INTERVIEW / GDJYB 時代に翻弄された
香港に生きるバンド、GDJYB。そのバ
ンド像と全アルバムのセルフ解説。さ
らには新曲「Idea War」MVプレミア公
開も

これまで当たり前だった自由が奪われていく――2020年は世界中をそんな鬱屈とした雰囲気が包んだ。しかし、それとは全く異なる角度で、ここ何年も同じような苦難を抱え続けた地域が香港だ。市民による近年の激しい民主化運動は多くの方がご存知の通り。
そんな香港で、表現者として生き続けることはどういった意味があるのだろうか? 時代に翻弄された香港で生き続ける、インディ・ロック・バンド・GDJYBは、2012年に香港で結成された4人組バンド(2020年8月にドラマーが脱退し、現在正式メンバーとしては3人編成)だ。マスロックの影響を感じさせる変拍子とギター・フレーズに、フォーキーなコード感とメロディをフュージョンさせることで、“マスフォーク”と自らの音楽を形容している。
日本では過去に『SYNCHRONICITY’18』に一度出演しているのみで、日本のメディアでは今回が初の単独インタビュー。本稿ではそのバンド像とこれまでにリリースされた全作を網羅した、アルバムのセルフ・ライナーノーツを紹介する。さらに、この2020年、香港ではあらゆる面から表現の自由が奪われかねない悪夢の中、2年ぶりにリリースしたシングル3部作に迫ることに。
なお、本記事ではその3部作のラスト作「Ideo War」のMVのプレミア公開も実施。リリースに先駆けて、一足早くチェックしてみてほしい。
Interview & Text by Sho YoshimotoWORDS Recordings)
「音楽は感情そのもの」――GDJYBのルーツと哲学
――まずは、バンド結成についての経緯を教えてください。
Soft Liu(Vo. / 以下:Soft):(2020年8月に脱退した)ドラマー・Heiheiとは共通の知人を通して出会い、ギターのSoniとはYouTubeを通して知り合いました。Soniが私をFacebookで見つけ、そこにUPしていた私のカバー・ソングを聴いてくれたんです。それでこの3人でバンドをやってみようということになりました。数曲作った後、1stミニ・アルバムをリリースするために前ベーシストであるYYを誘い(その後脱退、2016年に現ベーシストのWingが加入)、4ピースのバンドとしてGDJYBが2012年に結成されました。
最初は趣味で、自己満足のためだったんですが、1枚目のミニ・アルバムを発表したら周りの評判がよく、『Clockenflap』(香港で最も大きい国際的なフェス)やシンガポールの『Laneway Festival』などにも出演することになりました。そこから、夢は大きくなり、GDJYBの活動を中心に考え始め、フルタイムの仕事は2015年に辞めましたね。
――香港のミュージック・シーンはとても小さくて、多くのミュージシャンは音楽のみでは生活ができないと聞きます。実際いかがでしょうか。
Soft:そうですね。音楽で食べていくというのはほぼほぼ不可能です。特にインディ・ミュージックともなれば、全くもってシーンが確立されておらず、現代の若い人たちの中でもあまり認識されていない状態です。私は広告業界で働いていましたし、フルタイムの仕事をやめてからはフリーでデザインの仕事などをやっています。ベースのWingは映像編集・カメラマンをやっています。
――GDJYBのMVやアートワークは非常に個性的なものも多いですが、やはりそういった経験が活きているのでしょうか。ディレクションは自分たちで?
Soft:はい。広告業界にいたのは非常に大きいですね。マーケティングやプロモーションにも活きています。自分たちでそういったことができるのは大きいですが、ただ、やっぱり音楽以外に時間を使わなければいけない、ということも言えますね。
――自らの独特の音楽性を“マスフォーク”と表現しています。こういった音楽スタイルはどういった経緯で生まれたのでしょうか。
Soft:バンドを始めた当初は、もっとフォーク・ミュージック寄りでした。ただ、それが普通すぎるなと感じていて、もっと他の人がやっていないような、何か特別な音楽を作りたいと思うようになりました。伝統的なフォーク・ミュージックに、変拍子の要素を取り入れてみたらとても新鮮に感じられて。結果として、それが音楽的に“マスロック”の要素だったということですね。
ただ、正直“マスフォーク”と謳っているのは、バンド自体を覚えてもらいやすくもなるので、だったら自らラベリングしちゃおう、というくらいの気持ちに過ぎません。一般的に、世間はジャンル分けしたがるものだと思うので。
――なるほど。
Soni Cheng(Gt. / 以下:Soni):特に意識的に実験的な音楽をやろうとしているわけではなく、音楽的なジャンルを越えていこうと思っているだけです。私たちにとって、音楽は感情そのものです。そういった感情を増幅させるために音を鳴らす。それが一番健全だと思っています。今後も、ただただ色々な音楽をプレイしていきたいです。
Soni Cheng
――元々はどういったアーティストに影響を受けてきたのでしょうか?
