INTERVIEW / Mom 苦悩しながらも現実
を記録するMom。“歌”を強く意識し
たという『終わりのカリカチュア』制
作背景を紐解く

Momが4thアルバム『終わりのカリカチュア』を7月28日(水)にリリースした。
コロナ禍前から制作していた前作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』で、奇しくも現実とリンクするかのようなディストピア世界を描き出したMom。19曲というボリューミーな本作は、より自身の奥深くから出てきたであろう感情、メッセージを、これまで以上に洗練された言語感覚、詩的な言葉で昇華した作品だ。サウンド面では前作から引き続き、卓越したコラージュ感覚と独特のバランス感をより突き詰めたような、既存のジャンルやスタイルでは表現できないようなオリジナリティを提示。ロックもヒップホップもフォークも噛み砕いたそのサウンドは、今日的というよりは普遍的な、時代感覚が狂いそうになる不思議な魅力を湛えている。
昨年から続くコロナ禍と、それに伴った混沌。それでも続いていく我々の日常。まるでフィクションのような現実を切り取った今作について、Momに話を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
アルバムというフォーマットで作品を“残す”意義
――去年、世田谷区に引っ越したそうですね。制作環境や心境について何か変化したことはありますか?
Mom:作品には自分の生活している街、普段から見ている景色などがどうしても滲み出てしまうのですが、だからといって自分の中で何かが大きく変わったかと言うと、そんなことはないと思います。
――制作ペースなども変わらず?
Mom:今作について言うと、いつもよりはじっくりと時間をかけて制作した方かもしれません。楽曲制作において、これまでは衝動的・瞬発的なエネルギーや感情がトリガーになることが多かったのですが、それをあくまでも人に聴いてもらう作品として仕上げる。そういう部分で、これまで以上に慎重になるようになったのかなと。作品を残すということについてより自覚的になったというか。これは時期的な問題もあるかもしれないし、もしかしたら自分の中で今たまたまそういうフェーズなだけかもしれないですけど。
――「慎重になる」というのは、主に言葉の部分が大きいですか?
Mom:そうですね。リリックの面が大きいです。これは受け取り手の問題ではなく、自分の中での問題という感じなんですけど。
――今回のアルバム『終わりのカリカチュア』は全19曲というボリュームですね。制作しているうちに自然とこの曲数になったのでしょうか。
Mom:ストリーミング・サービスに適した形ということを考えた結果、最近ではどんどん曲の尺は短くなる傾向にあるし、アルバムというフォーマット自体の必要性について懐疑的な意見も出ていますよね。でも、そういった1方向だけのアイディアじゃおもしろくないなと思って。
例えば曲数を増やして、数回に分けて聴いてもらっても構わないし、お気に入りの曲だけを聴いてもらってもいい。そうやってある意味プレイリスト的に楽しんでもらうのもアリなのかなと。もちろん通して聴いてもらうのが一番嬉しいですけどね。最近は映画もそういう作品が増えているような気がして。3時間超えの長い映画でも、今はNetflixなどで数回に分けて観れますし。今回のアルバムは当初30曲弱くらい候補がありました。そこから削って、今の曲数になったという感じですね。
Mom:やっぱり僕はCDなりレコードなり、手に取れる形での音楽が好きで。というより、音楽に関わらずあらゆることに言えるんですけど、その時代時代を切り取った、記録したものが好きなんです。特に音楽や芸術って、何よりも生々しい記録だと思っていて。そういった昔の人が残した作品から、「意外と自分と同じようなこと考えてるんだな」とか「似たような感情なんだな」って感じると、なんだか少し救われるような気持ちになるんです。だからこそ、自分もそういう作品を残したい。この混沌とした時代、そしてそこで感じている気持ちを切り取った作品にしたいと思って。
今の時代、ストリーミング・サービスやYouTubeで何回再生されたとか、SNSのフォロワーが何人とか、そういったことで評価されがちですけど、そういう評価軸って絶対ではないじゃないですか。それが10年、20年続くのかって言われるとおそらくそうじゃないと思うんです。それだったら、アルバムというフォーマットで今の時代や空気感、思考の流れを詰め込んだ作品をしっかりと残したいなと。
“歌”が内包するジレンマ
――ある意味プレイリスト的にも楽しめる作品という表現がすごくしっくりきました。前作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』では1枚のアルバム全体を通して大きな物語を描いていましたが、今作はそれとは大きく異なる性質の作品ですよね。
Mom:そうですね。ミックステープ的なアルバムというか。
――『終わりのカリカチュア』というタイトルにもすごくしっくりきました。このタイトルはどのようにして浮かんできたのでしょうか?(※カリカチュア=対象の特徴を際立たせたり誇張した絵画)
