新国立劇場 2020/2021シーズン演劇ラ
インアップ説明会~『ガラスの動物園
』招聘再挑戦、「50年後に何を残せる
かを考えて動いている」

新国立劇場の2021/2022シーズン演劇ラインアップ発表会が2021年3月8日(月)に開催され、小川絵梨子演劇芸術監督が登壇した。
小川芸術監督として任期4年目のシーズン、幕開けは海外招聘公演『ガラスの動物園』だ。昨年行われた2020/2021シーズンラインアップ発表会で、同シーズンの幕開け作品として昨年9月上演予定と発表されていたが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、来日がかなわず公演中止となってしまった。テネシー・ウィリアムズによる名作を世界的な人気を誇る演出家、イヴォ・ヴァン・ホーヴェが演出、主演のアマンダ役にはフランスを代表する女優のイザベル・ユペールを迎えるなど、日本でも話題を呼び、期待の声が高かった公演が1年経って再び日本での上演実現に向けて動いている。
小川は「私がどうしても招聘公演をしたかったというのもあり、公演中止後も制作のフランス・オデオン劇場と交渉を続けていた。昨年フランスで4日間だけだが上演され非常に評判がよく、何とかこの招聘公演がかなうよう、オデオン劇場と共に努力していきたい」と公演上演に向ける思いを述べた。
2021年11月には、フルオーディション企画の第四弾『イロアセル』が上演される。フルオーディション企画は小川芸術監督就任1年目から行っており、来月にはフルオーディション企画第三弾『斬られの仙太』が上演予定で、フルオーディション企画第二弾の『反応工程』は2020年4月上演予定だったが公演中止となり、全キャスト・全スタッフが再集結して今年7月に改めて上演予定となっている。『イロアセル』は倉持裕が2011年10月に新国立劇場に書き下ろした作品で、今回は倉持自身が演出も手掛ける。日常における対話や発言の在り方を問う本作について小川は「戯曲を読み、非常に今の私たちの社会に必要な作品だなと思った」とコメントした。
2021年12月に上演予定の『あーぶくたった、にいたった』は、2019年3月から1年間かけて行われた「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」第一期を経て、劇場公演に至った作品だ。小川は「小市民の生活というものを、非常に別役さんらしい言葉と世界観で紡いでいる素敵な本。1年かけてこの作品と向き合ってきたチームによる公演をとても楽しみにしている」と、就任1年目から取り組んできた「こつこつプロジェクト」の一つの到達点となる公演の実現に対する期待を述べた。
2022年4月~6月には、「正論≒極論≒批判≠議論」シリーズ三部作が上演される。シリーズタイトルについて小川は「SNS等の影響もあって個人が発言しやすくなっている状況の中で、その発言がどういう意図で発せられたものなのか考えていきたいということを、コロナ禍の中でずっと考えていた。いろいろな戯曲を読んだ中で、この3つの作品がテーマに即していると思って選んだ」と解説した。
シリーズvol.1『アンチポデス(仮題)』は、新国立劇場でも2016年に上演された『フリック』で2014年にピュリッツァー賞を受賞しているアメリカの劇作家、アニー・ベイカーによる戯曲で、日本初演となる。翻訳は2019年に新国立劇場で上演された『タージマハルの衛兵』の翻訳を手掛けるなどその活躍に期待が集まる小田島創志、演出は小川が務める。小川はアニー・ベイカーについては「アメリカの演劇を一つ変えたと言われているような非常に革新的な作品を作る、私とほぼ同世代のNYの劇作家」、内容については「一つの会議室に集まった男女8人が議論をしているが、何について議論しているのかはわからないまま話が進む。そこで行われているコミュニケーションが、追い詰められたり人間関係が明らかになっていく中で歪んでいくところが非常にリアルに描かれている」と語った。
シリーズvol.2『ロビー・ヒーロー』は、2017年に映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー賞脚本賞を受賞したケネス・ロナーガンの戯曲で、2001年にオフ・ブロードウェイで初演された作品の日本初演となる。差別や格差の問題がある中で、正義・正論とは何なのかということを描いており、新国立劇場では2018年上演の『スカイライト』など数々の作品を手掛けてきた浦辺千鶴の翻訳、新国立劇場には初登場となる桑原裕子の演出により上演する。小川は「声高に正義を叫ぶことの大事さ、そして難しさが描かれている本だと思う」と述べた。
シリーズvol.3『来訪(仮題)』は、スイスの作家フリードリヒ・デュレンマットの代表作で、1956年に初演されて以降、世界各国で多くの演出家の手によって上演され、映画やオペラ、ミュージカルとしても上演され続けている名作だ。翻訳は昨年の新国立劇場公演『願いがかなうぐつぐつカクテル』の演出で注目された小山ゆうな、演出は2019年に『どん底』で新国立劇場での初演出を飾った五戸真理枝がそれぞれ務める。シリーズの中で小川が一番最初に選んだ戯曲が本作だったとのことで、「他の2つに比べると、リアリズムというより寓話的な台本」と述べた。
小川は「このシリーズは翻訳者、演出家など、私と同世代の20~40代の方々に集まっていただいた。我々の思っているテーマに即する側面というものを、作品に昇華して皆様にお届けできたらと思っている」と、シリーズへの意気込みを語った。
公演以外では、「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」の第二期がスタート。2020年3月に終えた第一期について「劇場としても財産になるような、非常に有益な時間を過ごせた。第一期の過程については冊子を作成中でいずれ皆さんにご覧いただけるようにしたい」とその成果の大きさをうかがわせた。
