泉谷しげるが明かす、"天空のロック
フェス"の魅力と勇退の真意、そして
コロナ禍での開催へ懸ける想い

『阿蘇ロックフェスティバル2021』が2021年10月23日と24日の2日間にわたって開催される。泉谷しげるが「天空のロックフェス」と呼ぶ、音楽と大自然とが一体となった野外フェスである。会場となっているのは阿蘇南外輪山にある熊本県野外劇場アスペクタ。1987年に日本初のオールナイトフェス『ビートチャイルド』が行われた会場だ。阿蘇ロックフェスティバルは泉谷しげるが発起人となって、2015年からスタートした。2014年に起こった阿蘇山中岳での大規模噴火による風評被害の解消という目的から始まったいきさつがあり、音楽による地域活性化という趣旨のもと、熊本のスタッフが主導して行っている点に大きな特徴がある。2016年の熊本地震、2020年のコロナ禍という2度の延期を乗り越えて、2021年が5回目となる。発起人・プロデューサーである泉谷しげるは今回の参加をもって勇退を明言している。阿蘇ロックフェスの魅力やこれまでの歴史、勇退の経緯、さらにはコロナ禍という状況下での開催について、話を聞いた。
——泉谷さんが以前、阿蘇ロックフェスを「天空のロックフェス」と呼んでいましたが、その言葉にこのフェスの魅力が象徴されるのではないですか?
阿蘇の大自然は素晴らしいです。広大な景色が広がっていて、行けども行けども緑のラインが続いている。一体、ここはどこの国なんだというくらい雄大で。ここで何かやりたいなって、ごく自然に思いますね。標高600メートルのところにステージがあって、まわりには何もないので、音を気にして遠慮する必要がない。コンセプトは「日本で一番でかい音を出すフェス」(笑)。「好きなだけ、でっかい音を出せ」ってミュージシャンたちにも言ってます。どれだけでかい音を出したって、なんの問題もない。だって阿蘇が全部受け止めるから。おまけにモニターからは実に気持ちいい音が出ているので、ミュージシャンもみんな、喜んでいます。
——ステージからの眺めも最高でしょうし、ミュージシャンが感じる気持ち良さを観客も共有できるのではないですか?
良く言えばそうですね(笑)。観客もみんな、好きなように楽しんでくれていますね。ステージで演奏していると、遠くの方で親子連れがいて、子どもが坂を滑って遊んでいるのが見えたりするんですよ。そういうところもこのフェスの良さだと思います。常に音楽に集中していなくてもいい。グッズを買いに行っててもいいし、子どもと遊んでいてもいいし、自由に楽しめるのがいい。テーマパークみたいな感じですね。
——阿蘇ロックフェスのこれまでの歴史についてもおうかがいします。第1回目は2015年でした。泉谷さんが発起人・プロデューサーとして関わった経緯は?
まず阿蘇が大好きだということが前提にありますね。昔、阿蘇の近辺を回るツアーを夏と冬にやったことがあるんですが、夏の阿蘇も冬の阿蘇も素晴らしいんですよ。直接的なきっかけになったのは地域活性化のイベントとして何かやれないだろうかということでした。「何がやりたい?」って聞いたら、熊本の女性チームが「ここでロックフェスをやりたい」と言ったんですね。熊本の猛婦たちが作るロックフェス、おもしろそうじゃないかって思いました。じゃあ旗振り役になろうじゃないかと決めたのがきっかけです。
——会場となっているアスペクタは1987年に『ビートチャイルド』が行われた場所です。
『ビートチャイルド』は伝説になっていますし、そのイメージもあったんじゃないですかね。現地に行ってみたら、こんなところなのかと驚きました。山の中だから、平らなところがほとんどなくて、傾斜ばかり。年寄りにはきついです(笑)。ただし一番重要なのは地元の人たちがやりたいということなんですよ。東京のセットをそのまま持っていくのは違う。だから自分は大いに宣伝はするけれど、あくまでも「地元の人が作り上げるロックフェスを目指してもらわないと困る」ということは言いました。
——地元主導で、しかも女性が作ることによって、独自のフェスになっているということなんですね。
女性だからこそ思い付くアイディアがたくさんあるんですよ。ロックフェスに温泉が付いてくるとか、オレには絶対に思い付かない。もともと自分は温泉がそんなに好きじゃないですから。でも入ってみたら「これはすごいな」って。オレが思うくらいだから、温泉が好きな人にはたまらないんじゃないでしょうか。おもしろいこと考えるなって、感心することがよくあります。グッズでわけのわからないカバンを作ったりするんだけど、お客さんがみんな喜んでいる。自分にはない着眼点や気の配り方に感心することがよくあります。
——過去の阿蘇フェスと連動する形で、「泉谷さんの星を見る会」も何度か開催されています。
4月5月に山の麓でやるからこれが寒い(笑)。昼に来ると、景色もきれいだし、いいところなんだけど、夜来ても意味がないです(笑)。
——星が見えるんじゃないですか?
