがすごく明確で、おもしろくて、こういうレッスンを怠っていたなと思ったりもしました。それに、身体にはこんな動かし方があって、こんな表現ができるんだということを改めて知ることができたので、今回の舞台でも、いろいろな身体の使い方を学べるのが楽しみです。全員がそれぞれ違う動きをしながら動き回って、でも誰かについて行きたくなったらその人の動きに合わせてついていくとか、みんなの動きが合っていくのがすごく楽しかったです。やっぱりお芝居って、セリフの掛け合いもそうですけど、そういう呼吸ってすごく大事だと思うので。知らないことは恥ずかしがらずにどんどん知って吸収していきたい、いろいろなことを体験したいというのが20代の目標なので、稽古場でもそういうことをやるのかなと思うと、それも楽しみです。
岡田将生
ーー蜷川さんに「君とシェイクスピアをやりたい」と言われたことが、やっぱり強く残っていたのでしょうか。
そこにとらわれている部分もあるかもしれないですね。それだけ蜷川さんの存在が大きいといいますか。僕を初めて舞台に立たせてくださり、一から教えてくださった、偉大な方。こわくて、優しくて。そして舞台の楽しさを教えてくださった。自分の感情がいつもぐちゃぐちゃになったまま稽古場から帰っていたこととか、未だに忘れないです。だけど、そういう経験が今、活きています。そんな蜷川さんとの初舞台がシアターコクーンだったんですが、今回『ハムレット』も同じ劇場でやれるというのが本当にうれしいです。すごく思い入れがあるので。
当時、「映像で疲れたら舞台をやればいい、それで全部発散しなさい」と蜷川さんが言ってくださったんですが……いや、発散の仕方なんてまだわからないですし、毎回ドキドキしながら、セリフ飛んじゃったらどうしようとか思いながら舞台に立っています。でも、そんなことを忘れて生き生きしている自分がいたりもするので、そんな感覚があると、舞台から離れられませんね。
ーーこれまで立たれた4本の舞台からは、堂々として、楽しんでいらっしゃる印象を受けました。
いやいや、毎回心臓バクバクなんです(笑)。でも、楽しさは見つけつつあります。『ニンゲン御破算』でも、ハプニングをどう笑いに変えて、しかもどうやって話の軸をそらさないようにするか、それを皆さんと一緒に経験できたのが楽しかったです。それと、昨年の秋はドラマ『昭和元禄落語心中』で落語家の役を演じましたが、そこでは、話している本人が楽しくないとお客様には伝わらないということに気づきました。演じている側がエネルギッシュだと観る側にすごく伝わるんです。それはどの仕事でも感じていますし、すべての仕事が経験としてつながっているんだと思います。そんな経験があったからこそ、今できるハムレット、今出せるものがあるんだろうなと思っています。落語も、ずっと一人でしゃべって、一人で見せるというところがありますが、多種多様な見せ方があるという意味では、ハムレットの独白にもつながっていくのかなと思っています。いろいろな土台をわかってきた今、ハムレットは非常にチャレンジし甲斐があります。自分では計算してきたということはありませんが、いただいたお仕事は運よくハムレットに向かって少しずつ階段を昇っていっているような気がします。だからこそ、すごくいい流れで臨めるんじゃないかなと思っています。
岡田将生
ヘアメイク:FUJIU JIMI
スタイリスト:大石裕介
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=ジョニー寺坂

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