有観客ノー配信ライブイベント『聴志
動感〜奏の森の音雫〜』 出演者と観
客が共有した濃密な2日間の記録

コロナ禍に突入し、生のエンターテインメントが加速度をあげて姿を消していった3月、いち早く「今できるやり方」でライブエンターテインメントを届けたいと無観客配信というスタイルを選択して行った音楽イベント『聴志動感(ちょうしどうかん)』。時間の経過と共に、感染者数が増えたり減ったりするのと当時に、ライブを開催するためのガイドラインも日々変化した。そんな状況と並行しながら、音楽を届ける形もアーティストやイベンター、その他多くの関係者の経験と知恵のうえで本当にさまざまな方法が模索され、チョイスされて来た。
そして未知のウイルスとの共存も当たり前の空気となった10月、また「今できるやり方」を模索し、第2回となる『聴志動感~奏の森の音雫~』は京都・円山公園音楽堂で有観客で野外ライブという方法を選択し無事開催を終えた。配信という手法も当たり前になった今、ライブエンターテインメントの原点に立ち返り、配信は行わず「会場に来ないと見られないもの/体験できないこと」を大切に、会場のすみずみまでひとつひとつ手探りで、またひとつひとつ丁寧に作られたライブという空気に満ちていた2日間を振り返ってみたい。
10月3日(土)DAY1
『聴志動感~奏の森の音雫~』

『聴志動感~奏の森の音雫~』

大阪は晴れ渡っていたが、京都に着いてみれば薄曇り。今日が野外であることを考えると、過ごしやすそうだ。四条通を東へ。八坂神社を抜けようと境内に入ると、これから円山公園音楽堂へ向かうお客さんたちだろう。参拝している姿が見える。そんな京都らしい風景を抜けて会場に到着すると15時半、開場時刻となった。会場前ではソーシャルディスタンスを守って列が作られ、入場を待つ。入場の際はマスクの着用が必須、京都市新型コロナあんしん追跡サービスと新型コロナウィルス接触確認アプリ「COCOA」のダブルインストールがスタッフによってひとりひとり確認された後、検温&消毒が促されるなどさまざまな対策がなされていた。私はこのウイルスの流行が始まってから初めてのライブ鑑賞となったが、すでにこういった体験をしている人もいるのだろうとぼんやり思いながら席を探す。
『聴志動感~奏の森の音雫~』
野外音楽堂として90年以上の歴史を持つ円山公園音楽堂は、「こじんまり」という言葉がぴったりのコンパクトで緑に囲まれた素晴らしい野外会場で、これまで数えきれぬほどのライブが行われてきた。主催者であるイベンター・株式会社 奏-KANADE-の北岡氏にインタビューするまで気が付いていなかったのがお恥ずかしいが、関西で唯一ベンチシートが採用されていることも特徴だ。立体的なチェア式会場の場合、ソーシャルディスタンスを保つために席の間隔を開けると、ステージに立つアーティストには空いている席が目につく。「ベンチは平面構造なので、席を空けてもそこまで目立たない。こんな時こそベンチシートがいいということに気が付いたんです」と聞いていたが、ベンチシートには座席番号が付いていないため、これをひとつひとつ僕らで作らないといけないんですよ、手作りっぽいですよねと苦笑いしていたことが印象的だった。
『聴志動感〜奏の森の音雫〜』
それがコレ。あぁ、スタッフみんなで貼ったんだなぁ……(で、また剥がすんだなぁ)、なんて座席ひとつ探すだけでも感慨深くなってしまった。私が座っていた3人がけのベンチはちょうど真ん中をマスキングテープで仕切り、1ベンチにつき2人が座る想定でブロック/列/番が明記されたものが貼られていた。開場と同時に皆自分の席を探していくのだが、この日のお客さんは実に粛々としてるというのが初日の印象だった。おひとりさまが圧倒的に多く、ゆったりゆっくり会場に入り、席を見つけてスッと座り、静かに開演を待つ。会場内でドリンクやフードの販売がないことも理由かもしれないが、会場はかつて見たことがないほど静寂に包まれていて、それはまるで舞台を観劇する様によく似ているなと思った。誰もがマイペースに、好きなアーティストと音楽を真摯に受け止めに来た。そんな印象だった。そしてやってきた16時、オンタイムでライブが始まる。
