wacci 初の“有観客”武道館ライブ
を控えた5人に訊く、実直なライブバ
ンドゆえのライブへの想い

昨年11月、無観客配信ライブという形で日本武道館のステージに初めて立ったwacci。あれからおよそ1年が経ち、今度は有観客ライブとして武道館公演を行うことになった。いつかはお客さんとともに――。誰もいない武道館で語られた“夢”は、あの場所で語られることで“目標”に変わった。漠然とした憧れを頑張れば届くものとして捉え直すことで、バンドは大きく成長したという。ファンにはよく知られているように、実はライブバンドであるwacci。記念すべき武道館公演を目前に“ライブ”をテーマに語ってもらった。
武道館は自分たちの夢として掲げて頑張っていましたけど、本当は、応援してきてくれた人たちのためです。これまでの音楽人生をかけていい日にします。
――wacciってそもそもライブの本数が多いバンドですよね。
橋口洋平(Vo/Gt):ライブはめちゃくちゃやってきました。死ぬまで泳ぎ続けるマグロみたいに。
横山祐介(Dr):しかも昔からひたすらワンマンをやっていて。こういうタイプのバンドはあんまりいないだろうね。
橋口:そうだと思う。
――今までやってきたライブの中で特に印象深かった日、wacciにとってのターニングポイントになったライブを挙げるとしたら?
一同:…………。(しばらく考える)
――あれ? 意外と出てこないんですね。
小野裕基(Ba):そういうことを考える間もなく、ひたすらライブしていたところがあったかもしれないです。
村中慧慈(Gt):それに、結成から10年以上経ちましたけど、デビューして、すぐに武道館に立って……みたいな憧れのストーリーからは外れて、一歩ずつ地道に進んできたバンドなので。“これを機に劇的に変わった!”みたいな派手なドラマ性はないけど、間違ったことをしてきたなんて思わないし、数段飛ばしをしなかったからこそ、今の自分たちがあるんだと思います。
横山:でも、考えてみたら、「別カノ」(「別の人の彼女になったよ」2018年8月配信シングル)がまだ世の中にそんなに知られていない時期にやった大阪BIGCATでのライブ(2018年7月31日『LIVE BRACCILAIN』。BRADIO、Neighbor Complainとのスリーマン)は印象的でした。確か最後に「別カノ」を演奏したんですけど、あの曲をやった時の空気が他のライブではなかなかないもので。
橋口:確かに。ちょっとざわざわしていたよね。
横山:うん。それは憶えています。
橋口:あとは2017年2月の豊洲PITかな。
村中:あ~。
橋口:豊洲PITが初めてのキャパ1000人以上の会場だったんですけど、それまでの僕らは500~600人キャパの会場でライブをすることが多かったので、当時のバンドの力を考えると結構な背伸びで。ずっと一緒にやってくれている制作スタッフが、いろいろな人を説得してようやく実現したものだったんです。それもあって、“絶対に埋めるから”って言ってたので、実際に埋めることができた感動がまずあったし、ステージに上がってお客さんの歓声を最初に聴いた時には“あ、これが1000人なんだ”という感動がありました。同じように、1回目の47都道府県ツアーのファイナル(2019年4月)の神奈川県民ホール――この会場は2400人キャパで、あとちょっとのところで埋められなかったんですけど――も印象に残っていますね。自分たちが積み重ねてきたものをライブでちゃんと出すことができて、お客さんと一緒に感動できる瞬間があったというか。豊洲PITでも神奈川県民ホールでも、バンドとしてライブ活動を重ねてきてよかったな、報われたなと思うことができたし、あの2つのライブがあったからこそ、“もっと頑張ってもっと大きなところにみんなを連れていきたい”という気持ちが芽生えたんだと思います。
橋口洋平(Vo,Gt)
――そんななかで、新型コロナウイルスの感染症により、2020年の2~3月ごろにはどのアーティストもライブ活動をストップせざるを得ない状況になりました。
村中:僕らは47都道府県ツアーをまわっている最中だったんですけど、2月28日にツアーが止まってしまって。
橋口:各地で待ってくれている人たちに音楽を届けに行けなくなってしまったのは、すごく悔しかったです。
村中:「別カノ」が広まっている最中のツアーで、初めて来るお客さんも結構増えてきていたタイミングだったから、なおさら悔しかったですね。