星は見えるけど、ともかく寒い!(笑) フェスは早い時間からやっているので、大自然も楽しめると思います。あの自然も含めてのフェスだから。きっと熊本の人たちは自分たちにはこの大自然があるんだという自信があるんでしょうね。その自信がいいんですよ。
——1年目の2015年開催では泉谷さんのステージの時だけ、雨が振ったとのことですが、その時の印象は?
スカパラのステージまでは晴れだったのに、オレの時だけ雨が降りやがって。あの瞬間にアスペクタ、大っ嫌いになりました(笑)。だって雨が重たいんだもん。プログラムを変えて、客席に下りるのをやめようとしたら、スタッフが「行け行け」ってけしかけてくる。普通はそういう時はスタッフが「やめてください」って制止するもんでしょ(笑)。仕方なく客席に下りたら、ずっこけて足をくじいてしまった(笑)。まあ、でも楽しかったです。
——後になってみれば、楽しい思い出ということなんですね。
そういう意味では普通のロックフェスでは経験できないことがたくさん経験できます(笑)。
——2019年、北九州ミクニワールドスタジアムで開催した時はさだまさしさんも参加されて、ユニット“天使と悪魔”でのステージもありました。
どっちが天使でどっちが悪魔なんだかよくわからないという(笑)。
——これまでの2015年から2021年までの5回開催までの間では、何度か出演しているミュージシャンもいます。幅広いラインナップが特徴的ですが、出演する基準のようなものはあるのですか?
自分の好みはあまり主張しないようにして、女性スタッフに任せてます。彼女たちが呼びたい人たちを呼ぶのがいいだろうと考えています。ただし、枠を広げたいという意識はありました。ワケのわからない横文字のロックバンドばかりが並んでいても、熊本のおじいちゃんおばあちゃんにはわからないでしょ。テレビに出ているアイドルもいれば、トンガっているバンドもいる。長年やってるヤツもいれば、将来有望なヤツもいる。そういうのがいい。いろいろ混ぜるのがポイントですね。いろんなヤツが参加できる場所を作るのが自分の役目。他のロックフェスとは色合いを変えたいじゃないですか。同じようなメンバーを揃えて取り合いになる、みたいなことは嫌ですし、いろんな人たちが出ているからこその楽しさがあると思うんですよ。
——観る側も新たに出会う楽しみもありますしね。
そうです。
——2015年にスタートして、熊本地震とコロナで2回中止になりましたが、ここまで続けてこれた要因はどんなことだと思いますか。
楽しかったからでしょうね。もちろん大変なこともあるけれど、最終的に楽しいんですよ。続けることが大事だということは最初から思っていたので、他のロックフェスもいろいろ研究させてもらいました。そこでわかったのはリピーターに来てもらうために重要なのは、おいしい食事ときれいなトイレということでした。ステージだけじゃなくて、ステージ以外の部分にどれだけ力点をおいて、網羅できるか。気遣いができるか。いろいろ勉強になりました。そういう観点でも女性スタッフがやっているフェスの良さが出ているんじゃないかと思います。
——今年で勇退すると明言されています。そもそもは去年勇退の予定だったのが、コロナで中止になって今年に延びたといういきさつがあります。勇退を決めた理由は?
