ワールドミュージック・
ムーブメントを牽引した
3ムスタファズ3の異色作
『ハート・オブ・アンクル』

『Heart of Uncle』(’89)/3 Mustaphas 3

『Heart of Uncle』(’89)/3 Mustaphas 3

1982年はピーター・ゲイブリエルの舵取りで行なわれたワールドミュージックのビッグイベント『WOMAD(World of Music, Arts and Dance)』の第1回目が開催された年である。この世界的なイベントがきっかけとなり90年代初頭ぐらいまで、ワールドミュージックが世界中を席巻することになった。アフリカをはじめ、中米、トルコ、イスラエル、インド、パキスタンなどのアーティストに世界中の音楽ファンの注目が集まることになる。当時は日本でも、レコード店にワールドミュージックのコーナーができたり、ワールドミュージックの専門店が登場したりしていたのである。これらは直接間接を問わずゲイブリエルの影響だと言えるかもしれない。彼のクリエイティビティが最も冴えていたのはこの時期であったと思う。『WOMAD』は現在も世界各地で開催されており、世界最大の音楽フェスとしてギネス登録されている。

ワールドミュージック専門のレーベル

80年初頭にイギリスで設立されたワールドミュージック専門のグローブスタイルは、時代の要求に応えるように数多くのワールドミュージックの傑作を紹介してきたレーベルである。グローブスタイルからリリースされたアルバム(LP)は、裏ジャケットにその音楽が世界のどこから発信されたかが分かるように地図に丸印が付けられていた。この一貫したデザインに、このレーベルの作品(音自体は聴くまでまったく分からなかったが…)を集めていた人も少なくなかったのではないか…少なくとも僕はグローブスタイルの戦略にハマり、リリースされるアルバムを買い続けていた。

しかし、同じグローブスタイルからのリリースなのに、3ムスタファズ3というグループのアルバム『Bam! Mustaphas Play Stereo』(’85)には不思議なことに地図が付いていなかった。ジャケットにはどう見てもアラブ系の人たちが数人写って載っていたのでワールドミュージックには違いないだろうと思っていたのだが、後にそれがフェイクだということを知らされるのである。

今回は、3ムスタファズ3の2ndフルアルバム『ハート・オブ・アンクル』(’89)を取り上げる。メンバーのヒジャス・ムスタファことベン・マンデルソンは70年代後半にパワーポップグループのアマゾーブレイズ(Amazorblades)を率いており、セッションマンとしてもマガジン、ポーグスなどに参加したこともある有能なスタジオ・ミュージシャンだ。アマゾーブレイズ解散後は前述のグローブ・スタイルで、数々のワールドミュージックを紹介するプロデューサー兼フィールドワーカーを務めていた。彼は本物のワールドミュージックのレコードの中に自らがリーダーを務めるフェイク・ワールドミュージックグループを紛れ込ませたのである。

3ムスタファズ3という
優れたフェイクグループ

3ムスタファズ3は、ヒジャズの他、フーザム・ムスタファ(ナイジェル・ワトソン)、サバ・ハバス・ムスタファ(コリン・バス)、ニアヴェティ・ムスタファ・III(ティム・ファイエンバーグ)、ケモ・ムスタファ(キム・バートン)、イスファニ・ムスタファ(サラ・ドーソン・ミラー)、エクスペンシブ・ムスタファ(ジョリー・パーティ)、ラヴラ・ムスタファ(ローラ・デイヴィス)、ダウディ・ムスタファ(デイブ・ビテリ)などが在籍していて、表向きはメンバー全員いとこ同士という設定であった。アルバムごとに正規メンバーとゲストメンバーが入り乱れるだけに、情報が少なかった当初はグループの全体像を掴むのが難しく、少なくともムスタファ姓を名乗っているのはパーマネントメンバーだろうと推測する程度であった。カッコ内の実名は、89年の初来日の際も全貌はわからず、結局メンバー全員の実名と背景がわかったのは彼らが活動を休止した後のことになる。

ヒジャズとフーザムは別ユニットでアフリカンポップを演奏するオーケストラ・ジャジーラで活動し、サバはU.Kプログレの名グループ、キャメルのメンバーで優れたベーシストだ。ソロアルバムもバス名義とムスタファ名義の両方でリリースしているぐらいなので、ムスタファ姓に愛着を持っているようだ。ケモもアシッドジャズのワーキング・ウィークで活躍するラテンジャズが得意なピアニストである。ニアヴェティはジャズグループのザ・リパブリックやケイジャン/ザディコグループのCシャープなどでも活躍するマルチインストゥルメンタリストであったが、惜しくも2008年に54歳の若さで逝去している。紅一点のラヴラは数か国語を操るマルチ・リンガルで、見た目はジプシー的な雰囲気であるが、実はジャズやポップスの歌手である。

彼らに共通するのは、多くのメンバーがマルチインストゥルメンタリストで、かつアレンジもできるということだ。普通にプログレやジャズをやっても凄いサウンドが生まれそうだが、バルカン半島(東欧)の架空の町シェゲレリからやってきた民族音楽グループという設定で、世界中の音楽を織り交ぜ、そこにロックスピリットを加味したサウンドを引っさげて突如現れたのである。

OKMusic編集部

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