異色ミュージカル『衛生』~リズム&
バキューム~(W主演:古田新太・尾
上右近)で、作・演出の福原充則がポ
ップに描く“どうしてもやってしまう
こと”とは?

舞台はもちろん、映像作品でも活躍する怪優・古田新太と、歌舞伎俳優で江戸浄瑠璃清元節の太夫でもある尾上右近。2人がダブル主演を務めるミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~(2021年7月~8月、東京・大阪・福岡で上演)は、人間の業を音楽と笑いに包んで、これでもかっ!と描き出す異色作だ。作・演出は、様々なユニットやプロデュース公演で脚本・演出を手がけ、2018年に『あたらしいエクスプロージョン』で岸田國士戯曲賞を受賞、また全話の脚本を手がけた連続ドラマ『あなたの番です』が大ヒットするなど、勢いに乗る福原充則。満を持して書き下ろした初ミュージカルについて、語ってもらった。

■人が“どうしてもやってしまうこと”を描きたい
――昭和30年代の住宅街を舞台に、あらゆる手を使ってのし上がっていく、し尿汲み取り業の親子を軸にしたミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~。企画の立ち上げには、古田さんも関わっているそうですね。
古田さんと話している中で生まれた企画です。「人間の業を描くものをやりたい」「人間の汚い部分を描きたいねえ」という話になって、そこから“どうしようもないもの”と言うんですかね。人が“どうしてもやってしまうこと”の中に何かヒントはないだろうか?という案が出てきました。
――なるほど。それで、人の営みから切り離せない排泄物を扱った作品に?
はい。でも即そう決めたわけではないです。僕は別にウンコが好きなわけじゃないし、性欲も捨てがたいなと思って。ただ、舞台上で性欲を見せるのは難しい。役者が若いとキスシーンですらファンは嫌がりますし、僕も客として観ると妙に冷静になって、稽古場で何回キスしたんだろうか?とか考えてしまうほうなので。じゃあ、排泄物ならいいのかっていうと、それもまた間違っている気はするんですが(笑)、ゲロかウンコで迷ってウンコにしました。僕はゴジラみたいでカッコいいなと思っているんですけど、ゲロを吐くシーンって、客席が本当に変な空気になるんですよ。企画段階では「いかに観客を嫌な気持ちにさせるか」みたいなことをずっと言っていた古田さんも、この間会ったら「楽しい芝居にしたいね」と言っていたので、まあ、ウンコでよかったかなと(笑)。ポップな芝居にしたいですね。
――まさに舞台だからこそやれる企画ですよね。脚本を読ませてもらって、愛ある目線でダメな人間を描く福原さんならではの面白いミュージカルになるだろうなと感じました。
確かに、映像作品で糞尿を扱うのはキツいですよね。ウンコは演劇の特権かも(笑)。僕は子どもの頃から、音楽とストーリーが絡んでいるものや、“人間って、しょーもないね”というのが描かれた作品が好きなんです。何かこう、自分がちょっと安心するんですよ。逆に、立派な人間とか完璧な作品を見ていると嫌な気持ちになる。それでこの『衛生』も、どこか破綻があるというか、あえてちょっとラフな感じに作り上げたいと思っていて。もちろん、チケットを買っていただくわけなので、その許される範囲内で、「演劇って、しょーもないね」と笑って思ってもらえるような作品になったらいいなと思っています。
――それにしても、クセが強すぎる登場人物ばかり。異種格闘技並みに多彩なキャストも魅力的です。
謎のキャスティングですよね(笑)。右近さんは、悪人や人間の汚い部分を演じたいとずっと思っていたそうなんです。「企画書を見たときに、このタイミングでまさにやりたいことが来た!と思ったんです」と言ってくれて。古田さんと六角精児さんの共演というのも、演劇ファンの皆さんには楽しみにしていただきたいところです。六角さんは『レ・ミゼラブル』と並行しての出演なんですよ。それから元宝塚の咲妃みゆさん、NON STYLEの石田さん、ともさかりえさん……個人的には、劇団猫のホテルの佐藤真弓さんと村上航さんを、同時に呼べたことにも喜びを感じています。手練れの皆さんに集まってもらえたので、あとは皆さんに好き勝手やってもらえれば、こちらで整えますという感じですね。

