古田新太×尾上右近が暴れるアンモラ
ルな異色作! ミュージカル『衛生』
~リズム&バキューム~ゲネプロレポ
ート

ミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~が、2021年7月9日(金)、TBS赤坂ACTシアターで開幕した。作・演出は、福原充則。主演は、古田新太と歌舞伎俳優の尾上右近。古田と右近は、し尿くみ取り業者「諸星衛生」の社長・諸星良夫と、息子の諸星大(ひろし)を演じる。音楽は、水野良樹(いきものがかり)と益田トッシュ。振付には、振付稼業air:manが名を連ねる。
開幕前日の8日、古田、右近、共演の咲妃みゆ、ともさかりえ、石田明(ノンスタイル)、そして六角精児が会見に出席した。本作の企画にも携わった古田は、「基本、下ネタが好きなんです。性癖とかは、これまでの作品でだいぶやってきたので、もう一つの下ネタをやろう。それは、うんこだなと」と経緯を語り、ニヤリとした。
(上段左より)石田明、咲妃みゆ、ともさかりえ、六角精児、(下段左より)古田新太、尾上右近。悪人顔で! のリクエストに応える6人。
「~リズム&バキューム~」の副題のとおり、幕開きから、し尿の歴史を歌とダンスで振り返り、「善人不在」ナチュラルに暴力が振るわれる本作のゲネプロを、会見のコメントとともに紹介する。
ミュージカル『衛生』フライヤー
なお、上演時間は、20分の休憩を含む3時間5分。TBS赤坂ACTシアターは、館内の空調機の中を通る空気に高出力の紫外線を照射する、ステリルエアージャパン社の紫外線殺菌装置を導入。新型コロナウイルスの不活性化への効果が期待される。米ホワイトハウスや国防総省でも採用されている装置で、日本の劇場に導入するのは、TBS赤坂ACTシアターが初の例となる。
■剛腕社長と、くみ取り業界の御曹司
物語の舞台は、下水道設備が普及する少し前、昭和33年のK県H市の住宅街。良夫が興したくみ取り業者「諸星衛生」は、町の排泄物回収の利権を独占しようとする。欲望のためなら買収、恐喝は当たり前。良夫は手段を選ばない。悪徳政治家とも、裏でつながりを持つ。
良夫を演じる古田は、会見では次のように意気込みを語った。
「お客さんから、どんな反応が返ってくるか。リハーサルでヘトヘトですが、楽しみにしてくださる方のために、やる気満々です。対策を徹底したなかで、汚いことをやります。痛快でした、という反応を期待しています」
劇中では、静かに放つ「オイ」の一声で場を握り、角材を振り回せば鮮やか。咆哮し、恫喝し、かと思えば1秒後には冷ややかな表情で辺りを眺め、髪をかき上げもする。圧倒的な存在感でぞくぞくさせつつ、愛嬌たっぷりに笑いも誘っていた。
良夫は、人間の欲と需要と供給を敏感に嗅ぎ分け、くみ取り業以外の事業にも手を広げていく。そんな良夫の一人息子、大を演じるのは、右近。
「力強いミュージカルに呼んでいただき光栄です。歌舞伎以外の舞台経験が少ない中、皆さんに助けていただきながらお稽古をしてきました。人間が生きる力を描く時に、エログロを扱うことは、歌舞伎でも珍しくありません。お得意です。その意味では、歌舞伎との共通点も感じられます。この作品で、強く生きる姿を自分なりに演じたいです」
右近は、歌舞伎と清元節で培った声の良さを惜しみなく駆使。疾走感が求められるシーンでは、体幹の強さ、動きのしなやかさが、唯一無二の笑いを生んでいた。ミュージカル初出演とは思えない、思い切りのよい演技が、悪人の大を、清々しく魅力的にみせていた。
■「諸星衛生」で働く人々
宝塚歌劇団雪組元トップ娘役の咲妃は、花室麻子役。諸星衛生の事務員で、育った環境の影響から、人間関係の捉え方に独特の欠落がある。
「今までの舞台人生で経験のないことが日々起こっています。やや避けて通ってきた道の、ど真ん中を突き進んでるような。でもこれまで私が、“おしも”な内容を、表面的に捉えていただけで、もっと深く人間性を掘り下げていくミュージカルなんだと腑に落ちた時、やるぞという気持ちが湧いてきました」
咲妃のコメントに、古田が「ふふっ」と反応。「なんで笑ってらっしゃるんですか?」と問う咲妃に、「“おしも”って、“お”をつけるとよりいやらしいなと……」とコメントし皆が笑いに包まれた。
