稀代の名曲「セルロイドの英雄」を
収録したキンクス中期の傑作
『この世はすべてショー・ビジネス』

第一次ブリティッシュ・インベイジョン

人種差別の問題がアメリカとは比べ物にならないほど小さいイギリスでは、すでに50年代にはアレクシス・コーナーらが中心となり、黒人のブルースやR&Bを研究し、日夜ジャムセッションが繰り広げられ、新たな若者中心のポピュラー音楽が生み出されようとしていた。60年代初頭にはボブ・ディランやプレスリーの登場が引き金となり、イギリスの若者たちはアメリカの黒人音楽をモチーフにした新しいポピュラー音楽(ロック)を作り出すことに成功する。その少し前の50年代には、大きなムーブメントとなったロニー・ドネガンを中心としたスキッフルブームが到来する。スキッフルはジャグバンド、フォーク、カントリー、ブルーグラス、ロカビリーなどを包括した音楽で、60年初頭にデビューしたイギリスのロックグループは多かれ少なかれ、スキッフルの流行から音楽活動を始めている。62年にはスキッフルバンドを母体としたビートルズがデビュー、斬新なオリジナル曲を武器に、あっと言う間に世界的なグループとなっていく。

続いて、ローリング・ストーンズ、マンフレッド・マン、デイブ・クラーク・ファイブ、アニマルズら、R&Bやブルースに根差した新しいグループが次々に生まれ、60年代中期には彼らの音楽は本場アメリカを席巻し、気づけばアメリカのヒットチャートがイギリスのグループに独占されてしまっていた。これが第一次ブリティッシュ・インベイジョンと呼ばれる現象で、中でもキンクスの3rdシングル「ユー・リアリー・ガット・ミー」(’64)は、他のグループとは異質のサウンドを持っていた。シンプルなリフ(パワーコード)を繰り返す荒削りなサウンドはヘヴィメタルの始祖と言われているが、世界最初期のガレージバンドやパンクロックでもあった。この曲は全英1位まで登り詰め、全米でも7位を獲得、キンクスの名前は世界的に知られることになる。

初期のキンクス

キンクスはレイとデイブのデイヴィス兄弟、ミック・エイヴォリー、ピート・クェイフの4人組で64年にデビューした。シングルを2枚リリースするも売れず、彼らが所属していたパイ・レコードは3枚目のシングルがヒットしなければ解雇も考えていた。しかし、3rdシングルが例の「ユー・リアリー・ガット・ミー」であったというわけだ。実は「ユー・リアリー・ガット・ミー」は録音が完了していたにもかかわらず、レイ・デイヴィスはその出来栄えに納得できなかった。レコード会社に再録音を願い出たが断わられたため、プロデューサーにスタジオのレンタル費用を立て替えてもらい再録音したという経緯がある。おそらく彼には新しい音楽を作り出す動物的勘とセンスが備わっていたのだろう。でなければ、取り立ててメロディーがきれいなわけでもないこの曲にこだわる理由が見当たらない。この曲でロックの新しいスタイルを築き上げたキンクスであるが、続く4thシングル「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」(全英2位、全米7位)、5thシングル「タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー」(全英1位、全米6位)が立て続けに大ヒットし、彼らはスターとなった。

しかし、リーダーのレイ・デイヴィスはパワーコードを使った“キンキーサウンド”のみに胡坐をかくような人間ではなく、時にはファンを置き去りにしても貪欲に新しい試みを続けていく。ヒットした「ユー・リアリー・ガット・ミー」「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」を含むデビューアルバム『キンクス』(‘64)と、「タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー」を含む2nd『カインダ・キンクス』(’65)は“キンキーサウンド”中心の組み立てであるが、3rd作『キンク・コントラヴァーシー』(‘65)ではフォークロックやポップロック的なスタイルの曲が一気に増え、アルバムの完成度が高くなっている。このアルバムからはニッキー・ホプキンスがキーボードで参加しており、演奏の幅も広がった。

OKMusic編集部

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