新キャストの阿部サダヲ&長澤まさみ
と脚本・演出の野田秀樹が語る、NOD
A・MAP番外公演『THE BEE』の魅力

『THE BEE』は、脱獄犯に自身の妻子を人質にとられた会社員・井戸が、脱獄犯の妻子を人質に立てこもり……という傑作4人芝居。筒井康隆の短編小説『毟(むし)りあい』を原作に、野田秀樹が初めて英語で脚本を書き、2006年にロンドンで初上演された。2007年に東京で初演され、2012年に新たな配役で再演されたその日本語版を、NODA・MAPが11月から、新キャストで9年ぶりに上演する。井戸役の阿部サダヲ、脱獄犯の妻役の長澤まさみ、今回は演出に徹するという野田に、作品について語ってもらった。

――野田作品への出演は『逆鱗』(2016年)以来となる阿部さん。『THE BEE』への出演オファーを聞いた時はどう思われましたか?
阿部 びっくりしました。また出たいと思っていたんですけど、まさか『THE BEE』だとは思わなくて。野田さんも現役バリバリで、ますます元気に動いてますし。
野田 再演した時、サダヲに言ったんですよ。「俺が井戸をやれなくなった時は、サダヲがやって」って。静岡公演を観に来てくれたんだっけ?
阿部 いえ、松本公演です。すごく面白いと聞いていたんですけど、仕事で東京公演に行けなかったから、松本まで観に行って。初演も観たかったなあと思いましたね。キャストはもちろん、演出も曲も全部カッコよくて、初めて見る狂気的な役の野田さんも衝撃的で。それで楽屋に行って言ったんです。「もし野田さんが引退されたら、僕が井戸をやりたいです」って。
野田 そこはちょっと作ってない? 俺の記憶では、こっちから「俺がやれなくなったら」って言ったと思う。結構真面目に言ったんですよ。頭の中には他に2人、井戸候補がいたんだけど、やっぱり遠くまで観に来てくれたサダヲが一番だなと思って(笑)。
――長澤さんは、今回が初の野田作品。『THE BEE』はご覧になっていますか?
長澤 今回のお話をいただいてから、初演と再演の両方をDVDで観ました。NODA・MAPのお芝居は、大好きな松たか子さんや、仲が良い先輩が出ているものをいくつか拝見しているんですけど、残念ながら『THE BEE』は観に行けなくて。洗練されたカッコいいチラシが、すごく印象に残っています。
野田 長澤さんと初めて会ったのは、宮沢りえの誕生会だよね。昔は毎年パーティーみたいなことをやっていて、そこで紹介してもらって。りえちゃんが紹介してくれる女優さんは大抵いいんですよ。それでその後、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)を観たら、やっぱりよかった。日本では、可愛かったり綺麗だったりする女優さんは演技のほうがちょっと……ってことが割りとあるけど、この子はいいなって。
阿部 そこからだいぶ長かったですね。
野田 そうね。でも、長澤さんには前にもオファーしているんじゃないかな。
長澤 そうなんですか⁉ 私もNODA・MAPのお芝居にはいつか出てみたいと、前から思っていて。でも、ワークショップに行かないと出してもらえないみたいな噂を聞いて、どうやったら参加できるんだろう?って思っていました。
阿部 ワークショップに行かないと、出してもらえないんですか?
