新時代が生んだ奇才・小林私の内面に
迫る「僕は生活の余剰みたいなところ
から、音楽や絵画をやりたい」

Youtubeを始め、SNSでの活動を中心に注目を集めている新進気鋭のシンガー・ソングライター小林私。今年1月に満を持してリリースしたファーストアルバム『健康を患う』での、聴いた者の孤独や無常観を炙り出す楽曲達は、そのクオリティの高さも相まって早耳のリスナー達を中心に支持を集めている。2月28日に渋谷CLUB QUATTROにて開催される、本作のリリースに伴うワンマンライブを前に、改めてアーティスト小林私の内面に迫る。
――まずはアルバム『健康を患う』が完成しての感想はいかがでしょうか?
「最高!」と思いながら、自分でもめっちゃ聴いてます。今回、自分ひとりでなく、色んな人と関わってアルバムを作ることになって。アレンジャーの方とかと色々話したり、お願いして作っていく中で、自分では思いつかなかったラインや領域がたくさん見れて。自分の曲が自分の想像を越えていく面白さがありました。
――2月28日に行なわれるワンマンライブは、弾き語りとバンドセットの2部構成で行うことが決まっていたり。ここから、表現の幅がどんどん広がっていきそうですね。
そうですね。高校時代にバンドは組んでいたんですけど、リードギターだったんで、バンドで歌を歌うことは経験してなくて。今回はピンボーカルになるのか、ギター&ボーカルになるのかはまちまちなんですけど、かなり楽しみです。
――去年の今ごろにレーベル加入やリリースが決まって、動画がバズって一気に注目を集めて。一年前、アルバムを出してライブをやってという現在の状況は想像していました?
いや全然。「来年の春は大学の卒業もろもろでバタバタだろうな」とは思ってましたけど、この状況は全く想像しなかったです。去年は情勢的にあまり学校に行けなかったんですけど、「大学はちゃんと卒業したい」と事務所に話してて、学業は疎かにすることなくやって。音楽に関しては暇な時に「よし、書くか!」ってなるタイプなんですけど、良くも悪くも忙しくなっちゃって。曲以外のことを考えることも多くなっちゃってるんです。
小林私
――アルバムの収録曲たちは、昔からあった曲が多いんですか?
結構バラバラです。「スープが冷めても」や「風邪」は新しいですね。内容やタイトルは「風邪」のMVを出した時に決めたんですが。もともとシングルで出していた「生活」と「悲しみのレモンサワー」、「風邪」を含んだ8曲の中での展開とか、曲のアプローチやテンポ感が似かよらないようにってところで全体のイメージを考えました。あと、「生活」はシングルで一番最初に出した曲で。それを一番最後に置くというのは1話のオープニングが1クール12話目の最後に来るっていう、オタクの好きな演出なんです(笑)。「お~、最後に「生活」来た!」みたいな、ベタな展開も熱くなるのでいいかな? と思って。
――弾き語りの曲がバンドアレンジになっても私くんの歌や言葉が全然負けてないから、より想いが伝わるものになってるし。弾き語りだと深夜にじっくり向き合って聴ける真夜中ソングの良さがある曲たちにバンドアレンジが加わることで、楽曲世界がより色鮮やかに見えて。より広い層に聴いてもらえるポピュラリティも帯びたと思います。
絵画では現代アートをやっていて、音楽をやる上では大衆音楽やりたいなという想いがあって。自分では普段の弾き語りもポップスだと思って、「一人のゆずや!」と思ってやってるので(笑)。アレンジメントが加わって、より色んな人が聴きやすくなったのはすごく良いことと捉えてます。僕が曲を作る上で一番楽しいというか、気持ちや力が入るのが作詞なので。力の入った歌詞があってそこに準ずるメロディがあれば、どんなアレンジメントが入っても大丈夫だろうと思ってるし、サウンドに負けないだろうなと思ってて。今回、一番魔改造されたと思ったのが「HEALTHY」で。テンポ感も違うし、それによって歌い方も全然変わったんだけど。最終、僕の曲として成立したので何も問題ないです。
――私くんの歌詞は気持ちの奥底までさらけ出すから、さもすればヘヴィになってしまう部分も音楽でポップに聴かせることで昇華出来る部分もあるでしょうしね。さらけ出すってところでは、配信でプライベートまでさらけ出しているのはどんな考えなんですか?
