アメリカ庶民の苦悩を
淡々と歌う
ジョン・プラインのデビュー作
『ジョン・プライン』

シカゴのフォークリバイバル

フォークリバイバルの中心は東部のグリニッチビレッジとボストンにあり、中西部のシカゴ(イリノイ州)ではアーバンブルースが盛んであった。しかし、シカゴのフォークシーンは東部ほどのボリュームではないが、テキサスやコロラドのフォークシーンと並んでよく知られていた。中でも、1957年に設立された『オールドタウン・スクール・オブ・フォークミュージック(以下、オールドタウン・スクール)』は文字通りフォークソングを教える学校で、著名なアーティストの講義をはじめ楽器も教えてくれる場所であった。オールドタウンとは古い建造物が立ち並ぶシカゴ旧市街地のことである。この街には『アール・オブ・オールドタウン』や『フィフス・ペグ』といったライヴハウスがあり、それらの店では学校で学んだ技術を披露する場所として使われていた。この学校でプラインは、彼と同時期にデビューすることになるスティーブ・グッドマン(ギターの巧いグッドマンはプラインにギターを教えている)やボニー・コロックと出会っている。

ジョン・プライン

プラインはシカゴの労働者が多く住むメイウッドで生まれ、兄のデイブ・プラインの影響でフォークミュージックが好きになる。高校卒業後は軍に入隊、西ドイツ(当時のドイツは西と東に分かれていた)で従軍し、帰還後は郵便局に勤務しながらギターを習うため『オールドタウン・スクール』に通い、ソングライティングや楽器を学んでいる。

ある日、フィフス・ペグで歌っている時、たまたま来ていた新聞記者の目に止まり、彼の記事が新聞に掲載される。ジャニス・ジョプリンが歌い大ヒットした「ミー・アンド・ボビー・マギー」の作者であるクリス・クリストファーソンがその記事を読み、プラインの歌を聴きにフィフス・ペグを訪れ、その素晴らしい歌声と曲に感銘を受ける。クリストファーソンはニューヨークの有名なライヴハウス『ビターエンド』でプラインが歌えるように計らっている。しばらく後、プラインが『ビターエンド』に出演すると、そこに来ていたアトランティックレコードのジェリー・ウェクスラー(アレサ・フランクリンやオールマン・ブラザーズ、レッド・ツェッペリンなどのプロデューサー)は彼を大いに気に入り、契約を交わすことになった。そこから、プラインの長い音楽生活が始まる。

本作『ジョン・プライン』について

惜しくも5年前に亡くなった、詩人の長田 弘が書いた名著『アメリカの心の歌』(岩波新書、1996年。増補版がみすず書房から2012年に出ている)で、ジョン・プラインの代表曲のひとつ「ハロー・イン・ゼア」について言及している。プラインの歌について、長田は的確な分析をしているので少し引用する。
 [1970年代以降に姿を見せたシンガーソングライターたちの中でも、ジョン・プラインの歌はぬきんでて独自だ。もしまったく目立たないスーパースターがいるとすれば、ジョン・プラインがそうだ。(中略)ディランの歌は、際立って寓意的だ。だが、ジョン・プラインの歌は、際立って日常的だ。(中略)ディランが剛なら、ジョン・プラインは柔だ。](同書、159-161ページ)。

本当にこの通りである。プラインは楽しいことや悲しいことを淡々と歌う。日常に起こる悲喜交々を人は全てを受け入れながら生きていくのだと言いたげである。プラインはそういうシンガーだ。声高に叫ぶこともなく、権力に対して戦う術を知らない弱い庶民の生きざまを歌い続けている。

収録曲は全部で13曲。名曲揃いで至福の45分である。ローリングストーン誌の史上最高の500枚では452位にランクイン。ベトナム帰還兵のやるせなさを歌った「サム・ストーン」はピンク・フロイドの『ファイナル・カット』で引用されているし、ボニー・レイットが歌い続ける「エンジェル・フロム・モンゴメリー」はジョン・デンバーをはじめ、ベン・ハーパー、デイブ・マシューズ・バンド、スーザン・テデスキらもカバーしているプラインの名曲のひとつだ。前述の「ハロー・イン・ゼア」は老人の悲しみを歌い、「パラダイス」は炭鉱の衰退について歌われている。

サウンドはカントリー的なテイストのあるフォークロックで、最初期のアメリカーナサウンドだ。チャート上では伸びなかったが、多くのミュージシャンがお気に入りの一枚として挙げている。バックを務めるのはレジー・ヤング、マイク・リーチ、ジーン・クリスマンといったサザンソウルやスワンプロックでお馴染みの面々だけに、派手さはないが燻し銀のような演奏が味わえる。

最後にひと言。プラインは生前25枚ほどのアルバムを作っており、駄作はない。彼を敬愛するブルース・スプリングスティーン、トム・ペティ、ボニー・レイットが参加した『ミッシング・イヤーズ』(‘91)で初めてのグラミー賞(最優秀フォークアルバム)を受賞している。このアルバムにはジョン・メレンキャンプやプリンスとの共作も収録されているので、骨太のロックが好きな人もぜひ聴いてみてほしい。

TEXT:河崎直人

アルバム『John Prine』1972年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. イリーガル・スマイル/Illegal Smile
    • 2. スパニッシュ・パイプ・ドリーム/Spanish Pipedream
    • 3. ハロー・イン・ゼア/Hello In There
    • 4. サム・ストーン/Sam Stone
    • 5. パラダイス/Paradise
    • 6. プリテイ・グッド/Pretty Good
    • 7. ユア・フラッグ・ディカール・ウォント・ゲット。ユー・イントゥ・ヘヴン/Your Flag Decal Won't Get You Into Heaven Anymore
    • 8. ファー・フロム・ミー/Far From Me
    • 9. エンジェル・フロム・モンゴメリー/Angel From Montgomery
    • 10. クワイエット・マン/Quiet Man
    • 11. ドナルド・アンド・リディア/Donald And Lydia
    • 12. シックス・オクロック・ニュース/Six O'Clock News
    • 13. フラッシュバック・ブルース/Flashback Blues
    •  
『John Prine』(’72)/John Prine

OKMusic編集部

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