橋口:ただ、ライブは僕らのライフスタイルである一方、それ以外でも音楽を続ける方法が今はたくさんあるので、ポジティブに活動することはできて。ミュージシャン全員が同じ状況に陥っているなか、自分たちもできることを一つでも多く探してやっていこうという感覚にはなれていましたね。

――MVやリモートライブ映像の制作、FCコンテンツの更新、過去のツアーのドキュメント映像の公開、音楽番組出演など、積極的に動いている印象がありましたが、3月26日には初の配信ライブが行われましたね。
小野:さっきの話の流れとは意味合いが違いますけど、個人的には、その配信ライブがターニングポイントになったなあと思っています。
因幡始(Key):僕もそう思います。
小野:(無観客配信ライブは)リアルタイムでお客さんとコミュニケーションをとることはできないけど、確かに観ている人がいるという状態じゃないですか。それに、イヤホンで聴いている人も多いだろうから、ライブ会場よりも詳細に音が聴こえる状態なので、“こういうところでバンドの力を試される時代が来たんだな”と感じたんですよね。今の僕らはそれに耐えうるかどうか、長年やってきたバンドとしての力が試されている感覚があったというか。
村中慧慈(Gt)
――なるほど、そういうことを考えていたんですね。そのあとも日ごとの異なるコンセプトを設けて行った配信ライブツアー『wacci Streaming Live Tour 2020』、10月27日に行われた日本武道館からの配信ライブ『wacci Streaming Live at 日本武道館』と、配信ライブを重ねていきました。
因幡:3月の配信ライブがすごく楽しかったからこそ、“これからは配信ライブも楽しみながらやっていきたいな”と思うことができました。
小野:7~9月の配信ライブツアーでは“きっと同じ人が何度も観に来るはず”、“それなのに同じセットリストでいいのか?”というふうに、3月の配信ライブとはまた違う悩みが生まれていって、だからこそ新しいことを試したり考えたりするきっかけになって。コロナ禍以前のライブをひたすらし続けていた環境から、もう一度立ち止まって考えなきゃいけない環境に変わったことで、いろいろな発見がありました。
因幡:個人的には、“カメラの先にいる一人ひとりに届けるんだ”と強く意識しながらやれたのも大きな収穫だったんじゃないかと。去年の武道館で上手くメンタルコントロールができたのは、その辺りの経験があったからこそなのかなと思っています。
――武道館の配信ライブでは、客席スペースを使用した演出など、配信ライブならではの見せ方もしていて。
橋口:武道館って本当は客席を使った演出をするのはダメなんですよ。なので、特別な許可をとって、配信画面に「※特別な許可を得ています」というテロップを入れて。
――そういう演出面含め、様々なタイプの配信ライブにトライしてきた成果があの武道館には表れていましたよね。
橋口:本当にその通りですね。それはメンバーもそうですし、配信ライブを一緒に作り上げてきたスタッフもそうですし。みんなで一つになって迎えられた武道館だったのかなと思います。
――でも、初の武道館といえば、満員のお客さんに迎えられて、最高のパフォーマンスをして……というライブに憧れを持つミュージシャンも多いかと思います。無観客で武道館を経験してしまうことに対して、葛藤や抵抗はありませんでしたか?
橋口:もちろんありました。そもそもこの日は、事務所が確保していた武道館のスケジュールに空きが生まれて、そこに僕たちが手を挙げさせてもらった形なんですよ。スタッフから“武道館、空いているらしいけどどうする?”と言われた時は正直迷いましたし、まだそこまでのレベルにないはずの僕らが、お客さん0人の状態で“武道館やった”と言えてしまうことに対するカッコ悪さもあるよなと。なのでそこはみんなでたくさん話し合いました。正直かなり迷ったんですけど……でも“近い将来、必ず満員のお客さんの前で武道館ワンマンをやる”という覚悟で、そのための最初の一歩として配信ライブをやらせてもらうのは、配信を観てくれている人たちに対する“次は絶対にあなたを連れていくよ”という決意表明になるし、僕らのストーリーとしてとてもいいんじゃないかと思って。
――確かに、配信ライブをやってしまうことで“いつか満員の武道館で”という次の目標が必然的に生まれてしまう感じはありますね。
橋口:はい。それを僕らはすごくポジティブに捉えたというか。“みんなで一緒に夢を叶えよう”というメッセージを発信できるのがいいなと思って、胸を張ってやらせてもらいました。
村中:でもさ、もしもコロナがなかったとしたら、どうしてたと思う? 有観客だったら、あのとき武道館やってたかな?
