醤油ラーメン 中華そば(イメージ画像)※該当店舗とは無関係です 写真提供:写真AC/Sagohachi

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ロマン優光のさよなら、くまさん
 「麺匠八雲」「沙羅善」を経営し、自らラーメンを調理する梅澤愛優香さんが厄介ラーメンオタク(以下ラオタ)やラーメン評論家に対する出禁を宣言、ラーメン評論家から受けたセクハラや誹謗中傷、評論家とラーメン店の癒着などを告発して話題になってます。梅澤さんといえば、元アイドルという異色の経歴で知られています。バイトAKB(アルバイト雇用の形態でAKBメンバーとして活動する、バイト情報検索サイト「バイトル」のイメージキャラクターをつとめる目的で作られた期間限定グループ)のメンバーとして活動終了後、名古屋で地下アイドルとしてソロ活動やロマンティックシェリーというグループで活動していたところ、当時所属していた事務所の代表の不祥事によりアイドル活動は頓挫することに。その後、かねてから好きだったラーメンの世界にすすみ、ラーメン屋に転身した人です。
 若い女性、しかもアイドルからの転身ということから、芸能的な仕掛けを疑ったラオタに反感を買うことも多く、様々な疑惑(店でスープをつくってない等)をかけられたり、ネット上でも誹謗中傷を受けてきた人でもあり、最近も取引先に対して彼女が反社会勢力と繋がっているという憶測を吹聴されたことに対して被害届けを出しています。
 また、店の方向性や本人の媒体の出方などのメディア戦略的な部分が、既存のラーメン業界やラオタではないところに向けたものであることも、反感をかった一要因なのでしょう。なんというか、おじさんオタクがZOCを自分のアイドル観にそぐわないという理由でTwitterで執拗に叩くみたいな話です。気にくわないなら最初から関わらなければいいだけの話だと思います。思考停止したような「自分の好きなもの、好きなやり方だけが正解で、何がなんでも後は悪」みたいな想いは思い上がりでしかないのだから。よく検証して認めるところは認めて、あとは好みで適切な距離をとるか、最初から関わらないかどっちかでしかないんですよ。嫌なのにわざわざ入り込んでいこうとするのは、単に自分の方を向いてないのが許せないというプライドの問題なんではないでしょうか。
 ラオタというのは、ただラーメン好きの人というだけではなく、彼ら独自の文化を持っている人たちのことだと思っています。ネット上に踊る独特の用語やユーモアセンスに代表されるように外部からはわかりにくい世界です。有名ラオタがシール化された、ビックリマンシールを模したラオタシール(絵柄が全く似てないのでビックリマン感があまりない。絵が全然ポップでなく、どちらかというと怖く感じてしまう)をつくっているラオタがいて、あれはやっぱりシール化されることは名誉なんですかね。訪れたラーメン屋に自分が描いてあるラオタシールを貼っていこうとするわけですが、あれはなんなんでしょう。自分が来たことを他のラオタにアピールする目的に加えて、自分が来たことは店にとって名誉なことであるから有り難く貼りなさいということなんでしょうか。自分を常連だとか有名ラオタだと規定し、店から特別扱いされないと怒るラオタの話とか聞くと、そういう人たちが来ないんだったら、その方がいいのではと思っちゃいますよね。ラーメン屋と評論家や有名ラオタの癒着みたいな話は、ラーメン好きの友人から聞くこともあります。それらに加えて女性店主・店員に対して変な執着をするラオタもTwitter上で目をひくわけで、梅澤さんのような異分子、しかも若い女性には大変な世界なのではないかと思います。
はんつ遠藤の個性溢れる文体

 それはさておき、今回のことで世間の話題になったのが、告発そのものよりも、告発された評論家(本人の話ではフードジャーナリスト)の一人である、はんつ遠藤さんによる反論blogです。ラーメン業界の体質の問題に目が向くよりも、はんつ遠藤さんの文体に注目が集まってしまったというのは困ったことです。
