尾上松也が4役早替りで『弥生の花浅
草祭』を踊る 『十二月大歌舞伎』取
材会にて、見どころを語る

歌舞伎俳優の尾上松也が、2020年12月1日(火)より東京・歌舞伎座で上演される『十二月大歌舞伎』に向け、取材会で意気込みを語った。松也が出演するのは、午前11時開演の第一部『弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり )』。片岡愛之助とともに、4種の舞踊を4役早替りで披露する。松也にとって、今年1月以来の歌舞伎の舞台。さらに歌舞伎座には昨年10月以来の出演だ。
「舞踊の大曲をやらせていただくこととなりました。いつかはという思いのあった演目ですが、このお話をいただいたときは、うれしさと同じくらい驚きが大きかったです。愛之助さんの力をお借りし、4役それぞれの色を表現し分けしたいです」
■『弥生の花浅草祭』4役早替り
『浅草祭』は、『神功皇后と武内宿禰』に始まり『三社祭』、『通人・野暮大尽』、そして毛ぶりで知られる『石橋』が披露され、愛之助は、武内宿禰、悪玉、国侍、獅子の精を、松也は、神功皇后、善玉、通人、獅子の精を、それぞれ4役勤める。松也は2役の早替りは経験があるものの、4役の早替りは初めてのことととなる。
「『神功皇后と武内宿禰』は、静と動の“静”。動きも精神的にも落ち着いたところからはじまります。『三社祭』に入ると、ボルテージを一気に上げ、お客様にも気持ちをパッと高めていただきます。『通人・野暮大尽』では歌舞伎らしい、ほんわかとした空気を味わっていただきたいです。最後の『石橋』は、歌舞伎舞踊の華やかさと格好良さがあいまったところでビシッと決めて、お見せしたいです」
尾上松也
人が集まることが難しい今、稽古は各々で行っている。
「できることなら愛之助さんと、毎日1回あわせたいくらいですが、この状況ですから、本番までの限られた中で。愛之助のお兄さんは『浅草祭』を何度かお勤めになっています。とにかく僕がしっかり、愛之助さんについていけるようにしておくことが重要ですね」
体力的な山場は『三社祭』だという。大変さの程度を問われると、松也は少し考えた後、「三社祭だけで……エクササイズの腿上げが20分以上、続く感じ?」と答え、一同を笑わせた。
尾上松也
『三社祭』では、中盤から善玉は「善」、悪玉は「悪」と書かれたお面を顔にあて、口に咥えて踊りつづける。「鼻呼吸だけで、腿上げ運動ですからね。踊りとして身体全体も使い、僕にとっては歴代でも特にきつい演目です。その後、通人も地味にキビキビ動きますし」と、苦笑いしつつも明るい表情で語っていた。
■自分を追い込み、糧にしたい
松也は、2011年には自主公演『挑む vol.3』で『三社祭』を踊った経験がある。
「その時は尾上流(の振付)で、悪玉をやらせていただきました。一度でも『三社祭』の息遣いを経験しておいて良かったです。今回の覚悟ができました。当時は、踊りの大曲を経験したことがほとんどなく、若いころから舞踊には、課題意識やコンプレックスがありました。その上、僕はストイックとは真逆の人間でして、正直やりたくない演目でもありました(一同笑)。だからこそ自分を追い込み、糧にしたいと思い、無理矢理に近い形で自主公演で挑戦しました。手も足も出ませんでしたが、やりがいも達成感もあり、やってよかったと思いました」
4役を勤める中で、善玉と通人の切り替えは、1つのポイントになるという。取材会では、松也の父・六世尾上松助が『助六』で勤めた通人が、話題に上がった。
「周りの人からもよく、父が勤めた通人の話を聞きます。僕自身、通人といえば父のイメージが頭をよぎります。ですが、父の持っていた空気感は、なかなか出せるものではないと思っています。それでも同じDNAを受け継いだことを信じ、どこかに一片でも、自然と感じていただけたらいいですね」
尾上松也
また、印象に残っている『浅草祭』は、2009年(平成21)11月に、新橋演舞場で尾上松緑と愛之助により上演された時だった。
「その月、僕は同じ昼の部の『盟三五大切』に出ていました。お二人が競い合うように踊られ、『石橋』で毛を振っていたのが印象に残っています。幕が閉まった後に、やり切った表情のお二人が”やってやったぜ”というように顔を合わせていたのも覚えています」
■一つひとつの経験が次につながる
ミュージカル『エリザベート』でのルキーニ役(2015年。2020年は惜しくも公演中止)や、新感線☆RS『メタルマクベス』disc2で主人公ランダムスター役(2019年)など、歌舞伎以外の舞台や、映像での活躍も多い松也。劇場公演が制限されていた今年も、テレビドラマ『半沢直樹』でキーパーソンとなるIT企業の若き社長役をつとめ注目を浴び、バラエティ番組にも多数出演している。
「時間を持て余すのが得意ではありませんし、そういう時間は自粛期間中に充分過ぎるほどありました。再開したのならばと、今は、色々な仕事を積極的にやらせていただいています」
松也と同じく『半沢直樹』に出演していた市川猿之助は、先月に開催された自身の取材会で、「ドラマ出演が歌舞伎に与える影響は?」と問われた。猿之助はユーモアをまじえ「(テレビ出演で得たものは)収入だけ。影響は何もありません」と答え、笑いと驚きを誘った。この問いが、今回の取材会で松也にも向けられた。松也は猿之助の回答を知り、爆笑した。
「わかる気もします(笑)。あると言えばありますし、ないと言えば何もない。結局全部同じだからです。もちろんドラマに出させていただいて嬉しかったですし、反響が大きくて良かったです。出演者の皆さんやスタッフの皆さんとの出会いはとても大きなものです。でも一演劇人として、それが歌舞伎にどう影響するかと聞かれれば、何もないとも言えてしまう。あるといえばある、と言ったのは、映像も舞台も歌舞伎も同じお芝居だと思うからです。一つひとつの役が経験となり次に繋がって……という意味ですよね!」
尾上松也
緊急事態宣言解除後、最初のお芝居は『半沢直樹』だったという。
「撮影再開後の初日、スパイラル(作中の社名)の瀬名の部屋にある大きな窓から空を見上げて、泣きそうになったのを覚えています。芝居ができるってこんなに楽しいんだって。それだけ、芝居ができる場を求めていたということでしょうね」
感慨深いエピソードを披露しつつも、「3日目には“また朝から撮影か!”って思いました」と笑いに変え、一同を和ませた。取材会の最後、松也は今年一年をふり返り、話を結んだ。
「何もない時間ができたことで、身体のことも気にかけなくては、と思えるようになりました。仕事をすること、人と接することの大切さにも気づきました。多くの方が『半沢直樹』を見て喜んでくださったこと、それ以外でも韓流ドラマや色々な配信が話題になったことなど、我々の生活の中でエンターテインメントがどれだけ欠かせないものであるかを、僕自身も感じる機会になりました。たとえ今は歌舞伎座で使える客席の数が半分だとしても、エンターテインメントを生でお届けできる機会があるならば、そこでできることをやっていくべきだと考えています」
尾上松也
東京・歌舞伎座の『十二月大歌舞伎』は、12月1日(火)から26日(土)までの上演。
取材・文・撮影=塚田 史香

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