サクソフォン四重奏は「世界一の室内
楽アンサンブルのかたち」  The Re
v Saxophone Quartetが語るサックス
の魅力

2020年8月1日(土)、サックス奏者の上野耕平がプロデュースするオンライン・コンサート『配信小屋』第二弾が開催され、上野自身も所属するサックスカルテットThe Rev Saxophone Quartet(ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット/以下、レヴ)が登場する。
レヴは、上野耕平、宮越悠貴、都築 惇、田中奏一朗の4人のサックス奏者からなるサックスカルテット。今回のオンライン・コンサートでは、昼夜の2回公演が異なるプログラムで行われ、昼公演【Aプログラム】はクイーンや坂本九など耳馴染みある楽曲を、メンバーの宮越悠貴も2曲、レヴ一人ひとりの個性をとらえアレンジした“レヴオリジナル”楽曲に仕上げて披露、夜公演【Bプログラム】ではピアニスト高橋優介をゲストに迎え、初披露曲を含むクラシック楽曲のピアノクインテットが演奏される。
楽器の魅力、カルテットの魅力からコンサートの聴きどころまで、レヴメンバーにきいた。
——レヴは、メンバー4人全員が東京芸大で学ばれた同窓生ということですが、どのような経緯からカルテット結成に至ったのでしょうか?
上野:初めて4人で演奏したのは、2013年、僕が芸大の3年生、アルトの宮越君とテナーの都築君が2年生、バリトンの田中君が1年生の時でした。僕が初めてカルテットの仕事の依頼を頂いたので、「一緒にやろうよ」と声をかけたのがきっかけです。でも、芸大に入る前からなんとなく、みんな知り合いだったんですよ。コンクールや、セミナーなどで、既に出会っていて、互いにライバルとして顔見知りでしたね。
上野耕平
――同じサクソフォン(サックス)という楽器であっても、カルテットではそれぞれが違う音域の楽器を演奏しているわけですが、改めて各々の音の魅力や楽器の特徴について教えてください。
上野:ソプラノサックスは、一番高い音域を持っているということもあって、曲をリードするメロディーラインを演奏することが多いです。
宮越:アルトサックスは、4人が奏でるハーモニーを支え続ける「内声」(※ソプラノやバスなどの外側の聴こえやすいメロディーラインではなく、聞こえにくい内側のメロディーラインのこと)を作りだす役割を持ちつつ、ソプラノのメロディーラインを補完してつないでいくという、いいとこ取りのパートかな、と思っています。
都築:テナーはカルテットのようなアンサンブルでは、アルトサックスと同様に内声を奏でています。最も聞こえづらい音域を弾くことが多いですが、柔らかい音色が出せるのが一番の特徴ですね。楽器の形もユニークで、首のところが湾曲しているのですぐ見分けがつくと思います。
都築 惇
田中:バリトンサックスは4本の中で一番低い音域をもつ楽器で、ベースラインを作りだす役割を担っています。弦楽アンサンブルの曲をアレンジした曲を演奏する時は、チェロのパートを担当することが圧倒的に多く、チェロが朗々と伸びやかに奏でる音色を再現できるんです。一方で、エッジの立った鋭いベーシングなんかもできて、二つの顔を持っています。実際、8月1日の演奏会のAプログラム(昼公演)にあるクイーンの「Bohemian rhapsody」では、エレキベースのパートを担当していますので、ベーシングのテクニックを楽しんで頂けると思います。
――担当するパートとそれぞれの性格が関連しているところもあるのでしょうか。
上野:大いにあると思いますね。ソプラノはどうしてもメロディーラインが多いので、わりとグイグイ引っ張ていく感じかなと思いますが、実はソプラノが良く聞こえるようにしてもらっているのは、アルトとテナーの内声に陰ながら支えられているからなんです。ハーモニーの中に、絶妙のバランス感覚を生みだしてくれている陰の立役者が彼らの存在で、そういう渋めのカッコいいのが好きなタイプがアルトとテナー奏者ですよね。
宮越:アルトとかテナーという内声のパートは、向き不向きがすごくあると思うんですよ。別に目立つのが嫌いという訳ではないんですが、僕はそういうのが昔から好きで…。
都築:内声パートは、結構細かい作業が多くて、他のメンバーに言わせると、神経質なタイプが多いらしいんですが、もしかしたら、僕もそうかもしれないですね。全然、自分では自覚してないんですが。
上野:いえいえ、神経質じゃなくて、気配りができるっていうことですよ(笑)。
田中:最初は内声のパートが裏方みたいでカッコいいなと思ってたんですが、僕は細かい作業が苦手なんですよ。今考えると、やはり、僕には性格的にバリトンが一番合ってたんじゃないかなと思っています。あまり考えずにドーンと行かなきゃいけない時もあるパートですし、みんなをしっかり支えなきゃ、というのは、自分自身の中で自然に感じているのかもしれないですね。
