シリーズ世界を具現化するクリエイテ
ィブの力(1)/TRUMP解体新書 Vol
.4【舞台美術・衣裳編】

2021年6月からスタートした<TRUMPシリーズ>Blu-ray Revival発売記念連載『TRUMP解体新書』。この連載では、毎月1タイトル、8か月連続リリースする舞台<TRUMPシリーズ>について、毎月、全8回、脚本・演出の末満健一さんのインタビューと共にたっぷり、じっくり振り返っていきます。
これまで<TRUMPシリーズ>の根底に流れる哲学や末満さんご自身のことをうかがってきましたが(これまでの記事は関連記事を参照ください)、ここから2回はクリエイティブにまつわる内容をお届けします。
物語に寄り添う舞台美術、個性を醸し出す細部まで美しい衣裳、鮮やかに胸を打つ照明、そして作品を引き立てる音楽は、このシリーズに欠かせない魅力のひとつ。徹底的にこだわられたその一つひとつが、作品の世界を膨らませます。これらはどのようにして生まれているのか、末満さんにお話をうかがいました。
今月は【舞台美術・衣裳編】。たっぷりの写真と共にご覧ください。
■「ゴシック」はシリーズ不変のテーマ ひとつの節目が『グランギニョル』だった
ピースピット2017年本公演『グランギニョル』(2021年9月15日発売)
――今や<TRUMPシリーズ>といえば、舞台美術や衣裳なども、お客様が楽しみにされる要素のひとつになっています。そういう点での転機になった作品はありますか?
ピースピット2017年本公演『グランギニョル』(’ 17)は、お客さんに対して改めて「はじめまして、よろしくお願いします」というような作品だったと思います。そこまでは散発的な発表だった作品群を「シリーズ」としてリスタートさせる、という感覚でした。関西でやっていた「ピースピット」という演劇ユニットの名を冠したのも、「ここからまた新しくはじめるんだ」という意味合いがあったからです。
――<TRUMPシリーズ>の世界観が確立したのが『グランギニョル』ということでしょうか?
今も「このシリーズはこうだ!」となにか確信を持ってやっているわけではないんです。死や退廃を連想させる「ゴシック」という入れ物は意識していますが、その都度、作品に合う世界観を、という感じです。
ただ『グランギニョル』は、ちょうど僕が舞台『K』シリーズや舞台『刀剣乱舞』シリーズ(共に脚本・演出)をやり始めて、2.5次元舞台のお客さんにも知っていただけるようになったタイミングだったので、そういう方にも入っていただきやすいつくりを目指しました。その時点でまだ四作目ではあったんですけど、ここでひとつ<TRUMPシリーズ>の王道をやってみようと。舞台美術はステンドグラスをイメージしたもので、衣裳はコスチュームプレイ(歴史劇)として中世ヨーロッパをモチーフにし、「こういう世界観なんです」というのをわかりやすく形にした作品です。

ピースピット2017年本公演『グランギニョル』(2021年9月15日発売)

