テイ・トウワ
『Future Listening!』を聴いて
アルバムという音楽作品への
接し方を考える

懐古ではないサイケデリック

そのロックなビートは、M4「Luv Connection」のイントロでのギターにつながっていく。M2、M3と、そこには新しさがあるとはいえ、ベーシックはラテンであったことに対し、ダンスチューンという括りは同じでも、こちらはディスコティック。楽曲全体がキラキラしている。英語詞であることを差し引いても、完全に洋楽っぽい。テイ・トウワのプロとしてのキャリアは米国のハウス・ミュージック・グループ、Deee-Liteのメンバーとしてスタートしているのだから、洋楽っぽさも当然と言えば当然なのだけれど、日本でコンテポラリーR&Bが隆盛を迎えるまでは、ここからまだ4~5年を待たなければならなかったわけで、この時期の日本において、M4「Luv Connection」は相当早かったことになる。キラキラなディスコチューンというところで言えば、電気グルーヴ「Shangri-La」にも通じる空気感があるが、これもまたこちらのほうが3年ばかり早い。また、この楽曲はセクシーな歌もいいのだが、いろんなところにいちいちキャッチーなメロディーが差し込まれていくところがとてもいい。最も耳に残るのは、エレピとストリングスで奏でられる、この楽曲のテーマとも言える旋律だろう。たった2音階の組み合わせ(ちゃんと音符を追ったわけではないので間違っていたらごめんなさい)にもかかわらず、ものすごく耳に残る。楽曲が進むにつれて、概ね8小節毎に巡って来るあのメロディーを待っている自分がいることに気づく。音楽の快楽原則をよく知るテイに弄ばれているかのようだ。

M5「Meditation!」はボサノヴァタッチのリズムから入るものの、アフリカの民族楽器風のパーカッションに電子音、フルート(ちょっと尺八っぽい)などが重なり、そこに女性の声で英語のモノローグ、さらには、フリーキーというか、少しジャジーなベースも鳴っているし、コード弾きのシンセ、アコギ、男性の声と、いろんな音が雑多に入っていく。M4までのポップさはどこへやら、これは前衛音楽っぽい。ただ、男女のヴォーカル(というよりも声)はM1からM4でも必ず聴こえてきたので、これもまた耳馴染みというか、地続き感があるとだし、M5の非ポップさはM6「Raga Musgo」で活きてくるように思う。シタールから始まって、管楽器(サックスとフルートだろうか、これもちょっと尺八っぽい気がする)とシンセで構成されたと思しき、短めのインタールード的なナンバー。これを単体で聴いたら、これも非ポップな前衛的な捉え方としただろうが、M5を前に置くことで、比較的メロディアスであると受け止めることができるように思う。冒頭で述べたアルバム作品ならではの面白さはここにもある。

また、その妙味はM6から続くM7「Son of Bambi」でも発揮されている。M6はシタールで始まると言ってもほんのわずかなのだが、M7で本格化(?)。The Beatlesの「Love You To」ばりに鳴っている。しかも、やはり…と言うべきか、打ち込みのビートに乗せ、8ビットゲーム機のような電子音まで合わせて、決して懐古ではないサイケデリックサウンドに仕上げている。注目なのは、そのシタールが後半に進むに従ってエレキギターに変化していくところ。もともとエレキギターだったものをシタール風にしていたのかもしれないが、ある時点からはっきりと切り替わるのではなく、“アハ体験”的に替わるのが面白い。“あれ? これシタールだったんじゃ…”と思わせる辺り、まさに幻聴のようだ。後半はブラスセクションも入り、これまたしっかりポップに仕上げているのも見逃せないところではある。

さまざまな仕掛けに満ちた作品

M8「Amai Seikatsu(La Douce Vie)」はギターのカッティングが心地良いナンバー。これもボサノヴァタッチのリズムで歌入り、しかも日本語での歌唱である。メインは女性ヴォーカル(たぶん野宮真貴)で、部分的に男ヴォーカルが絡む(たぶんテイ本人)。ムード歌謡的デュエットというと大分語弊があるだろうが、聴く人によってはそんなふうに感じてもおかしくない要素はあると思う。ボサノヴァ。男女の声。ここまで日本語の曲はひとつもなかったのに、不思議な既知感がある。それはM9「Obrigado」にも続いていく。こちらもテンポは緩めだが、ボサノヴァ。ポルトガル語ではあるものの、これまた男女のデュエットだ。間奏で聴こえてくるのはギターだろうが、ちょっとシタールっぽく聴こえるのは気のせいだろうか。おそらく気のせいだろうが、M6から続けて聴いてきた感じだと“あえて音をシタールに寄せているのでは?”と深読みしてしまうところはあると思う。正解かどうかはともかく、アルバム単位で聴いていなかったら気づきもしないことだろう。アウトロ近くで歌詞にある“Obrigado”が“ありがとう”になっていくところも見事。M7でシタールがエレキギターの音に変化していったことを思い出す。

“他にももっとさまざまな仕掛けがあったのではないか? 聴き逃してしまったのでは!?”と思っていると、M10「Dubnova(Part1 & 2)」に辿り着く。こちらはアルバムのフィナーレというよりも、長めの“リプライズ”といったダブミックスで、細かく析したわけでないけれども、M1からM9までの楽曲のトラックを再構築したものと考えて間違いないだろう。どこかサウンドコラージュ的で、ポップさに欠けるきらいはあるものの、そういうタイプの楽曲だから、オープニングからアルバムを聴いてきた者にとっては当然、既知感はある。個々の楽曲において、ここまで説明してきたような、ポップさの肝であったり、サウンドの変化の妙であったりという音楽体験を、それはわずか40分前の出来事だったにもかかわらず、どこか懐かしく感じるような仕掛けがM10「Dubnova(Part1 & 2)」にはある気がする。聴き終わると、もう一度、M1「I Want to Relax, Please!」から聴きたくなる──そんな感覚があるのだ。これもまた、アルバム一作品を通して聴かないと感じることができないものだろう。その辺をテイ・トウワが意図的にやっていたのかどうかは定かではないが、思わずそう考えてしまうような魅力に満ちたアルバムではある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Future Listening!』1994年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.I Want to Relax, Please!
    • 2.Technova(La em Copacabana)
    • 3.Batucada ※カバー曲で原曲はマルコス・ヴァーリ。
    • 4.Luv Connection
    • 5.Meditation!
    • 6.Raga Musgo
    • 7.Son of Bambi
    • 8.Amai Seikatsu(La Douce Vie)
    • 9.Obrigado
    • 10.Dubnova(Part1 & 2)
『Future Listening!』(94)/テイ・トウワ

OKMusic編集部

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