林原めぐみ

林原めぐみ

歌詞は台詞ではないけど、
表現に音符がついただけ

その後、声優業に専念する中で歌手としてもシングル「虹色のSneaker」(1991年3月発表)をリリースされますが、“声優は裏方として声をあてる職業”という意識が強い林原さんにとって、歌手デビューには戸惑いもあったのではないでしょうか?

戸惑いだらけでしたね。歌うことは自分の目指したところではなかったし、ミーハーな感覚でレコーディングスタジオに行って、自分のために曲が作られていくのが社会科見学をしているようで、ずっと続くものとは思っていなかったんです。“そういうお仕事がきたから、今の私は全力でやるだけだ”という感覚で。でも、レコーディングで““青空……”の“ら”を歌い切ったら倒れてもいいくらいの気持ちで伸ばして”とか、“もっと青空は高いところにあるよ”“あなたの空はどの辺にあるの?”と言われて、歌うってこともちょっとお芝居に似ていたんですよ。歌詞は台詞ではないけど、表現に音符がついただけなんだって思うようになって、歌手デビューではなく“歌で何かを表現する”という扉が開いた感覚ですね。自分を卑下するわけではないけど、私は歌唱力が抜群にあるわけじゃないし、当時のプロデューサーの大月俊倫さんもそこを求めていたわけでもなくて。ものすごく練習して歌った時に“つまらない。上手に歌えても売りものにならない”って言われたことがあったんですよ。その時は“こんなに練習してきたのに!”って思ったんですけど、“歌がうまい人が歌手なら、音楽の先生はみんな歌手でしょう。あなたに求めているのはそんなことじゃないんだけど”と言われた時に、“じゃあ、何を求められているんだ?”と考えたんです。もっと歌詞の住民になって、悲しみを伝えたり、喜びを分かち合ったりすることが大切なのに、私は何で音符を読んでいたんだろうって気づいて、おぼろげながら“声優が歌うジャンルって、この先あってもいいのかも”と思いました。舞台俳優の方たちが歌を収録したCDを出して、その舞台を観た人が聴いて号泣するような。そしたらすでに大先輩の水島 裕さんや三ツ矢雄二さんもやってらしたので、自分はその継承であり、歌手として世に出るのではなく、声優として、歌というかたちで表現するという感覚になったんです。

戸惑いだらけだったところから、自分が歌うことが腑に落ちていったと。

そうですね。だから、『小さなアヒルの大きな愛の物語 あひるのクワック』のエンディング「ハッピー・ハッピー」はアヒルっぽく歌ってみたり、キャラクターソングは声を作って役で歌ったりと、林原めぐみであり、林原めぐみではない。クワックくんが歌ってる、らんまが歌ってるっていう、キャラクターソングというものが生まれた気がします。

どんな意気込みで歌手活動に向き合っていたのかをおうかがいしようと思っていたんですけど、そもそも歌に向き合うというより、声優の林原めぐみさんとして表現するものが、時に歌であるという感覚で、声優業と変わらない部分もあると。

はい。音符がついてくるので、私にとってはハードルが高いんですけどね。“この歌詞を朗読したらすっごく楽なのに”って思うこともありますし(笑)。

イントネーションも何もかもが違いますもんね。そのように活動していく中で、シングル「don’t be discouraged」(1997年4月発表)をはじめとする数々のヒット曲が生まれ、奥井雅美さんが“林原は業界内で、声優業界の美空ひばりと呼ばれている”とも発言されていますが。

いやいや、それはあの人が言ってるだけですよ(笑)。でも、2019年に美空ひばりさんをAIで表現するプロジェクト『NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり』でナレーションをやったんですよ。美空さんがかつて歌っていたVTRを観ながらAIの動きを決めていくんですけど、微妙なビブラートや音符通りではない遊びを正確にすればするほど美空さんではなくなっていくみたいで、その研究をしている映像にナレーションをしながら、すごく傲ったことを覚悟で言うならば、やっていることは“似てる”と思ったんです。というのは、お客さんを“おいで”って指で招いたり、手であしらったり、ものすごく上から指を指したり、外に外に歌われる姿に、ミュージカルともまた違う、芝居や台詞のような…歌手でありながら、その歌を表現している女優さんであり、歌の中に住んでいる住人のような感じがしました。もちろんお稽古もたくさんされているだろうし、計算もされていると思うから、アドリブとは一様に言えないんですけど、フッと心に湧いたことに身を任せていらっしゃるような姿がいいなって。お抱えの振付師の方もいなかったそうです。

OKMusic編集部

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