『愛していると云ってくれ』から
滲み出ている
中島みゆきにしか
成し得ない問答無用の迫力

豪華演奏陣が醸し出す力強さ

ただ、そこは音楽=“音を楽しむ”というだけのことはある。実際に聴いてみるとそこまでオール後ろ向きである印象はない。前向きだとは言えないけれども、暗黒世界に引きずり込まれていくような圧迫感を、少なくとも筆者は感じなかった。それはもちろん言葉が音符に乗っているからであるが、サウンド面によるところも大きいと思われる。その点では、M3「わかれうた」が分かりやすいだろうか。メロディーに明るさはほとんどないと言っていいけれども、印象的な♪ズンチャズンチャ♪という2ビートのギターがどこか牧歌的というか、ちょっとカントリーっぽい雰囲気を出していることで、《途に倒れて だれかの名を/呼び続けたことが ありますか》という衝撃の台詞をやや薄めてくれているような気がする。もし、あれがM1「「元気ですか」」同様にクラシック音楽をバックにしたモノローグであったとしたら、たぶん3曲目で聴くことを止めるだろうし、それ以前にM3「わかれうた」がシングル曲として自身初のチャート1位を獲得することはなかったのではないだろうか。この楽曲は、どこかノスタルジックなサウンドと、淡々としているからこそ分かりやすいメロディラインがあったからこそ、大衆に浸透したのであろう。

それ以外の楽曲にしても、どれも基本的にメロディはフォーキーなのだけど、M2「怜子」、M5「化粧」、M7「あほう鳥」はロック色、M4「海鳴り」、M6「ミルク32」、M8「おまえの家」はブルース色があると思う。もろに8ビートだとか、もろにブルーノートスケールがあるというわけではないけれども、楽器のアンサンブルにそれらが感じられる気がするのである。リズム隊が入っているものには躍動感があり、バックの音数が少ないものでもとてもエモーショナルだ。それも本作の参加ミュージシャンの顔触れを見て納得。つのだひろ(Dr)、後藤次利(Ba)、増田俊郎(Gu)、坂本龍一(Pf)、斉藤ノブ(Per)──。そりゃあ、そのサウンドに躍動感がないわけがないし、どう演奏してもエモーショナルになるであろう。楽曲にある力強さを彼らが余計に注入しているようでもある。アルバムの世界観が後ろ向き一辺倒にならないというか、暗黒世界に引きずり込まれるようにならないのは、こうした背景もあると思われる。

ラストの「世情」をどう読む?

さて、そのアルバム『愛していると云ってくれ』はラストM9「世情」で締め括られるのだが、ご存知の方はご存知の通り、この楽曲がM1~8とは打って変わって、とらえどころがないのである。いや、メロディーは立っているし、合唱が重ねられてアルバムのフィナーレに相応しい迫力があるのだけれども、どう受け取っていいのかまったく分からない。一応、歌詞を以下に記しておく。

《世の中はいつも 変わっているから/頑固者だけが 悲しい思いをする/変わらないものを 何かにたとえて/その度崩れちゃ そいつのせいにする》《世の中は とても 臆病な猫だから/他愛のない嘘を いつもついている/包帯のような嘘を 見破ることで/学者は世間を 見たような気になる》《シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく/変わらない夢を 流れに求めて/時の流れを止めて 変わらない夢を/見たがる者たちと 戦うため》(M9「世情」)。

《シュプレヒコール》という言葉から学生運動をモチーフにしているのではないかと言われているようだが、作者である中島本人はこれがどういう内容であるのか一切語っていないのだから、何とも言いようがない。1981年のTVドラマ『3年B組金八先生』の劇中歌で使用されたことでその物語に引っ張られたのだろうか、反抗の敗北を綴ったものだという意見もあるようだし、そこからさらに進んで、二項対立を歌ったものだという見解もあるようだ。それらも真実かどうか分からない。筆者も一応考えてはみたが、よく分からないので考えることを止めた。ただ、ひとつ分かることは、難解であるがゆえに聴いた人はこの歌詞の意味を考えるではないかということだ。聴き流す人がいない…とは言わないが、M8までの楽曲はそこにある物語は比較的分かりやすいだけに、“おや?”と思う人が多いのではなかろうかと思う。まぁ、その辺は筆者の私見ではあろうけれども、この『愛していると云ってくれ』がM9「世情」で終わっていることで不思議な余韻を残しているのは間違いないのではなかろうか。そんなアルバムはそうない気はする。けだし名盤と言うべきであろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『愛していると云ってくれ』1978年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.「元気ですか」
    • 2.怜子
    • 3.わかれうた
    • 4.海鳴り
    • 5.化粧
    • 6.ミルク32
    • 7.あほう鳥
    • 8.おまえの家
    • 9.世情
『愛していると云ってくれ』('78)/中島みゆき

OKMusic編集部

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