アーティストによって価値観が全然違って、僕の大学でも作品を作る上でパーソナルな情報を一切公表しないって人もいるんですけど。僕はキャプションの無い絵画はあまり好きじゃなくて。作品を見るのにタイトルがあってキャプションがあって、この人はどういうことを考えてるんだろう?って取っ掛かりが欲しいタイプなんです。だから、僕を見る時も「こういう顔でこういう人でどこで生まれて、絵画もやってて」とか、色んな情報がある中から精査して掴んで取れる状態にしたいんです。「自分の作品はこういう風に見て欲しい」ってやり方だったら見え方を狭めた方が取りやすいんですけど。音楽でもアートでも生きてく上でも、見てる人は考えて選択して受け取って欲しいし、僕の音楽もそういう人に聴かれたいって思いはあって。僕は色んな情報を出すので、いらないと思う情報は弾いて曲を聴いてもらえればと思ってるんです。
――なるほど。俺が私くんのパーソナルを知ったり、アルバムを聴いているうちに思ったことはね、「俺は私くんみたいになりたかった」ってことだったんです。
あはは、すごい褒めますね!
――いや、ホントに。「私は私になりたかった」と思ったんです(笑)。10代の頃は俺も音楽や芸術に憧れながら、結果、何も形に出来ていなくて。せめて私くんみたいに、そのモヤモヤした気持ちを言葉にして残すことが出来ていればと思ったし。「HEALTHY」や「共犯」の歌詞にはおじさんながら、「そうだそうだ」と共感したり。パーソナルを知ることで、まるで自分のことのように気持ちを重ねて聴くことが出来たんです。
なるほど。リスナーに20~30代の男性は多いですよ。僕は老若男女問わず、特に子供メインにウケている、おかあさんといっしょみたいなアーティストだと思ってますけど。
――ウソつけ(笑)。あとアルバム楽曲を聴いたり、カバーアルバム『他褌』を聴いて、私くんは自分の中での良いとかカッコいいとか正しいの基準を明確に持った人だなと思ったんですが。音楽ルーツはどんなところにあるんですか?
一番最初に聴いてたのは、いきものがかりと嵐とボーカロイドですね。この3つが僕の中で大きかった気がします。小学校でパソコンの授業があるのでそれで触れたり、家のノートパソコンいじったりして。Youtubeのおすすめとか、僕が普段音楽を聴くサブスクがAmazonプライムミュージックなので、そこでオススメで出てくる曲とか聴いてます。
小林私
――振り返ってみるとで、好きになる音楽の傾向ってありました?
そこでアコギの音が凄い好きになった覚えがありますね。あと傾向ってなんだろ? いきものがかりと嵐の共通点って、日本語ってことくらいだし(笑)。でも洋楽も聴くけど、日本語の歌詞の表現の方が圧倒的に好きですね。自分で曲を作る時は歌詞を考えつつ、メロディを当ててくみたいな方式が多いんですけど。「このメロディの方がいいな」と思ったら、歌詞は曲げるようにしてます。やっぱり根っこに大衆音楽がやりたいというのがあるので、耳心地が良くなければいけないという気持ちがあって。歌詞が文字情報として良かったとしても、メロディに乗らなければ変えちゃいます。
――「共犯」とかは語感とメロディの気持ち良さもありながら、言葉もしっかり伝わるものになってますよね。歌詞に私くんのヒネた部分やこじらせた部分もしっかり出ててるし。
「共犯」はスッと作れた曲でしたね、僕の良くない部分が曲に出てる感じで(笑)。
――いや、健全にこじらせてると思いますよ。若いうちに自分自身と向き合って、自分の頭で考えることをしないと、大人になってからどんどんバカになっちゃうから(笑)。一人でいる時間、自分と対峙したり妄想する時間って、創作活動においてもすごく大事でしょ?
めちゃくちゃ大事ですね。曲を書く時は絶対一人じゃなきゃ無理です。絵画における制作は大学に入って、アトリエでみんなで制作するって状態で慣れたところはあるんですけど。曲書くって言ったら、前後3時間くらい一人でいる時間が無いと整理出来ない。
――「恵日」は本当に午前4時の冴えた目で書いていたりする?
ホントに午前4時です(笑)。「恵日」はど深夜に書いた曲ですね。
――「恵日」もそうだけど、私くんの書く曲は真夜中ソングだけど、来るべき朝を待っていて。孤独や無常観を歌ってても、決して諦めてないんですよね。
それはそうですね。現状の孤独たる自分や上手くいかない状態を歌いつつ、そこを褒め称えたいわけではないので。最終、自分がどういう風に幸せの形を選んでいくんだろう? という中の一環で音楽をやってます。だから曲自体も「良くないことがありました。終わり」じゃなくて、それをどう咀嚼してどういう選択をして、どう幸せの方向に行けるか?ってことは無意識で含まれてる気がします。
――自分の中で明確な答えの出ていない、愛や幸せについては断言しないし。
しないですね。その逆でいったらback numberの「瞬き」とか凄いなと思って。“幸せとは、なになにだ”って言い切れるのは凄ぇなと思います。あと、BRADIOの「幸せのシャナナ」みたいな曲書けたらいいなって。<あんたの幸せが一番だ Shanana-nanana それだけでハッピー>って、素で思って書けたらめちゃくちゃいいやん!って。僕は孤独で暗い曲だけが書きたいわけじゃなくて、現状そうだから書くしかないってだけで。最終、そういう曲が書けたらいいなと思いますね。
小林私
――私くんは演劇や絵画もやったり、いろんな表現に触れてきてるけど、音楽にしかない面白みはなんですか?