Mom:“歌”が内包するジレンマみたいなものがあると思っていて。人間の悩みや感情というのは人それぞれ違ってすごく複雑なものなのに、それが歌や曲になるとデフォルメされていくというか、一般化されていく。ときには矛盾も孕んだ人間の感情を、型にハメることなく表現したい。でも、それをポップ・ミュージックとして残すためにはやっぱりデフォルメが必要になる。そういう表現の苦悩っていうのはヒップホップにもフォークにもあると思っていて。僕はその苦悩する様が滲み出ているような作品も好きなんですけど。今回はそういう“歌”や“言葉”にまつわることをすごく考えていました。
――なるほど。
Mom:自分の中にある……ぼんやりとした、けどすごく明確な感情や気持ちを引っ張り出すというか、それを神経尖らせてジーッと見つめる。そんな作業を繰り返していましたね。
――それってすごく体力が削られそうな作業ですね。
Mom:作っているときはハイになっていることも多いんですけどね(笑)。ただ、今作制作中のことを思い返すと、脱力していたというか、虚脱状態なときが多かったかもしれないです。新しい音楽もあまり聴いていなくて。過去の音楽を遡ることが多かったです。“歌”をより意識するようになったのはそれが関係しているかもしれません。ジャンル感やサウンド・スタイルって、時が経つとあまり意味がなくなるというか、結局過去の音楽を聴くときって、“歌”として聴いてしまうことに気付いて。それはフィッシュマンズもそうだし、Frank OceanElliott SmithNine Inch Nailsも。
――そこにNine Inch Nailsも入るのがおもしろいですね。
Nine Inch Nailsの「Hurt」のJohnny Cashのカバーを聴いたとき、彼はこの曲を素晴らしい歌として捉えているんだなと感じたんです。
Mom:今って、ジャンルやサウンドによって価値が担保されている音楽が多いと思っていて。そういうサウンド至上主義みたいな視点は危険だなと。もっと内面的というか、核となる部分で評価される作品を作りたい。もちろんNine Inch Nailsは当時そのサウンドの新しさ、インパクトでも評価されていたと思うんです。でも、それと同時に純粋に“歌”としても強度の高い作品を作っていたからこそ、今も語り継がれるような存在になり得ているんじゃないかなって。
――すごくわかります。
Mom:Nine Inch NailsもRadioheadもたぶん一緒で、もちろん「こうしたら新しいサウンドになるんじゃないか」っていう意図した部分もあると思うんですけど、きっとそれ以前に内面から湧き出てきた“歌”というものがあって、そこから膨らませていくことの方が多いんじゃないかなって。これはもう完全に推測でしかないんですけど(笑)。
そういう考えから、今作は内面的なところから、“いい歌”を作ろうと意識していました。
ミックステープ的であり、ヒップホップ・アルバム
――1曲目の「i am public domain」は歌詞は非公開ながら、Momさんの内面から湧き出てきたようなストレートな言葉が印象的です。また、「i am public domain」というワードは、おそらく新しいMomさんのロゴにチラッと見えている文字でもありますよね。
Mom:そうですね。これは最初の方に作った曲で、録ってから時間が経っていて当時のことを鮮明に覚えているわけではないのですが、確かに今自分が置かれている状況などを全て吐露してやろうという曲です。わりとフリースタイル的に作った曲でもありますし。ただ、今聴くと空元気のようにも感じます。強がっているというか。ただ、悲観だけでは終わらないような、これを吐露することで一歩前に進めるような作品にしたいなとは思っていました。
あと、さっき今作はミックステープ的なアルバムだって言ったんですけど、それに加えてヒップホップ・アルバムということも意識していました。
――ヒップホップ・アルバム?
Mom:先ほどの話にも出たように、今作は正直に自分の内面と綴ったようにも見えるけど、その一方で作品として、ポップ・ミュージックとして仕上げることも意識している。
――言葉は違うかもしれないけど、ある種エンターテインメントであると。
Mom:はい。
――でも、ヒップホップってリアルを追求する側面も大きいですよね。
Mom:……って思うじゃないですか。でも、Jay-Zが『David Letterman』(アメリカの深夜番組『Late Show with David Letterman』)に出演したとき、「キミの曲は全部自伝なの?」っていう質問に対して「いや、自伝風さ」って答えていて。そこにすごく共感したんです。もちろんそこに詰まっている感情はリアルなんだけど、実際の言葉にはフィクションも混ざっている。でも、あくまでも自分の物語として表現する。それはヒップホップの特殊な要素だと思っていて。
――なるほど。
Mom:そこには生々しい、切実な感情が込められているからこそ、優れたエンターテインメントとしてリスナーは追体験できる。僕が考えたヒップホップらしい作品というのはそういう点ですね。
――確かに今作のリリックは感情表現と言語センスのバランスが素晴らしいと思いました。特に先行シングルとなった「祝日」はとても洗練されたリリックだなと。ご自身でもより高い次元の表現を獲得することができたという実感はありますか?
