Editor's Talk Session

Editor's Talk Session

【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
世界が一時停止した時、
カメラマンが考えていたこと

写真を撮る理由は
“好きだから”でしかない

江隈
実は、昨年キセキさんがリモート撮影で『送る写真展』をやっているのをSNSで見て、僕も何かやらなきゃって思ったんですよ。
キセキ
そうだ、やってました。私の祖母が高齢者施設に入っていて、コロナ禍の影響で会えなかったので、帰国した報告もできず、もしこのまま亡くなった場合はお葬式でさえ会うことができない…家族に“覚悟しておいて”って言われた時に、この状況は私だけじゃないんだろうなと思ったんです。今、会いたい人に会えなくて苦しんでいる人が全国にいっぱいいて、自分にできることは写真を撮ることだけだったので、リモートで撮影した写真を布にプリントして、直筆メッセージ入りのタペストリーにして会えないご家族に送るというのを考えたんです。
岩田
SNSで自分以外のカメラマンの活動を知る機会がある中、直接連絡をとって情報交換や相談したことはありました?
江隈
仲の良い先輩や仲間とはありました。写真を販売するにあたって、どう届けるかを相談したり、値段について話したり。写真の値段って“安売りは絶対にするな!”って言う人もいるし、“安くてもその写真を好きな人が手に取ってくれたらいいんじゃない?”という考え方もあって、自分が考えていた値段を言ったら“それは安売りだ”という意見もあり(笑)。写真を買ってくれる人の中には、協力したいとか、お金を払いたいって思ってくれている人もいるので、その想いに対して値段が低すぎると失礼になりかねないし、値段によって写真を手にした時の満足度も変わってくると思うんです。だから、値段は1カ月くらい葛藤して悩みました。サイズによって値段を変えて工夫をしたら、大きいものも小さめのものも想定していたより手に取ってもらえたので嬉しかったです。
岩田
キセキさんはカメラマン同士の交流ってありました?
キセキ
私はどちらかと言うと一匹狼タイプなので、横のつながりでの交流はほぼなかったです。ライヴが復活してきてからちょっと会う機会があった方は何人かいたんですけど、仕事の相談はあまりしなかったです。それよりも違う業種の人と話すことのほうが多かったですね。あとは、この一年半で3回写真展をやったので、そこでのコミュニケーションはありました。
石田
やり方はそれぞれ違うけど、自分を見つめ直して、やりたいことをやるために行動を起こしたっていうタイミングでしたよね。江隈くんが自分の写真を売ったっていうのも、何十年も活動してきて初めてのことでしょ?
江隈
そうですね。作品を手に取ってもらったり、コメントをもらうことってこんなに嬉しいことなんだって、今さらながら実感しました(笑)。
石田
そのリアクションによって考え方やモチベーションが変わったりは?
江隈
バク上がりです! 僕の作品を見て思ったことをコメントしてくれて、そのおかげで自分を見つめ直した部分もありました。仕事がなくなったから、もちろん不安もあったんですけど、アーティストの気持ちが少し分かるような気がしたというか。今まではコメント返しをしていなかったんですけど、ちゃんとするようになりました(笑)。海外の方の言語も調べたりして。昔だったらエンドユーザーとコミュニケーションをとることって考えられなかったですよね。そこのつながりがコメントなどを通してリアルに感じられた時に、自分がやりたいことというか、“自分は何を撮りたいのか?”っていう本質が掴めたような気がしました。以前は“自分が満足できるものを撮りたい”っていう気持ちが強かったんですけど、今は被写体を通して誰かの手に写真が渡った時に“自分の作品をどう感じてもらえるか?”というところまで考えられるようになったというか。そのリアクションをリアルに感じられるのはいい時代だと思いましたね。何度も“もっとやろう!”という気にさせられましたから。
石田
キセキさんは香港での活動とコロナ禍の両方を経験した中で、何か変わったことはある?
キセキ
人生が180度変わりましたね。変わったんですけど、すごく難しいのが、何がどう変わったのかを言葉で表現するのはまだできなくて…。“何が大事なのか?”ってすごく考えるようになったし、香港に行って、民主化デモを体験して世界を見た時に自分の中にあったいろんなものが削ぎ落とされた感覚があったんです。“ステータスとかお金のこととか、そんなものはどうでもいいかな”と。例えば音楽の現場だったら、ライヴで体感する熱量ってすごいじゃないですか。ライヴ撮影の仕事が再開できた時もすごく感動があったし、それはその場にいる全員が再確認したことだと思うんです。なので、やるべきことはひとつなんだなと今は思ってます。
石田
自分の好きなことをやっていくと?
キセキ
そうですね。“好きなこと”というか…カメラマンとして仕事をしてる人に、よく“写真展をやるのって偉いね”と言われるんですよ。でも、写真を撮ってる者として、“写真展や作品を作ることって偉いことなのかな?”と疑問に思うんです。偉いことではないですよね。それを何でやってるのかって言ったら、“好きだから”でしかないんですから。

OKMusic編集部

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