『Before The Daylight』は、
孤高のアーティスト、
角松敏生が創り上げた、
今も色褪せない世界標準の一作

らしいメロディーとアイロニカルな歌詞

ただ、どうだろう? 私見であることを承知で述べるが、角松のメロディーは独自の艶っぽさというか、(誤解を恐れずに言えば)独特の日本っぽさがある。全体的に見たら、上記で指摘したように邦楽シーンに脈々と流れる如何ともしがたい洋楽からの影響は隠し切れないものの、随所随所でそこだけに留まらない角松オリジナリティーが確実にある。日本語がメロディーにしっかりと乗っているからの日本っぽいと感じてしまうのかもしれないが、抑制の効いたメロディーラインは、昨今のコンテンポラリーR&Bなどにはない味わい深さだと思う。M3「Thinking Of You」、M5「Can't You See」、M8「I’d Like To Be Your Fantasy」などがそうした歌の旋律をより味わえる楽曲ではないかと思うが、特にM8は“これは確かに中山美穂に曲を書いた人なんだなぁ”と思わせるメロディアスさで、(もしかするとこの時期の…と前置きするのが正しいのかもしれないけど)角松節とも言うべきものが堪能できるだろう。

『Before The Daylight』収録曲の歌詞は、男女の機微を叙情的に表現したもので、とりわけアルバムタイトル通り“夜”の雰囲気をまとったものがほとんど。俗にシティポップとかアーバンポップと言われるものに準じている…という言い方も変だが、そこを期待する人を失望させることはない大人な世界が広がっている。しかしながら、それだけではない。こんな歌詞もある。

《夜になれば又偽りのMELODYで/満たされてる TELEVISIONに/犯されてる女達/目を覚まして 貴方はもっと/美しくなれるはずだから今》《SO I CAN GIVE YOU MY LOVE TONIGHT/もう騙されずに その身を世界に映してごらん、BABY》《流行りすたりだけの この街でも》(M1「I Can Give You My Love」)。

《いまだけに酔いしれてるだけの艶やかさならば/何時かは寂しくなるから 君は/Lady In The Night》《I'm Dreamin'/君の見ている安らぎは何処にあるの/Yes, I Love You/思いのままにならないことさえもある/Don't Stop Your Love》《夜のドレスを着替えて さあついておいで僕に/叶えられる夢を教えよう/Lady In The Night》(M7「Lady In The Night」)。

アイロニカルな視点も忘れていなかった。先にも述べたが、本作発表の頃の日本はバブル真っ只中。経済は右肩上がりに伸びていくものだと疑わず、大半の日本人が昼夜問わず、己の欲望に忠実に生きていた時代だ。そんな中、そこに警鐘を鳴らすかのようなリリックを忍ばせておいたことは、アーティストとしての面目躍如たるものだろう。『Before The Daylight』は、そのサウンドの革新性もそうだが、そこに込められた思想、スタンスも十二分にロックなのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Before The Daylight ~is the most darkness moment in a day』1988年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. I Can Give You My Love
    • 2. Lost My Heart In The Dark
    • 3. Thinking Of You
    • 4. Get Your Feelin'
    • 5. Can't You See
    • 6. Remember You
    • 7. Lady In The Night
    • 8. I'd Like To Be Your Fantasy
『Before The Daylight ~is the most darkness moment in a day』('88)/角松敏生

OKMusic編集部

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