また、「ロイヤルコート劇場✕新国立劇場 劇作家ワークショップ」や「ギャラリープロジェクト」も継続して行っていくことを発表した。小川は「昨年はワークショップもオンラインで開催したが、劇場開催では参加することが難しい遠方の方にも参加してもらえた。新しい形態によって、新しい方々と出会える機会というのは劇場としても重要なことだと思っているので、これからもいろいろな方法を探っていきたい」と、コロナ禍での経験を交えて語った。
質疑応答で「毎シーズン書き下ろし作品が入っていたと思うが、今回入っていない理由は何か」と聞かれると、小川は「実は、次シーズンにドンドンドン、と3作品書き下ろしを予定していて、そちらに集約した形になっている。今回はいろんなスケジュールの都合で書き下ろしが入らなかった」と説明した。
配信公演についての考えを問われると、「出来たらいいなと思って動いているものもあるが、現時点ではお伝えできる状態にない。作品によっては映像化できないものもあるし、音楽の著作権の問題もある。これからも劇場での公演を続けていく中でのプラスアルファとして考えていきたい」と、配信公演へのハードルの高さをうかがわせた。
シリーズのタイトル「正論≒極論≒批判≠議論」への思いを聞かれた小川は、「演出家は役者やスタッフとコミュニケーションを取ることが仕事で、どう伝えるか、どうやって人と意見の交換をしていくのか、ということはよく考える。考え方も持っている歴史も違う中で、どうやってお互いフェアなコミュニケーションをしながら作品に向かえるか。私の個人的な思いとしてはそういう状態じゃないといい作品が生まれないんじゃないかと思っている」と、自身の演出家としての姿勢を示しながら、意見を押し付けるのではなく互いに議論することの大切さと難しさを説いた。
芸術監督としての務めについて問われると、「時間をかけて積み重ねていくということかなと思っている。一過性で終わってしまうのではなくて、何年もかけてゆっくり浸透させていくことを大事にしたい。5年、10年じゃなくて、50年後に何を残せるかを考えて動いていて、それが結果に結びついて欲しいとはもちろん思っているけれども、焦らないで長い目で見ていきたい。次の世代の人たちにとって演劇がより伸び伸びと楽しく身近なものになるにはどうしたらいいか、ということが就任以来私の考えの中心にある。それがジレンマでもありつつ、自分自身がずっと戦っている部分ですかね」と、思いを述べた。
発表会終了後、小川氏を囲んでの記者懇談会が行われた。
「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」について、発表会の中で「劇場としても財産になるような経験」と述べていたが具体的にはどのようなことか、と問われた小川は、「長い時間をかけるとはどういうことなのかを実感したことが財産。1年間やると演出も変わるし、戯曲への理解も変わるし、役者の安心感や自信も変わってくる。作る場としての劇場の意味を体当たりで学ばせてもらっている。イギリスだとこうしたプロジェクトのために一つ建物があって、日本でも上映されているナショナル・シアターライブで見ている作品も、1年以上ワークショップをずっと重ねて作られているし、作品として上演に至るものは数が限られているが、常に250くらいのプロジェクトが動いている。まずは作る場所、創作への投資、という考え方がすごく重要だと思っている」と熱い思いを語った。
コロナ禍による文化芸術の現状について問われると、「文化芸術は必要だという声をあげていくことと、必要だと思ってもらうために何をしていくか、ということは両方考えていかなければならない。必要じゃない、と思っている人たちがいるということをまず知って受け止めることは大事だと思う。それに対して「必要だよ」と言い返すだけじゃ、それこそ正論みたいになってしまう。たまたまコロナ禍で浮き彫りになっただけで、一過性の話ではないと思う」と考えを述べた。
芸術監督としてこれまで行ってきたことや公演に対する反応や手ごたえについて聞かれると、「どうなんでしょうね」と少し悩んだ後、「どうやったらもっと知ってもらえるかな、演劇の力をどうやって伝えていけるかな、ということばかり考えてしまう。主張したいことがあるなら言葉で言えばいいわけで、何で演劇を通してやるのかというと、演劇は共感、共鳴を生むんだと思うから」と、これまでのことよりも先のことを見据えて考えている小川らしさをうかがわせた。
シリーズの演出家が全員女性で海外戯曲であることについて問われると、「女性であることや、海外の戯曲であるということは意識していなかった。同世代であるということはいつも意識している」と回答。「女性というくくりでの売り出し方をした方がいいのかどうか、ということはずっと悩んでいたが、今更という気もしていた。でも、女性問題だけではなく、セクシャルマイノリティの問題とかを意識するためにも、一回そういうくくりを大事にしてラインアップをしたいと先々で考えている」と今後の構想も明かした。
就任当初から「次世代に何を残していけるのか」について強い思いを抱いている小川芸術監督。改めて、目に見える結果だけを追い求めるのではなく、目に見えなくとも確実に積み上げていくものの重要性を語る姿には、これまでの経験で得た自信が感じられた。コロナ禍によって劇場が閉じられ公演中止を余儀なくされた昨年を経て、まだはっきりと先の見えないコロナ禍の中、今後も舞台芸術は様々な形でその存在意義を問われるだろう。そんなとき正論で押し切るだけではなく、意見を聞きながら議論をしていきたい、という小川芸術監督の柔軟な姿勢は最も必要なものとなるはずだ。今回発表されたラインアップが我々に問いかけるものは何なのかを考えながら、無事に劇場が開かれ上演されることを祈りたい。
取材・文・撮影=久田絢子

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