会見では、戸惑い気味にさえみえた咲妃だが、本編では愛らしさや品はそのままに、宝塚OGとしては異例の、振り切った役で、新境地を突き進む。第2幕「母への想いのテーマ」では、メロウなR&B調の曲に力強い歌をのせ、第1幕とは異なる役の個性を浮かび上がらせた。
代田禎吉は、花室に恋心を寄せる諸星衛生の社員。石田が演じる。
「ミュージカルと聞き、一度ガッツリお断りしたんです。でもプロデューサーと演出の福原さんが『どうしても出てほしい、最悪歌わなくてもいいから』と。それでお引き受けしたのに、実際めちゃくちゃ歌わされています。詐欺にあった気分です(笑)」
そんな冗談を言っていた石田だが、劇中では、奥手ゆえの変化球なラブソングを、飾らない歌声で披露。モラルを欠いた面々の中で、観客の目線に近い立ち位置の役どころを、自然体の全力で体現する。
■純か不純か、敵か味方か
六角が演じるのは、長沼ハゼ一。裏の顔をもつ政治家だ。
「少し前までやっていた作品(帝国劇場ミュージカル『レ・ミゼラブル』)とは、同じミュージカルでもだいぶ違いますね」と会見でコメント。古田に「同じじゃない?」と問われると「人間が生きている、という意味では同じか(笑)。お客様がどんな反応をされるかが楽しみです。今年はミュージカルに包まれて生きている、珍しい年です」
六角が、古田と汗をほとばしらせ、ぶつかり合うシーンは、ハードボイルドなスリルとともに、笑いをさらう。ここで挿入されるのが、「老兵達のテーマ」。やり方に問題はあれど、自分を貫いてきた2人の、来し方を思わせる人生賛歌といえる1曲だ。古田と六角の真っ直ぐな歌声は、舞台上の絵面とは一見結びつかないレイヤーで、感動を起こし心を揺さぶる。
(左より)六角精児。長沼ハゼ一の秘書・箕倉時子役、佐藤真弓(劇団猫のホテル)。
瀬田好恵役のともさかは、会見で次のようにコメント。
「王道のミュージカルが好きなので、この聖域にだけは、足を踏み入れないと決めていました。それを破ってしまいました。稽古場で、日々“おしも”なワードに囲まれているうち、古田さんや右近さんがそういう言葉を連発するほどに、格好良く見えてくるんです。これはこれで、キラキラしてみえてきて。感動してしまいます」
(左より)ともさかりえ、夫・瀬田楢太役の村上航(劇団猫のホテル)。村上は、とっておきの役で、存在感を発揮する。
瀬田は、才色兼備の「瀬田肥料」社長夫人。馬鹿を憎んで人を憎まず、“市民の皆さん”の学のなさを憂い、行動を起こす。ともさかは、ポップな曲もセンチメンタルな曲も、瀬田の個性をぼやけさせることなく歌い、ファンタジックでキラキラしてみえた。
■音楽の力を悪用し、ミュージカルの魔法にかかる
劇中歌は、歪な純愛の歌から、欲望にストレートな極悪ソングまでバラエティに富む。全曲の作詞を福原が担当した。作曲は「老兵達のテーマ」と「諸星親子のテーマ」を水野が担当し、その他の楽曲を益田が手掛けている。フィナーレでは、「諸星親子のテーマ」を心の中で一緒に口ずさみながら、ひどく汚く不謹慎で、この上なくゴージャスな景色に拍手をおくった。
前評判のとおり台詞には、うんこ、くそ、といったワードが頻発し、暴力や下ネタがふんだんに盛り込まれていた。しかし不思議と、本作から血生臭さや下水の臭いはしてこなかった。欲望に迷いなく向かう、諸星親子や登場人物たちのエネルギーが、音楽にのって発露し、その熱ですべてを浄化するかのようだった。
会見の終わり、古田が次のように呼びかけた。
「ミュージカルは楽しいもの。終演後にお酒を飲んで食事をしながら、感想を言うのが楽しい。でも今回は(緊急事態宣言の影響で)それができません。なので、先に(自宅で)飲んできてください。酔っぱらって観ていただいて、何が行われていたか分からないくらいがいい。マクスの中で笑っていただき、バカだなと思って帰っていただければ幸いです」
ミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~は、7月9日~25日までTBS赤坂ACTシアターで上演。その後、大阪、福岡を巡演する。
取材・文・撮影=塚田史香

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