シンガーソングライター・和 -IZUMI
-、配信ライブを開催 歌人の枡野浩
一と工藤吉生による公式レポートが到

シンガーソングライターの和(旧・橘いずみ榊いずみ)が、11月3日(火)に渋谷クラブクアトロで『和 -izumi- 2020 「風が誘う場所へ」』を開催。その配信ライブの模様を、歌人の枡野浩一氏と工藤吉生氏による2部構成のレポートでお届けする。

2020年のパチンと弾けて落ちたピンクのバラの花びら
枡野浩一(歌人)
いずみさん、おはようございます。歌人の枡野浩一です。ボックスセット『Izumi works from 1992-1997~Sony Music Years Complete Box~』収録のロングインタビューで一昨年お目にかかって以来だから、二年近くご無沙汰してしまってすみません。
あ、このたび「和 IZUMI」さんに改名されたんですね。ツイッターはなんとなく見ていたのですが、ライブのキャッチフレーズのような言葉だと誤解していたので、毎日新聞社のネットニュースで改めて知って驚きました。
正直ちょっと心配になり、「夫・榊英雄」のところが「元夫・榊英雄」になっていないか、公式サイトを確認してしまいました。今のところ大丈夫だったようで、ひと安心です。
でも、どんな選択をされるとしても、和さんと「同じ学年」で、すでにバツイチの私ですから、どんな未来も、そっと見守りますね。
橘いずみから榊いずみへ。だまし絵のような華麗な改名にやっと慣れたところだったのですが、公式サイトの「2020.8.8」に書かれた改名決意表明の文章、沁みました。女優の樹木希林さんの昔の芸名(テレビ番組企画のオークションで売ったそうです)を今ではだれも会話に出さない、みたいな感じに、これから少しずつ皆に浸透していきますように。
ゆうべ18時から生配信された【Streaming+(配信)】のライブ、『和-IZUMI- 2020 「風が誘う場所へ」~橘いずみ、榊いずみ、そして和(いずみ)へ~』を早朝から朝にかけて、遅ればせながら堪能しました。すごくよかった!
私は演劇を観るのが好きなのですが、オンライン配信された演劇が苦手で。まったく観なくなってしまいました。なんか別物になっちゃうんですよね。でも音楽は演劇とどうちがうのか、オンラインのライブ、よいですね。
これは渋谷クワトロの客席フロアで演奏しているのですか。本来のステージに当たる部分に飾ってあった絵、神秘的でした。香川理馨子(RIKAKO)さんがいずみさんとのライブペインティングで以前描かれた一枚とのこと。
客席はないけれど、カメラマンが時々うつりこんでいるのも新鮮でした。ライブ配信しながらカメラを切り替えたり、照明が切り替わったり、スタッフのかたが演奏メンバーと同列に重要であることを再確認できた感じで。
ライブ開演前の通しリハーサルにこっそり忍び込ませてもらったような、テレビ演奏収録の現場に立ち合っているような、不思議な「独占感」を味わいながら観ていきました。全員の表情が大きくはっきり見えるのも吉。
私は今、西荻窪と荻窪のちょうど真ん中あたり、電車の通過音が日々の「環境音楽」になっている地上五階の部屋で暮らしています。
ライブアーカイブは終電から始発までの無音の時間に聴こうと思ったけれど、仮眠をとり、朝になってからライブを聴きました。それが珍しい味わいで思いのほか楽しかった。
ここはワンルームの小さな部屋と同じくらいの広さのベランダがあり、バナナの木やバラを育てています。『失格』を初めて聴いたときのことを思いだしました。当時私は音楽誌のライターで、レコード会社からもらった試聴用カセットテープをウェークマンにいれ、移動中の駅のホームでセカンドアルバム『どんなに打ちのめされても』を聴いたのでした。
パチンと弾けて落ちたピンクのバラの花びら、という言葉が出てきたときの驚き。それを今と同じように、電車の通過音と共に噛みしめていたのでした。ピンクのバラの花びらが弾けて落ちるときの容赦なさは、当時より今のほうがよりリアルにイメージできます。
老眼の話が何度かMCで出ました。私も今これを書きながら、眼鏡をかけたり外したりしています。だけど歌声は衰えないどころか、「和さんて歌がうまいなあ」と今さら、しみじみしました。日本語の意味が明瞭に聴こえるのに「説明的」には感じない詞。ラップのようになる瞬間もある、常に軽やかなメロディを感じる曲。先日ツイッターで、「#過小評価されてると思う私的に最高な邦楽アルバム10選」というハッシュタグが流行ったのですが、いずみさんのアルバムは筆頭に入りますね。一枚なら『ごらん、あれがオリオン座だよ』。
