ヴィンセント・ギャロ『バッファロー’66』公開記念、孤独な魂に染み込む5曲

ヴィンセント・ギャロ『バッファロー’66』公開記念、孤独な魂に染み込む5曲

ヴィンセント・ギャロ
『バッファロー’66』公開記念、
孤独な魂に染み込む5曲

ヴィンセント・ギャロの初監督映画『バッファロー’66』が1月29日から約20年振りにロードショー公開される。刑務所帰りの主人公ビリー役をギャロ監督自ら演じ、彼に拉致され、恋人のふりをするレイラ役にクリスティーナ・リッチがキャスティング。やり残したことを果たすために故郷バッファローに帰還するビリーのささくれ立った穴だらけの心を、彼に寄り添い、からかうようにしてはしゃぎ、「愛している」と涙を流すレイラの純情が回復させるまでを描くマスターピースだ。人と触れ合うこともままならない今だからこそ、グレイッシュでスモーキーな画角の中で躍る気恥ずかしいほどのラブストーリーに身を委ねるひと時を。
「Lonely Boy」収録アルバム 『Recordings Of Music For Film』(’02)/VINCENT GALLO
「Fools Rush In」収録アルバム『ナイス・ン・イージー』60周年記念盤(’20)/Frank Sinatra
「Moonchild」収録アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(’69)/King Crimson
「I Remember When」収録アルバム『Focus』(’62) /Stan Getz
「Heart Of The Sunrise」収録アルバム『こわれもの』(’71) /Yes

「Lonely Boy」(’98)
/VINCENT GALLO

「Lonely Boy」収録アルバム 『Recordings Of Music For Film』(’02)/VINCENT GALLO

「Lonely Boy」収録アルバム 『Recordings Of Music For Film』(’02)/VINCENT GALLO

監督、脚本、主演、音楽の4役を務めるヴィンセント・ギャロが自ら手掛けた「Lonely Boy」は、どこにでもありふれているようだが幸福とは言い難い過去を持ち、無実の罪を着せられてひとりぼっちで出所したビリーの寄る辺ない身を象徴するかのごときタイトルを冠した幻惑のアシッドフォーク。男声と女声の終わりなき追いかけっこのようなハーモニー、ふたつのヴォーカルと重なり合っては剥離する弦の撓み。奥行きのあるナチュラルなリバーブと残響が織りなす立体的な音像の確かさと相反して、全てが主旋律でありながら互い違いに浮遊することで無重力の心許なさが描写される軽やかさがもの悲しくも美しい。

「Fools Rush In」(’60)
/Frank Sinatra

「Fools Rush In」収録アルバム『ナイス・ン・イージー』60周年記念盤(’20)/Frank Sinatra

「Fools Rush In」収録アルバム『ナイス・ン・イージー』60周年記念盤(’20)/Frank Sinatra

放任主義気味で粗野なビリーの父親が、恋人のふりをして自宅を訪れたレイラを前に歌い上げるスタンダードナンバー。エルヴィス・プレスリー、ブレンダ・リー、リッキー・ネルソンなど錚々たるスターがヒットさせたが、今回はフランク・シナトラのバージョンを。幻想的な弦楽とフルートの音色を背に、煌びやかに揺蕩い、伸びるベルベットヴォイスが歌唱する甘美で豪奢なラブソングのなんとふくよかなこと。父親は枯れと老練の様式美の中で照れ隠しが瞬き、かつて歌手であった遠い過去に想い馳せるような瞳に紳士な光が宿る。その直後、アンコールを強請るレイラに一転して癇癪を起こすシーンは、彼女を場当たり的に連れ去ったビリーのバックボーンを線でつなぐ。

「Moonchild」(’69)
/King Crimson

「Moonchild」収録アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(’69)/King Crimson

「Moonchild」収録アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(’69)/King Crimson

劇中で最も印象的な場面のひとつが、レイラがボウリング場のレーンの間でダンスを踊る姿を捉えたもの。ビリーと共にプレイを楽しんでいた陽の現実から仄暗いダンスシーンにシームレスに移り変わる“凄まじさ”を“凄まじさ”と感じさせない妙は、『アダムスファミリー』のウェンズデー役が余りに鮮烈だったクリスティーナ・リッチの代名詞を塗り替えるほどの名演技によって叶えられた。「Moonchild」のひりつく泣きのギターの間隙を縫うようにして打ち鳴らされる銀色のシューズの音とドラムの打音が呼応し、絡み合う快感。水色のワンピースと完璧な金髪を揺らし、俯き加減でタップを踏む彼女は、紛うことなく「孤独な月の子」であった。

「I Remember When」(’62)
/Stan Getz

「I Remember When」収録アルバム『Focus』(’62) /Stan Getz

「I Remember When」収録アルバム『Focus』(’62) /Stan Getz

ホテルに辿り着き、浴槽で体を温めたふたりがベッドの上で抱き合う場面で流れる「I Remember When」は、インストゥルメンタルのジャズナンバー。キスはしてもそれ以上触れ合うことはなく、迷い子を慰めるように、キリストの頭を撫でるマリアのさまにビリーを抱き締めるレイラの横顔には神々しさすらある。サックスの流麗な響きと語りかけるかのごとき呼気が震えるメロディーライン、清廉で豪奢な弦楽の調べが、ようやく静寂を手に入れた彼らを包み込む。乱暴ですらあった出会いから始まり、チープでドラマチックないくつかの出来事が角を取り除き、愛の萌芽が育まれつつある彼と彼女の束の間の平穏な空間を彩る。

「Heart Of The Sunrise」(’71)
/Yes

「Heart Of The Sunrise」収録アルバム『こわれもの』(’71) /Yes

「Heart Of The Sunrise」収録アルバム『こわれもの』(’71) /Yes

新旧の予告編でも使用され、クライマックスの高揚感と臨界点すれすれまで引き上げるYesの「Heart Of The Sunrise」。霰もなく裸体を曝け出す女性たちのどこか無機質な笑みとパフォーマンスがスローモーションでうねる手足のライン、覚悟を決めたビリーの心情や脳内のざわめきが、不穏の足音を具現化したベースラインと電流の如くビリビリ走るギターのリフとバチっとハマる爽快さが堪らない。ワイプの中に吸い込まれた“これから十分あり得る未来”をイメージして冷静さを取り戻し、淡々フェードアウトしていくビリーの惚けた表情と弛緩したシンセサイザーの音色が同期して、ロマンチックなラストへの予感につながっていく。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

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