 はんつさんの物議をかもした文体を評するのに、Twitter上では昭和軽薄体という言われ方がひろまっていますが、それは違うでしょう。東海林さだおの食エッセイなどの影響を受けた、椎名誠や嵐山光三郎に代表される、昭和40年代後期から50年代前期の特定の書き手たちによる口語体のユーモアを押し出した文体ムーブメントが昭和軽薄体(そもそも椎名自身が提唱した名称)であって、昭和後期には口語体による軽いトーンの一人語りの文章は普通になっているわけですが、昭和軽薄体の持つプロのエンタメ技法としての部分が継承されているわけではなく、影響下にはあっても違うものですよね。古くさくてユーモアが強調されている口語体の文章が昭和軽薄体ではないんです。はんつ氏のあれは、00年代のテキストサイト等のネットの文体と風俗レポートの文体をミックスしたような文体であって昭和感もないし、めちゃくちゃ強引に語れば遠祖に昭和軽薄体があると言えなくもないですが、そうとう無理しなければ結びつけるのは難しいものです。そもそも、「面白い文体が開発されると、ユーモアセンスのない人がそれを模倣して、つまらなくて痛々しいものを書いてしまう」問題について、それの元祖的なものとして昭和軽薄体の話をしたツイートが発端であり、昭和軽薄体自体を知らない人たちを経由する間にはんつ氏の文体自体が昭和軽薄体だという風になっていったわけで、Twitterという場はやっぱり雑ですよね。昭和軽薄体はとんだ濡れ衣を着せられたわけですよ。そういえば、風俗レポ文体といえば私が20代のころから既に古臭い文体で、それゆえに面白がられてネタにされていたわけですが、未だに変化がほとんど見られないというのは凄いことです。
 はんつ氏は文章自体はうまいと思うんですよ。あれだけの長文を読ませることができ、言いたいことの内容はよく理解できますから。ある意味キャッチーですよね。(こらー)とかネタにしてる人もたくさんいるんでしょうな。凡百のラオタ文体ともまた違うオリジナリティ。ガラパゴスの中で研ぎ澄まされてきた凄みを感じます。ガラパゴスであるからして、外ではどうかという話でもあります。
 ただ、当事者として真面目な話をしなければならないとき、自分のこの先に大きな影響を与えることがわかっている局面で、あの文体を普通選びますか? ユーモアに独自性があって共感しがたいとかいう話以前に、真面目な弁明や反論の場でユーモア押し出さないでしょう、普通。おかしいですよね。その根本のところで、はんつ氏に対する不信感は決定的なわけですよ。その上で、女性をなめてる感とか、変に自慢めいたことを交えて自分を高みにおこうとするところが全編に渡って伝わってくる。セクハラに関しては、セクハラをたいして悪くないと思っていることがわかるばかりか、他ではもっとひどいセクハラしてそうなことをユーモアとして書いていて、どうかと思います。「女、子どもには手をあげては、いかんです」の使い方といい、何の疑問も持たず男社会で男として生きる特権を満喫している幸せな人なんでしょうな。「よくわからないことは双方の話を聞いてみないと判断できない」と思ってる人でも、あのblogを読んだら事実関係が確認できなくても「絶対こっちが悪い」と思わせるような力を持つ文章です。
 あの文体を選んだことも、あの内容もひどいもんだし、その後のTwitterでの様子もblogへの反響を自らネタにしているところも、これまたひどい感じです。自分の業界内の立場に寄りかかって、たかをくくってるように見えます。真面目な問題、しかも自分が加害者側にある問題に対するのに、あんな態度しか見せないんでは、不誠実な印象を拭うことはできませんよね。なんでまた、あんな態度なんでしょう? 取り繕うことをしない、嘘をつけない正直な人ともいえなくもないですが……。保身とかいう問題ではなく、相手を不快にさせるということも考えてほしいものです。
 ラオタを含めたラーメンの世界の内側のことは部外者である自分にはよくわからないことだらけですが、強い影響力を持つ立場にある人にはんつ氏みたいな不思議なタイプの人がいるのにはびっくり。あの不思議な反応は初体験です。まあ、変な人が悪目立ちしてるというのは、どこの世界も同じなんだとは思いますが。とにかく、梅澤さんをめぐる様々な事象によって一部のラオタやラーメン評論家の奇妙な部分が浮き彫りになっていってる感はあります。ラーメン評論家という存在のあり方やラオタ文化と色々と不思議に感じることが多いラーメンの世界。一部のラーメン店でπウォーターという水が流行っていたりするのですが、梅澤さんも麺に音楽を聞かせて熟成させるとTwitterに書いていたりするわけで、ラーメンというもの自体が不思議なものに親和性が高いのかもしれませんね。我々のすぐ隣に未知の社会・文化が存在するという状況は、オタクが生まれるようなジャンルから生まれやすいものなのですが、今までラーメン本体以外に外部の興味がなかったこともあり、ラーメンの世界は未知感が強くあります。漫画『美味しんぼ』で栗田ゆう子さんが言っていたラーメンをめぐる「暗い情熱」。個人的には、それを感じさせる一連の流れでした。
(隔週金曜連載)
醤油ラーメン 中華そば(イメージ画像)※該当店舗とは無関係です 写真提供:写真AC/Sagohachi
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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