■性欲は愛よりも強い
――音楽を手掛けるのは、水野良樹さん(いきものがかり)と益田トッシュさん。もう楽曲は出来上がっているんでしょうか?
楽曲自体はもう書き上がっています。編曲はこれからなんですが、音楽はリズム&ブルース系でいきたかったので、ブラックミュージックが底辺にあるようなテイストです。悪さとゴージャスさを含みつつ、泥臭い雰囲気になっています。今までは、泥臭さ=土着的な音楽をよく使ってきたんですけれども、今回はそこもちょっとブラックミュージックぽいというか、泥臭いんだけれども、ちゃんと金歯は入ってるぜ、みたいな感じ。振付家業 air:man チームがダンスを振付けるので、全体の雰囲気としては、常にある種のポップさも失わないと思います。
――“リズム&バキューム”というサブタイトルがキャッチーです。全曲を作詞した福原さんのお気に入りの1曲を挙げるとしたら?
《人の仕組みのテーマ》です。僕が20年くらい書いている“性欲は愛よりも強い”というテーマを表現した曲になっているので、その場面はサラサラっと書けまして。話の本筋からは脱線していたので、最終的に半分くらいカットすることになりシーンとしては短くなりましたけれども、その分、いい曲ができたなと思っています。
――物語の舞台は、昭和30年代と昭和50年代の神奈川県某市。そこを選んだのはどういった意図から?
僕は隣の市の出身なんです。隣の市から見たその街は、めちゃめちゃ柄が悪くて、僕の地元より全然栄えてはいるんだけれども、何かこう殺伐として見える。かつては海運で栄えたんだけれども、国道と高速道路ができたことで高度成長の途中で発展が止まってしまった、プラスチックが古くなったような街という印象があるんです。その街の人たちが舞台を観たら、怒るかもしれないけど(苦笑)。
――街の実名は出てきますが、痛快なまでに振り切った話になっていますし、日本全体の闇歴史のような側面もあるので問題ないかと。
ああ、確かにそういう側面もあるかもしれない。「夜這い」の話も入れているし。夜這いの歴史の本を読んで以来、ずっと書きたいと思っていたんです。びっくりするような風習が、特に地方には結構最近まで残っていたことに衝撃を受けまして。しかも村によって微妙にルールが違っていたりするんですよ。

■ポップに楽しく伝えたい
――風刺も利いていますよね。糞尿=核廃棄物でも成り立つ、まさに今の話だなとも感じました。
そこも含めて、これまで自分なりに丁寧に取り組んできたテーマを、音楽に乗せてポンポンと舞台の上に置いていきたいと思っているんです。僕は基本的に毎回、観た人の日常や生き方がちょっと変わるといいなという気持ちで芝居を作っていて、特にこの10年ぐらいは、世の中が0.1%でもいい方向に進めばという思いでやってきたんですけれども、もうほとほと疲れてしまって。それで今回は、そこをあまり深堀りしないで、ラフにただの嫌味として書いて、ポップに楽しんでもらおうと思っています。毎日ニュースを見ているだけで嫌になっちゃう昨今ですから。
――とはいえ福原さんはもともと、そういう思いをストレートに描くタイプではありませんよね。最近、コロナの収束やオリンピック開催という大義の前で個人の小さな夢や問題が不問にされがちな現状と重ねて、福原さんがユニット「ニッポンの河川」で上演した『大きなものを破壊命令』を思い出すんですが、あれもかなり……。
はい、社会問題を大真面目に台本に盛り込み、大ふざけで演出したら、全然テーマが伝わりませんでした(笑)。自分でも何やってんのかなって思いましたから(笑)。でも、そうやって伝わらないところまで一生懸命深堀りしていたものを、最近、手放した感じはあるので、その辺の浅さが今回いいほうに出ればなと。そうじゃなくてもチケットを買って劇場に行くことのハードルが高くなっているこの時期、古田さんも言っているように、せっかく足を運んでくださったお客さんには楽しんでもらいたいですからね。じゃあ、なんでウンコなんだ?っていう話にはやっぱりなりますけど(笑)。
――今いちばん楽しみにしていることは何ですか?
歌と踊りの稽古中、一息つけること(笑)。最近、TBS赤坂ACTシアターでやる芝居は、出演者が多いこともあって稽古場で全然余裕がないんです。でも今回はミュージカルということで、音楽監督や振付監督に任せて俯瞰で見られる時間がいつもよりは多そうだなと思っていて。それぞれのセクションから台本の解釈を教えてもらうこともあるので、それが作品にいい風に出たらなと。たとえば渥美(博)さんは、いつも台本を読み込んでアクションをつけてくれるので、それを見ていて気付かされることが毎回あるんですよ。稽古場の制し方もすごくて、みんな一瞬で「ついていきます!」という感じになる。いつも以上に総合芸術というか、そういうチーム戦の色合いが強くなるところは楽しみですね。
――改めて、異色ミュージカルへの意気込みを。
チラシに書いてある「人生の、はいつくばらなきゃいけない時に、人は、その歌を歌うだろう。」という言葉に騙されて(笑)、色々な人が観に来てくれたら嬉しいですね。僕らとはまた違った価値観で生きている人たちに観てもらって、何か思うところがあるといいなあと思っています。誰にでも楽しめる糞尿の話、ポップに楽しく伝えたいです!
取材・文=岡崎 香  写真撮影=中村 功

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