Mom:うーん。いつもそうなんですが、作った直後は客観的に見れないというか。今はまだ冷静に評価できないですね。自分で聴きたいとも思わないですし(笑)。
――ハハハ(笑)。
Mom:いや、それはたぶん、自分の気持ちに向き合った証拠だと思うんです。自分の中のドロっとしたモノが込められていればいるほど、自分では聴けないですよね。もちろん時間が経てばまた変わると思いますけど。
――では、『赤羽ピンクムーン』(2019年12月にサプライズ・リリースされた、ほぼ1発録りのフォーク・アルバム)のような、デトックス的、自浄作用のあるような作品をまた作りたいという気持ちはありますか?
Mom:ありますし、たぶんまた作ると思います。もちろんフォークという方法論でやるかどうかはわからないのですが。
――あと、これは砕けた質問になるのですが、先行シングル「Momのデイキャッチ」というタイトルは『荒川強啓 デイ・キャッチ!』(TBSラジオで1995年〜2019年まで放送されていた長寿番組)からの引用なのでしょうか。
Mom:そうです(笑)。ラジオをモチーフにした曲が作りたかったんです。特定の周波数をキャッチした人々が潜在的に熱狂するような、そんなイメージで作りました。フリースタイル的に《Momのデイキャッチ》っていうフレーズが浮かんできて、いいタイトルだなと思って拝借したという感じで、その番組に特別思い入れがあるわけではないです(笑)。
音楽家としてのスタンス。「いい曲さえ作っていれば大丈夫だって思いたい」
――Momさんの現状の活動についてもお聞きしたいです。音楽を生業としている以上、現実的に人に聴いてもらわなければ成立しないわけですが、そういった観点と今日語ってくれたような創作におけるスタンスは、どのように折り合いを付けていますか? もっとも、これは本来アーティスト自身が考えなくてもいい問題かもしれませんが。
Mom:制作しているときと、こうやってインタビューに答えたり、メディア露出しているときの脳みそや思考は結構別物で。そこはパッと切り替えることもできないし、どっちかに振れ過ぎるとどっちかができなくなっちゃう気もしていて。切り離して考えているので、折り合いとかバランスを取るということは意識していないかもしれません。
――そういったことを意識しないで活動できているということは、現状のMomさんとスタッフさんたちはとてもいい関係にあると言えるのではないでしょうか。
Mom:曲に関しては結構信頼してもらっているなと感じています。もちろん上手くいっていることばかりではないんですけど、いい曲さえ作っていれば大丈夫だって思いたい気持ちもあるし、実際に今のところ何とかなっているので(笑)。
Mom:あとは1曲のヒット曲で広く知られるより、ジワジワと認知されたり、作品が受け止められていく方がいいなと思っていて。昔のヒット曲の中には、すごく変わっている曲も少なくないじゃないですか。本当に当時、これをみんなポップ・ミュージックとして聴いていたのか? って疑問に思うような。たぶん、自分はそういうものに惹かれるんですよね。
今の時代、何か特定の型や属性に当てはめたり、特定のターゲット層へアプローチする形のプロモーションも多いなと感じていて。それだと短期的には効果があるかもしれないけど、長期的な活動には繋がりにくいと思うんです。だからこそ、自分はもっと自然に湧き出てきた表現を大事にしたいなと。幸いにも元々ポップ・ミュージックが好きなので、マーケティングとかプロモーションのことを考えなくても何とかなるんじゃないかなって思ってます(笑)。
――1stアルバム『PLAYGROUND』(2018年)の頃とか、Momさんことを知ったばかりのときはとても器用な音楽家なのかなって思っていたのですが、それ以降の昨品を経て、意外とそうじゃないんだなということがわかってきました(笑)。
Mom:当時は敢えてそう見えるよう振る舞っていた部分があって。飄々としていたいというか、あまり人に本心を明かしたくないというか(笑)。
――それはインタビューをしていても感じます(笑)。
Mom:ハハハ(笑)。でも、前よりはだいぶマシになっていると思います。
――確かに。曲にもご自身の思考がより強く出るようになりましたし。では最後に、今後の展望はいかがですか?
Mom:そうですね。何かこうやって自分や自分の作品について喋っていると、早く次の作品を作りたいという気持ちにもなってきますね。留まっていたくないという気持ちが湧くというか、体が鈍っていく感覚というか、見えるものも見えなくなっていくような感じ。早く元の生活――制作の日々に戻りたいなって思います。実際に作っているときは苦しかったりもするんですけど。
ずっと作り続けられるかどうかもわからないし、今歌っておかないと枯れていってしまうものもあると思いますし。……だから、すぐにまた新しい作品を作るような気はしています。あとはライブですね。今回のアルバムの曲をどういう風に披露したらいいかなっていうことも考えています。自分としてもライブを以前よりも楽しめるようになってきたので、もっと積極的にやっていきたいですね。
【リリース情報】