The Rev Saxophone Quartet(上段左から田中奏一朗、都築 惇 下段左から宮越悠貴、上野耕平)
――クラシック音楽ファンでも、サックスについては詳しく知らないという人も多いと思いますが、改めてサックスという楽器、そして、サックスカルテットという編成の面白さや魅力についてお聞かせください。
上野:僕自身は、サックスというものを人間そのもののように捉えているんですね。人間本来の性質――例えば、喜怒哀楽や光と影、ちょっと闇があるところだったり、そういうものをこの一本の楽器で表現できてしまう。それこそがサックスのすべてなんです。サックスカルテットになると、それが ✕ (かける)4本=4倍になる。これがカルテットのすばらしさですね。
田中:サックスはジャズでもロックでも使われるように、音色の引き出しが多いので、あらゆるジャンルに合わせて、音色や表現を自由自在に変化させることができるんです。
――サックスカルテットだからこそ出せる“世界観”とは?
上野:会場で聴いて頂けると一番よくわかると思うんですが、4本のサックスで弾いているとは思えないほどの大迫力を感じてもらえると思います。
――4本の奏でる音が、多重な音の渦のように感じられる?
上野:そうです。立体感があって、調和し合うと、響きが響きを呼んで、より共鳴し合う。かと思えば、一つひとつの楽器や弾く人のキャラクターがものすごく色濃く出る。幾重もの音の層の中に、それぞれの楽器や一人ひとりの個性が手に取るように感じられ、同時に4人の調和した一つのハーモニーも体感できる、というサックスカルテットの二つの魅力を一気に感じてもらえたら嬉しいですね。
宮越:みんなが一つになって自由自在に“揺らし方”を楽しみつつ、緻密さもしっかりと表現できる。あらゆる要素と可能性を持っているのがサックスカルテットのスゴイところです。僕は、世界一の室内楽アンサンブルのかたちだと思っています。
都築:サックスという楽器自体、木管楽器の音色のあたたかみと、金管楽器の音圧が合わさった、イイとこ取りの楽器なんですね。だから、4人集まるとダイナミクス(強弱)の変化も驚くほど多彩で、その迫力を直に体感して頂けると嬉しいですね。
――先ほど、宮越さんの話の中に、“揺らし方”という言葉が出ましたけど、本番の演奏でしか体験できない“得も言われぬ”瞬間のようなものを感じることはありますか?
宮越:半分以上がそれだと思います。本番での演奏は、その時のテンションをとても大切にしますし、何よりも一番楽しいのが、メロディーラインを通してのお互い同士の会話なんですね。ソプラノが吹いたものに他のパートたちがどう答えるか…。聴衆の皆さんも、こうして自然に生まれる感情や心の“揺らぎ”のようなものに、きっと共感して頂けると思います。
――8月1日の浜離宮朝日ホールで開催される今回のコンサートについてお伺いします。今回は、マチネとソワレの二つの公演が同日にあって、第一部はポピュラーなもの、第二部は正統派のクラシックなプログラムに思えますが。
上野:実際のところ、僕たちは昼間の公演をポピュラーなコンテンツと思っていないんです。確かに坂本九さんやクイーンの歌が入っているので、一見そう見えるかもしれないんですが、クイーンのもう一曲「Love of my life」なんか、宮越君編曲なんですが、アレンジにスゴくこだわっていて、原曲とはまた違う魅力が見えてくるほどにオリジナリティに溢れているんですよ。
「ふるさと狂詩曲」や「mutations A.B.C.」なんかも、タイトルは優しそうなんですが、テクニック的にも、音楽的にもかなり尖ったことをやっていて、お客さんも、きっと度肝を抜かれると思います。本当にグサッと刺さってくるような曲なんですよ。なので、第一部を“ポピュラー”と思う節がまったく無いんです…。
――第一部では、クイーンの「Love of my life」の他に、坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」でも宮越さんの編曲が聴けますね。レヴのメンバー一人ひとりを思い描いて書かれた、メンバーのための曲ということですが、どのような思いで編曲されたのでしょうか。
宮越:編曲する際、一人ひとりがソリストのように目立つ曲をアレンジする時は、本当にメンバー一人ひとりを思い浮かべながら書きます。でも、今回のように「見上げてごらん夜の星を」や「Love of my life」みたいなバラード調の曲だと、むしろ、4人で奏でるハーモニーの響きを重点的に考えて編曲しました。
あと、普通なら作曲家は鳴りにくい音域や難しい音域は避けて書くことが多いと思うのですが、僕の場合は、この人なら弾けるな…と思って、結構、攻めの姿勢で書いたりしています。
――今回の編曲でも、挑戦的な面はありますか?
