坂本真綾

坂本真綾

【坂本真綾 インタビュー】
自分の嫌いだったところを
何かに変えられるかもしれない

今年の4月にデビュー25周年を迎える坂本真綾から、縁あるアーティストたちとデュエットしたコンセプトアルバム『Duets』が到着! 小泉今日子や井上芳雄、堂島孝平ら豪華な顔ぶれと真摯に向き合い、それぞれの魅力を相乗効果で引き立たせた作品は聴き応え満点だ。3月の横浜アリーナ2デイズでも、我々の心を豊潤な音楽で満たしてくれるに違いない。

参加してくださるみなさんに、
とにかく楽しんでほしかった

25周年のアニバーサリーにデュエット曲のみのアルバムというコンセプチュアルな作品を持ってきたのには、いったいどんな経緯があったのでしょうか?

私がデビューした時の担当ディレクターが2年くらい前に還暦を迎えたので、“今までの音楽人生でやり残したことはないんですか?”って尋ねたら、“実は真綾さんのデュエットアルバムという構想があったんだよ”という答えが返ってきたんです。私の中にはまったくない発想だったから、“えっ、そんなのどうやって作るの!?”って感じだったんですけど(笑)、だんだん“やるとしたら誰と歌いたいかな?”とか“世の中にはどんなデュエットが存在するんだろう?”とか考えるようになってきて。本当に好きな人だけを集めて、本当にやりたいことだけをやる、いわば肩の力が抜けた作品にできたらいいんじゃないかってことで、実際に2年くらい前からお声がけを始めたんです。やっぱりお相手あってのものなので、みなさんが無理なく参加できるように、時間に余裕を持って作っていきたかったんですよ。

では、レコーディングも2年かけてじっくりと?

作業自体は2020年に入ってからで、打ち合わせが始まったのも緊急事態宣言が出た頃だったんです。なので、土岐麻子さんとの曲を作ってくださったTENDREさんとは“初めまして”のご挨拶をリモートでせざるを得なくなってしまったり、「Duet!」のホーンセクションは普段なら全員一緒に録るところ、飛沫予防でひとりずつブースに入って録ってもらったり。でも、いつもならレコーディングが終わった途端に地方に飛んでいくような売れっ子ミュージシャンの方々も、みんなツアーが中止になっていたから、自分の録りが終わっても名残惜しげに残っていたりしてたんですよ。そうやって一緒に音を出せることだけで感動されていた姿を見て、私自身も励みになりましたね。

きっと参加してくださった方々にとっても励みになりましたよ。デュエットのお相手になった7アーティストも、これまでに何かしらの縁がある方々ですね。

そうですね。まずは私自身が今まで何かでご一緒したことのある方々の中から、一緒に歌ってみたい方にお願いして、小泉今日子さんだけはちょっと違った発想からお声がけしたという流れです。最初はミニアルバムのサイズだし、私が歌うのは半分でいいわけだから、いつもより楽なんじゃないかと予想していたんですけど、実際にやってみたら考えることがいつも以上にあって! 参加してくださる方々の魅力をがっつり出しつつ、私自身もしっかり出せる曲という“良いとこ取り”を探っていく時間も必要でしたし、男女ならキーの問題もあったり、同じボリュームでも声質の違いで片方の声が潜ってしまう時にはミックスで細かく整理したりもして。デュエットの奥深さが身に染みたというか、いろんな意味で繊細なことなんだっていうことが分かりました。でも、自分以外の歌い手のみなさんが普段どうやって歌録りしているのか、どんなマイクを使っているのかを見られたり、全てが新鮮で面白かったです。

お相手に合わせてさまざまな曲を作りながらも、一貫してテーマにされていたことってあります?

とにかく“楽しんでください!”っていうことですね。参加する方々みんなが楽しんでくださることが一番で、同時に歌いつつ曲も書いてくださる堂島孝平さんや和田弘樹さんとかには、“私のアルバムだから私を立てる曲にしなきゃとか思わないでください”とは伝えました。

1曲目の「Duet!」で共演されている和田弘樹さんは、25年前のデビューシングル「約束はいらない」がオープニングテーマになっていたアニメ『天空のエスカフローネ』でエンディング曲を担当されていたという縁がありますが、それ以上のつながりがあるんですよね。

はい。作家名義のh-wonderさんとして、私の曲を何曲か書き下ろしてくださってます。歌手としてはもう22年くらい歌っていらっしゃらないんですけど、私はh-wonderじゃなくて和田弘樹さんを呼び出したかったから、一番時間をかけて説得したのは和田さんですね(笑)。レコーディングでも緊張されてるのが伝わってきて申し訳なかったです。でも、私にとって和田さんは常に見守ってくれている親戚のお兄さんみたいな感覚なので、こういう節目にいてくれるのは、むしろ自然な存在なんです。そんな話をしたら“こんな機会を誰かがくれるとは思ってなかった”って、とても喜んでくださったんですよ。

つまり、デュエットをねだられて戸惑ってる男性目線の歌詞は、もしや和田さんのリアル?