Mom 『終わりのカリカチュア』

Release Date:2021.07.28 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. i am public domain
2. フェイクグリーン
3. 終わりのステップ
4. 祝日
5. 恋はみずいろ
6. まなざし
7. ソングスフォージエイリアン
8. 246
9. ワールドイズユアーズ
10. 2021年のロボットダンス
11. そして夢で逢いましょう
12. ヘベレケ
13. 心が壊れそう
14. 解体
15. Momのデイキャッチ
16. 街の灯
17. スキューバダイビング
18. 泣けない人には優しくない世界
19. カーテンコールのその後で
■ TSUTAYA限定ブックカバー付きCD詳細(http://shop.tsutaya.co.jp/cd/product/4515778117448/)

※ご予約は、TSUTAYAオンライン・ショッピング及び、全国のTSUTAYA・蔦屋書店にて。(※一部取り扱いのない店舗もございます)

※本商品は数量限定商品の為、規定の枚数に達し次第、販売終了となります。
※確実にご購入頂きたい方は7月7日(水)までのご予約をお願いします。
【イベント情報】

Mom One Man Live 『AFTER THE CURTAIN CALL』

Release Date:2021.08.28 (Sat.) OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京・渋谷 WWW X
出演:
Mom
info:WWW X(03-5458-7688)
・チケット
先着先行(e+)(https://eplus.jp/mom/) :7月27日(火)〜8月1日(日)
※8月13日(金)に予定されていた公演の振替公演となります。
■ Mom オフィシャル・サイト(https://www.mom-official.jp)

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