Soft:We Are Trees、Pepper Rabbits、Alabama Shakesなどなど、たくさんいますが、このバンドたちには、一聴しただけでどのバンドの曲かが特定できるような、“自分たちの音楽”を作ることを教えてもらいました。
Soni:We Are Treesは同じく。あとは、Sweet Trip。日本のアーティストだと東京事変ですね。
Wing Chan(Ba. / 以下:Wing):Cornelius、Tame Impala、At The Drive In、Arctic MonkeysTom Tom Clubなどですね。
――日本では一度だけ、2018年に都市型フェス『SYNCHRONICITY』に出演されましたね。日本の印象やライブはどうでしたか?
Wing:忘れられない体験ですね。多くのフェスがある中で、音楽的にも素晴らしかった。日本のアーティストは本当に上手くて、独自のサウンドを鳴らしているので尊敬しています。その音を聴くだけで日本の音楽だということがわかります。ファッションやステージングなど、その見せ方も印象的で、ライブに没頭させる感じも素晴らしかったです。
Soni:日本のオーディエンスは特別ですよね。静か過ぎず、でも、熱狂的過ぎない。彼らの動きや目線から、アーティストに対する敬意をとても感じます。私たちの音楽を理解し、感じようとしてくれている。演奏後にツイートしてくれていたコメントの数々からも愛を感じました。
それと、2019年は個人的にペトロールズのライブを観に日本へ行ったのですが、そこでも日本のファンの愛を感じました。ファンがライブを観ながら、一緒に歌おうとしているんだけど、すっごく小さい声で歌ってるんです(笑)。たぶん、恥ずかしいからなのか、他の人の邪魔にならないようにしているのか……。それがとても可愛かったです。
Wing Chan
フィクションだった物語が現実に。激動の香港で活動するGDJYBの現在地
――ここからはGDJYBの現在について伺いたいと思います。2020年は世界が大きく変わった年ではありますが、香港では何年か前から政治的に様々な出来事が起こっています。そんな中で音楽活動をするというのは、どういった状態なのでしょうか。
Soft:世界が本当に混沌としてますよね。私たち自身も同じように、その中に取り込まれてしまっています。2018年に2ndミニ・アルバム『Squarecle』をリリースした後、2021年に新しいアルバムを出そうと決めて、同年からそこへ向けて動き始めていました。当時、私は世界についてや私たちの暮らしについて、近未来のストーリーを書いていました。それは200年後の世界の話で、そのストーリー・ラインに沿った新曲を作っていこうと。
――どういったストーリーなのでしょうか。
Soft:この話では、世界が“西”と“東”の二大勢力に分離され、人々の生活は権力によって規制されています。そんな運命から、人々はどのように逃れていくのか、というお話です。そういった物語を書き始めたところで、2019年、香港では大きな出来事が起こりました。激しい民主化運動の末、ご存知の通り、香港はもはや“香港”ではなくなってしまったのです。それまでは希望はまだある、と思っていました。しかし、長い闘いの後、残ったのは空っぽの、ただの“空虚感”だけで、長い夜は明けることは決してなかった。
――さらに新型コロナウイルス(COVID-19)が世界を襲い、香港に暮らす方々にとっては、本当に激動の日々を強いられることになったと思います。そんな中でも、今年は3曲の新曲をリリースしています。
Soft:2019年の暗闇の中で気づいたのは、私が書き始めたフィクションのストーリーと現実の世界が、いくつかの点で結びつき始めてしまっていたということ。今年の8月にリリースした新曲「405 Method Not Allowed」は、そのストーリーを元に作った最初の曲です。
この曲は“デジタルの中で複製された人々”について歌った曲。同じ顔、同じ服装、同じメイクをして、同じ趣味を持って、同じような生活を送る、そんな人々の話です。
*405 Method Not Allowed:IT用語。WEBページに許可されていない方法でアクセスし、サーバーからアクセスを拒否されてしまった状態のエラー・メッセージ
Soft:そして、11月にリリースした「Wake Me Up」はその続きとなっています。全てが夢のようで、その夢から醒めさせてほしい、という。12月にリリースされる新曲を合わせて、この3曲は私のストーリーの第1章となっています。なので、この3曲の歌詞では“共通の言葉”を使ってストーリーを表現しています。
