アジアを代表するデュオ、
CHAGE and ASKAが
彼らの時代を創造した『TREE』

各々の個性が際立った音楽性

そのC&Aのアルバム紹介であるが、全21作品の中から1枚を選ぶならば、これはもう「SAY YES」を収録した14thアルバム『TREE』で間違いはないだろう。彼らのオリジナル作の中で最も売れたアルバムであるし、内容もC&Aというグループらしさが十分に発揮された作品と言える。シングル曲のほとんどをASKAが手掛け歌っていることから、世間一般ではASKAがメインヴォーカルでChageがコーラスと思われている節があるかもしれないが、ふたりでC&Aである。本作も収録12曲のうちASAK作曲が7曲、Chage作曲が4曲、C&Aでの作曲が1曲と、若干ASKA曲が多いものの、それにしてもChage曲の割合が少ないというほどでもない。ほぼイーブンと言える。そして、各楽曲にちゃんとASKA、Chageそれぞれの個性がある。

まずASKA曲であるが、やはり歌のメロディーと歌唱が際立っている。M1「僕はこの瞳で嘘をつく」やM8「明け方の君」などビートの効いたものの十二分にいいけれども、やはりミディアム~スローがいい。この表現が合っているのかどうか分からないが、彼が作るメロディーには大らかな印象がある。スケール感が大きいメロディーと言ってもいいかもしれない。ちょっと大袈裟に言うと、どこまでも続く地平のような、深遠なる星空のような、そんな風景感があるように感じている。そのメロディーをASKAはあの“ねっとり”とした独特の歌唱法で歌い上げる。しかも、ASKAの声質は倍音だという。筆者はその辺は専門ではないのでこれは聞きかじりの知識なのだが、倍音とは、基本となる音に対して2~3オクターブ上の音が混ざることで、それによって(ものすごく簡単に言うと)聴いていてとても気持ち良い音になるそうだ。つまり、リスナーは大らかなメロディーを聴いて気持ち良い歌声で、じっくりと攻められる。そこに以下のような歌詞が乗せられているのである。

《愛には愛で感じ合おうよ/恋の手触り消えないように/何度も言うよ 君は確かに/僕を愛してる》《迷わずに SAY YES 迷わずに》(M2「SAY YES」)。

《君の幸せの場所/僕を知る前? 後?》《今夜はお話を 聞いてあげよう/手をつないで 手をつないで/眠りの森の中で 迷わないよう》《君の悲しみの場所/僕とふたりで行こう》(M5「夜のうちに」)。

《愛しては愛される ただそれだけ/Woo Woo 今日 明日とつながるだけなのに Woo Woo Woo》《並んでは笑えない ふたりになる/わかり合うように 手を振るのは何故? Woo Woo Woo Woo》(M12「tomorrow」)。

愛の言葉がリスナーの鼓膜に文字通り粘着するのである。M2「SAY YES」がトレンディドラマ『101回目のプロポーズ』の主題歌となったこともASKAの資質を考えればある意味で必然だったように思われる。

一方、Chage曲はというと、サウンドとアレンジにその面白さがあると思う。ブルージーかつジャジー、そしてAORな雰囲気もありつつ、スパイ映画テイストもあるM4「CAT WALK」。M1~M3と聴き進めると、ここで明らかにシーンが変わる。アルバムの妙味のようなものが確実にある。インド音楽風なイントロで始まってシタール(に似たシンセかもしれない)も聴こえるM7「誰かさん〜CLOSE YOUR EYES〜」は、The Beatles好きを公言しているChageらしさがある。メロディーはどこか大瀧詠一っぽい印象もあって、そこまで本格的な印象はないけれども、サイケとポップスとの融合といった風情である。M9「CATCH & RELEASE」は如何にも1980年代的なドンシャリ感のあるファンクチューン。とは言ってもゴリゴリのファンクではなく、間奏がフレンチポップスみたいになったり、アウトロに近い後半のメロディーとその音処理はやはりサイケ期のThe Beatlesオマージュが感じられたりと、ひと筋縄ではいかない作りだ。M10「BAD NEWS GOOD NEWS」もなかなか興味深いナンバー。基本はR&Rで、ブラスも入っているけれどもR&Bと呼ぶほどには泥臭くなく、シンセを使ったイントロはテクノポップ風と、これもひとつには括れない印象である。しかも、そのいずれもが決して実験的には聴こえず、とても大衆的ではあって、Chageのポップセンスが垣間見える。

このふたりにしかできない化学変化

さて、改めて個人的には…と前置きするが、アルバム『TREE』で最も面白く聴いたのはM6「MOZART VIRUS DAY」である。アコギとピアノの入ったさわやかなイントロから始まるのだが、Bメロで転調してバンドサウンドのR&Rへ展開。そこからゆったりとタイトルの《MOZART VIRUS DAY》がリフレインされて、ASKA王道とも言うべき大らかで甘いメロディーへと突入していく。聴いているこちら側が“これはどこに連れて行かれるのだろう?”と思うような感じだ。ポップスや歌謡曲の公式(そんなものはないが)に沿った曲展開が決して悪いと言うことではないのだが、M6「MOZART VIRUS DAY」のような展開もまた楽しいものだ。前半をChageが、後半をASKAが作ってそれを合体させたということだが、“合作の妙味、ここにあり”といった感じの出来栄えと言えよう。

そして、これは言うまでもないことであろうが、どの楽曲においても、インパクトがあって聴く人の印象に残るのはふたりの声が重なる箇所であろう。先ほどASKAの声質を簡単に説明した。彼の歌声は、言わばひとりでいくつもの音階を重ねているように聴こえる心地良さがある。メロディーも優れているので、ASKAひとりの歌声でも十分に魅力的ではある。しかし、さらにそこへChageのハイトーンのヴォーカルが重なることで、得も言えぬ高揚感を生み出す。神々しさすら感じる声の重なりである。これはもう、このふたりにしかできない完全無欠のハーモニーと言っていいだろう。レコーディングでは自分のコーラスをいくつも重ねることができるので、某大御所のように歌は全部ひとりでこなすこともできよう。ライヴでは歌の上手いプロのシンガー、それこそ倍音の歌手を招けば、もしかしたらC&A以上のハーモニーが生まれるかもしれない。しかし、仮にそうだとしても、それはあくまでもC&Aとは別物である。ChageとASKAとによる化学反応は、ChageとASKAにしか起こせないのである。

そんなふうに考えると、半可通な筆者ですら、やはりASKAの脱退には哀しさを感じたりするし、ファンの気持ちはいかばかりかと察するところではある。その上でこんなことを言うのはかなり不謹慎だろうが、もう一度、あえて言いたい。今回の騒動は脱退であり、それが事実上の解散と言われようとも、正式な解散宣言ではない。そこにほんのわずかな希望を見出したい。変に期待を煽る意図はまったくないけれども、こうして『TREE』を聴き返して、心底残念に思った。C&Aが歴史的役目を終えたとは思いたくない。彼らがいなくなることは日本音楽シーンの大きな損失であることは間違いない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『TREE』1991年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.僕はこの瞳で嘘をつく
    • 2.SAY YES
    • 3.クルミを割れた日
    • 4.CAT WALK
    • 5.夜のうちに
    • 6.MOZART VIRUS DAY
    • 7.誰かさん〜CLOSE YOUR EYES〜
    • 8.明け方の君
    • 9.CATCH & RELEASE
    • 10.BAD NEWS GOOD NEWS
    • 11.BIG TREE
    • 12.tomorrow
『TREE』(’91)/CHAGE and ASKA

OKMusic編集部

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