MCで「懐かしい曲からできたての曲まで」と話されていたとおり、色々聴けて大満足。ヒット曲がこんなにあるの、すばらしいですね。下の世代は映画『モテキ』とか「みんなのうた」とかで、いずみ作品と出会ったりしてるんだろうか。ご自身が手作りしたという、謎の楽器たちの演奏コーナーも面白かった。
高橋みなみさんも歌っていた『わたしの証明』、好きです。短歌にしたくなりました。
愛について
あなたは歌う
「愛を語る
人に限って
愛を知らない」
きのうリアルタイムでライブを聴けなかったのは、仕事場の「枡野書店」に来客があったからでした。そのかたはミュージシャンで、私の本を応援してくれたことがあるのですが、迂闊なご迷惑をかけてしまい、一度お目にかかっておわびしたいと思っていたのでした。
また、年老いた母が倒れて短期入院するという出来事も同時に起こってしまい、なんとも騒がしい一日だったのです。ライブ配信を観ていた人、これから観る人は、どんな日々の中で和さんの曲を耳にしているのでしょう。
ゆうべはそのかたと私と旧友と三人で、珍しくお酒も飲んで打ち解けたあと、一人になって阿佐ヶ谷の「よるのひるね」という深夜営業の店でコーヒーを飲みました。店をやめようとしていたけれど先日再開することになったばかりの店長と、「若いころ好きだったけど大人になってから魅力がわからなくなってしまった小説」の話をしました。和さんの歌は、今の年齢になって聴いても、おもはゆく感じるようなところが皆無で嬉しかったです。
バンド編成のもよかったけれど、三度目のメンバー紹介のあと、一人になってギターで弾き語りをするのもよかった。昔々私がインタビューで、「地球上だれもいなくなって、だれも聴いていなかったとしても、歌いますか?」という質問をしたことがありました。最後のしんみりしたMCを聞いて、あのときの時間、あのときの空間に引き戻されました。
あの日のお答えもよく覚えているけれど、ここには書きません。2020年の今はどう考えているのか、いずれ直接伺える日がくるのを楽しみにしています。ライブのアーカイブは一週間、何度でも聞けるようなので、昼間とか、阿佐ヶ谷の仕事場でも聞いてみますね。
きのうツイッターのDMでお話したとおり、今回私がリアルタイムでは聴けなかったので、リアルタイム体験レポートを私の好きな歌人に声をかけて書いていただくことにしました。
工藤吉生さん。くどう・よしお、と読みます。第一歌集『世界で一番すばらしい俺』が今年たいへん話題になった期待の新鋭歌人。
彼は高校時代に校舎四階のベランダから飛び降りるという自殺未遂事件を起こしたことがあり、そのことが歌集の題材にもなっているのですが、不安定な青春時代の支えのひとつは「橘いずみ」の音楽だったというのです。
《膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺》
というのが表題作ですが、ほかにも、
《美しく映る鏡があるならばそれには映らないよう走る》
といった、和さんファンにも響くような短歌をたくさん詠んでいます。和さんには一冊、事務所経由でお送りしたそうなので、お時間あるときにぜひ目を通してみてくださいね。
というわけで、工藤吉生さんに代わります。
和さん、新型コロナきびしき折から、くれぐれもご自愛ください。また、遠くない日に。
昔と同じ果てしない空
工藤吉生
橘いずみといえば「失格」をラジオやなんかでドキドキしながら聴いていた。撃ち込まれる言葉に震えた。「TOUGH」まではかなり熱心に聴いていた。それから榊いずみという名前に変わって「Family Tree」くらいまでは追いかけていた。しばらく離れていたが、ツイッターを見ていたから再び改名したことは知っていた。「和」と書いて「いずみ」。ツイッターでエゴサーチしにくそうな名前だ。
そんなことを気にしているオレは工藤吉生(くどうよしお)41歳。歌人だ。七月に『世界で一番すばらしい俺』という短歌の本を出した。短歌って、57577のほうで、季語のないほうですね。半端なファンで申し訳ないけど、和(いずみ)さんのライブをレポートするのでぬらっとお付き合いください。
