『バンクシーって誰?展』内覧会レポ
ート リアルな再現展示でバンクシー
の作品世界に没入

2021年8月21日(土)から12月5日(日)まで、東京・天王洲アイルの寺田倉庫 G1ビルにて『バンクシーって誰?展』が開催されている。ブラックユーモア溢れるグラフィティと話題をさらう活動により、匿名でありながら世界的に有名なアーティスト・バンクシー。本展は、そんなバンクシーのグラフィティを街並みごとリアルサイズで再現した展示と、プリントや写真、絵画などのオリジナル作品約60点を紹介するダイナミックな展覧会だ。以下、見どころ満載の展示を紹介する。
会場風景
バンクシーの作品が“ストリート”ごと出現
グラフィティを体感できる再現展示
『バンクシーって誰?展』は、世界を巡回した『ジ・アート・オブ・バンクシー展』の作品を、日本独自の切り口で紹介するものだ。会場には、テレビ局の美術チームによる“ストリート”が出現。バンクシー作品が息づく街並みは驚くほどリアルで、まるで現実のその場所に迷い込んだような錯覚に陥る。
《Whitewashing Lascaux (The Cans Festival)》(2008)の再現展示。実物は当時展示用として合法的に描かれたものだが、その後、誰かに消されてしまった。
《Les Misérables》(2016)の再現展示。フランス・カレーの難民キャンプで催涙ガスが使われたことへの抗議として描かれた。 催涙ガスは使っていないと仏警察は主張をするが、左下のQRコードを読み込んでYouTubeにアクセスすると……。
グラフィティは無許可で行われることが多く、行為自体が違法と見なされる。そのため公共の場に描かれたバンクシーの絵は、消されて残っていないものが大半だ。しかしこの展覧会では、街中の迫力あるグラフィティを再現展示としてたっぷり鑑賞することができる。
《Spy Booth》(2014)の再現展示。実物は建物の工事中になくなってしまったという。
また、本展はバンクシーの活動の3大地域といわれるヨーロッパ・アメリカ・中東の各地の作品を広く紹介しているため、まるで海外旅行をしているような気持ちになれる。しかも展覧会場は一部を除き全面的に撮影可能なので、旅の思い出のような写真を撮ることが可能だ。
《Hammer Boy (Better Out Than In)》(2013)の再現展示。こちらは実物が完全な形で残っており、人気の撮影スポットになっているという。
本展のように、グラフィティが描かれた場所が再現されることで、より作品が理解できるものも多い。入場してすぐの《Aachoo!!》では、入れ歯が飛び出すほどの勢いでくしゃみをしているおばあさんの姿が。こちらはもともと急な坂道沿いの家に描かれているため、くしゃみで家が傾いたように見える作品だ。会場では、絵のある場所が傾いているように見えるので、くしゃみの威力を感じることができる。なお本作は、2020年12月10日のコロナ禍に描かれたことから、マスクなしに飛沫を拡散することへの警鐘とも解釈できる。
《Aachoo!!》(2020)の再現展示。再現によって傾いているように見える。
一見するとフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》に見える、耳飾りが黄色い警報器で代用された《Girl with a Pierced Eardrum(鼓膜の破れた少女)》。2014年にバンクシーが描いた本作だが、2020年4月22日、何者かによって医療用マスクが加えられているのが見つかった。グラフィティが常に変化にさらされていることを体現する作品でもあり、会場では元の絵とマスク装着後の絵を並べて鑑賞することができる。
《Girl with a Pierced Eardrum》(2014)の再現展示。
バンクシーは紛争地帯で活動することも多いが、実際に訪問することが難しい場所にある作品も、再現によって現地の雰囲気が伝わってくることも本展の魅力のひとつだ。
かわいらしい猫が描かれた《Giant Kitten》は、廃墟と化したガザ地区北部(パレスチナ)に描かれたグラフィティの再現である。この絵は「SNSではガザの悲惨な現実より、もっぱら子猫の写真ばかりが見られている」と見なしたバンクシーが、世間の注目を集めるために描いたという。実際、この作品が発表されて以来、国際的な支援団体がこの地区の救助に名乗りをあげた。
《Giant Kitten》(2015)の再現展示。バンクシーの作風とは異なるかわいらしい猫の絵は、国際的な支援団体の目に留まったという。
2017年、バンクシーはパレスチナ自治区のベツレヘム市内に《The Walled OffHotel(壁で分断されたホテル)》をオープンした。イスラエル政府による分離壁の前に建つこのホテルは、通称「世界一眺めの悪いホテル」と呼ばれる。客室の窓からは、目の前に延々と続く分離壁とそこに描かれるグラフィティが見えるそうだ。なお、会場の《The Walled OffHotel》の再現展示の窓からは、バンクシーが描いたとみられるグラフィティのいくつかを鑑賞することができる。
《The Walled Off Hotel》(2017)の再現展示。
《The Walled Off Hotel》(2017)の再現展示。
ラット、風船と少女、花束を投げる男など
バンクシーの代表作が会場に並ぶ
