「追う者と追われる者」のテーマで新
たな世界に挑む、福田紘也にインタビ
ュー/Yamato City Ballet 2021夏季
公演

2021年8月14日、大和シティーバレエ(YCB)の夏季公演「Yamato City Ballet 2021『追う者と追われる者』」が開催される。YCBでは2020年夏季公演に「怪談」をテーマとした4作品を、同年冬季公演では宝満直也(NBAバレエ団)の全幕振付作品『美女と野獣』を上演するなど、若手振付家に創作の場を提供しており、今年の夏の公演も「追う者と追われる者」というテーマのもと、5人の振付家が作品を発表する予定だ。それを踊るダンサーはYCBプロデューサーにして佐々木三夏バレエアカデミー(SBA)を主宰する佐々木三夏の門下生、大谷遥陽(スペイン国立ダンスカンパニー)や五月女遥(新国立劇場バレエ団)をはじめ、福岡雄大や福田圭吾、木村優里、渡邊峻郁(ともに新国立劇場バレエ団)や八幡顕光(ロサンゼルス・バレエ団ゲストプリンシパル)らが名を連ねる。
今回は5人の振付家のひとり、作品『Life-Line』を発表する福田紘也(新国立劇場バレエ団)のリハーサルを見学し、話を聞いた。(文章中敬称略)
福田紘也振付『Life-Line』

■主演は八幡顕光、現代の「ペトルーシュカ」はアンドロイド!?
リハーサル室にストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』の音楽が鳴り響き、中央に飛び出した主演の八幡が目に鮮やかな、巧みなステップを軽やかに披露。そこにパートナーとなる川口藍(新国立劇場バレエ団)が絡み、さらに10人のダンサーらが彼らを取り囲むように、時には追い込むように群れを成して踊る。福田の「スイミーのように!」という指示がなんとも絶妙な例えだ。
――まずこの作品(『Life-Line』)をつくろうとしたきっかけは。
(佐々木)三夏先生に『追う者と追われる者』というテーマで創作をと言われた時、なかなか物語が定まらず、どうしようかなと思っていたんです。でもちょうどその頃、(福田)圭吾さんが顕光さんに作品を振り付けているのを見た瞬間、頭の中に『ペトルーシュカ』の音楽が流れたんです。顕光さんが以前「『ペトルーシュカ』を踊りたい」と言っていたことがふと頭に浮かび、そうしたらいろいろなことがつながりはじめました。
以前新国立劇場バレエ団で『ペトルーシュカ』を上演した時、貝川鐵夫さんが「ペトルーシュカって、ピノキオみたいなところがある」と話していたことも思い出し、じゃあ現代ならペトルーシュカはアンドロイドになるのか、アンドロイドでペトルーシュカをつくったらどうなるのだろうと考えました。その矢先に、インターネットで「AIの研究をしていた現場で、AI同士が人間に理解不能な言語を生み出して勝手に会話をはじめてしまった。結局恐ろしくなってAIの電源を落としてしまった」という記事を目にしたんです。これは僕にとってかなり強烈でした。AIの回線が人間の境界線を越えてしまったのかと。映画『ターミネーター』にもそのようなモチーフがありましたが、その時「追われる顕光さん」「追う(福岡)雄大さん」っていうイメージがひらめいたんです。
顕光さんのパートナーは、あまり見たことのない組み合わせがいいなと思ったとき、頭に浮かんだのが藍さんでした。彼女はバレエ団でもあまり大きく感情的になるところを見たことがないというか、クールなイメージを持っていて、そこがアンドロイドらしさにも通じるなと。圭吾さんは『ペトルーシュカ』で言うなら人形使いにあたる役どころ。物語の展開に関わり、演技力も必要なのでお願いすることにしました。余談になるかもしれませんが、演技力がある人はコンテンポラリーも得意だ、というのは僕の持論です。

