指揮者 藤岡幸夫と作曲家 菅野祐悟が
、チェロ協奏曲の世界初演を前に大い
に語る。

関西フィルハーモニー管弦楽団の第323回定期演奏会は、人気劇伴音楽作曲家 菅野祐悟のチェロ協奏曲を、藤岡幸夫の指揮で取り上げる(2021年10月30日、ザ・シンフォニーホール)。
ソリストは人気と実力を併せ持つ宮田大で、これが世界初演。これまでにも、関西フィルの定期演奏会では菅野の交響曲を2曲、藤岡幸夫の指揮で世界初演しており、チケットはいずれもソールドアウト。
10月に本番を控え、待望のチェロ協奏曲の進捗状況はどんな感じだろうか。多忙を極める藤岡幸夫と菅野祐悟に、ズーム取材であんなコトやこんなコトを聞いてみた。
―― 藤岡さん、菅野さんとお話しされるのは久しぶりですか。
藤岡幸夫 2月に東京シティフィルの定期演奏会で、菅野さんのサクソフォン協奏曲を須川展也さんの独奏で世界初演して以来ですね。
関西フィルハーモニー管弦楽団 首席指揮者 藤岡幸夫  (c)SHIN YAMAGISHI
―― チェロ協奏曲の進捗具合などは話されていないのでしょうか。
藤岡 おまかせしているので、途中でコチラから連絡するようなことはありません。
―― では藤岡さん、菅野さんとの出会いを教えてください。
藤岡 2014年に日本フィルと、菅野さんの作品『箏と尺八と管弦楽のための協奏曲「Revive」』の日本初演をやりました。その時、大河ドラマ『軍師官兵衛』の曲も何曲かやったのですが、その中の“メインテーマ“のスコアを見て、この人は交響曲を書きたい人だとピンと来たのです。菅野さんの書く旋律は美しく、ハーモニーのはめ方が素晴らしい。美しい旋律が安っぽく聴こえないのは、裏で鳴っている和音が、不協和音を交えて絶妙だからです。音楽が立体的に響き、この人は40分の交響曲が書ける人だと思いました。
菅野祐悟さんは交響曲が書ける人だと思いました。  (c)SHIN YAMAGISHI
菅野祐悟 その話は、藤岡さんから何度か聞いていますが、『軍師官兵衛』のスコアが、交響曲を書いている人達のスコアと似ていたという事ですか?
藤岡 そうじゃなくて、劇伴音楽の作曲家の人達が書くオーケストラ作品とは違っていたんですよ。旋律とハーモニーもそうだし、弦楽器の扱い方だとか、音楽が凄く立体的で、この人はクラシックのオーケストラ作品が書きたい人なんだろうなとピンと来たんです。
菅野 大河ドラマの2分ほどの曲のスコアを見ただけで、40分の曲が書けると思ったって言われても…。
作曲科 菅野祐悟  写真提供:ワンミュージック
藤岡 それは、同じタイミングで協奏曲『Revive』もやっているから、分かるんですよ。
菅野 ああ、なるほど。
―― 藤岡さんが常々言われている、調性があって旋律がある曲、オーケストラの演奏会でレパートリーとして取り上げられる曲が書ける人だと確信されたという事ですね。
藤岡 そうです。好きな作曲家はいっぱいいるし、これまでにも、前半で取り上げる短い曲を書いて欲しいと言った事は有ったけれど、交響曲を書いてと言ったのは、菅野さんだけですからね。そのあたりはシビアですよ。定期演奏会のメインで取り上げて、安っぽい曲だったら、僕だって責任問題ですからね(笑)。
これまでに交響曲を依頼したのは菅野さんだけです。  (c)青柳 聡