宮越:その方がイイと思う箇所はそう書いてます。実際それがイイかどうかはまだわからないですけど…(笑)。
宮越悠貴
――「ここをぜひ聞いて欲しい!」という箇所やポイントはありますか?
宮越:やはり“揺らぎ方”ですかね。メンバーそれぞれが、曲の流れの中で時間をどう捉え、どう使うか。それぞれが持つ時間軸も一定でなく、一秒の単位の捉え方もそれぞれが違う…、みたいな、スリリングでエキサイティングな“揺らぎ”の対話をぜひホールで体感して頂けたらと思います。
――それはシンプルに考えると、メンバー一人ひとりが、インスピレーション的に、いかにそれぞれの言葉で個性を発揮できるかということですか?
宮越:いえ、今回はむしろ4人がつねにピタッと一緒になってハーモニーを描いていくかたちなので、4人が一体となった“揺らぎ”を感じて頂ければ嬉しいです。
――第二部で演奏されるシューマンのピアノ五重奏では、ピアニストの高橋優介さんがゲスト出演します。高橋さんとのご縁は?
上野:あ、これは僕との関わりで、実はツイッター上で出会ったんです。友人が高橋君と共演している動画がツイッターにアップされていて、「おお、なんかスゴイのがいるな」と思いまして。早速、友人に連絡先を教えてもらって、「今度レヴと一緒に」ということになりました。レヴとは今回初めての共演なんです。
――シューマンのピアノ五重奏というと室内楽でも大変有名な曲だけに、ピアノ+弦楽四重奏という編成が多くの人の中にインプットされてしまっていると思うんですが、サックスカルテットで演奏するとどうなるのでしょうか?
上野:この曲は、むしろサックスカルテットにとっても適していると思います。サックスって、安定した豊かな響きをずっと持続させることもできるんですが、ちょっと、人を不安にさせるような音色や表情を持たせることもできるんですね。だから、シューマンの音楽や音色が持つある種の不安定さのようなものとスゴくマッチングするんです。
田中:この曲はサックスで表現するにあたって無理なところが全く無いんです。音域的にも完璧フィットしているので、自然な感じで弾けると思います。
田中奏一朗
宮越:サックスって大きな音が出る楽器という印象があると思うんですが、繊細さとか切なさとか、弱音の魅力というのも実は大きな強みなんですね。そういう意味では、ピアノとのアンサンブルは絶妙な感じで調和すると思うんです。意外とピアノの音をかき消してしまいそうで、そんなことはないんです。
都築:サックスカルテットって、艶っぽい音が出すぎることがあるんですが、ドライな雰囲気の感じで演奏することも可能ですし、冒頭の第一主題なんかを考えても、僕たちでさらに魅力的な“室内楽のかたち”を生みだせるんじゃないかなと、今から期待しています。
――皆さん基本的にクラシックをやってらっしゃるわけですが、個人的には、これからどのようなジャンルを最も深めていきたいですか?