小野:どうだろうね?
橋口:いや、僕ら2000~3000人キャパのところで頑張ってたバンドだよ? 武道館ってその何倍もお客さんを入れられるわけだし、有観客だったら、スタッフは“武道館、空いているらしいけどどうする?”なんて僕らに聞かなかったでしょ(笑)。
一同:あはははは!
村中:まあ、そもそもコロナがなかったら空かなかっただろうしね 。
小野裕基(Ba)
――そして、そのあと11月に中断になっていた47都道府県ツアーが再開しましたが、振替公演を行うだけではなく、公演数を追加しているところに“ただでは転ばない精神”のようなものを感じました。あれは、お客さんを喜ばせたいという気持ちからですか?
村中:というよりかは、“忘れられちゃってるんじゃないか”という気持ちがあって。だって、随分長いこと行けていないわけですから。
――いや、1年って“随分長い”って言うほどですかね?
横山:確かに。僕らはありがたいことに高頻度で全国に行けているから、1年空くと“最近あんまりライブ行けてないなあ”っていう感覚になるけど、他のアーティストはもうちょっとそのスパンが長いよね。でも久しぶりな気がしちゃうのは……多分、病気なんでしょうね。
一同:あはははは!
橋口:分かる。1年空くと、不安になって手が震えてきちゃうというか(笑)。
小野:そういうこと、そういうこと。
橋口:まあ病気っていうのもあるけど(笑)、僕らは日常を歌っているバンドなので、一対一で直接歌を届けることをこれまでずっと大事にしてきたし、これからもずっと大事にしていきたくて。今は感染症対策のガイドラインを守りながらではありますが、ライブができる状況になったら、もう一度全国をまわって、みんなへの感謝と僕たちの夢への覚悟を、一人ひとりにちゃんと伝えたかったんです。素晴らしい景色・空間を大きなところで必ず作れるようになるから、僕らについてきてねと。一人ひとりにちゃんと伝えて、ここからまた頑張ろうという気持ちで、今ツアーをまわっているところですね。
因幡始(Key)
――今の自分たちのライブに対して、どんな手応えを感じていますか?
村中:結成から10年以上やっているし、演奏に深みが出てきたというか、熟成されてきた感じはしますね。ライブに完成形ってないけど、“wacciのライブってこういうものなんだ”というイメージに近づける瞬間が増えてきているというか……何て言ったらいいんだろう……。
横山:今、村中が言ったのは、向上心がなくなっているという意味ではないし、もちろん自分たちの今のライブが完成形だとは思っていないので、“こうしよう”“ああしよう”みたいな話は今ツアーでももちろん出てきています。だけど、それこそ去年配信ライブをやったことで、自分たちのことをもう一度客観的に見ることが可能になったので、“自分たちはこれくらいできるんだ”ということを確認したうえで、各自スキルアップをできている感覚があるんですよね。だから、細かいところにも神経を研ぎ澄ませながら、どんどんいいものを作っていけている実感はあります。それがお客さんにも伝わっていたら嬉しいですけど、メンバーにも伝わるので、“あ、今日あそこのフレーズ変えてきた?”みたいなことも結構あって。
村中:そういうことです。……今の、俺が言ったことにならないですか?
――ならないです(笑)。11月12日の『wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~』では、今話していただいたwacciの最新モードを確認できるわけですが、1年越しの有言実行ということで。
橋口:去年、無観客武道館の当日の会場リハーサルの時に、スタッフからマイクで“1年後の11月12日、武道館やることになりました!”って知らされるサプライズがあって。
横山祐介(Dr)
――そうだったんですか。それにしても、結構早く踏み切りましたね。
小野:最初に無観客でやったからには、その先のゴールもちゃんとなきゃいけなかったんですよね。
橋口:そうです。去年の武道館での配信ライブは、あくまでスタートだったというか。今度は有観客で、胸を張って“武道館やったぜ!”と言えるようないいライブをやろうという覚悟を持って、みんなで前を向いて歩いて行こうと決めたうえでのあの日だったので。それはもしかしたら2年後でもよかったのかもしれないですけど、1年後で達成できるくらいじゃないと僕らダメだなって。ポジティブな意味で、自分たちにムチを入れるような感覚で1年後にしました。
――村中さんは“ようやく挑戦権をもらえた”とツイートしていましたよね。やっぱり、武道館は自分たちにとって挑戦の場、かつチャンスをもらえるのは一握りだという感覚がありますか?