■大人数に振り付ける「挑戦」。才能開花の瞬間を目にするのは振付家の特権
リハーサルの後半部分は『ペトルーシュカ』とはがらりとイメージの違った現代音楽。アンサンブルのダンサー達がある時は輪になったり、一列に並んだりと目まぐるしくフォーメーションを変えるなかで八幡と川口が手に手を携えて逃亡し、福岡が持ち前のシャープな動きで追う。その存在感たるや、自分の役割をしっかりと抑えた役に対する瞬発力は見事だ。アンサンブルのダンサー達も福田の指示を受けながら、喰らいついていく。
――今までの福田さんの作品からみると、今作は人数的にも規模的にも大きな印象です。
はい。この規模の作品は、僕にとっては初めての、新しい挑戦になります。
アンサンブルのメンバーはYCBのダンサーや研修生など様々で、正直レベルも均一じゃありません。でも三夏先生の生徒さんはみんなすごくしっかりしていて、熱意を持って踊ろうとしてくれる。実は作品をつくる前に、三夏先生に「ダンサーや研修生達を見てほしい」と言われて出かけたのですが、みんな僕が「試しにやってみて」というと、躊躇せずすぐに動いてくれた。「やってみて」と言ったときに、何の戸惑いもなくすぐ反応してくれるのは、振付家にとってはすごくありがたいんです。三夏先生のところにはそうしたダンサーがたくさんいるんですよ。そんな姿勢を見ているうちに、ぜひ大人数で作品を組んでみたい、と思い僕の方からもお願いしました。三夏先生の生徒さんたちが大人数へのチャレンジを決心させてくれた、といえるかもしれません。
――大人数の振付で難しいのはどういったところですか。
フォーメーションを決めるところですね。少人数だと迫力を出すのは難しいけれど、展開はスピーディーに持って行ける。大人数だと迫力が出せる分、見せ場もしっかりと作らなければならない。そこはぞんざいにしたくないし、丁寧につくっていきたいと思っています。
でも大人数でも少人数でもダンサーがチャレンジし、その可能性が開花するような瞬間を一番最初に見られるのは振付家の特権だと、僕は思います。そして僕はその瞬間を見るのが楽しいし、ダンサーを選ぶときも「できるはずだ」という将来性が感じられる人、一生懸命貪欲に取り組んでくれる人に声をかけるのが好きなんです。顕光さんや、昨年のYCB公演で『死神』をお願いした(本島)美和さんなど先輩のダンサーについては、僕が純粋にファンで、踊りを見たいというのがあります(笑)。
『死神』2020年公演

■「好き」で追いかけているものがインスピレーションの源。「踊りたいものは自分でつくるしかない」
福田の振付家としてのデビューは2016年の新国立劇場バレエ団公演「Dance to the Future 2016 Autumn」。作品タイトルは『福田紘也』という、本人の名そのものずばり。斬新かつオリジナリティあふれる独自の世界観で客席をどよめかせ、2017年には『Nosuferatu ―ノスフェラトゥ―』(アートスペースBankART Studio NYK/於・横浜)を発表。さらに「Dance to the Future 2019」で発表した落語を使ったバレエ『猫の皿』では観客をさらに仰天させた。「期待の振付家」としての注目度はますます高まっている。
――福田さんがInstagramで発信するテーマは音楽や映画など多岐にわたり、非常にアンテナが広いという印象です。しかも作品は予想の斜め上からさらに思わぬ方向にベクトルが向かうような、想像もつかない面白さもある。創作のインスピレーションはどこから来るのでしょうか。
突然湧いてくる感じかなぁ。でも「こういう作品がつくりたいから勉強してみよう」と思っても、それは全然源にならない。結局映画とか音楽とかお笑いとか、好きで追いかけているものが源になるし、そうしたものはちゃんと引き出しの中に納まっていて、いつでも取り出せるんです。
また「アンテナが広い」と仰ってくださいましたが、確かに僕自身好奇心旺盛で、あれこれ調べることが好きなんです。例えば映画も「見て終わり」ではなく、評論を読んだりメイキング映像を見たりしてさらに突っ込みたくなるし、歴史などもあれこれ調べたくなる。そうした積み重ねで得たものがピンチを救ってくれたということは多いかなと思います。
――そもそも振付をはじめたきっかけは。
最初の作品『福田紘也』をつくったのは、ちょうど新国立劇場バレエ団の芸術監督がデイヴィッド・ビントレー元監督から大原永子元監督に交代した頃でした。公演の演目ががらりと変わって僕が踊りたかったコンテンポラリー作品が減り、またちょうどその時、師匠の(矢上)恵子先生が脳動脈瘤の手術をして記憶障害を患い、以前の様な制作環境でなくなった。そうした現実が「自分が踊りたい作品は、自分でつくるしかない」と僕に思わせた。自分が「踊りたい」と掻き立てられる作品や環境を、それまではつくってもらっていたけれど、これからはそれを自分でつくって行こう――そう思ったのが振付をはじめたきっかけです。自分で作品をつくる以上、最初の作品は自分を実験台にしようと思いました。振付がいかに難しいか、自分で身をもって体験しないと人はついてこないと思って。タイトル『福田紘也』は、音楽でよくセルフタイトルってあるじゃないですか。例えば「BEATLES」というバンド名をアルバム名にするといった。それをバレエで使ってみようと。内容的にも僕自身を表しているし間違いじゃないなと(笑)。
『猫の皿』は、バレエ団の小柴富久修君たちが仲間内でやった余興の漫才がきっかけです。小柴君が落語が好きという話を聞いて考えていくうちに、座布団に座って語る小柴君の後ろでダンサーが踊るイメージが浮かび、できるんじゃないかと(笑)。Perfumeに振付をしているMIKIKOさんの、彼女の日本語の歌詞というか、リズムを生かした振付が常々素晴らしいなと思っていたので、落語の言葉のリズムを生かしながら振付をしてみたいとも思ったんです。

