「ザ・ブロードウェイ・ストーリー」
VOL.6 クセがすごい伝説のエンタテ
イナーの話

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

☆VOL.6 クセがすごい伝説のエンタテイナーの話
文=中島薫(音楽評論家)text by Kaoru Nakajima
■お楽しみはこれからだ!
 本連載のVOL.1で紹介したミンストレル・ショウ。1800年代中盤から1900年代初頭にかけて、全米各地で上演されたエンタテインメントの形態で、白人の芸人が顔を黒く塗り黒人に扮し、彼ら独特のリズムや所作を真似て、ソング&ダンスやコント風の寸劇を披露するショウだ。差別問題に敏感な現在では、写真や映像を紹介する事さえタブー視されているが、後の大スターも生み出した。それがアル・ジョルスン(1886~1950年)。アメリカのショウビズ史を語る上で、欠く事のできないエンタテイナーの開祖的存在で、ブロードウェイとハリウッド双方で成功した。
1972年に出版されたジョルスンの伝記
 ジョルスンのトレードマークとなったのが、その唱法だ。アップテンポの明るいナンバーでは、目をくるくると動かし、時にタップを踏みながら全身で喜びを表現。また彼のテーマ曲となった、遠く離れた母への想いを歌う〈マイ・マミイ〉は、ひざまずき両手を広げ、涙で声を震わせながら絶唱する。要は、どこか浪花節風の大仰な芸風なのだ。しかしジョルスンは、マイクロフォンなしの時代に、劇場の外まで聞こえる大音声で歌い上げるスタイルで一世を風靡した。
表紙にジョルスンの顔をあしらった〈マイ・マミイ〉の楽譜
 彼が好んで観客に呼び掛けた言葉が、上のLPジャケットにもある「You Ain't Heard Nothin' Yet!」。直訳すると「あなた達は、まだ何も聴いちゃいない!」、つまりは「この後もたっぷり歌うぞ!」の意だ。これを聞いた観客が熱狂した事は言うまでもない。このジョルスンの決まり文句は、後に彼の伝記映画「ジョルスン物語」でも繰り返し使われ、当時の日本語字幕が「お楽しみはこれからだ!」(これは名訳)。学生時代、この作品に惚れ込んだイラストレーターの和田誠が、映画の名セリフを綴るエッセイのタイトルに冠して知名度を上げた。

