odolのワンマン“individuals” 映
画のような没入感の中で想う2020年の
日々

odol ONE-MAN LIVE 2020 “individuals” 2020.12.17 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
昨年の12月22日に渋谷WWWで行われたワンマン以来となる今回。会場に入ると昨年同様の紗幕で囲まれた立方体の“部屋”が目に飛び込んできた。その瞬間、この“individuals”シリーズの連続性とともに、「帰ってきたんだな」という不思議な安堵に包まれた。
ほとんどのアーティスト、バンド同様、odolもライブが行えない日々を過ごしていたが、今年の彼らは人々が直接会えない日々の中でも日常のさりげない支えや、フラットな気持ちでいられる音楽を作ってきた。EP『WEFT』リリース時のコラム(http://spice.eplus.jp/articles/271061)でも書いたが、企業タイアップやブランドイメージソングで占められたこのEPは、今、企業がモノを売るというより、生活者が先行きが見えない不安な日々の中でどんな時間を求めているのかにフォーカスしていることと親和性が高かった。そう。2020年もバンドは止まることなく今を表現し続けていたのだ。
加えて、ミゾベリョウ(Vo/Gt)が音源でのyuiとの共演を発端にFLOWER FLOWERのアルバムへの参加や配信ライブにも出演したり、森山公稀(Pf/Syn)がアイナ・ジ・エンドBiSH)に楽曲のアレンジとプロデュースを行ったり、オンラインでの表現が話題になった「劇団ノーミーツ」にodolの音楽がインストで起用されたり、2020年ならではの表現の場でodolの活躍があったことは決して偶然ではない。
暗転したステージにほのかな光しかない状態にまず鳴ったのは森山のピアノとほぼ同時のミゾベの歌声。「かたちのないもの」だ。音源の温かみとはまた違う緊張感が漂う。目は曲の途中で森山がギターにスイッチしたことに捉われる。Shaikh Sofian(Ba)の5弦ベースが放つ低音はライブならではの体感だ。囲いの中で座って歌うミゾベの姿がうっすらとしか見えないのも、むしろここにいない人を想像させて、仕舞っていた気持ちが溢れる。初期に顕著だった井上拓哉(Gt/Syn)のシューゲイズギターは、今また更新されてきたバンド・アンサンブルを実感させてくれた。この曲のエンディングがパルス音のように変化し、シームレスに「狭い部屋」へつながる。リアレンジバージョンで長くなったイントロも含め、サントラのような印象。ここからミゾベが囲いから出るまで一編の映画を見ているような没入感が続いていった。
スクランブル交差点など街のモノクロ映像が矢継ぎ早に入れ替わる様子と、全ての楽器が別の音と拍を鳴らす、一つバランス違えば全てが瓦解しそうな「人の海で」はまるで電子や電気でできたケチャのよう。ミゾベの歌も楽器のような表現だ。漠然とした不安は「GREEN」に続いていく。サビで願いが感情に乗る場面でも照明が明るくなったりしないのは、この“individuals”=人それぞれの~を意味するライブにふさわしい。怖かったら家にいてもいいし、泣いてもいいーーコロナ禍以前から緩やかに追い詰められてきた私たちの日常、そして他者への想像力。今、より聴かれてほしいと思った。そして重厚感のあるリズム隊が素晴らしい「愛している」。歌メロとサビ前のヘヴィさやアウトロの井上のフィードバックノイズの落差が際立つ。オリジナル音源から大幅にリアレンジされ、ギターカッティングにR&Bテイストすら感じた「君は、笑う」の変身ぶりには大いに驚いた。
ガラッと8ビートで映画の中からライブハウスに戻ってきた気持ちになったところで、ミゾベもステージ表に出てきた「綺麗な人」。ファンのムードもパッと明るくなり、着席でステージを見つめるスタイルなのに明らかに変化した。続いて『WEFT』から「瞬間」が音源以上にギターバンド然としたアレンジで披露される。初期のナンバーと並列して違和感がないのは初期の楽曲がリアレンジされているというのも理由としてはあるだろうが、彼らの曲作りの中でメロディに関するアプローチにブレがないからだろう。
そしてもう一つの近作「小さなことをひとつ」では、緩やかに寄せては引くような波を思わせる森山のピアノにストリングスの同期がバランスよく溶け込んでいた。バンドにストリングスの音が入る際、同期が取ってつけた印象にならないことをライブでも証明した感じだ。小さなこと、楽しいことをひとつしようーーと歌うミゾベの声がニュートラルであることが、今、心に持ちたいメッセージをしっかり定着させる。彼のファルセットも安定し、そのことが曲の説得力を増幅させていた。
暖かな気持ちから一転、路地や飲み屋街などのモノクロ映像の前に立ち歌う「声」。終盤にむけて垣守翔真(Dr)の人力ドラムンベースのようなビートと重い5弦ベースが空間を支配し、サーチライトのように回っていたライトが曲の終わりで客席の何箇所かを照らした瞬間、自分もこの一編の映画のようなライブの登場人物の一人である感覚に捉われた。全く見事な演出だ。そこにモールス信号のようにお馴染み「夜を抜ければ」のイントロが鳴ると、なぜか非常に懐かしいような、知っている場所に戻ってきたような心持ちになった。夜明け直前のようなブルーに染まるステージ。澄み切った空気を思わせるシンバルの振動。穏やかな気持ちになりつつ、本編ラストは「虹の端」。素朴で民話的なムードのコーラスが持ち味のこの曲だが、この日のライブでは少しホーリーな雰囲気も。みんなで声を合わせる歌詞が<君の声で 僕の声で 音楽ってこんなかんじ?>というのが最高だ。集中して見続けたライブの終わりに自然と笑顔になる。思いの乗った拍手が送られた。
アンコールではミゾベが「音楽って届けるためにあるんだなって気づかせてくれた曲があって」と、新曲「歩む日々に」について触れる。また、「1日、1週間違っていてもライブが出来たかどうかを考えると、今日実現できて幸せでした」と述べた言葉にこちらも感謝を告げたい気持ちに。
これまでにない感覚の躍動感や日常に近い暖かさを届けるその新曲「歩む日々に」をライブ初披露し、ラストはこれまでとこれからを結びつけるように、それぞれの演奏が大きなグルーヴを生み出す「生活」で締め括った。ライブがほとんどできなかった今年。しかし、そんなことを思わせないほど、変化してきたバンドの現在地が丁寧な演奏と練られたアレンジで、ただそこにあった。自分にとって心から好きなもの、大事なものを生活の中で吟味したいと思わせるこの感覚はやはり、今年もodolのライブで再度取り戻せたな、と思った。
なお、「歩む日々に」は森永乳業・コーポレートムービーへの書き下ろし楽曲で、WEBサイトでは公開中。TVCMは12月24日からスタート、12月25日には楽曲がリリースされる。

取材・文=石角友香 撮影=今井駿介

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