『人間失格』に見る
永久不変なスタイル
人間椅子の不思議な
感触の世界を惑溺せよ

ヘヴィメタルに独特の歌詞世界

それでは、彼らのデビュー作であり、バンド史上最高セールスを記録した『人間失格』から、その人間椅子の方向性、音楽性を検分してみたい。本作はインストM1「鉄格子黙示録」から始まる。オープニングSEにも近い位置付けで、逆回転風の音も入ったサイケ的な音作りでありつつも、“おどろおどろしい”と表現するのが相応しい音だ。冒頭も冒頭からこのバンドの特徴が垣間見える。それがフェードアウトしたところに、ベース、ギター、ドラムと3ピースが重なっていく。これまたダークな印象。しかも緊張感は相当なものだ。ハードロック、ヘヴィメタル、プログレ。人間椅子の音楽はそういったジャンルにカテゴライズされるものであることが分かる。

それは次曲M2「針の山」がウェールズのバンド、Budgieのカバー曲であることからも明白となる。Budgieはそれほど知名度が高いとは言えないバンドだが、Metallicaがファンを公言し、IRON MAIDENやVan Halenもその楽曲をカバーしているバンドで、のちのHR/HMシーンに多大なる影響を与えたと言われる存在。カバーするにしてもそのセレクトが渋い。また、オリジナルの途中でアコギ中心のバラード調になるところはトレースしていないものの、それ以外は奇を衒ってないというか、とても素直にカバーしていて、どちらかと言えばコピーに近い。歌詞は日本語なのでカバーはカバーなのだが、言葉の乗り方も絶妙で、原曲を知らない人は人間椅子のオリジナルだと思うような楽曲だ。個人的にはオリジナルより若干上手いと感じるほどだし、グイグイと迫るテンションは明らかに原曲を超えている。歌詞がまたすごい。以下がその抜粋である。

《俺の穢れた臓腑を死んでる予定の母親貪って》《俺の奢れる舌をヤットコどっこい閻魔は引っこ抜き》《俺の狂える額を冥土の使いの禿鷹(はげたか)ついばんで》(M2「針の山」)。

まさしく地獄絵図。“おどろおどろしい”の字義通り、不気味で恐ろしい情景と言葉が綴られている。確実に万人向けとは言えない内容ではあるが、サウンドにも合っていると思うし、あえて東北訛りを活かしているのであろう発声法も民話伝承っぽい雰囲気がして、その内容にとてもマッチしている感じだ。続くM3「あやかしの鼓」は、これまたおどろおどろしい、呪術的とも思えるドラミングから始まる。日本古来の民謡などのリズム、調子にも重なる上、歌舞伎などの古典芸能の要素も感じられる歌い方も独特だ。バンドアンサンブルも面白い。ギターリフがリピートされつつも、リズム隊が変化することで、楽曲全体に抑揚と奥行きが出て来る好例。3ピースという最小形態を苦にせず、むしろそれを逆手に取ったようなバンドアンサンブルが実に素晴らしい。後半アップテンポになって疾走感を増していく様子はやはりプログレ的であって、伝統的なロックのカッコ良さが感じられる。楽曲のタイトル「あやかしの鼓」は夢野久作の著作からの引用だろう。

と、ここまで=M1~3で、人間椅子の方向性、音楽性ははっきりする。ジャンルはヘヴィメタル(プログレの要素も強いのでプログレッシブメタルと呼んだ方がいいかもしれないが、ここでは大枠で語ることとする)。そこに和テイストの歌詞──とりわけ怪奇的であったり幻想的であったりする歌詞を乗せたものが人間椅子であると言っていい。以降、サウンド的には若干バラエティー豊かにはなるものの、基本はこのスタイルである。少しブギーっぽいM4「りんごの泪」も独特の訛りがある発声法で、歌の抑揚のなさがまさしく民謡調のナンバー。和風プログレといった雰囲気もあるだろうか。

《りんごりんごりんご りんごの哀しみ籠の中》《十五時五十四分 青森発上野行急行津軽/りんごは今日も売られていく/お岩木山の麓では お猿の弥三郎(やさぶら)手を振って/齧るりんごも目にしみて 汽車はじょんからじょんからと》(M4「りんごの泪」)。

歌詞はパッと見では可愛らしく感じられるかもしれないが、相当ヘヴィな話を下地にしていることは疑いようがないだろう。M5「賽の河原」もスラッシュメタル的なリフながら、全体的には重いサウンドが淡々と進む感じだが、これがまた歌詞に合っている。

《一つ積んでは父のため/二つ積んでは母のため/三つ積んでは人のため》《右も左も 分からぬ/霧と硫黄の 荒野を/鬼に追われて 子供は逃げる/石を蹴散らし どこに行くのだろう》《遊び疲れた 子供は/石の蒲団に くるまり/水に呑まれて 湖の底/醒めることない 夢を見るのだろう》(M5「賽の河原」)。

これまた後半、アップテンポに展開が変わるが、楽曲のシアトリカルさを増長している感じで、完璧とも言っていいアレンジだ。サビメロがどこか昭和歌謡っぽいM6「天国に結ぶ恋」は、楽曲タイトルからして“おっ、このバンドにも恋愛の歌があるのか!?”と思っていわゆるラブソングを期待すると、いい意味で裏切られる(人によっては“悪い意味”で裏切られる)ダークなナンバー。この歌詞はあえて掲載しないけれども、少しでも興味を持った人はググってみてほしい。良くも悪くも衝撃的であるはずだ。

OKMusic編集部

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