稀代の名曲「セルロイドの英雄」を
収録したキンクス中期の傑作
『この世はすべてショー・ビジネス』

アルバムの完成度は高いが
チャートでは苦戦

66年の4thアルバム『フェイス・トゥ・フェイス』は、ポップロックへと舵を切りつつアルバム全体の構成を考えた作品になっており、楽曲の出来も良くキンクス初期の代表作と言えるかもしれない。ただ、チャートでは苦戦し始め(全英12位、全米47位)ていて、それはサウンドの変化が影響を及ぼしていると思われる。

67年の5thアルバム『サムシング・エルス・バイ・ザ・キンクス』はニッキー・ホプキンスの出番が増え、少しプログレの香りもする作品となった。凝ったメロディーを持つ曲が多く、キンクスの代表曲のひとつである名曲「ウォータールー・サンセット」(全英2位)が収録されている。良いアルバムだと思うが、チャートでは振るわなかった(全英35位、全米153位)。以降、『ライヴ・アット・ケルヴィンホール』(‘67)、『ビレッジ・グリーン・プリザベーション・ソサエティ』(’68)、『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡(原題:Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)))』(‘69)、『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦(原題:Lola versus Powerman and the Moneygoround, Part One)』(’70)、サントラ『パーシー』(‘71)と精力的にアルバムをリリースするもののセールス面での不調は続き、キンクスは所属していたパイ・レコードと継続契約をせず、大手のRCAと新たに契約する。

RCA移籍後、会心の一作
『マスウェル・ヒルビリーズ』

71年、RCAからリリースした『マスウェル・ヒルビリーズ』は、肩の力が抜けたアーシーな傑作となった。ザ・バンドのフリークとして知られるブリンズリー・シュウォーツやマクギネス・フリントなど、パブで活躍する英国スワンプロックのスタイルを踏襲したこのアルバムの泥臭いサウンドはイギリスのロックシーンに影響を与え、ジョー・コッカー、ジェフ・ベック・グループ、ストーンズ、クラプトン(デレク&ザ・ドミノス)などと並んで、70年代初頭の英ロックシーンをリードすることになる。

本作『この世はすべて
ショービジネス』について

アメリカへの憧れを表した『マスウェル・ヒルビリーズ』はキンクスを代表する傑作だと僕は思うが、またもやチャートには見放される結果となる。これまでの彼ら(というかレイ・デイヴィス)の動向からすると、チャートの結果が良かろうが悪かろうが、自分の納得するものができればそれで良しと考えているのだろう。あくまでも我が道を行くというスタンスは潔いと思う。

そして、次にリリースされたのが本作『この世はすべてショー・ビジネス』で、前述したようにスタジオ録音とライヴ録音を合体させた変則的な2枚組になっている。スタジオサイドは前作同様にザ・バンドとアメリカの憧れを形にしている。スライドギターはリトル・フィートのローウェル・ジョージを手本にしており、ホーンセクションはザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』風だ。とはいえ模倣ではなく、しっかりキンクスのカラーが出ているのだからレイ・デイヴィスは流石である。スタジオ録音は全部で10曲、全て文句なしの仕上がりだ。そして、最後に収められているのがキンクス稀代の名曲「セルロイドの英雄」である。この曲はキンクスを代表するだけでなく、ロック史に残る傑作ではないだろうか。

ライヴサイドはスタジオサイドのレコーディング中にカーネギーホールで行なわれたライヴを収録、同時期であるだけにサウンドの違和感はない。スタジオサイドよりはジャズ(ヴォードヴィル風)色が濃いが、ノスタルジックで円熟したサウンドが聴ける。ハリー・ベラフォンテのカバー「バナナ・ボート・ソング」はご愛嬌だが、これはスキッフルブームの名残かもしれない。ライヴサイドの最後はキンクスの代表曲のひとつ「ローラ」で、観客が大合唱するだけで終わるのが少々物足りない気もする。ここは「タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー」あたりで締め括ってほしかったが、“キンキーサウンド”の頃とは違うグループだといってもおかしくないので、これはまあ仕方ないところかもしれない。

TEXT:河崎直人

アルバム『Everybody's in Show-Biz』1972年発表作品
    • <スタジオ>
    • 1. 新しい日がやってくる/Here Comes Yet Another Day
    • 2. マキシマム・コンサンプション/Maximum Consumption
    • 3. 非現実的現実/Unreal Reality
    • 4. ホット・ポテト/Hot Potatoes
    • 5. ホテルに座って/Sitting in My Hotel
    • 6. モーターウェイ/Motorway
    • 7. ユー・ドント・ノウ・マイ・ネーム/You Don't Know My Name
    • 8. スーパーソニック・ロケット・シップ/Supersonic Rocket Ship
    • 9. 陽の当たる側をご覧/Look a Little on the Sunny Side
    • 10. セルロイドの英雄/Celluloid Heroes
    • <ライヴ>
    • 11. トップ・オブ・ザ・ポップス/Top of the Pops
    • 12. ブレインウォッシュド/Brainwashed
    • 13. ミスター・ワンダフル/Mr. Wonderful (Bock, Davies, Holofcener, Weiss)
    • 14. パラノイア・ブルース/Acute Schizophrenia Paranoia Blues
    • 15. ホリデイ/Holiday
    • 16. マスウェル・ヒルビリー/Muswell Hillbilly
    • 17. アルコール/Alcohol
    • 18. バナナ・ボート・ソング/Banana Boat Song (Arkin, Attaway, Burgie, Carey)
    • 19. 骨と皮/Skin and Bone
    • 20. ベイビー・フェイス/Baby Face (Akst, Davis)
    • 21. ローラ/Lola
『Everybody's in Show-Biz』(’72)/The Kinks

OKMusic編集部

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