―― それで生まれた交響曲第1番は大好評で、チケットは完売。満員御礼でした。
藤岡 ドキドキでしたが、45分に及ぶ見事な交響曲が出来上がって来ました。興行的にも、立ち見まで出たほどでした。
菅野 ちょっと聞いてくださいよ。作曲で悩んでいる時に、関西フィルのチラシをSNSか何かで目にしたのですが、ラフマニノフVS菅野祐悟、天性のメロディメーカーとか、書いてあるんですよ。前半が横山幸夫さんの弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第3番と当てられていて。これ、もの凄いプレッシャーですよ(笑)。
ラフマニノフ VS 菅野祐悟というコピーには驚きました!
藤岡 しかしそれに打ち勝って、素晴らしい曲が上がって来た。さすがです(笑)。
―― 拝聴しましたが、格好良い曲でした。特に印象に残ったのが、第3楽章の美しさ。確かに、ラフマニノフの交響曲第2番の第3楽章を思い出しました。
藤岡 そうでしょう(笑)。菅野さんは、旋律だけの作曲家ではありません。交響曲にも色々と斬新な要素は詰まっています。ただ、素晴らしい旋律が書ける才能の有る作曲家は少ないんですよ。調性があって旋律のある曲は、それが良い曲ならばお客様にも直ぐにわかります。常々言っている事ですが、無調で旋律の無い音楽は、これが芸術だと言われれば、そんなモノかなと思っても、難しいからちょっと、となって…。はたしてそれを、お金を払って聴きに来てくれるか。この50年、演奏会のメインで取り上げられるような曲は作られて無いのですよ。僕はそれを作りたいと思っているのです。菅野さんの曲が、世界中のオーケストラで演奏されるようになったら良いのになぁと本気で思っています。菅野さんの交響曲第1番が良かったから、ぜひ2番も聴きたいというお客様は、本当に多かったのです。
世界中のオーケストラが菅野さんの交響曲を演奏して欲しいです。 (c)SHIN YAMAGISHI
菅野 僕はメロディを書く専門の作曲家ではありません。劇伴音楽にしても、一つの映画で40曲くらい。ドラマだと、25から30曲くらい作ります。中にはメロディの無い音楽も、無調の音楽だって書きます。藤岡さんが仰って下さるようなことは、言われて嬉しいんですが、当然色々考えるわけです。今時、メロディや調性音楽を書くことを、時代遅れと思う人もいますしね。そこを吹っ切らせてくれた藤岡さんの最初の一言が「ちゃんとメロディ書いてね!」でした。
(一同、爆笑。)
―― そんな流れで、交響曲第2番が誕生したのですね。
藤岡 1番が当たれば、次は2番。こちらはもう見事な実績があって、出来は確信していますから当然の流れです。
―― しかし、交響曲第2番のお披露目は、関西フィルの第300回定期演奏会でした。普通、300回の記念すべき定期演奏会なら、同じ2番でも、マーラーの「復活」などの大曲を持って来そうなものですが。
藤岡 そこが関西フィルなんですよ。300回記念定期に、菅野祐悟! 前半がディーリアスの小品と、宮田大さんでエルガーのチェロ協奏曲。この時もチケットは完売です。
交響曲第2番 世界初演を前にプレトーク(2019.4.ザ・シンフォニーH) (c)s.yamamoto