Rei
Rei
柔らかなギターと、伸びやかな歌声で始まったシンガーソングライター・Reiのライブは、ピアノに渡辺シュンスケを迎えてふたりのステージとなった。曲の始まりとともにドラマチックに鳥が飛び立っていった「Cinnamon Girl」から「DANCE DANCE」まで全7曲。約40分のライブながら彼女が準備したギターの数はなんと4本。
「3月も『聴志動感』の配信ライブに出演したんですけど……今日皆さんの表情を見ながら歌えるのはすごく貴重だし、当たり前のことじゃないということをヒシヒシと感じています。今日もリスクはゼロではないけれど、それでも心を健康にしておくことも大事だと思うんです」と話し、今日ぐらいのセットリストの場合ギターは1本で演奏するけれど、このライブがあまりにも楽しみすぎて4本も準備をしてしまったと笑った。その言葉通り、ギターを替えるたび・楽曲が変わるたび、目を見張るほど彼女の新しい側面を見せてくれる。ギターとピアノ、シンプルな編成だからこそシンプルにReiの音楽の才能が光ったステージだった。
Rei
Permanents(田中和将&高野勲from GRAPEVINE
Permanents(田中和将&高野勲from GRAPEVINE)
初日、2組目の登場となったのはGRAPEVINEのボーカル、ギター・田中和将とキーボード・高野勲によるデュオ・Permanents。たっぷりとエフェクトをかけた夢心地なギターの音が鳴り響く中、名曲「光について」でライブはスタート。
この日はゲストとして元NICO Touches the Wallsのボーカル・光村龍哉がゲスト(ゲストというよりは、ほぼ3人目のメンバー的立ち位置で)参加したスペシャルライブとなった。Permanentsはちょうど夕方から夜へ刻々進んでいくタイミングで、曲ごとに秋の空も色を変えていく。
田中和将
彼らも久々に東京を離れてのライブとあって「久々の旅を満喫させていただいております」との田中。ギター2本とキーボードというこの日ならではのシンプルな編成ながら、先ほど登場したReiと異なりまるでバンド編成のライブを見ているかのような華やかさが可視化できたライブだったように思う。個人的にはあったのかなかったのかよく分からなかった夏がいつの間にか終わって、勝手に秋が来ていると思っていたので、「風待ち」の歌詞が驚くほど沁みて、この曲を今年聴いたからこそ沁みたんだろうなとひとりホロリとした。マスクしていてよかった。
高野勲
NakamuraEmi
“魂の”という言葉が超ハマるシンガーソングライター・NakamuraEmiのステージは、サウンドチェックからすでに始まっている。プロデューサーでもあるカワムラヒロシをギターに迎え、サウンドチェックと称して90年代を彩った日本の名曲を1フレーズずつさらりと歌い繋いででゆく。会場のお客さんはおそらく30~40代が多かったのだろう。サウンドチェックに手拍子を乗せて楽しんでいる。そして勢いそのままに、ライブ本編へと突入していく。素晴らしく可愛らしいお顔立ちと伸びやかな歌声ながら、それをバチコン! と裏切るパンチライン強めの言葉が飛んでくる彼女の曲。ライブ序盤から本人のMCの「私の圧がすごいかもしれませんが」という言葉通り全力すぎるほど全力の立ち上がりで、相変わらずどの曲をとってもメッセージに込められた熱量がすごい。
カワムラヒロシ
この日、主催者の奏-KANADE-北岡氏が「初日のハイライトでした」と語ったのは、4曲目に披露された「新聞」だった。MCの中で配信が無いという、コロナ流行以前は当たり前だった形のライブに今参加できることの意義について、コロナ禍で考えたことなどを交えて語ったNakamuraEmi。「新聞」ではいつのまにか当たり前になったこと、便利と不便、大切にすべきこと、そして何より考えるということについて歌われている。主催の北岡氏がこの『聴志動感』というイベントを立ち上げるにあたり大事にしたことは、今だからこそできることを今できるやり方で届けること。「大切なことは何か」を考え続けた北岡氏にとって、この「新聞」という曲が今後も考え続けていく原動力になるのだろう。7曲全て、そしてMCも含めてNakamuraEmiの心の内を曝け出す、実直な思いが伝わるいい時間だった。
