美しきファンタジーの極み 熊川哲也
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人
形』ゲネプロ・レポート~オンライン
ライブ配信、ディレイ・ビューイング
もあり

熊川哲也 Kバレエカンパニー Winter 2020『くるみ割り人形』が2020年12月2日(水)~6日(日)Bunkamuraオーチャードホールで上演される。12月1日(火)ゲネプロが公開された。
クリスマスの風物詩『くるみ割り人形』をKバレエが新制作したのは2005年。芸術監督・熊川哲也が精魂を傾けて演出・振付し、カンパニーが第5回朝日舞台芸術賞を受賞する原動力となった大作である。その後2008年から2017年までの10年間はTBS赤坂ACTシアターで赤坂Sacasバージョンとして披露したが、2018年以降、熊川が芸術監督を務めカンパニーがフランチャイズ契約を結ぶBunkamuraオーチャードホールで上演している。舞台装置が初演時の大きな規模に戻り、フルオーケストラも入る豪華版なのがうれしい。
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』 (c)Hidemi Seto
『くるみ割り人形』は1892年にマリインスキー劇場で世界初演された。オリジナル台本はマリウス・プティパ。音楽はピョートル・イリイチ・チャイコフスキー。振付をレフ・イワーノフが担当した。プティパは台本作成に当たりE.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』を参照したが、熊川はホフマンの怪奇的な世界観も取り込みながら独自の版を創造した。
熊川版『くるみ割り人形』は、まさに壮大なファンタジーの世界。まず人形たちとネズミたちが争っている。その中で、ねずみの王様が人形の国のマリー姫をねずみに、婚約者である近衛兵隊長をくるみ割り人形に化けさせる。その呪いを解くためには“世界一硬いクラカトゥクくるみ”を割らなければならず、そのためには純粋無垢な心を持つ人間が必要なのだ。ドロッセルマイヤーが人間の世界を訪れ、救世主を探し求める。そして少女クララに出会うーー。
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』 (c)Hidemi Seto
幕開きのシュタールバウム家の広間の壮麗さ。真夜中にクリスマスツリーが大きくなる場面の大迫力と妖美。淡い青色の幕が落ちると現れる雪景色の息をのむ美しさ。前半の第1幕では、場面転換がめくるめくように鮮やかでどんどん引き込まれる(舞台美術・衣裳デザイン:ヨランダ・ソナベンド、レズリー・トラヴァース)。人形の兵隊たちとねずみたちのバトルは微笑ましく誰もが親しめるだろうし、乱舞する紙吹雪と共に舞う粉雪たちのステップは小気味よく爽快だ。音楽監督の井田勝大が指揮するシアター オーケストラ トーキョーの緩急自在な演奏が演出・振付と分かち難く結び付いて高揚感を生む。

Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』 (c)Hidemi Seto

後半の第2幕は踊りに次ぐ踊り。ディヴェルティスマンと呼ばれる、筋とは関係のない余興の踊りが続くが、ひねりがある。一連の踊りの後に配される「花のワルツ」を前に持ってきて、そこにクララも絡ませ、踊りだけでなく演技も織り交ぜて進める。そのことによって冗長さを回避する。熊川は自伝『完璧という領域』の中で、Kバレエの舞台がスピーディーだといわれる理由として、ステップの速さだけでなく「演出の工夫」を挙げ、この場面を紹介している。優雅なワルツを生かしつつ、現代の感覚に合った演出で魅せる手腕にあらためて感じ入った。

Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』 (c)Hidemi Seto

演者はフレッシュな実力者揃い。クララの河合有里子は純情な少女そのものという風情で適役。ドロッセルマイヤーの杉野慧は長身で舞台映えするが、闊達な演技で物語を導く。マリー姫の毛利実沙子は端麗な踊りから得も言われぬ華やかさがにじむ。くるみ割り人形/王子の髙橋裕哉はハンガリー国立バレエ団で主役を踊っていた経験を持ち、鳴り物入りで入団したが、よりたくましさを増している。第2幕で毛利と髙橋が踊るグラン・パ・ド・ドゥはハイライトにふさわしく格調高い。
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』 (c)Hidemi Seto
自身による演出・振付はもちろんのこと、演奏、舞台美術・衣裳、照明(足立 恒)などあらゆる要素において熊川の審美眼が行き届いており、そこからワクワクするような驚きの世界が立ち上がり、広がっていく。むろんクラシック・バレエの土台を踏まえた上のことだ。世界中のバレエ団が腕によりをかけ創意工夫を凝らしている『くるみ割り人形』だが、その中でも傑出した一本に挙げていいだろう。
【動画】熊川哲也Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』2020 CM ロングバージョン
なお12月5日(土)17:00公演がオンラインライブ配信され(24時間アーカイブ配信あり)、同公演が12月24日(木)クリスマスイブ限定公開『くるみ割り人形forX’ masEveディレイ・ビューイング』として全国41劇場で公開される。併せてチェックしたい。
取材・文=高橋森彦

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