2020年11月3日18時。
和-IZUMI- 2020 「風が誘う場所へ」~橘いずみ、榊いずみ、そして和(いずみ)へ~
のライブがおこなわれた。
「配信スタートまでもうしばらくお待ちください」の画面をどれだけにらんだだろう。
一曲目は「Hello,Hello」。心地よいスピードで言葉が通り過ぎてゆく。
何度も何度も何度も何度も聴いた曲だが、聴くたびいつも思う。からんできた奴らは何者なのかと。友達はなんで幽霊みたいな顔をしてたのか。それらは火事で死んだ女となにか関係あるのか。
ここで短歌を一首(短歌は「一句」じゃなくて「一首」ということになっている)。
幽霊の
ような顔した
友達に
死んだ女の
話聞かせる
心地よいスピードで言葉が通り過ぎてゆく。
和(いずみ)さんははじける笑顔だ。
つづいて「わたしの証明」、それから「キッチン」。
ここで和(いずみ)さんの挨拶。ライブハウスに来てほしいけど、お気に入りのソファーで好きな人と好きなお酒を飲んで食べながらライブを楽しむのもいいですねと、和(いずみ)さんはこの状況にも笑顔で前向きだ。
次の「ワンダーラストスターダスト」は軽快な一曲。誰かの言葉を鵜呑みにせず自分で決めていこう、星たちが行く手を照らすだろうと歌う。
「Lost and Found」は、スローなテンポでじっくり歌いあげる。歌詞のなかの「真っ赤な眼の蝶」の旋回は、映像が浮かんでくるようだ。
ここでメンバー紹介。無観客だとお客さんに気をつかわなくていいと、和(いずみ)さんはあっけらかんとしている。
「アオの空」を経て「バニラ」。聴き慣れていたものとは一味ちがった「バニラ」だ。迫力充分。シャウトは健在だ。
ここで短歌を一首。
弱くない
利口ではない
強くない
アスファルトへと
したたるこころ
ほとんど歌詞そのままだけど、こうやって57577の形に切り取ると、なんかちょっと違う感じになりませんか。
バニラっていうのは、叱られながら厳しくしつけられながら育ってきて、それには反発したい気持ちが強いんだけど、だからっていい加減な関係に溺れるなんてできない。そんな狭間の気持ちがこもった歌なんだと思いますね。
──と、ここで、ライブの雰囲気ががらりと変わる。神秘的な絵の前で不思議な音色の打楽器の演奏だ。魔法の国の海に打ち寄せる波のようだ。続いて、琴のようなハープのような謎の弦楽器が登場する。幻想的な音色にしばし酔う。
世界は広い。見たことも聴いたこともない楽器や音がある。
つづいて、パソコンをひらいてチャットを見る和(いずみ)さん。ライブ配信ならではの一コマだ。
「日々の抜け殻」、「永遠のパズル」。新しい曲もおなじみの曲も織りまぜている。
できたての曲「ワンモアチャンス」では、もう一度だけやるのさ、永遠のラストチャンスさと歌う。応援歌だ。
ここで一首。
ラストだと
言いつつずっと
続けてる
パチンコ屋にも
そんな人いる
つづいては、こちらも新しい曲「人間ゲーム」。悩んでも悩んでも悩みはつきないと歌う。たかが人生さ、たかが歌い出しのミスさ。
そしてここで「失格」だ。いよっ、待ってました! そうこなくっちゃ。見ているこちらの興奮を代弁しているかのようにライトが激しく明滅する。長い間奏で緊張を感じた。何かが起こりそうな緊迫した歌だ。
最後の曲として「十字架とコイン」。25年くらい前の曲だ。25年後のユキとカズがいるとしたら、どんなふうになってるのだろう。「果てしない空」を見上げているだろうか。
人は年を取ると「ほっといてくれよ!」と叫ばなくなるものだ。だから輝いているように聴こえる。
そんなことを考えていたら短歌ができた。
「ほっといて
くれよ!」と叫ぶ
声を聴き
令和二年の
夜にくつろぐ
そしてこちらの願いが届いたかのようにアンコールが歌われる。アンコールはこれから聴くかたのために詳しくは伏せておこう。
最後の最後の歌はまるでいずみさんに直接語りかけられたかのように胸に響いてくる。いずみさんと自分の、一対一だ。何度も聴いて知りつくしている歌詞のはずだけど、胸の奥まで沁みてくる。
最後に一首。
生きるのが
少しはうまく
なったかな
昔と同じ
空を見上げた
迷っている人はぜひ、聴いてみてほしい。
撮影=安田明雄

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