村中:めちゃくちゃありますね。誰しもがライブをできる場所ではないし、だからこそ挑戦できることがまずは嬉しいです。それは僕らが特別だという意味ではなくて……音楽業界って実力ももちろん大事だけど、いろいろな運と縁が重なってできるようになることがたくさんあると思うんですよ。そんななかで、僕らと同じくらいの時期にデビューしたのに、やめていってしまったアーティストもたくさん見てきて。続ける方が偉いというわけではありませんが、続けてきたからこそ得られたチャンスだとは思います。
橋口:それに付随する話で言うと、まず、無観客の武道館ライブをやらせてもらえること自体が今までだったら有り得なかったわけで。
――ある意味贅沢ですよね。
橋口:そうですよね。無観客での配信ライブから1年後の有観客ライブまで、こんなに伝えやすくありがたいストーリーを作ってもらえるってすごいことだなと思います。以前キューブに所属していた僕らの先輩にあたる水野良樹さん(いきものがかり)も“そんなことをやるなんて、キューブスゲーな!”って言ってましたよ。
――はははは。最後に、来る武道館に懸ける意気込みをお願いいたします。
横山:開催にあたって、橋口のコメントをホームページに掲載しているんですけど、“希望のあるライブにしたい”と書いていて。それはすごくいいメッセージだし、今この時期に有観客のライブをやる意味として大切なことだなと思いました。あと、ツアーを再開してからのお客さんに書いていただいたwebアンケートを見ると、“イープラスさんで公演を知って来た”という人たちがいて。ということは、今までwacciのライブを観たことがなかったけど、観たいと思って来てくれたんだなと思っていて。元々僕らのライブに来てくれていた、以前からライブが好きだった人だけではなく、そういう人たちにも“音楽があってよかった”“ライブがあってよかった”と思ってもらえるような――希望を持ってもらえるようなライブになったらいいなあと、おこがましくも思いますね。
小野:ライブが続くのであれば、最新のライブを最良のライブにする。それをずっと目標にしてきたんですけど、実際に今、一番最近にやった埼玉でのライブで“今までの中で一番思うように弾けた”と感じることができているんですよ。なので、5人でアンサンブルしたものをお客さんにちゃんと聴いてもらうことを、いつも通り武道館でも目指そうかと。“武道館だから”ではなく“今日だから”という理由で、今までで一番いいライブにするぞ、という想いです。
因幡:自分が好きな音楽ジャンルも関係しているんですけど、日本武道館や日比谷の野音と言えば、僕にとってスターの証で。そういう会場特有の空気感を、観客ではなく演者として体感できることに楽しみを見出してしまっている自分がいます。あとは、wacciを好きな人にも“あのときの武道館すごかったよね”と語ってもらえるようなライブにしたいですね。そのために僕らができることは、想いと演奏をしっかりと届けること。目の前のことをしっかりやるのみかなと思います。
村中:僕は、死ぬ前に思い出すような日にしたいですね。“あの時の武道館よかった~!”って思いたい。
橋口:それって最初の質問と重なるよね。ターニングポイントになるようなライブにしたいっていう。
村中:確かに! 本当にそうですね。むしろ今までそういうライブがなかったのは、この日のためかもしれない。
橋口、小野、横山、因幡:………。
村中:あれ? それは言い過ぎ?(笑)
橋口:(笑)。まあ、コロナがこんなに長引くとは思っていなかったので、最高の環境でやれる武道館ではないかもしれないですけど、この1年間、できることをひたすらやってきた自信はあるので。その成果をちゃんと出せるライブにしたいし、メジャーデビューからの10年間、なかなか結果が出ずともずっと応援してくれているスタッフのみなさん、ファンのみなさんに対して、少しでも恩返ししたいとひたすら思っています。武道館は自分たちの夢として掲げて頑張っていましたけど、本当はもう、それ以上にその人たちのためです。これまでの音楽人生をかけていい日にします。

取材・文=蜂須賀ちなみ ライブ写真撮影=江隈麗志

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