ピースピット2017年本公演『グランギニョル』(2021年9月15日発売)
ピースピット2017年本公演『グランギニョル』(2021年9月15日発売)
――それまでは違ったのですか?
そこまでも路線的にはゴシック・ファンタジーではあったのですが、明確な目的意識を持ってつくったのは『グランギニョル』がはじめてです。小劇場でやっていた頃は、衣裳や美術にかける予算もなくてつくりこめないというのもありました。初演の『TRUMP』(’ 09年)の美術に至っては手作りでしたからね。プロに頼むお金がなかったので妻につくってもらって……。
――へえ! そういうお仕事をされている方なのですか?
いやいや、まったく違います。美術に関してはまったくの素人なのに、僕が無茶ぶりでお願いしただけですね。自宅で発泡スチロールを削り出しながら、石造りのお城の壁みたいなものをつくってくれました。再演(’ 12年)の時は、それをもとにプロの美術家さんに頼んで、その後のDステ版『TRUMP』(’ 13年)も再演を踏まえてつくっていただいたものでした。『SPECTER』(’ 19年)は『TRUMP』の石造りの城とは打って変わって、“辺境の村”をイメージした美術でしたね。
■アーティスティックな舞台美術・衣裳たち その創作過程とは?
――そう振り返ると、『グランギニョル』から<TRUMPシリーズ>の色が濃くなっている感じはしますね。その舞台美術を手がけられた田中敏恵さんは、演劇女子部 ミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』(’ 14)以降、ほとんどの作品に参加されています。ミュージカル『マリーゴールド』(’ 18年)や『COCOON 月の翳り星ひとつ』(’ 19年)の舞台美術もとても印象的でした。
『マリーゴールド』は、これまでの雰囲気から意図的に離れたんです。「とりあえず単色系の仄暗い美術は一旦やめてみよう」と話して、マリーゴールドの山吹色の花が鮮烈に映える美術にしていただきました。反対色的な効果を狙ったというか、鮮やかな美術で深い悲劇を描いてみたかったんです。『COCOON』が真っ白だったのは繭と無垢のイメージです。
ミュージカル『マリーゴールド』(’18年)
『COCOON 星ひとつ』(’19年)
――そのアイデアからあんなふうに仕上がるのは芸術的です。豪華さもあって。
舞台美術が豪華だと言っていただけることもあるのですが、豪華さは特に意識していないんです。重要なのは、物語とちゃんと結びついているか。結果的に美術家さんが絢爛豪華にしてくださるので、そこはありがたいですね。「ゴシック」という入れ物として機能するかどうかは、気にしているかもしれません。
ただ、次に予定している新作では「ゴシック」という入れ物自体にも再定義が必要かなと感じています。シリーズがルーティンワークに陥らず、現在進行形で価値を更新できているか、というところを見つめ直したいんですね。10年以上もやっているので、古びることに対する恐れがあるのかもしれません。
『マリーゴールド』設定資料(撮影=iwa)
――ちなみに、昨年上演されたshared TRUMPシリーズ 音楽朗読劇『黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』(’ 20年)のパンフレットで田中さんにお話をうかがったとき、「一番はお客さんをがっかりさせたくないけど、末満さんもがっかりさせたくない。そして逆に裏切りたいとも思う」とおっしゃっていたのが印象的でした。田中さんと末満さんの化学反応で生まれている美術なんだろうなと思いました。
はい。敏恵さんはまず僕が提案した初手のプランをすごくいいカタチに発展させてくださるので、劇場に入って出来上がった美術を見るのがいつも楽しみなんです。でも、敏恵さんの過去の作品にはもっとすごい美術があって、僕との共同作業でもその域にまでいきたいという嫉妬のような願望があります。そこにはポテンシャルがまだまだ潜んでいるはずなので、これからの作品でご一緒するのが待ち遠しいです。
音楽朗読劇『黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』(’20年)
音楽朗読劇『黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』(’20年)
――衣裳の早川和美さんもミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』以降、ほとんどの作品に参加されていますね。衣裳も、舞台美術のように末満さんが何かリクエストすることはあるのでしょうか?
衣裳は大まかな色やイメージだけを伝えることが多いです。『LILIUM』では純白でシンプル、『グランギニョル』では黒をベースとして漫画的にキャラ立ちしたもの、『マリーゴールド』はカラフルで華やかに、と。
ある程度完成形が見えてきてから、細かなことをああだこうだ言うことはありますね。早川さんもすごくこだわる方なので、一緒にああだこうだ言っているような印象です。
――ちなみにどういうところに、ああだこうだ言われるのですか?
例えば『COCOON』のジュリオという登場人物は、「袖をすごく長くしたい」とお願いしていました。その「すごく長く」の共通認識が抜け落ちたまま僕が進めてしまい、最初に仕上がったものは指先がちょっと見えるくらいの長さ(いわゆる萌え袖)でした。衣裳合わせでその認識のズレが発覚して、「地面に着くくらい長くしてほしいんです」と再オーダーして。はじめから言っておけばよかったという話ですけど。
左がジュリオ(演:田中亨)本番の衣裳/『COCOON 月の翳り』(’19年)
衣裳合わせ時のジュリオ衣裳写真
あと『黑世界』の雷山という登場人物は、「もっともっと、はだけさせてください」と(笑)。そういう具体的で細かなことをああだこうだとすり合わせていく感じですね。雷山に関しては早川さんも楽しんでやってくださったみたいで、僕の知らないところで日に日に装飾が増えたりしていました。

中央が雷山(演:池岡亮介)/音楽朗読劇『黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』(’20年)

余談ですけど、早川さんは僕と初めて仕事をしたときにあまりにも大変だったみたいで、「あの時は二度とやるもんかと思った」とおっしゃってました(笑)。劇団ゲキハロ第13回公演『我らジャンヌ~少女聖戦歌劇~』(’ 13年)の時で、二本立てでただでさえ物量が倍だったし、ひどかったんだと思います、僕からの要望が。そんなひどい目に遭わされたのにいまだに付き合ってくださるので、感謝してもし足りない存在ですね。
――早川さんもこのシリーズのファンだとおっしゃっていましたよね。「終わりを見るまでやめられない」って。衣裳からも、作品を愛していらっしゃるのがすごく伝わってきます。
そういう意味では、信頼が置けて、かつ作品に思い入れを持ってくださるクリエイターと出会えたことは、<TRUMPシリーズ>にとって大きなことです。今やレギュラーでやってくださるスタッフさんが多いのですが、これは10年以上続けてきたことでシリーズが得た、かけがえのない財産だと思います。

インタビューは来月に続きます。次回は、【音楽・照明編】です。

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