潜在的なオルタナティブ性が
開花したトム・ウェイツ中期の
傑作『レイン・ドッグ』

アサイラムからアイランドへの移籍

『ワン・フロム・ザ・ハート』で王道の映画音楽を創作し、キャスリーンとの出会いと結婚など、音楽だけでなく人生の転機を迎えたウェイツは、次作『ソードフィッシュ・トロンボーン』(‘83)を初のセルフプロデュース作品として録音する。これまでとはまったく違うその実験的な内容に、いわばSSW系レーベルのアサイラム側はリリースに難色を示し、ウェイツとの関係は終わりを迎える。この作品でウェイツはワールドミュージック、実験音楽、断片的素材などをコラージュのように散りばめ、それまでの“酔いどれピアノ弾き”というイメージを一新、まるで現代音楽家ともいうべきスタイルでアイランドレコードから再デビュー(と言ってもよいだろう)を果たす。

本作『レイン・ドッグ』について

そして、『ソードフィッシュ・トロンボーン』をリリース後、彼の音楽的スタンスに近いニューヨークに移住、新作『レイン・ドッグ』のレコーディングがスタートする。

バックを務めるのはラウンジ・リザーズのジョン・ルーリー、マーク・リボーをはじめ、ウェイツの音楽を愛するローリング・ストーンズのキース・リチャーズ、イギリスきっての名ギタリストであるクリス・スペディング、ホール&オーツのバックを務めるG.E・スミスとミッキー・カリー、ルー・リードのバックでお馴染みのロバート・クワイン、ニューヨークの最先端ミュージシャンであるボビー・プレヴィット、キング・クリムゾンやピーター・ガブリエルのバックメンとして知られるトニー・レヴィンなど、豪華なメンバーが参加している。

中でも、このアルバムで世界的に知られることになるマーク・リボーのアバンギャルドなギターワークは、ウェイツの狙いを100パーセント表現しているといっても過言ではなく、リボーとマイケル・ブレアのふたりは本作を聴いたエルビス・コステロに請われ、彼のバックメンとしても活躍する。

収録曲は全部で19曲、「ハング・ダウン・ユア・ヘッド」のみ妻のキャスリーン・ブレナンと共作、他は全てウェイツのオリジナル曲。アルバムの構図は前作と似ていて、断片的な素材や実験的な小品をコラージュ的に配置している。違うのは「ハング・ダウン・ユア・ヘッド」「タイム」「ダウンタウン・トレイン」といったアサイラム時代を彷彿させるキャッチーなナンバーが収められているところだろうか。また、「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」と「タンゴ(原題:Tango Till They’re Sore)」の2曲は、ジャームッシュのスタイリッシュな映画『ダウン・バイ・ロー』(‘86)のサントラにも収録されており、この映画はウェイツとジョン・ルーリーが主演を務めている。

本作で一番知られているだろう「ダウンタウン・トレイン」にリボーは参加しておらず、G.E・スミスとロバート・クワインがギター、トニー・レヴィン(Ba)、ミッキー・カリー(Dr)、ロビー・キルゴア(Key)、マイケル・ブレア(Per)という面子でのレコーディングだ。ちなみにこの曲が知られている理由は、89年にロッド・スチュワートがカバーし世界的に大ヒットしたからである。

アサイラム時代の作品では『クロージング・タイム』と『土曜日の夜(原題:The Heart Of Saturday Night)』('74)の2枚の出来が傑出していると僕は思うが、80年代のウェイツの傑作と言えば、本作が一番に挙げられるのではないだろうか。

TEXT:河崎直人

アルバム『Rain Dogs』1985年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. シンガポール/Singapore
    • 2. クラップ・ハンズ/Clap Hands
    • 3. セメタリー・ポルカ/Cemetery Polka
    • 4. ジョッキー・フル・オブ・バーボン/Jockey Full of Bourbon
    • 5. タンゴ/Tango Till They're Sore
    • 6. ビッグ・ブラック・マリア/Big Black Mariah
    • 7. ダイヤモンド&ゴールド/Diamonds & Gol
    • 8. ハング・ダウン・ユア・ヘッド/Hang Down Your Head
    • 9. タイム/Tim
    • 10. レイン・ドッグ/Rain Dogs
    • 11. ミッドタウン/Midtown
    • 12. ナインス&ヘネピン/9th & Hennepi
    • 13. ガン・ストリート・ガール/Gun Street Girl
    • 14. ユニオン・スクウェアー/Union Square
    • 15. ブラインド・ラブ/Blind Love
    • 16. ウォーキング・スパニッシュ/Walking Spanish
    • 17. ダウンタウン・トレイン/Downtown Train
    • 18. ブライド・オブ・レイン・ドッグ/Bride of Rain Dog
    • 19. レイ・マイ・ヘッド/Anywhere I Lay My Head
『Rain Dogs』(’85)/Tom Waits

OKMusic編集部

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