「ザ・ブロードウェイ・ストーリー」
VOL.5〈ホワイト・クリスマス〉を創
った男(Part 2)

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

☆VOL.5〈ホワイト・クリスマス〉を創った男(Part 2)
                    文=中島薫(音楽評論家)text by Kaoru Nakajima
 ブロードウェイとハリウッドで活躍した、アメリカの国民的作詞作曲家アーヴィング・バーリン(1888~1989年)。Part 2ではハリウッドでの仕事に的を絞り、彼の楽曲をふんだんに使ったミュージカル映画から、現在DVDやブルーレイで入手出来る5作品をピックアップしよう。
■「トップ・ハット」
 ブロードウェイで名声を高めたバーリンが、ミュージカル映画に全曲オリジナル楽曲を書き下ろした最初の作品(上は、アメリカ初公開時のポスター)。フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャーズの主演作だ。2人がタップ合戦を繰り広げながら心を通わせる〈素敵な日だね?〉や、アステアの甘い歌声に乗せて優雅に踊る〈チーク・トゥ・チーク〉は、スタンダードとなった名曲だ。ダンスの天才技だけでなく、正確なテンポで歌詞を明瞭に発音するアステアは、Part 1で取り上げたエセル・マーマンと共に、バーリンお気に入りのヴォーカリストだった。
フレッド・アステア(右)とジンジャー・ロジャーズ。ハリウッド・ミュージカルを代表する名コンビだ(DVDとブルーレイは、アイ・ヴィー・シーよりリリース)。
 それにしてもアステアのダンスは、「至芸」の一言に尽きる。映画巻頭で、ホテルの部屋で派手にタップを踏む〈ノー・ストリングス〉や、男性ダンサーの群舞を従えた彼が、黒燕尾でさっそうと踊りまくるタイトル曲〈トップ・ハット〉は必見。凝りに凝った振付も秀逸で、当時30代半ばだったアステアの、きびきびと闊達な踊りに驚愕する事請け合いだ。
■「イースター・パレード」(1948年)
「イースター・パレード」(1948年)撮影中のスナップ・ショット。左からアーヴィング・バーリン、ジュディ・ガーランド、アステア Photo Courtesy of Scott Brogan
 こちらはタイトル曲〈イースター・パレード〉など、バーリンの既成曲と新曲をたっぷり盛り込んだ一篇だ。主演はアステアと、「ジュディ 虹の彼方に」(2019年)で、その凄絶な人生が明らかになったジュディ・ガーランド。軽妙洒脱なアステアと、熱演型のガーランドの相性は意外や抜群で、何とも楽しい快作に仕上がった。
DVDとブルーレイは、ワーナー・ホーム・ビデオよりリリース
 〈アイ・ラヴ・ア・ピアノ〉や〈アラバマ行きの夜汽車が出る時〉などバーリンの名曲を歌い踊るアステアとガーランド。アメリカのショウビズを代表する、2人の天才の素晴らしさは筆舌尽くし難い。ガーランドは、撮影時すでに薬物の過剰摂取で不安定な状態だったが、アステアとの共演という緊張感が彼女を変えたのだろう。充実した歌と踊りでアステアに応えている。バーリンが書き下ろした新曲も、〈君と踊る時にだけ〉や〈ステッピン・アウト・ウィズ・マイ・ベイビー〉など佳曲揃い。特に、アステアが神業的ダンスを披露する後者は本作の白眉だ。
■「アニーよ銃をとれ」(1950年)
 Part 1でも取り上げた、ブロードウェイにおけるバーリンの最高傑作は1950年に映画化。当初はガーランドの主演で撮影が開始されたものの、2曲ほど撮り終えた後に神経衰弱が悪化し、降板を余儀なくされる。代役は、彼女と同様に熱唱タイプのベティ・ハットンが務めたが、これは大正解だった。胸のすくような爽快なパフォーマンスで映画をさらったのだ。
アニー役で絶賛を浴びたベティ・ハットン(予告篇より)
 舞台版でアニーを演じたエセル・マーマンが女傑タイプだったのに対し、ハットンはコメディエンヌ色を強調。小柄な身体でちょこまかと動き回る、キュートなアニー像を創り出した。特筆すべきは歌だ。「お口を大きく開けて、お腹の底から声を出す」というミュージカル唱法の基本が生きるパワフルな歌唱が見事。〈自然のままに〉や〈鉄砲じゃ男は捕まらない〉、〈朝に太陽〉などは、バーリン楽曲の魅力を改めて実感出来る名唱だ。共演は、バリトンの美声で鳴らしたハワード・キール。好演だが、ハットンの前ではさすがに影が薄い。