やっぱりメロディじゃないですかね? あとは演劇だったらシナリオがあって、何人かの中で演じていたので、他の人とのやりとりや空気があるし。大学に入ってベリーダンスサークルに入ったんですけど、そこでも群舞ってみんなと動きを合わせる踊りがあって。アコギ一本声一本で歌える音楽は、僕の中ですごい身軽さがあったんです。高校1年の時、軽音楽部に入ってバンド初めて、ベースとめちゃくちゃ喧嘩して解散して(笑)。高校2年の時にいまもやってるユニットを組んで、「Whiteberryの「夏祭り」をコピーしよう」ってアコギを買ったんですが。弾き語りを始めた時、「一人でも全然出来るじゃん!」っていうのが凄いショックで。孤独だけど出来ることという中に、アコギ一本声一本でやるって方法もあるのかな? と思わせてくれたんです。そこからはずっと「おもれぇ!」と思って音楽をやれてるし、おもろくなくなったら辞めようかなって感じですね。
――そこで自分を突き動かしてるものって、面白いと思える気持ちと好奇心?
好奇心ですね。子供の頃から水泳やったり茶道やったり剣道やったり、家庭科部やパソコンクラブや絵本漫画クラブに入ったり、色んなことやらせてもらって。まぁ、全部部屋の中で完結するヤツなんですけど(笑)。で、飽きたら辞めてを繰り返してた中で、音楽がたまたま期間が長かった感じです。実は絵画の方が中学校の頃から落書きみたいに絵を書いてたんで、一番長かったりするんですけど。いまのところ、どっちも飽きる予定もないし、やりながら違うことも始められたらおもろいなと思ったり。
――日々の心の機微を表現し続けられたら、表現が尽きることもないですしね。
そうですね。だから色んな人と遊んだり、歌うことが尽きないように生きてます。曲を書くってなった時、めっちゃ大量の暇と遊びに行くっていう二本柱が僕の中にあって。仕事の中で曲が書けたことはいまのところ一度も無いので、もっと人と遊びたいなって(笑)。飲み会とかはあんまり好きじゃないので、友達とキャンプ行ったり、車で遊びに行ったりする中で曲を書いたり。一人でネットやYouTube見て、「どうしようもねぇや」と思ってる中で「言葉が出てくるから書いてみよう」と思って書いたりしているんですけど。僕は生活の余剰みたいなところから、音楽や絵画をやりたいっていうのがあるんです。
小林私
――配信での視聴者とのコミュニケーションも創作に繋がってる?
あれは寂しいからやってるだけなんで、繋がらないです(笑)。先輩のミュージシャンとかに「毎日配信してて偉いね」とか言われるけど、寂しくてやってるだけだから、なんとも思ってないんです。僕が寂しくてやってる中で、色んな人が見てくれてるのはありがたいですけど、それはあと付けで。何かを始める時にそれが音楽に活きたら活きたで良いし、活きなくてもおもろかったらいいやくらいの感覚なので。何かを始める時に覚悟や意味はあんまりなくて。覚悟や意味が必要なのは、始める時より続ける時だと思うんです。
――面と向かって音楽を伝えられる、ライブという場はどんな場所ですか?
ライブは一番デカイ声を出せる場所なので、楽しいです。あとは曲を書く上で、アコギ一本声一本でやる以上はそれをどこに持っていっても差し支えないようにしたいというか。同期を使ったり声を重ねることをあまりしたくなくて、身一つで人前に出て歌って完成する曲作りをしているので、ライブはそれを試す場でもあるし。僕、目立ちたいって気持ちが根本にあるので、人前に立って目立つという気持ちいいポイントは抑えたいです。
――目立ちたくても、何も無かったら人前には立てなくて。音楽で自分をさらけ出すってひとつ覚悟を持って楽曲を発表し続けたら、一年前には想像出来なかった状況が待っていた。「去年の今ごろは現在の姿が想像出来なかったでしょう?」なんて聞きましたが、想像出来ない未来が待ってることも私くんの理想であり、想定内だったのかも知れないですね。
それはそうかもしれないですね、自分が思ってもないところに行きたいなと思って動いてるところもありますからね。来年の今ごろは変なことになってるかも知れないし、めちゃくちゃ落ちぶれててもおもろいなって思います(笑)。

取材・文=フジジュン 撮影=大橋祐希
小林私

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