バンクシーは同じモチーフを繰り返し使うこともある。本展会場では、作家の分身であるラット(ドブネズミ)のオリジナル作品が複数展示されているほか、グラフィティ・アーティストのキング・ロボとバンクシーがバトルを繰り広げたグラフィティの再現も見ることができる。
左から:《Welcome to Hell (Pink)》(2004)、《Love Rat》(2004)、《Gangsta Rat》(2004)、《Radar Rat (right facing)》(2002)
バンクシーとキング・ロボのグラフィティ合戦は数年に及び、さまざまな場所で繰り広げられた。バトルとなったグラフィティのひとつで、本展の再現展示《London doesn't work/I love London Robbo》はもともとバンクシーが描いたもの。プラカードには「London doesn't work」とあったが、ある日キング・ロボにより「I love London Robbo」と上書きされた。二人の戦いは白熱するが、2014年にロボが不慮の事故に遭ったことで幕を閉じる。
建物右隅に《London doesn't work/I love London Robbo》(2004)がある再現展示。
バンクシーの作品のひとつに風船と少女が描かれた《Girl with Balloon》がある。オークションで高額落札された瞬間、額縁に仕込まれていたシュレッダーに切り刻まれたことでも話題になったこの作品は、もともと2002年にロンドンのウォータールー橋のたもとの階段に描かれたグラフィティだ。誰かが「THERE IS ALWAYS HOPE(いつだって希望はある)」と書き加えたことでさらに多くの人の心に残る絵となった。
《Girl With Balloon》(2002)の再現展示。実物は残っていない。
この《Girl with Balloon》は再現展示として見られるほか、キャンバスへのスプレーペイントやプリントのオリジナル作品も展示されている。
左から:《Girl With Balloon (diptych)》(2006)、《Girl With Balloon》(2004)
バンクシーの思想を示す代表作のひとつ、武器(火炎瓶)ではなく花束を投げる男の絵には、さまざまなバリエーションがある。イスラエル軍に対するパレスチナ市民の抗議運動をモチーフとするこの絵は、本展ではパレスチナのベツレヘム郊外のガソリンスタンドに描かれた現存するグラフィティ《Flower Thrower》の再現と、イスラエルとパレスチナを隔てる分離壁建設を受けて制作された厚紙に描かれたスプレーペイントの《Flower Chucker (with stars)》、キャンバス地に描かれたスプレーペイント《Love Is In The Air》を鑑賞できる。壁に描かれた《Flower Thrower》は5メートルもあり、その迫力に息を呑む。
《Flower Thrower》(2005)の再現展示。なお、元となったガソリンスタンドに描かれたグラフィティは、今も健在とのことだ。
《Flower Chucker (with stars)》(2003)
《Love Is In The Air》(2006)
バンクシー本人(モザイクあり)の姿や油彩(に手を加えた)の絵画など
多彩な作品や写真に注目
バンクシーは、他者の作品に書き加えることで意味を変えるデトーナメント(転用)の手法を使ったシリーズも手掛けている。デザイナーのポール・スミスが所有する《Congestion Charge》は、無名の画家が描いた風景に、バンクシーが「コンジェスチョン・チャージ」(ロンドンの渋滞緩和を目的とする道路課金の対象となる区域のこと)の看板を描き加えた作品だ。
《Congestion Charge》(2004) Paul Smith Collection (c)
会場では、バンクシー本人のポートレートや制作現場の写真も見ることができる。顔はモザイクやマスクで隠されているので素顔は判別できないが、バンクシーの雰囲気や、どうやって制作しているのかイメージすることができるだろう。なお、モンキー・マスクを被った彼の姿は、会場のラストでコミカルに再現されている。
左:《Banksy Canvas Session》(2004/2005)、 右上:《Banksy Painting The Canvas (1)》(2006)、右下:《Banksy Painting The Canvas (2)》(2006)
会場出口にモンキー・マスクのバンクシーを発見。グラフィティ制作中のようだ。
音声ガイドを務めるのは、公式アンバサダーである俳優・中村倫也。音声ガイドは自身のスマートフォンを使用するので、イヤホンまたはヘッドホンをお忘れなく(入場券とは別に「音声ガイド引換券」の事前購入が必要)。また、物販が非常に充実しているのも嬉しい。
充実の物販コーナー。
まるで映画のセットに入り込んだような本展。街並みの再現展示は臨場感に溢れており、名品揃いのオリジナル作品ととともに記憶に刻まれるだろう。見どころもりだくさんの『バンクシーって誰?展』、是非見逃さずに鑑賞し、バンクシーの強烈な作品世界にどっぷり浸っていただきたい。

文・写真=中野昭子

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