Soft:年末にリリースする「Ideo War」は、まさに私のフィクション・ストーリーの中核となる“2つの価値観の衝突”についてです。“新時代”と“旧時代”、“西”と“東”、そのように世界が二大勢力に分断され、自分たちの価値観を元に戦い続けます。その戦いは、最初は気持ちの中だけだったのが、言論戦争になり、そして実際の戦争へと発展する。
この曲では、その戦い、衝突を表現する力強さや、マーチング感を取り入れています。中盤にブレイクがありますが、それはその後の激しい戦いへの最後の呼吸です。ブレイクの後も戦いは終わらないことを意味していて、人々は自分たちの信じることを信じ続けてしまうのです。
――何とか、2018年から描いているストーリーが動き始めたんですね。
Soft:はい。そのように、描いている絵があったのですが、さらにもうひとつ、大きな出来事が起こるんです。2019年末に結成当初からのオリジナル・メンバーであるドラムのHeiheiが脱退することが決まって(※2020年8月の配信ラスト・ライブにて正式脱退)。そこでまた、少しプランニングが変わってきた。
そしてCOVID-19が現れて、計画の全てが止まり、スケジュールはぐちゃぐちゃに。ライブもできなかったですし、私の個人のデザイナーの仕事も、一旦全てなくなりました。その当時は配達員の仕事をすることでなんとか凌いでいる状態でした。ただ、それに関しては世界中のみんなが同じように厳しい状況ですよね。
――GDJYBが歌う内容は、一貫して社会的なメッセージを伝えようとしていますよね。しかし、先ほど仰っていた通り、香港では実際にそういった問題が現実に起きてしまった。そんな中、今後はどういったことを表現していくのでしょうか。
Soft:今話した通り、今年リリースした新曲も、そしてこれから制作していく新曲も、私の200年後を描いたフィクション・ストーリーに基づいていくと思います。けれど、そんな未来のフィクションだったはずの物語との共通点が、たったこの数年で現実に起きてきて……。
今思うと、当時からやはり何かを感じていたんだと思います。もはや香港に自由はなくなるだろうって。日々起こっていることを真摯に、真剣に受けとめていくとその兆候はいくらでもあって。そして、今ではそういった現実を表現するのにも、私たちは方法を変えなければならなくなりました。
私たちの曲に、2015年に作った「Street Fighters」という曲があるのですが(※1stアルバム『23:59 Before Tomorrow』収録)、2019年に香港で起こったことは、タイトルも内容も、正にこの曲に書かれているようなことでした。今書いているフィクションもとても悲しい話なのですが、この曲と同じように“予言”にならないことを願っています。
――来年に向けて、GDJYBとしてどのような計画を立てていますか?
Soft:計画を立てても、ここ数年で起きている変化にはとてもじゃないけど対応できていないですね。だから、今のところは2021年に新しいアルバムがリリースできるかはちょっと分からないけど……。私たちの人生は続くし、とにかく生き抜ければいいなと思っています。
全アルバム・セルフライナーノーツ
■1stミニ・アルバム『GDJYB』(2014年)
Soft:私たちの処女作となった本作は、今では非常に初々しいものだと感じますね。そしてよりフォーキーな感じがします。フォークとマスロックとのフュージョンを目指していたものであり、その挑戦が詰め込まれているような作品です。
Soni:なんの気負いもプレッシャーもなく作られた、とてもピュアな作品ですね。音楽教育を受けていたわけでもないし、こうあるべき、といった一定の価値基準を自分たちに定めてなかった。だからアレンジも純粋で、自然で、自由な流れが漂っています。演奏技術が未熟だったので、逆に、レコーディングでは正確にプレイしようとしたため、どちらかというと、人間味のあるグルーヴは薄れた音になってますね。今はもっと人間的でアナログな質感を大事にしています。予算もないので、できるだけDIYな手法でレコーディングしました。
Soft:そう、当時ドラム・トラックを会社で隠れてエディットしようとしてたけど、トラック数が多すぎてパソコン画面を隠すのが大変だった(笑)。ただ、そういった行程も含めて、努力をすれば自分たちには音楽をやっていく力がある、と確信したのも覚えています。まだまだ足りないことに気づきながらも、成長のきっかけとなった一枚です。
■1stアルバム『23:59 Before Tomorrow』(2017年)
