怒髪天・増子直純が説くサバイブ術「
こんな時代だからこそ鋼鉄の心ででっ
かくいこうぜ!」

11月11日(水)にニューアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』をリリースした怒髪天。新型コロナウィルス感染拡大と未曾有の出来事が起こり、社会が一変した2020年。怒髪天もまた、ライブやツアーが延期や中止になるなど、そのあおりを大きく受けた。そんななかで出来上がったのが、この最新作だ。リード曲『孤独のエール』を軸にユーモアたっぷりの楽曲がずらりと揃った本作は、バンド歴35年超と百戦錬磨の彼らだからこその強さと明るさと、図らずもにじみ出る哀愁が盛り込まれた1枚となっている。そして、こんな時代だからこそ、大きなの心が必要だと歌う怒髪天。ヴォーカルの増子直純にその心を聞いた。
――まずは2020年を振り返りをお聞きしたいのですが、忘れられない1年にはなるなと思ったんですけど、中身はあんまり覚えてないというのが正直なところです。
そうだね。何にもしてないからね(笑)。
――ざっくりと、いかがでしたか?
いい年ではなかったね。世界的にそうだろうけど。得たものと失ったものでは、失ったものが多かったかな。圧倒的に。まあ、やっぱり志村けんを失ったというのはでかいな、俺の人生のなかでは。ショックだったなぁ……相当大きかったなぁ……。「そこ持ってくの!?」というのはあったよね。あとはやっぱり、人と会ってコミュニケーションをとるというのが、基本的に一番の人間にとって大事な事なわけじゃない? それが封じられたという、大事な人こそ会えない。こないだ北海道に行ったんだけど、実家にも寄れないし、友達にも会えないし…。なんとも考えさせられるというか、いや~、まいったなと。今年は「いや~、まいったな」に尽きるね。
――自分自身の存在も、それこそ不要ではないかと、そういうことも思いましたね。
それはもう、震災の時にも思ったけどね、生命にかかわる状況に直面した時にプライオリティが低いから、確かに。ただ、なくてはならないものではあるんだよね、本来は。だけど、考え直すというか、見つめ直すことに期せずしてなったね。別にそんなことをする必要はないんだろうけど、しょうがないよね。あと、本当に命というものに対していろいろ考えた年でもあったしね……。
――はい。それはめちゃくちゃキツかったですね。
本来はすべてが死ぬよりはマシだと思うんだけどね。
――私から見たら充実しているように見える人にも計り知れない苦悩があったんだなと思いました。
そうだね。それにしても、差し引いても死ぬよりはマシだと俺は思うよ。俺は思うけど、正常な判断ができないくらい追い詰められたり、考え込んじゃったりすると思うんだけど、まさにそこでの「ヘヴィ・メンタル・アティテュード​」なんだよね。鈍感力じゃないけど、もっと鈍くて、だらしなくて、バカでいいんじゃないかと思うんだよね。今は。
増子直純(怒髪天) 撮影=渡邉一生
――アルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』も、今年の暗い世相を吹き飛ばすような明るさがありますよね。
今、どんなアルバムを作ろうかって4人で話して、結局、今、自分たちが音楽に何を求めるかといったら楽しさだよね。とにかく明るく、楽しいものを作ろうやということが最優先というか。「今、暗い曲を作りたくない」と友康(Gt)が言っていて。そうだねそこだよねと。何しろ、局面がシビアになればなるほど、シリアスになればなるほどユーモアって大事で。それを絶対に欠かしてはいけないということはあったよね。
――そこで「ヘイ!Mr.ジョーク」ですか。このモデルは坂詰さん(Dr)で?