エンドロール DAY1
なんとライブ終了直後にはYouTubeにて「エンドロール」が公開となった。この日のライブ中に撮影された写真を撮って出し的に編集し出演者やスタッフのクレジットを入れたもので、今ウェディング業界で人気の手法を再現している(結婚式で撮影したものを披露宴中に編集して参列者の名前もクレジットし、披露宴最後にエンドロールとして流す演出が流行中)。帰りの電車の中でもライブの続きを楽しめる粋なプレゼントだった。
10月4日(日)DAY2
『聴志動感~奏の森の音雫~』
『聴志動感~奏の森の音雫~』
2日目、この日も相変わらず薄曇り。少し早めに会場に着いたつもりが、すでに入場が始まっていた。特に並ぶこともなく、昨日一度体験していたこともありスムーズな会場入り。が、会場内は昨日とは雰囲気が違う。明らかに20代のお客さん、そして2人連れのお客さんが増えた印象だったことがひとつ。そしてもうひとつはバンドTシャツ着用のお客さんが初日より劇的に増えたのは明らかな変化だった。昨日の粛々とライブのスタートを待つという空気感よりは、お客さんはベンチの端と端に座りながら和やかに久々のライブ前の興奮を共有したり円山公園音楽堂の雰囲気を味わっている、そんな感じ。昨日よりも来場者の高揚感あるテンションを肌で感じているうちにライブ開始の時刻がやってきた。
asmi
asmi
ギターの爪弾くような音で柔らかにステージのスタートを切ったのは、大阪を拠点に活動しているシンガーソングライター・asmi。緑が溢れる会場内に、優しいギターの音と、吐息まで甘い歌声が響き渡っていく。その甘やかな音楽は、ものすごくこの会場にマッチしているように思えた。「『聴志動感』、スタッフの皆さん、来てくれた皆さんにもおめでとうございます!ありがとうございます!」の言葉でまず拍手を浴びたasmi。コロナ禍において配信ライブが当たり前になったけれど、「生であることにこしたことはないですよね」と久々のライブに高揚している様子だ。
asmi
そしてちゃきちゃきとした関西弁で、会場にはとにかく蚊が多いこと、たくさん落ちている銀杏が臭いから注意してほしいこと、今日は名前だけでも覚えて帰ってほしいこと、クルクルと変わる表情で漫談のごとくMCタイムも楽しんでいる模様。その一方でコロナで外に出られない間に書いたという「lemon tea」、福岡のラッパー・Rin音と共作したという「earth meal」など、十代ならではの女の子が抱く日常の想いや恋愛の悩みを丁寧な言葉ですくい取っていく言葉の選び方が彼女の感受性の豊かさをよく表していたように思う。ライブ中はタイミングよく鳴く鳥の声も、曲のいいアクセントになっていた。これぞ野音の醍醐味、というライブだった。
MAMI from SCANDAL
MAMI(from SCANDAL)
この『聴志動感』が、初のソロライブとあって話題を集めていたのはSCANDALのギタリスト・MAMIだ。前日までのtwitterを見ていても期待度や注目度はピカイチで、SCANDALのツアーTシャツを着ていたファンが開始直前まで「今日はどんな曲をやるのか」を語り合う姿も見られた。舞台に登場早々驚きだったのは、MAMIの衣装だ。黒のすっきりとしたパンツスーツに身を包んでいたのだ。ファッションも好きな彼女のことだから、会場に合わせてリラックス感のあるカジュアルスタイルなのかなと勝手に想像していたから、きちんと感あるスタイルで弾き語りか! と意外性に驚いた。
MAMI(from SCANDAL)
披露されたのはSCANDALで自身が作詞作曲を手がけた楽曲を中心に、カヴァーを含む全6曲。SCANDALは、国内外で数え切れないほどの場数を踏んできた自信とチームワーク、彼女たちにしかない華やかさのあるライブが特徴だが、この日のMAMIのステージはギタープレイよりも歌や歌詞に注目したくなるものだった。あ、だからパンツスーツだったのか。
MAMI(from SCANDAL)