■音楽が脚本。物語の「三部構成」や音楽の大切さは師匠の教え
先の話に出た福田の師匠、矢上恵子(2019年逝去)は、姉の矢上香織(2016年逝去)・久留美とともに大阪でK★BALLET STUDIOを主宰し、「世界バレエ&モダンダンスコンクール」特別振付賞受賞(1999年)するなど、国際的にも高い評価を得た振付家。福田圭吾・紘也兄弟や福岡雄大らの恩師でもある。
――矢上恵子先生の教えを通し、振付をする際に心掛けていることは何でしょう。
いろいろありますが、物語の「三部構成」はその一つです。一部、二部で物語を展開して、三部で広げた風呂敷を回収する。恵子先生はコンクールのための作品をよくつくっており、3分半のなかに三部構成を盛り込んでいたのを子どもながらによく見ていて、体感していました。
また恵子先生は音響さんに教えてもらいながら、自分で音楽編集もしていた。僕自身、音楽編集はバレエとは関係ない、高校の文化祭を契機にはじめたので、むしろ振付よりそっちの経験の方が長いんですが(笑)、師匠の「音楽は自分で編集する」という影響もあり、自分の作品の音楽も三部構成に合わせて、足りない音は自分で打ち込んでみながらガッチガチに編集します。僕にとって音楽の編集は、いわば脚本を書くようなイメージなんです。また師匠の教えに「最初の曲と最後の曲が大事だ」というのがあって、三幕構成ともども、そこだけは絶対に守りたいと思っています。
――今回の『Life-Line』もそういう教えのもと、曲を選ばれたのですか。
『Life-Line』は最後の風呂敷を畳む三部の曲だけ、どうしてもそれに合う音楽が見つからなかったんです。そこで「Dance to the Future」で知り合ったミュージシャンの今平本正宏さんにお願いして作曲してもらいました。オリジナルの曲を作ってもらったのは、今回が初めてです。
――福田さんにとって今作は、新たな挑戦要素がたくさん含まれているわけですね。
僕は今まで、例えば落語の『猫の皿』のように原作があるものをアレンジする形で、どこをどう端折るか、膨らませるかということを楽しみなが作品をつくってきましたが、この『Life-Line』は物語全てがオリジナルになります。
タイトルの『Life-Line』にはトリプルミーニング――3つの意味を持たせています。1つめは冒頭に登場するアンドロイドたちの生命を象徴するケーブル線、2つ目は人間とアンドロイドの境界線、そして3つ目は圭吾さんが演じる「人形使い」の存在……といったところになるかもしれません。
――そのタイトルの意味を考えながら、作品を見るといいかもしれませんね。雄大さんの役は人間なのかアンドロイドなのかも気になります(笑)。
雄大さんの役回りは……そこはポイントになるところなので見てのお楽しみですね。
――はい。ありがとうございました。

取材・文/西原朋未  リハーサル写真・動画撮影/木原丹

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