広瀬大地

広瀬大地

【広瀬大地 インタビュー】
儚くもあり、幸せな“今”を
『Embarking』に収めておきたかった

コロナ禍の危機的な状況を
今作にできる限り残したかった

歌詞のお話を続けさせてもらいますが、M3「Not Over You」とM4「Love Like That」はどちらも“頭の中”というフレーズがキーになっていますよね。でも、「Not Over You」は臆病ながらも断ち切ろうとしている気持ち、「Love Like That」では全てを投げ出してでも追い求めていくドラマチックさがあって、対照的な2曲にも思えました。ここの曲順にはこだわりましたか?

ここの曲順はかなり意識をしています。少しややこしい構造になっていて…「Love Like That」の唯一英語にしているサビのキーフレーズ《I want a love like that》は“そんなふうな恋がしたい”という意味なんですけど、この一行で“全てを投げ出してでも追い求めていくことが、今ではできなくなった”という様子を表現しています。「Not Over You」ではそんな過去の自分を断ち切って進もうとするけど、「Love Like That」では過去の自分を断ち切ったことで“情熱が小さくなってしまった自分”と葛藤する姿を描いています。曲順の流れも使ってメッセージを届けられるのが、アルバムの楽しみだと思います。

『Embarking』はテンションが一定ではないので、ドラマを感じられるアルバムですよね。M5「How To Vent」はサウンドに懐かしさがありながらも、後半の歌詞では現代に焦点を当てているのが印象的でした。今はSNSなどで発信する場はたくさんあるけど、感情を発散できていない様子がうかがえます。

「How To Vent」で歌っている吐き出せない感情は、実際に僕が抱えているものなんです。世の中には口に出しても仕方がないストレスがたくさんあり、それをコロナ禍で感じることが本当に多くて。今作のコンセプトのひとつに“コロナ禍で感じたことを表現する”というのがあって、それは入れたかったというより…入れざるを得なかったのですが、生きているうちに一回体験するかどうかの危機的な状況を、できる限りアルバムにも残したいと思ったんです。

歌詞では現代ならではの気持ちを描いているけど、サウンドはトレンディードラマで流れているような感じで。

バブルっぽさは出してます。それは冒頭でも申し上げたように、『Embarking』全体のコンセプトとして80’sリバイバルのディスコサウンドを目指しているからなんですけど、なおかつ「How To Vent」にはコロナ禍でオンライン飲み・テレワークといった新たな生活様式が出てくる中で“オンラインでのコミュニケーションは僕らの気持ちを本当の意味では伝達できないのではないか?”というメッセージがあります。そのメッセージを表現するためにも、アナログなサウンドで、少し懐かしさを出す必要がありました。歌詞についても同じことが言えるんですが、出だしに“甲州街道”“カーラジオ”というフレーズを持ってくることで景色を古くさせて、“あの時代に今のような感染拡大があったら、僕らはどうしていただろうか?”という僕なりの疑問提起もあります。

また、他の楽曲には“君”“あの子”などの人物が出てくるけれど、M6「Scared To Leave」ではひたすら自問自答していて、強い孤独感を感じます。でも、そのあとのM7「Off The Wall」とM8「Take It Easy」ではリスナーの背中を押すような言葉の数々が印象的で、この3曲の流れには大きな心境の変化を感じました。

前向きな時もあれば、アルバムを作り続けることに対して孤独感がある時もあります。この3曲の流れは僕自身の心境の変化というよりも、アルバムの流れで大切にしている“聴いてくださる方の心境を動かしていくこと”を意識していました。僕は音楽は誰かへのメッセージだと強く思っているので、一人称のみで歌詞を書くことはあまりないのですが、『Embarking』のテーマには“旅立ち”もあるから、その恐れを余すことなく書いたのが「Scared To Leave」なんです。「Embarking」には、旅立ちに向けての清々しい要素も入っていますが、こんな僕でも新しいことを始める時には不安もあるので、その感情を聴いてくださる方々と共有しておくことで、他の前向きな楽曲がより入りやすくなるというコントラストを意識しました。

先ほどの「Not Over You」と「Love Like That」の流れもそうですが、アルバムを一枚通して聴いた時の心の動きには、かなりこだわっていますね。他にはどんな仕掛けがあるんですか?

「Off The Wall」は「Embarking」のリプライズっぽい作りになっていて、サウンドもリズム感も、メッセージもあえて似せています。M3「Not Over You」からM6「Scared To Leave」までのだんだん深化していく心の移ろいは、M7「Off The Wall」で明るいものに転じていくんです。「Off The Wall」は1番で裏声のみだったサビが、3番に向かうにつれてだんだんと力強くなっていく構成になっていて。シングルだと1番のサビで勝負を分けられてしまうので、この曲はアルバムならではの勝負を仕かけられた曲であり、今作の中でキーを握る楽曲です。その流れの中で聴くM8「Take It Easy」は、先行して配信シングルとしてリリースされたシングル版の「Take It Easy」よりも遥かに力強く、ポジティブなメッセージを持っていて、すでにリスナーからの人気もある楽曲ですが、アルバムで聴くとさらに好きになってもらえるんじゃないかと思います。

OKMusic編集部

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