―― この時のエルガーの出会いが、今回の菅野祐悟さんのチェロ協奏曲に繋がっているとお聞きしました。
藤岡 宮田大さんは菅野さんと面識は無かったのですが、交響曲第2番をリハーサルで聴いて、衝撃を受けられたようです。本番どうしても客席で聴きたいという事だったので、チケットは既に完売だったのですが、補助席を1席、宮田さんの為に用意しました。本番当日、宮田さんは自分の演奏が終わると急いで衣装を着替え、客席で聴かれました。終演後、宮田さんの楽屋を訪ねると、感動した面持ちで「菅野さんに、チェロの為の協奏曲を書いて欲しいと頼んで貰えないか」と言われるんです。菅野さんも驚かれていましたが快諾して下さって、今回のチェロ協奏曲誕生の運びとなりました。

人気と実力を併せ持つチェリスト宮田大。
エルガーのチェロ協奏曲のリハーサル中に、豪華3ショットが実現。
―― そんな事があったのですか。菅野さん、チェロ協奏曲の進捗状況は如何でしょうか。
菅野 今、書いています。だいたい30分から40分の曲になりそうです。
―― 過去の交響曲のテーマですが、1番は「ボーダー」、2番は「すべては建築である」。今回のテーマはもう決まっているのでしょうか。
菅野 今回は、「十六夜(いざよい)」をコンセプトにしています。十六夜とは満月の十五夜から一日遅れて現れる月です。十六夜には、惑う、はずかしい、とまどい、という意味があり、少し欠けて未完成であり、人間のようだなと感じました。十五夜はみんな注目しますが十六夜には見向きもしない。しかし、満月よりも暗闇を長く照らす、というところにも日本らしい情緒のようなものを感じました。
テーマを自分の興味あるものに決める事は、僕にとってとても重要な事です。興味のないテーマで作曲を依頼されても、熱量の有る音楽は作れません。登る山を自分で決めることで、登る過程が充実していく。クラシックの音楽は、登る過程を聴かせる芸術だと思います。
交響曲第2番終演後、ファンにサインする菅野祐悟  (c)s.yamamoto
―― 劇伴音楽の作曲とは違うのでしょうか。
菅野 劇伴音楽は、映画やドラマ、アニメといった対象があって、それを盛り上げるための音楽です。対象となる作品が、僕に音楽を書かせてくれます。それに対して交響曲や協奏曲は、他人の評価とは関係なく、自分が一生懸命、心血を注いで書いた人生の投影であり、僕の人生の記録なんです。
―― 「マチネの終わりに」のテーマ曲『幸福の硬貨』は、映画のヒット以降、リサイタルやアンコールピースとして、必ず主催者からオファーされると、多くのギタリストが語っています。
菅野 僕は自分の曲は全部気に入っています。皆さんがそれをどう評価するのかは、あまり気にしないのですが、そうやって曲が愛されて、演奏されることは、嬉しいです。
藤岡 菅野さんは絶対に素晴らしいものを書いてくれると信じて、あとはどうやってお客様に伝えて行くかは、依頼した私や、関西フィルの事務局の仕事です。何しろソリストは今最も勢いのあるチェリスト宮田大さんで、彼が惚れ込んでお願いした曲ですからね。それと、僕が菅野さんには運命的なものを感じています。彼の誕生日は6月5日で、僕の師匠、渡辺暁生先生の誕生日と同じ。出会うべくして出会ったんだと思うのです。
菅野さんには運命的なものを感じています。渡辺暁生先生と誕生日が同じで…。  (c)SHIN YAMAGISHI
―― 藤岡さん、今回のチェロ協奏曲も、交響曲第1番の時と同じように、ラフマニノフ、しかも交響曲第2番がカップリングされています。
藤岡 それはワザとです(笑)。1番の時の旋律対決はウケが良かった事もありますが、僕は菅野さんの曲を演奏する時には、エールを込めて名曲をぶつけるようにしています。これまで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番にエルガーのチェロ協奏曲ですよ。前半にこれらの名曲を演奏した後、菅野さんの交響曲を演奏。前半の感動をすっかり忘れさせて、コンサート終演後に、お客様を満足させられる作曲家なんてそうはいないと思います。2月に演奏した、菅野さん作曲のサックス協奏曲の時は、メインはホルストの『惑星』ですからね(笑)。
菅野 (笑)
―― 2月に須川展也さんの委嘱で、菅野さんのサクソフォン協奏曲を演奏されたのですね。
藤岡 凄い曲でした。協奏曲というよりは、サックスソロ付きの壮大なオーケストラ作品。須川さんも大変喜ばれていました。当然、今回のチェロ協奏曲も期待しています。宮田さんも楽しみにされていると思いますよ。だから今回は、メインはラフマニノフの交響曲第2番にしました。菅野さんの気合が違ってくると期待を込めて(笑)。

今回もカップリングの曲はラフマニノフ。しかも交響曲第2番がメインです。   写真提供:大阪国際フェスティバル (c)森口ミツル
―― では最後に「SPICE」読者に藤岡さんからメッセージをお願いします。

藤岡 菅野祐悟ワールドを楽しみにしてください。普段クラシックを聴かない人でも、菅野さんの音楽はハートに届くはずです。ソリストが日本を代表するチェリスト宮田大さんです。ぜひ、お越しください。会場でお待ちしています。

皆さまのお越しをお待ちしています!  (c)s.yamamoto
―― 藤岡さん、菅野さん、どうもありがとうございました。

取材・文=磯島浩彰

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