野田 噂だよ、噂。噂は流しといた方がいいじゃん(笑)。長澤さんは『フェイクスピア』のワークショップに来たよね。まあ、最近のことだけど。
長澤 とても楽しかったです。河内(大和)さんも参加されていて、2人組になる時に組ませてもらったんですけど、動きがすごく面白くて。『THE BEE』で一緒だと聞いて、やった!と思いました。
野田 河内は身体能力が高いからね。
阿部 さっき野田さんに、河内さんは現役のJリーガーだって説明されて、俺、信じちゃいましたよ(苦笑)。
野田 不安になっちゃったよ、サダヲはNHKやりすぎて俺の冗談がわからなくなってるんじゃないかって(笑)。まあ、冗談が通じない井戸をやるにはいいのかな。もう1人の出演者の(川平)慈英も、見た感じと違って芝居は真面目だよ。
阿部 楽しみです。河内さん、川平さんとは初めてだし、長澤さんは奥さん役にピッタリじゃないですかね。(再演時に同役を演じた)宮沢(りえ)さんのイメージがあったけど、名前を聞いた時に「あ、いた!」と思いました。
野田 俺は配役を決めてから知ったんだけど、2人は松尾スズキの舞台でも共演してるんでしょ?
長澤 はい。去年『フリムンシスターズ』で。でも、阿部さんと私が絡むシーンは、そんなになかったです。私が阿部さんとご一緒してすごく印象に残っているのは、『MOTHER マザー』という映画で阿部さんに殴られるシーンを撮った時。無重力?と思ったくらい何も痛くなくて、びっくりしたんです。全然痛くなくできる人がいるんだ! どれだけ運動神経がいいんだろう!って。優しい阿部さんと、またご一緒できて嬉しいです。
――報復の連鎖がスリリングに描かれた『THE BEE』。作品づくりのきっかけは、「9・11」アメリカ同時多発テロだったとか。
野田 直接のきっかけは、2003年にロンドンで『赤鬼』という芝居をやった時に、ある劇場から、若い俳優を対象にしたワークショップをやってほしいと頼まれたことですね。『赤鬼』はロンドンでは酷評を受けたんだけど、面白いと思ったやつもいるんだな、何をやろうかな、と考えた時に、筒井康隆さんの『毟りあい』が浮かんで。やられたらやり返すっていう個人的な物語だけれど、ちょうど「9・11」から2年後でイラク戦争が始まった年というのもあって、この報復し合う姿は、イギリスの人間にも確実に伝わる普遍的な題材じゃないかと思った。
――今年は「9・11」から20年。期せずして、米軍がアフガニスタンから撤退するタイミングでの上演にもなりましたね。
野田 でもまあ、いつやっても人間同士の報復って、どこかしらで起きていることだからね。これまで日本を含めて10か国でオリジナルの英語版を上演してきたけど、一番生々しかったのはイスラエルかな。イスラエル公演をやった時に床屋に行ったら、店の親父に「何やってる人?」って聞かれたんですよ。それで「芝居をやってる。これこれこういう話だよ」って説明したら、親父が黙り込んじゃって。そのまま俺を放ったらかして外にタバコを吸いに行き、戻って来たと思ったら「俺たちはどうすればいい?」って聞かれた。逆に鈍感だったのは、ニューヨーク。予想に反して、自分達が当事者だと思うどころか、全然他人事みたいな感じだった。
阿部 すごいなあ、海外でもたくさんやっていて。調べたら、『THE BEE』の初演の時の野田さんは、今の僕と同じくらいの年なんですよね。僕は今51歳なんですけど。
野田 俺はロンドンで初演した時51歳だったから、一緒だよ。じゃあ、バリバリ動けるね。
阿部 それがプレッシャーなんです。ただでさえ、演出だけしている野田さんの前で、野田さんが演じていた役をやる怖さがあるのに、相当動くじゃないですか。全体的にスピード感もありますよね。特に最初のほうは展開が速くて、役もどんどん変わっていく感じで。僕は井戸一役だけど、長澤さんは急にリポーターになったりするでしょ?