ほぼドキュメンタリーです(笑)。無理矢理引っ張り出してきた和田さんに歌っていただくんだから、ご本人が共感できるテーマにしたかったですし、世の中にはカラオケでも歌うのが恥ずかしい人っているじゃないですか。そういった人に“デュエットだったらどう?”って誘うような曲だったら、このアルバムのテーマにも合うので、和田さんをモデルにお芝居の戯曲を書くような気持ちで作詞していきました。歌だけじゃなく、何かひとつ殻を破るチャンスが掴めなかった人たちに“誰かと一緒だったらできるんじゃない?”って背中を押せるような曲になったらいいなと。私はずっとひとりで歌ってきましたけど、例えばユニットだとかバンドを組んでる人たちって、ひとりでは出せない力を常に刺激し合って出しているのかもしれないし。デュエットの面白さだって、自分ひとりで歌う時よりも大胆になれるとか、楽しめちゃうとか、いい気になれちゃうとか、そういうことなのかもしれない…ってことを、和田さんがいいヒントになって書けたんです。

それってこのアルバム自体の大きなテーマでもありますよね。

そうですね。私も25年歌ってきて、自分の歌がどんなものかも分かってますが、今回初めて誰かと一緒に歌うことで発見があったり、自分の嫌いだったところを何かに変えられるかもしれない…そういうことを期待して作っている一枚でもあったりするんです。

なるほど。堂島孝平さんをはじめ、the band apart(以下、バンアパ)の原 昌和さん、la la larksの内村友美さんも、これまで楽曲提供を受けてきた方々ですね。

はい。それこそ原さんはベーシストなので、無理やり引っ張ってきた感じはありますね。バンアパでも不意に入ってくる原さんのコーラスがすごく良くて、ずっと注目していたから、絶対に歌が嫌いなはずがないと信じて誘いました(笑)。案の定、歌ってもらったら味のあるいい声だったし、何より私の声とすごく相性が良くて、非常に面白くて素敵な曲になったと思います。

フュージョン色が強くて、とてもひと筋縄ではいかない曲ですよね。遊び心がたっぷり。

“デュエット曲をお願いして、こんな曲があがってくる?”っていう(笑)。すごく難しくて今まで私が歌ってきたどの曲とも違っているんだけど、オシャレで大人っぽくて癖になるし、いつまでも聴いていたくなる長いアウトロも含めて気持ち良くて。その分、歌詞も骨太で大人っぽさのあるものにしたかったから、デビューからお世話になっている岩里祐穂さんにお願いしたんです。私が書くと軽くなってしまいそうだったし、原さんが私の曲を聴いて最初に好きになってくれた「プラチナ」という曲の歌詞を岩里さんが書いていたので、それもご縁かなと。なので、大人の知的さだったり、過去に置いてきたはずの火種を再び思い出す…みたいな話をしながら作っていただきました。

アルバム全体を通して大人でないと書けない/歌えない歌詞が多いですよね。そこも25周年ならではかなと。

そうですね。デュエットって男女だとラブソングになりがちですけど、40代に入った私が何をテーマに男の人と歌うのかを考えて、堂島さんにも話したんです。“ラブソングがいいけど、いい歳をした私たちが歌うのに違和感のないもの…例えば10年寄り添った夫婦の痴話喧嘩とかどうでしょう?”って。普段出すシングルとかでは、10代の子がモデルになっているアニメの主題歌として青臭さを求められることも多いので、今の自分の年代にフィットするラインを求めていきたいところはありましたね。

堂島さんとの「あなたじゃなければ」も相手に不満をぶつけつつベースには愛情があるという、この真っ直ぐじゃない感じなんて10代ではあり得ないですね。

そう! ある種の妥協だったり、いろんな気持ちが混ざってるっていう。“あなたじゃなければ”っていうタイトルも“あなたじゃなければ良かった”と“あなたじゃなければ今日ここまで来られなかった”っていうダブルの意味になっているので、“堂島さん、さすが!”ってなりました。逆に友美ちゃんとは女同士のデュエットということで“頑張れ女の子!”みたいな曲にしたいと伝えて。弱気な自分を励ますような、スポーツ選手が試合前に聴きたくなるような曲にしたいって。私はずっとひとりで歌っているから、ライヴ前の不安や緊張は誰とも分かち合えないっていう話をしたら、常にバンドの仲間と一緒にいるはずの友美ちゃんも“まったく同じ”って言ってくれたんです。それを聞いた時に、“やっぱりみんな戦ってるんだな”って思えて。私自身もライヴ前に口ずさめば“今日もどこかで戦ってる人がいるんだ!”って思い出せるような歌詞にしたいと思い、ふたりで歌詞を書いたのが「sync」なんです。
坂本真綾
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アルバム『Duets』

OKMusic編集部

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