俺らにとっては坂さんだけど、みんなにとってはお父さんだったり、親戚のおじさんだったり、近所のおじさんだったり。普段だと、お葬式でおならするようなしょうもないおっさんがいたら、「何やってんだよ」となるけど、こういう時にやっぱり救われるんだよね。そういうしょうもなさというか、ユーモアというか。くすっとできることで気持ちが緩むというかさ。それぞれに本当に役割ってあるんだなと思った。それによって救われるなんて、思ってもいなかったからね。
――普段からも風穴を開けていたかもしれない。
そうだね。でも普段はそんなジョークは要らないんだよね(笑)。ただ、本人はそんな意識ないから。「今だから」なんて思ってなくて。時と場合によってはそれがすごい救いになるんだなと本当に思ったね。ただ、やっぱりそんな中に言いたいことであったり、シニカルなこととか毒をちょいちょい入れればいいわけであって、基本的に聴いて楽しむものが欲しいなと思ったからね。
増子直純(怒髪天) 撮影=渡邉一生
――1曲目の「SADAMETIC 20/20」もいいですね。
これは世界に向けて音を鳴らすとしたら、やっぱりサウンドとしてふさわしいのは往年のスタジアムロックのビッグスケール感と力強さとダサさだなって。ロックはダサくないと。そういう規模の大きい、スケールの大きい曲ってダサくなるから。そこは絶対必要だからね。おしゃれなもんじゃないよ。ロックというのは、ダサさとか泥臭さに力があるから、それを思って作って。ただ、作り込むということに関しては、本当はアルバムを作るときってなるべく時間かけないように作っていて。リハはきっちりやって、レコーディングはそのままいって、すぐできるようにやろうとしているんだけど。時間をかければ時間かけるほど手直ししちゃうから。フォルム整えすぎちゃって、形は美しいけど気持ちの荒々しさというか、それが失われちゃうから、なるべくパッケージは短く、瞬間を切り取る感じでやっているんだけど、今回は余計に時間があったから。ただ、ライブがいつできるかわからなかったから、音源を聴いて、ある程度完成度の高いというか、満足度の高いものにしようというのはちょっとあったね。
――堺ファンダンゴの『怒髪天 爆音上映会&トークTOUR 2020 "4人いてライブせんのか~い!"』で『必要至急特別公演 キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~ THE MOVIE予告』を拝見しましが、最後にこの曲が雨の中で流れていて、めちゃくちゃかっこよくて泣きそうになりました。
ちょっとした悲壮感というかね、それでも行かねばならぬみたいな『宇宙戦艦』的なね。まあ、逃げ出したくなるような状況じゃない? だけど、人類の歴史を振り返ってみるとさ、ピンチの場面っていっぱいあって。でもそれを乗り越えてきたじゃない。この時代に生まれ落ちた人たちには使命があって、この後のために。こうなってしまったことをどう受け止めていくかという。俺らは人員を減らさないことしかできないから。ワクチン作れるだけの脳みそもないしさ、何ができるかというと人員を減らさない。生き延びるってことだよね。それが今、最優先でやるべきことで一番大事なこと。それって人間の生き物としての根源に戻ったことであって。だからすごいことだなって。あとやっぱり、変に人類は根詰めすぎたというか、コンプラだ、ポリコレだってやってきて、もうあれがだめ、これはだめって厳しく、細かくルールを決めすぎてさ、そんな細かいことじゃ片付かないような事態が来た時に対応できなくなっちゃってるんだよね。もっと簡単に、シンプルに向き合わねばならない事態になったんだなって。
――そういうことが通用しない感じですもんね。生き延びるって大変なことですもんね。
本当、そうだよ。結局、感染対策を万全にして、さらに仕事しなきゃいけない。経済も回さなきゃいけない。両方ともの車輪が回らないと進まないんだわ。どっちかだけだと死ぬことになるから。ただ、ステイなのか、ゴーなのかっていう。これ、俺が犬だったらもう大変なパニックになってるよ。どっち行けばいいんだってなっちゃって、おしっこ漏らして。犬だったら大変なことになったちゃう。それをさ、上のヤツらは平然とやっているからね。さっき言ったように、システムというものに則らないと何もできないんだよね。そこを超越して何を優先すべきかわかっちゃいないよね。どこもかしもバカばっかりだからね。何考えてんのかって。