DVDはワーナー・ホーム・ビデオよりリリース
■「ショウほど素敵な商売はない」(1954年)
映画公開時に発売されたサントラLP(CDは輸入盤で入手可)
 ヴォードヴィルの舞台で活躍した、芸人一家の悲喜こもごもを描く物語。マリリン・モンローの出演作として知られるが、彼女はあくまでも助演だ。主演のマーマンを筆頭に、舞台で鍛え上げたソング&ダンスマンのダン・デイリーにドナルド・オコナー、溌剌とした踊りが眩いミッツィ・ゲイナーら、芸達者なエンタテイナーたちのパフォーマンスが正にてんこ盛り。満腹を通り越して、胃拡張を起こすほどバーリン・ソングを堪能出来る。
予告篇より、〈ショウほど素敵な商売はない〉を絶唱するエセル・マーマン(DVDとブルーレイは、20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンよりリリース)
 マーマンとデイリー、オコナーにゲイナーらが賑やかに歌い踊る、〈アレグザンダーズ・ラグタイム・バンド〉が圧巻。アルプスやアイルランド民謡風からパリのレヴュー・スタイルまで、編曲と振付を変え見せ場を作り、無数のダンサーを絡めた大スケールのステージングに息を呑む。また『アニーよ~』でマーマンが歌い、生涯の十八番となった〈ショウほど素敵な商売はない〉を、終幕近くで彼女が堂々と歌い上げるシーンは、何度観ても感動的だ。
■「ホワイト・クリスマス」(1954年)
 そしてラストは、このシーズンに相応しい一作。1942年公開の「スイング・ホテル」でビング・クロスビーが歌い、以来クリスマスの定番曲になった〈ホワイト・クリスマス〉を軸に制作された。名歌手クロスビーに加え、コメディアンのダニー・ケイ、人気歌手ローズマリー・クルーニー(ジョージ・クルーニーの叔母)、キレの良いダンスで鳴らしたヴェラ=エレンと、こちらも豪華キャストだ。
〈ブルー・スカイ〉を歌う、主演のビング・クロスビー(左)とダニー・ケイ
 第二次大戦中に世話になった上官のために、芸人チームの2人(クロスビーとケイ)が一肌脱ぐという物語は噴飯モノ(原案はバーリン。愛国心が強かった彼は、この手の話が好きだった)。だが、バーリンの旧曲新曲取り混ぜたミュージカル・ナンバーは凄い。まず巻頭で、クロスビーがしんみりと歌う〈ホワイト・クリスマス〉が絶品。ケイとヴェラ=エレンが流麗に踊る、〈素敵な事は踊っている時に起きる〉も美しい。ブロードウェイ出身のケイは歌と踊りにも長けており、その多才さに舌を巻く。昔のショウビズ界は、稀有な才能と個性に溢れていた。
DVDとブルーレイは、パラマウント・ピクチャーズよりリリース
 加えて、「スイング・ホテル」は2016年にブロードウェイで舞台化された。その公演を、映画館での上映やオンデマンド配信用に劇場で録画されたものが、2020年11月25日(水)にWOWOWから放映される。タイトルは、映画の原題に倣って『ホリデイ・イン』。華やかなダンス・ナンバーが楽しい娯楽作だ。お見逃しなく!(詳細は下記放送情報参照)
■バーリン楽曲よ永遠に
 この後1963年に、バーリンの自伝的映画「Say It With Music(想う心は音楽で)」が企画された。主演はアステアにフランク・シナトラ、ガーランドやジュリー・アンドリュースら大スターが候補に挙がり、バーリンは新曲を提供。しかし脚本を何稿か重ねた後、撮影入りする事なく1960年代末に頓挫した。ハリウッドの大作ミュージカル映画が観客に飽きられ、興行不振が続いた時期と重なってしまったのだ。
 以降ブロードウェイでは、『アニーよ~』の再演(1966年)に新曲を書き下ろした後、隠遁生活に入り、1989年に101歳で大往生。大衆路線を貫いたバーリンは、アメリカでさえ、ジョージ・ガーシュウィンやコール・ポーターと比べて評価が低いのは残念だが、その楽曲は永遠に歌い継がれるだろう。彼の歌のタイトルが物語るように、〈The Song Is Ended But The Melody Lingers On〉。歌は終われど、メロディーは残る。
 VOL.6は、バーリンの曲も数多く創唱した、ブロードウェイ草創期の大スターにして、アメリカにおけるエンタテイナーの開祖アル・ジョルスンの特集だ。
文=中島薫

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