P-MODELのデビュー作
『IN A MODEL ROOM』は
テクノポップを超越した
日本ニューウェイブの大傑作

実験的な興味深いナンバーを内包

続く、M2「ヘルス・エンジェル」、M3「ルームランナー」もいわゆるピコピコサウンドを取り入れており、そのテンポ感やアイロニカルにも感じる歌詞の内容からロックを感じつつも、“まぁ、これもテクノポップに分類されるだろうなー”なんて考えながら聴き進めていくと、M4「ソフィスティケイテッド」なるナンバーが登場する。ミドルテンポで全体的に淡々と進行し、一応、歌メロらしきものはあるものの、今聴いてもかなり実験的な匂いがある楽曲である。途中から機械音やノイズなど様々な音が入ってくるが、特に最初から聴こえてくるキリキリした音が気持ち悪い。あれは一体、何の音だろう? ピンと張り詰めた弦に、さらにテンションを加えた時に発せられるようなスリリングと言えばスリリングな音。完全に不協な感じではあって、凡そフレンドリーとは言い難い。何をどう考えてこういった楽曲を生み出してのか興味深い。

かと思えば、M5「子供たちどうも」ではブギーっぽいギターを聴かせてグラムロックなテイスト。歌詞は下記のような内容で、これもまたはっきりと何を語っているのか分かるものではないけれども、英語にすればキッズやストリートなどロック的なキーワードも出て来るといった具合に、比較的分かりやすいナンバーを提示する。

《昨日も 今日も 明日も ここかしこで/当然の分け前の生を/もろもろの ウソがウソが/無関心と二重思考が/今日を明日に繋げない だから》《今すぐ出てきて子どもたち/歌わなくても子どもたち/叫ばなくても子どもたち/唯生き延びて子どもたち/路上を取り戻せ》(M5「子供たちどうも」)。

問題は(?)、その次のM6「KAMEARI POP」である。誤解を恐れずに言えば、これも妙な楽曲である。いや、歌もバッキングもその旋律はまさに大衆的という意味でのポップだし、ほぼリフレインなので一、二度聴けば口ずさめそうなほどに親しみやすい。テンポは緩やかで、リズムはやや単調ではあるものの、ダンサブルと言えないこともない。どこか牧歌的な雰囲気で、そこだけで見れば十分にポピュラーミュージックに分類されてしかるべきものだが、歌詞は以下の通りだ。

《プログレッシブな教育システム/子供サークル 天国/PTAのおじちゃんに/ぼくのママは寝とられた》《せんさく好きな住民エゴ/知らぬそぶりの住民エゴ/親切ていねい住民エゴ/不親切な住民エゴ》(M6「KAMEARI POP」)。

“KAMEARI”とは公園前派出所でも知られる葛飾区亀有のことであろうと思われるが、そこで1970年代後半に何があったのだろうか。東京の下町と言われる地域である。『男はつらいよ』シリーズの舞台である柴又にもほど近く、映画では人情味あふれる街として描かれているわけだが、歌詞に綴られているのはそれとは真逆と言ってもいいほどの混沌だ。不安を通り越して、どこか怖さを感じるところである。

のちのアーティストへの影響

M7「サンシャイン・シティー」はやはりギターのカッティングがカッコ良くて、これはもう完全にスカパンクを彷彿させる他、トリッキーなサビメロの展開は、のちにP-MODELが有頂天に影響を与えたことがありありと分かる印象(有頂天のケラも影響を公言しており、自身の音源やライヴに平沢 進をゲストに招いている)。また、M8「偉大なる頭脳」は2007年にPOLYSICSがアルバム『KARATE HOUSE』でカバーしたことでも知られるナンバーで、共に当時P-MODELがシーンに与えた衝撃がうかがえるところだろう。ここからM9「ホワイト・シガレット」、M10「MOMO色トリック」と聴き続けていくに至っては、“テクノ”や“テクノポップ”という形容は頭からほとんど薄れていて、これはもうロックの一択であることを完全に確信する。

そして、アルバムのラストはM11「アート・ブラインド」へと辿り着く。M10までで“ロック一択”とは言ったものの、ミディアムで機械音っぽいビートが淡々と連なっている上で歌はボコーダー使用と、“テクノ”が色濃く出ており、ホントひと筋縄ではいかないアルバムだ。

《未来は綺麗に 未来は綺麗に/未来は綺麗に 未来は綺麗に/ART BLIND ART BLIND》(M11「アート・ブラインド」)。

歌詞は上記のリフレインのみで、依然その意味が分かるものではないが、ラストに置いたことを踏まえると、これまで以上に余韻を感じさせるものである。アート=芸術とは[表現者あるいは表現物と、鑑賞者が相互に作用し合うことなどで、精神的・感覚的な変動を得ようとする活動]だという。そうであるならば、M11「アート・ブラインド」に限らず、その他の収録曲にも[精神的・感覚的な変動を得よう]というニュアンスが強く感じられる『IN A MODEL ROOM』は、まさしくアートの領域にあると言っていいだろう。前述した有頂天、POLYSICSへの影響は、[表現者あるいは表現物と、鑑賞者が相互に作用し合]った結果と考えられる([]はWikipediaからの引用)。また、M1「美術館で会った人だろ」やM5「子供たちどうも」の歌詞からも、聴き手、即ち[鑑賞者]に対して何らかの[変動を]促そうとしていることも想像できる。そういうふうに考えると、デビュー当時の“テクノ”や“テクノポップ”といった括りに個人的には違和感があって、ポストパンク、ニューウェイブ、そしてロックと、P-MODELに対する形容をあれこれと模索してきたが、アートと呼ぶのが最も相応しい気がして来た。随分と大雑把な仕切りになったが、平沢進にはそれが一番似合うように思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『IN A MODEL ROOM』1979年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.美術館で会った人だろ
    • 2.ヘルス・エンジェル
    • 3.ルームランナー
    • 4.ソフィスティケイテッド
    • 5.子供たちどうも
    • 6.KAMEARI POP
    • 7.サンシャイン・シティー
    • 8.偉大なる頭脳
    • 9.ホワイト・シガレット
    • 10.MOMO色トリック
    • 11.アート・ブラインド
『IN A MODEL ROOM』('79)/P-MODEL

OKMusic編集部

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