増子直純(怒髪天) 撮影=渡邉一生
――個人で判断してやっていくしか策がなくても、今までの教育とか、社会のシステムが個人で考えさせないようにしてきたと思うんです。いろんなことが裏目、裏目に出ていますね。
そう。全部、価値観が崩壊しているというか、結局教えられてきたこともそうだし、上にいるヤツらも何の頼りにもならないし、臨機応変に何もできないっていうことがね、露呈しちゃってるから。だからもう、本当、個人的に正しいと思うことをやるしかないから。ただ、人を思いやるって気持ちが絶対必要な状況だから。予防にしてもさ、マスクにしたって自分のためじゃないんだよね。
――生き抜ていくというところで『孤独のエール』が、そういう意味でも響くんですね。今の自分に頑張れというのもあるんですけど、過去の自分に言ってもらっているような気もして。今自分がいるということは、どんなにつらいことがあっても生き延びてた結果なので、「今も頑張れるだろ?」と言われているような気がします。
本当に、結局人から言われて頑張れるヤツは、とっくに頑張れてるから。自分で言うしかないというところは一つの諦念であるんだけど、でも、自家発電じゃないけどそれで頑張れるということは最後の希望でもあるわけだから。頑張れという言葉をかけるということの責任というか、それによってマウント取ろうとしているヤツもいるからね。そこにすごい悲しさも感じるんだよね。そういう言葉じゃないよって。ただ、個人的に頑張れソング嫌いなわけじゃないから。中島みゆきさんの「ファイト!」とか聴いて毎回、泣いているから。だけど、自分自身の対話といか、見つめ直しってどんな状況でも大切だよね。
増子直純(怒髪天) 撮影=渡邉一生
――どこか原点に返る感覚でもあります。今の歌であり原点であり。ちょっと悔し涙もにじむ感じで。そういう意味では、今回、ユーモアのある曲が多い中でリード曲の「孤独のエール」が際立ってますね。
そうだね。やっぱりリード曲を最初に作って、これはもう先にできちゃったから。あとは逆に音楽的に遊べるっていうアルバムね。この1曲さえしっかりしていれば、あとは色々遊べるだろうというのがあったから。先にできてよかったよね。ずっと作ろうとは思っていたけど、3月、4月ぐらいかな。もろもろで作り始めて。
――「スキモノマニア」とか、「ポポポ」も振り切った感じが痛快ですね。
前半5曲がライブを想定してまだ作ってたから。こんなにライブができないと思ってなかったから。後半の5曲とカラーが違うというか、局面が違ってくる。でも、どっちにしろ今年にしかできないアルバムになったから。ロックってリアルでなんぼだと思ってるから。日記みたいなもので、その時思っていることを歌詞にするじゃない。逆にコロナ禍の事を避けて歌詞書いてるヤツすげえなと思う。信じられない。避けようとすればするほど不自然になるし。
――聞かざるを得ない、言わざるを得ないですよね。
ただ、音楽って不思議で10何年前の曲を聴いても、その時のことを歌っているのに今と妙に符合するところとかは、やっぱり音楽のすごいところで。今回のアルバムって、今聴くとコロナことだと思うけど、数年後に聴いたらその時の状況と符合してくるんだろうなというところがあるからね。どのシチュエーションでも、時代でも、合うものであってほしいなと思って作ってるから。「アルコール消毒」なんてギャグで言っていることだったのに、日常で重要な意味で使われるようになってるから、もっと軽い意味で使われるような日常に戻らないかなって思うよね。
――アルバムを聴いていて本当に思いました。日常が想像の世界を凌駕してきているなと思いました。
もうすごいヘヴィだよね。今やってるゲームもさ、去年出たゲームなんだけど、その設定も今年だったら発売できなかっただろうね。今年だったら無理だったね。まさに現実になって。ゲームのなかでもみんなマスクして、消毒エリアを通らないと建物に入れないっていう。同じだよね、結局。いろんなことが予想外というか、マンガみたいになってるからね。映画みたいなことがどんどん起こるよね。でもそこに対応していかないといけないっていうかさ。