■伝説に彩られた人生
 帝政時代のロシアで、1886年にユダヤ人居住区で生まれたジョルスン。4歳の時に、両親と共にアメリカへ移住した。少年の頃からの歌好きが高じ、ミンストレル・ショウの一座に入団。黒塗りで歌い踊り好評を得る。しかし今では、ジョルスンの名がミンストレルの歴史と共に封印されてしまった感があるのは、黒人差別を助長したと解釈されたため。確かに、後述する主演映画で、黒人に扮して歌うジョルスンを初めて観た方は、相当奇異に感じるだろう。ただ彼自身は、生まれ持ったリズム感で、奔放に自己流で歌う黒人パフォーマーたちに感銘を受け、そのユニークな唱法を自分のヴォーカルに取り入れたい一心だったようだ。
 また彼は、草創期のブロードウェイを代表するスターだった。1911年のデビュー以降、『ロビンソン・クルーソー・ジュニア』(1916年)や『シンバッド』(1918年)、『ボンボ』(1921年)などに主演。作曲家ジョージ・ガーシュウィンの初ヒットとなった〈スワニー〉や前述の〈マミイ〉を筆頭に、〈カリフォルニア・ヒア・アイ・カム〉や〈エイプリル・シャワーズ〉など、生涯の持ち歌となった名曲を披露した。
「ジャズ・シンガー」(1927年)、アメリカ公開時のポスター。ジョルスンが母親に、〈ブルー・スカイ〉を歌って聴かせるシーンを大きくフィーチャーしている。
 ジョルスンは、世界初のトーキー映画に主演したパフォーマーとしても知られた。それが、1927年に公開された「ジャズ・シンガー」だ。ただしこの映画、オール・トーキーではなく、大半はせりふを字幕で見せるサイレント映画方式。ジョルスンが歌うシーンが近づくと、突然音が出るという変則的トーキーだった。彼は、VOL.4&5で紹介したアーヴィング・バーリン作詞作曲の〈ブルー・スカイ〉などを思い入れたっぷりに歌い、その全盛期の姿を窺い知る事が出来るのは貴重だが(もちろん黒塗りで歌うナンバーもあり)、映画自体は凡庸な仕上がりだった。しかしトーキー映画で歌うジョルスンのインパクトは大きく、それ以降も「マミイ」(1930年)や「風来坊」(1933年)などで主役を務め、ハリウッドでも確固たる地位を築く。
ブルーレイでリリースされた「ジャズ・シンガー」(ワーナー・ホーム・ビデオ)。Amazon Prime Videoなどでも視聴可だ。
 40代でショウビズを制覇したジョルスン。さすがにオフステージでは自信過剰&エゴ丸出しで、この手のエピソードには事欠かない。彼を紹介の際は、「世界最高のエンタテイナー」と呼ばれるのを好んだが、これも自分で考え出した肩書だった。友人と口論になると、いきなり両ポケットに詰め込んだ領収書の束を取り出し、「俺は去年これだけ稼いだ。おまえのを見せろ!」。またブロードウェイでは、芝居を中断して突如舞台に現れると、「皆さん、後のストーリーは御存知ですよね。それよりも僕の歌はどうですか?」と、ヒット曲を1時間以上歌いまくった(もちろんここで、「お楽しみはこれからだ!」を連発)。その反面、異様に嫉妬深く小心な一面もあった彼は、他のパフォーマーが浴びる拍手を聞くのが堪えられず、楽屋では流しの水を出しっ放しにしていた、なんて話もある。
■伝記映画と共にカムバック
 やがて1930年代後半から、ジョルスンの人気は低迷し始めた。マイクロフォンの発達で、甘い声でソフトに歌う、ビング・クロスビーやフランク・シナトラら後輩歌手の台頭が、ジョルスンを過去のスターへと追いやったのが大きな原因だ。ところが彼は、余程強運に恵まれていたのだろう。1946年に、冒頭で触れた伝記映画「ジョルスン物語」が公開されるや大ヒットを記録する。ジョルスンは60歳にして、再び芸能界でトップの座に返り咲いた。 ジョルスン役を演じたのは、彼とは似ても似つかぬ、ラリー・パークスという俳優だった。もちろん歌うシーンは、ジョルスンが十八番を再レコーディングし、パークスはそれに合わせて口パク。ただ、豊かな表情でエネルギッシュに歌い上げる歌唱法を完璧に体得し、見事なパフォーマンスへと昇華させた(正確には口パクではなく、撮影時には、パークスも実際に声を出して歌っていたようだ)。しかし、パークスに決定するまでに一悶着。ジョルスンは、他人が彼の人生を演じる事が許せず、最後まで自分が主演するとゴネたのだ。スタッフも折れたのか、遠景から撮影された〈スワニー〉のシーンのみ自ら出演している。
ラリー・パークス。「ジョルスン物語」でアカデミー賞主演男優賞候補となるも、その後1950年代のハリウッドを震撼させた、共産党員や左翼的発言者を摘発する「赤狩り」の犠牲となり、映画出演は激減した。
 この映画、3年後に続編「ジョルスン再び歌う」が作られるほどの評判を呼んだ。だが、本人が御存命時に製作されたため、決して褒められぬ人間性エピソードや女性関係(こちらもエネルギッシュだった)は、きれいに割愛。その人生は多分に美化されているものの、歌うため、観客を楽しませるために生まれてきた男の執念にも似た情熱を、余すところなく描いている。後半ダレるのが惜しいが観る価値大だ。
「ジョルスン物語」(1946年)と続編「ジョルスン再び歌う」(1949年)のDVDは、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントよりリリース。
■ジョルスンの遺産
再び黄金期を築いたジョルスン名唱集。3枚組CDに、全80曲収録している(輸入盤)。
 映画で歌われた楽曲を収録したレコードは売れに売れ、加えてラジオ出演やコンサートで多忙を極めたジョルスン。歌声は年齢を重ねた分深みを増し、歌手として第二の絶頂期を迎えた。1950年9月には、朝鮮戦争の米兵慰問のため韓国を巡演。その直前には日本へも立ち寄り、聖路加国際病院で傷病兵のためコンサートを開催する。しかし強行スケジュールの過労がたたり、アメリカに帰国後間もない10月23日に、心臓発作に見舞われ急逝した。享年64。
1950年9月、慰問で訪れた韓国で歌うジョルスン。これが生涯最後の公演となった。
 ジョルスンが後進に与えた影響は計り知れない。本連載のVOL.4で紹介したエセル・マーマンらブロードウェイのパフォーマーも、客席の最後部まで歌詞が届くよう明瞭に発音する歌唱法や、観客を徹底的にもてなす術を学んだのだ。その中でも、彼の精神を最も忠実に受け継いだのが、「女ジョルスン」の異名をとったジュディ・ガーランド。〈スワニー〉や〈ロッカバイ・ユア・ベイビー〉など、ジョルスンのレパートリーを終生歌い続けた。また、50代から集中してスタンダード・ナンバーに挑んだロッド・スチュワートは、幼少時に誘発された歌手を問われ、ジョルスンの名を挙げている。
ガーランドとジョルスン(1940年代末撮影)Photo Courtesy of Scott Brogan
 VOL.7は、ブロードウェイのみならず、アメリカ音楽史に大きな足跡を残したガーシュウィン兄弟の特集だ。
文=中島薫

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