Soft:1日が終わる瞬間である「23時59分」と同じように、あなたの人生もあと少しで終わってしまう状態であったら、あなたは何をしますか? 私たちの町が、あと少しで喜びを享受できる最後の時を迎えていたとしたら、あなたは何をしますか? そういったコンセプトで作ったアルバムです。実際には、その終わりというものはわからないものであって、この世は見えない締め切りで埋め尽くされています。だから、一瞬を掴み、その一瞬を生きよう。そんな意味合いがあります。
Soni:このアルバムでのギター・リフは、意図してかなり変則的に引いています。変拍子やテンポのズレなど、自分のできることを全て解放しました。「The Loving Mothers」はまずギターのみで全ての楽曲構成を作って。私の多用するディレイ・サウンドがこの曲では顕著です。エフェクトではディレイが一番好きですね。あと、「Run! Teens Run!」(逃亡! 吧少年呀!)にも言及しておきたいです。この曲は3部構成となっていて。真ん中のパート(1:55〜)では、ベース・ラインのビートに乗せて、かなりトリッキーなギター・フレーズを弾いています。そこにボーカルがクロスしてくる、かなり興味深い曲調になっていると思います。これは、私たちにとってもひとつの到達点でした。楽器それぞれ単体でも独特でいて、上手く絡み合っている。このアルバムではそうやって、一つひとつの音とリズムが絡み合うバランスを、凄く時間をかけて作りましたね。作りたいモノを作れたアルバムでとても満足しています。未だに聴き飽きない。
※GDJYBはこのアルバムで、台湾の第8回ゴールデン・インディーミュージック・アワードの「Best Overseas Album」を受賞。同じく、台湾の第28回ゴールデン・メロディー・アワード(インディに限らず、メジャーも含めた賞)では「Best Musical Group」にノミネートされた。
■2ndミニ・アルバム『SQUARECLE』
Soni:リズムやテクニカルなギター・フレーズに寄った前作とは違い、このアルバムは感情と音楽的な質感に重点を置きました。なので、ギター・プレイに関しては前よりシンプルに、ただその分エンジニアと一緒に音作りに時間を費やしましたね。
Soft:コンセプトとしては、“これは、Square(四角)なのか、Circle(円)なのか?”。その“Square”と“Circle”を合わせた造語をアルバム名に付けました。実際に表題曲である「Squarecle」では、日常生活で知ることだけを盲目的に信じている人たちに対峙しようとした曲です。もっと異なるレンズで物事を見つめ、様々な意見に対してオープンになるべきだということを伝えようとしています。四角なのか、円なのか、その両方の視点を持つべきです。
Soni:その「Squarecle」ですが、私にとっては一番難しい曲ですね。構成が複雑でリフを覚えるために楽譜を書いたくらい。本当に四角なのか円なのかがわからないように、曲のレイヤーが見えない。優しくも聴こえ、怒ってもいる。1曲目の「Backspace」では、ベースのWingによるベース・ソロから始まります。彼女が作ってきたベース・ラインを活かして作った曲です。なので、ギターはその分シンプルにしていて、エネルギーや力強さを表現しています。リバーブは「Big Sky」の「Cloud Reverb」を使っていて、それが強さを表現するのにとてもハマりました。
Soni:あと、5曲目の「Sun Says」は私の好きな曲で、台湾のバンド・Elephant Gymと共作したリフを使っています。2017年に台北のフェスで一緒に演奏する機会があり、その時作って弾いたリフをお互い、自分たちのバンドで使うことにしました。
※ElephantGymはこのリフを「moonset」という曲で使用。
Soni:この曲の組み立てには苦労して、いくつかのバージョンを作り、最終的にセレクトしたものが収録されたVer.になります。代表曲という感じではないのですが、ポップなコード感が好きで、「マスポップ」って感じですね。
Soft:これは今までどこでも話したことがないんですが……。日本語に訳されるなら。この曲は、劉暁波(中国の人権活動家。度々投獄されるながらも活動を続け、2010年、投獄中にノーベル平和賞受賞)に捧げられた曲です。2017年、服役中に亡くなってしまうのですが、それが5時35分でした。そして、この曲は5:35の長さになっています。
【リリース情報】

GDJYB 『Ideo War』

Release Date:2020.12.30 (Wed.)
Label:WORDS Recordings
Tracklist:
1. Ideo War
■ WORDS Recordings オフィシャル・サイト(https://www.wordsrecordings.com/)

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