――お芝居とかも、今は楽しいもの、ばかばかしいものが見たいという声が多いと聞きます。
そうだろうね。それだけにやっぱり志村けんを失ったのはでかいよね。本当、思うけど、いろんなことがあって、まじめに考えすぎてたというか、向き合いすぎていると思うんだよね。たとえば、俺も10何年、休みがあんまりないような状態でずっとやってきたけど、コロナ禍で急にライブがなくなって、ツアーが飛んだりして休みができちゃうわけじゃない。みんなもそういう状況で、仕事に行けないような状況になったりして時間ができたときに、変にその時間を有効に使おうとか、スキルアップに使おうとか、体力作りしようとか思っちゃって、すっごい無理しちゃって余計に心がもやっとするというか、ストレスが溜まるというか。俺なんかそんな時間ね、絶対有効に使ってやりたくないと思ってきたから、めちゃくちゃだらしなく、「タイムリッチマン」じゃないけど、なるべく無駄遣いしてやろうと思って、アホみたいにゲームしたよね。あと、どうでもいいような、時間が余りまくらないと観ないだろうという映画を観たりね。無駄にしたね(笑)。某アニメの実写版は最高に時間を無駄にしたよ。最高だったね! 久々に2時間、「いや~、無駄に使ったな~」と思ったもんね(笑)。
――贅沢ですね。
贅沢な時間だったよ! あれはなかなかない経験だったね。観ながらだんだん、心配になったりして、これ大丈夫かな!? 作ったあと怒られなかったのかなみたいな(笑)。金もかかってるし。ああいうの観ると、たまらない気持ちになるよね。
――希望もありますね、それでも世に放っていいんやという。
そう、だからね、「ヘヴィ・メンタル・アティテュード」じゃないけど、でっかくいこうぜと。まだまだ俺もちいせえなって思ったね(笑)。でっけえよなあ、世界にはデカいヤツはいるね! 鋼の心を持つ、強い心を持つというのはさ、すごい難しいと思うんだけど、デカい心というのは、だらしなくて、べろ~んとデカいだけでいいのよ。俯瞰から観てさ、脱出できる道とか、逃げる道を見つければさ、何かしら道は開けると思うんだよね。視野狭窄じゃないけど、狭くなっちゃってると、何も見えないからね。結局、ドツボはまるだけだから。基本、「でっかくいこうぜ」と。そう言ってるヤツは、マンガでも映画でもバカしかいないけど、それでいいと思うんだよね。「でっかくいこうぜぃ~!」と言ってるヤツは大体、バカだから、本当に(笑)。そんな、賢い博士とは言わない、絶対。絶対言わない。
増子直純(怒髪天) 撮影=渡邉一生
――ではライブの話で、直近では『響都ノ宴』の2デイズがありますね。イープラスのストリーミングでも配信されます。セットリストがすごいことになっているとのことですが。
1日目と2日目はほぼ違うというかね。「そんなに変えなくていいんじゃないの?」と俺は思うんだけど(笑)。せっかくだからということで、変わっていて。メンバーも、セットリストが来たときは「あぁ…!」という緊張感が走って。この曲、どんな曲だったかな…みたいな。そういう前のもあるね。だから、緊張感が二日間、続くってことだね、俺ら的には。
――『響都ノ宴』は毎年、緊張感がありますね。
あるね。懐かしい曲もやるから。ただ、いつもだと対バンがあるからね。呼んでるから、ゲストを。今回はたっぷりあるからね。がんばんなきゃな…! 先の約束があると、なんか張り合い出るじゃん。ライブができるようにと祈ってるけど、100%には戻らんまでもね、何しろ楽しいことは1個でも多い方がいいよね!
取材・文=Iwamoto.K 撮影=渡邉一生

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • PunkyFineのそれでいきましょう!~V-MUSICジェネシス日記~
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • Tsubasa Shimada presents / 「Wet Crate」
  • SUPER★DRAGON / 「楽楽★PAINT」
  • OLDCODEX / 「WHY I PAINT ~なぜボクがえをかくのか~」
  • みねこ美根 / 「映画の指輪のつくり方」
  • 高槻かなこ / 『PLAYING by CLOSET♪♪』

新着