「ある程度、フェスが有名になったら勇退するよ」ってことは最初から言ってるんですよ。熊本の人たちが「やりたい」と言ったことから始めたわけだし、熊本の人たちのためにやっているんだから、熊本の人たちにバトンを渡すのが筋でしょう。個人的に手伝いもするし、旗も振るけれど、自分のものではないですから。
——このタイミングに勇退することにしたのは、フェスが軌道に乗ったという手応えがあったからなんですか。
そういう部分もありますが、オレが「辞める」って言ってもスタッフがなかなか信用しないから、そろそろ辞めるべきだなと。きっとうるさいオヤジがいなくなったら、スタッフは多少は緊張すると思うんですよ。でもそのことを原動力にしてくれたらうれしいですね。「泉谷さんがいなくなったらどうしよう」じゃなくて、「お前なんかさっさといなくなれ!」というぐらい言えるようになってほしい。だってそれが若さでしょ。
——泉谷さんの勇退を次なる展開へ向かうきっかけにしてほしいということなんですね。
人間は嫌でも戦っていかなければならないし、嫌でも変わっていかなければならないんですよ。いつまでも同じ人たちが同じようなやり方でやっていると、どんどん保守的になって、クオリティーが落ちてしまう。日々戦いですよ。戦わないと、体も精神も強くならないですから。ただし、戦いといっても憎しみのために戦うのではなく、楽しみのために戦うということです。
——ステージに立つ上では何か考えていることはありますか?
勇退セレモニーみたいなくだらないことは一切、お断りしているので、勝手にいなくなるのがいいかなと。「お前なんか、早くいなくなれ!」という元気な声が聞きたいですね。今回は感染対策を徹底するということで、客席に飛びこんでいって、ジャンプさせるとか、ハグハグさせるとか、卑怯な手を使うことができません。地味な勇退ですよ(笑)。最後の最後で、すげえつまらないステージをやって、観客がみんな帰っちゃう。今はそういう事態も想定して、イメージトレーニングしています(笑)。
——コロナ禍での開催について、どのように考えているかも聞かせてください。昨年はコロナで中止になりました。今年も中止となっているフェス、開催したフェスそれぞれあります。
できるかぎりの対策を行なって、一生懸命努力して、実現できたらと考えています。もちろんお客さんが最優先なので、お客さんが嫌だといったら、中止するしかないです。現時点でチケットを持っていて、少しでも不安があるならば、チケットの払い戻しをしてもらいたいと思っています。しかし、楽しみにしてくれている人たちがたくさんいますし、コロナに負けたくないので、やる方向で全力を尽くしています。我々もできるかぎりのことはやりますが、来る人たちもできるだけの対策をして来てもらいたいです。
——演る側と観る側、双方がやれることを徹底するのが重要だということですね。
2回続けてコロナで中止というのは痛いです。どうしてもダメというならば、仕方がないという覚悟はありますが、コロナになんか負けてなるものかという気持ちはあるんですよ。もし今年中止になったとしたら、勇退は来年に延ばします。「コロナのせいにして延ばしているんじゃないか」って言われたとしても、構いません。しかし今年開催できるのが一番です。コロナ禍になって、ミュージシャンはステージに立つ機会が減っているでしょ。そうすると、どれほど腕が落ちることか。
——ライブ感はライブでしか磨けないですもんね。
自分はこれまでさんざんライブをやってきたから、もういいんですが、若い連中がステージに立てる機会を作ることが年寄りの役目ですよね。そのためにも“安心して楽しめる”という実績を積み上げていくしかない。みなさんがフェスに来る以上は不安なく、思う存分楽しんでもらえるフェスを目指します。そして自分は地味に去っていきます(笑)。来年も何事もなかったように、阿蘇ロックフェスが続いているというのが自分の望むところです。

取材・文=長谷川誠

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