長澤 そうなんです。二役やるのは初めてなので、それを舞台でどういうふうにやっていくんだろう?と思っていて。
阿部 紙とかゴムとか鉛筆とか、そういう簡単なものを使いながら、4人だけで色んなものを見せていくし、すごいアイディアが詰まってますよね。
野田 ロンドンで、とにかく大変な数のワークショップを重ねてつくった芝居だからね。イギリスの役者がまた、しつこいんだよ(笑)。納得しない限り進めさせないというか。
阿部 あの鉛筆のシーンとか、本当に怖いですもん。血糊はまったく使われていないのに。
野田 それだけは絶対使わないって、最初から決めてた。そのほうが想像力が働いて、余計に暴力の怖さが描かれる。日本でも何度かあったけど、海外公演では、あのシーンで必ず失神者が出てましたよ。客席からドーンって音がするんだよね。1回、失神した人の隣にいた女性がパニックを起こしちゃって。助けを呼ぶつもりだったのか、外に出ようとしたんだけど、間違えて開かない扉のところに行っちゃって、焦って扉をドンドン叩き始めたから、びっくりしたよ。芝居は続けたけどね。
長澤 それだけ想像力を刺激する作品ということですよね。演出だと思ったお客さんもいそうですけど。
阿部 ていうか、よく冷静に続けられますね。俺だったら、小道具のピストル撃っちゃいそう。
――恐怖心に支配される人間の姿が描かれている『THE BEE』ですが、野田さんにとってはどういう作品ですか?
野田 一つの高い水準というのかな。『THE BEE』をやって以降、自分が今度作った作品は『THE BEE』のクオリティに達しているだろうか?って毎回考えるんですよ。無駄があることも芝居の面白さとしてあるんだけれども、平凡な人間が前段もなく酷い状況に置かれて、ジェットコースターみたいに落ちていく『THE BEE』には、無駄がない面白さがある。緊張感とかそんなものも含めた一つの世界のクオリティとして、『THE BEE』のところまで達していたいという思いは、いつも持ってます。短い作品だけど、自分の中では大切な作品かな。
長澤 私は映像でしか観てないですけど、すごく勢いがありますよね。最初に記者が出てきたところから、もう圧倒されるというか、巻き込まれるというか、観るたびに新たな記憶に塗り替えられるような感覚があって。きっといつ観ても、何度観ても、すごく新鮮に映る舞台なんだろうなって思います。
――最後に、野田さんからお2人への期待感をぜひ。
野田 期待してますよ、ほんと。長澤さんとは初めてだけど、素材がいいのはわかっているし、サダヲのことは『逆鱗』の時に、やっぱり私の作品を体現してくれる役者だなと思った。後から気付いたんだけど、NODA・MAPの公演に自分が出ないのは、今回が初めてなんですよ。最初から演出に徹しようと思ってたから、前よりちょっと演出に自信が出てきたのかな。そんなわけで今回は「出演もしているから、なかなか全部見られなくて」という言い訳はできない(笑)。頼むよ、二人とも。
長澤 私は初めて野田さん演出の作品に出ることができるので、その初めてを楽しめたらなと思います。人数が少ない分、野田さんを“4人占め”できるのは贅沢な時間じゃないかなと思います。
野田 俺も楽しみですよ。『THE BEE』は作品と演出がくっついてるところがあるから、今回も演出を大きく変えることはないけど、顔ぶれが新しくなることで違うアイディアが絶対出てくると思う。
長澤 『THE BEE』のワークショップはやらないんですか?
野田 10月1日から稽古が始まるけど、みんながやる気なら全然やりますよ。ただ、サダヲは細かい仕事を入れてるだろうから(笑)、代わりに他の2人の井戸候補に来てもらおうかな。もう誰だったか忘れちゃったけど、意外とその2人のほうがハマったりして(笑)。
阿部 別に僕はトリプルキャストでも大丈夫ですよ。
野田 じゃあ、2人のうち1人を荒川良々にしようかな。
阿部 それは嫌です!(笑)井戸役、頑張ります!

取材・文/岡崎 香
写真撮影/岩間辰徳
ヘア&メイク/スズキミナコ スタイリング/藤井希恵(阿部サダヲ、長澤まさみ)

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着