上野:好きな音楽はいろいろあるので、欲を言えば全部やりたいと思っています。僕は、今回のAプログラムの最後にもある、クイーンのマニアなんですが、言ってしまえばクイーンは僕にとってはクラシックにはなりつつあるんですね。これからもレガシーとして残っていく曲だと思いますし、さっきも言いましたが、元々ポピュラーという感じに捉えてないんです。
特に「Bohemian rhapsody」は、本人たちも“オペラ”と言っているくらいで、途中で本当にオペラのようなシーンが出てくるんです。それをフットワークの軽いアコースティックなサックス・カルテットでやると、さらにあの音楽が持つ良さを深堀りできるんじゃないかなと考えています。これからも、そういう作品をどんどん取り入れていきたいと思っています。
宮越:僕は、他の3人に比べて、一番ジャズなんかをやっていると思うんですが、勉強してきたのはクラシックですし、それをベースにして手の届くジャンルがあれば全部挑戦していきたいと思っています。
都築:僕たちジャンルレスでやっていますが、僕個人としては、ここで、あえてクラシックでやっていければいいなと思っています。サックスは楽器の歴史が浅いので、いわゆる古典とかバロックという時代のオリジナル楽曲が極端に少ないんです。なので、近代の作品だけでなく、クラシックという枠の中でも時代に関係なくジャンルレスで演奏できたらイイですね。
田中:ちょっと個人的PRなんですけど…、宮越さんが編曲してくださった曲で「ウォーターメロンマン」という曲があって、ファンクロック系の曲なんですが、結構バリトンが活躍する曲なんです。そういうのも僕はとっても好きで、今回はプログラムには入っていないのですが、もしかしたら…何らかのかたちで演奏させて頂くかもしれません。
――ところで、稽古やリハーサル以外で、メンバー4人で一緒にいる時間はどんなことを話していますか?
田中:大体みんなで集まると飲みに行きますが、最近では、「30歳になるのが嫌だよ~」と、特に宮越さんが言ってます(笑)。
――そんなに20代と30代ではイメージ的に変わりますか?
宮越:30歳って、もっと大人になっていると思ってたんですよ。全然、自分自身がそれに追い付いてないんで…。
都築:僕なんか、アルコール入ると、何の話したのか全然覚えてないんですよ。
The Rev Saxophone Quartet(上段左から田中奏一朗、都築 惇 下段左から宮越悠貴、上野耕平)
—―2013年から、チームとして活動されてきて、お互いメンバーをどう評価していますか ? 音楽的な面以外の部分で。
都築:これ言っていいのかわからないんですが…、えー、ソプラノの方(上野)、楽屋をもっと片づけてくれたらいいなと思います。今回の演奏会は朝からリハで、昼本番で夜もとなると、大変なコトになりそうなんで。もう、僕が逐一片づけていこうかなと(笑)。
――都築さん、キレイ好きなんですね。
都築:ええ、まあ、神経質なんで(笑)。
田中:これも上野さんなんですが、いい意味で、すごく人の様子を窺っていて、心遣いとか、バランスのとり方がスゴイなと思いますね。
――上野さんは盛り上げ役に徹している?
上野:いや、もう自分は何役っていうのもわかってなくて…。
――多彩な面がおありということで。
上野:ハイ、モノは言いようですね(笑)。
――では、最後に今回のコンサートにかける意気込みを。
上野:本当に5か月ぶりのコンサートホールなんですよ。だから、僕たちも、もちろんですが、待ち望んでらっしゃるお客さんもたくさんいると思うんです。どなたが聴いても楽しんで頂けるプログラムになっていますし、同時にライブ配信もありますので、初めての方が飛び込んできやすい環境ですよね。なので、ちょっと気になったら、ドンドン飛び込んできてください!!
宮越:クラシック音楽を学んだ4人が色々なフィールドで吸収してきたものがジャンルを超えて飛び出てくる。今回はレヴの“今”を感じられる演奏会になると思いますね。配信もあるとなれば、見ないという選択肢はないでしょう!!
都築:いい意味でのフラストレーションが音楽にドンと表現できたらいいなと思っています。
田中:クラシックやサックスという楽器を知らない方でも、逆によく知っている方でも満足感の得られるプログラムになっていますし、ぜひ全国の皆さんに楽しんで頂ければ嬉しいです。
――久々のステージということで、かける意気込みはいつも以上ですよね。それについて、上野さんだったら、どう言葉で表現しますか?
上野:どんなになっちゃうか、僕らもわかんないですよね。もう、いい意味で溜まりに溜まってますからね。「どこまで、どう炸裂しちゃうの」みたいな。今回はストリーミング配信があることで、僕たちの音楽に初めて触れられる方々との新たな出会いが絶対に生まれると思うんです。8月1日は、ぜひそれが実現する日にしたいな、と全員で祈っています!!
取材・文:朝岡久美子

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