いつものSCANDALのライブではポップなファッションも含めてパフォーマンスを見せるもの、そしてこの日はシンプルなスタイルにすることでもっと曲に目を向けてほしいという意思表示だったのかもしれない。MAMIのステージのハイライトは3曲目の「声」を歌い終わったタイミングのMC中に、恐ろしいほど素晴らしいタイミングで「ゴーーーーーーン」と鐘がなったこと。高台寺だろうか。「すごいタイミングで鐘鳴るじゃん(笑)」なんて言葉は、この会場以外で、MAMI自身も発することなんてないのだろう。
井上竜馬 from SHE’ S
井上竜馬 from SHE’S
「調子どうかなぁ?という言葉のアクセントで『聴志動感』と言うとさっき知ったんですけど、このイベントタイトル、調子どうかなぁ?という言葉とダブルミーニングらしいですよ。SHE’ Sのキーボード&ボーカルの井上竜馬です」と始まった2日間のラストとなるステージは、井上本人によるピアノの弾き語りで幕が開けた。
井上竜馬 from SHE’S
この2日間を通して、アーティスト本人によるピアノの弾き語りは初めてだったのだが、1曲目から驚いた。なんてこの会場に合うのだろう。コンパクトな会場ならではの音の響き、暗闇に向かって放射状に伸びていくピアノの音、そして鳥の鳴き声や風の音などの自然が作り出す音。それらが重なり合って最高に気持ちがいい。そして高音がとても綺麗に伸びていく井上の声はとても健やかだ。
井上竜馬 from SHE’S
そして井上は「このイベントの声明文みたいな文がとても良かったなと思っていて。“三密を避けつつのガイドラインに従っての有観客のライブになりますが、忘れていたもうひとつの密を思い出してほしいという願いが込められている”と。それは会場に来たお客さんと、僕たちだけの秘密ができるということを望んでこのイベントが開催されています」とこの趣旨でのライブの開催に、スタッフ、駆けつけたお客さんへ感謝を述べたのはとても印象深かった。SHE’ Sの曲、そしてエド・シーランのカヴァーを含め7曲を披露した井上のライブを見ているお客さんの姿はライブを、そして音楽を聴きに来ている真剣な表情をしていた。
ちなみに、この日ここにいた人たちだけが井上本人と共有した“秘密”を打ち明けるとすれば、「月は美しく」の終盤で急にピアノの手を止めてマイクを握り歌い上げたアカペラの素晴らしさと、MC中に見つけた子供と「何歳?わぁ、4歳か~そうか~」という微笑ましいやりとりがあったことでしょうか。
井上竜馬 from SHE’S
このライブ終わり、主催者の北岡氏に率直な感想を尋ねてみた。まずは雨や台風の影響なく無事に開催終了できたことに安堵すると共に「会場の光景を見て、単純にもっとお客さんを入れたライブが早くしたいと思った」というのが一番正直な感想だったという。
現在のガイドラインでは会場の1/2まで観客を入れてOKなのだが、この円山公園音楽堂独自のガイドラインでは、開催日の時点では1/4までという規定があったそうだ。とにかくたくさんのお客さんにライブを体感してほしいこと、たくさんのお客さんのいる中でアーティストにパフォーマンスしてほしいという欲が高まったそうだ。
そして、2回目の『聴志動感』での学びは、「歓声が出せない」ということがこれほどまでにライブに影響を及ぼすことなのだと肌で感じることができたこと。歓声は出演者にとってもお客さんにとっても、グルーヴ感や一体感を生むための重要なエッセンスであることに改めて気がつくことができた。それが分かったのだから、そういったこれまでは当たり前だったことを見直したり理解する機会に当てて、また「次を探っていく」と語ってくれた。
エンドロール DAY2
まだまだ元の形を取り戻すのは時間のかかることなのかもしれない。でもまたこの『聴志動感』とスタッフたちは、新しい形や新しいやり方を模索しながら、ライブエンターテインメントを届けるために“考えることを続けていく”んだろう。不急だけど絶対不要にはならないライブがある日々を届けるために。
取材・文=桃井麻依子 撮影=日吉“JP”純平 / ハヤシマコ

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