知る人ぞ知る、ミュージカル界一のマ
ッチョ登場! 後藤晋彦インタビュー
/『ミュージカル・リレイヤーズ』f
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「人」にフォーカスし、ミュージカル界の名バイプレイヤーや未来のスター(Star-To-Be)たち、一人ひとりの素顔の魅力に迫るSPICEの連載企画『ミュージカル・リレイヤーズ』(Musical Relayers)。「ミュージカルを継ぎ、繋ぐ者たち」という意を冠する本シリーズでは、各回、最後に「注目の人」を紹介いただきバトンを繋いでいきます。連載第七回は、前回、大嶺巧さんが「彼のために役ができるんじゃないかと思うくらいの個性的なキャラクターを持っている憧れの先輩」(&帝劇サイズの大胸筋!)と紹介してくれた後藤晋彦(ごとう・くにひこ)さんにご登場いただきます。(編集部)

「僕のような“ゴリゴリ系マッチョミュージカルアクター”はあまりいないですね」
自他共に認めるミュージカル界一のマッチョ、後藤晋彦。鍛え抜かれたその体を武器に、舞台上で唯一無二の個性を発揮している注目の俳優だ。
全くの未経験からUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)でキャリアをスタートさせた後藤だが、近年は『レ・ミゼラブル』『エリザベート』『モーツァルト!』といったグランドミュージカルへの出演が続き、話題の新作ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』(2021年12月上演予定)への出演も控えている。
1時間のロングインタビューを通して感じたのは、未知の領域へ飛び込む並々ならぬ度胸、貪欲に学び続ける姿勢、そして筋肉への愛だった。
20代半ばでの挑戦「好きなことや得意分野でチャレンジしたい」
後藤晋彦
――後藤さんはエンターテインメント業界に入る前に、一般企業に就職されていた時期があるそうですね。
はい。当時はこういう業界に入るなんて全然思っていなかったんですよ。学生時代はロックバンドのボーカルをやっていましたが、それは趣味の範囲で。普通に大学を卒業して広告代理店に就職し、3年くらい営業職をやっていたんです。
――バンドをやっていたということは、元々音楽は好きだったんですね。
そうですね。なぜ音楽なのかを辿ると、子どもの頃に母の勧めで入った地元の教会の聖歌隊がきっかけかもしれません。歌うということは、幼い頃からずっと身近にあったように思います。
――広告代理店の営業マンだった後藤さんが、なぜエンターテインメント業界に?
その仕事が自分には合っていないなと感じ始めた頃に、周りにいたアーティストたちに影響されたのだろうと思います。当時のバンド仲間がプロになったり、カメラマン、映画監督、画家といったアーティストの道に進む友人が不思議と多かったんです。ちょうど20代半ばで、エネルギッシュに夢へ向かっていく彼らを見て、「自分も好きなことや得意分野でチャレンジしたい」と思いました。そんなときに偶然USJのホームページを見たら、グランドオープニングのキャスト募集があったんです。募集要項には、ダンサー・スタント・コメディアクターという3部門がありました。何かのきっかけになるかもしれないなと思い、コメディアクターのオーディションを受けることに。それまで演技には興味もなく、勉強したこともなかったのですが、バンドのボーカルとしてMCで盛り上げるということは意識してやっていたので、これならできるかもしれないなと。そうしたら、合格してしまったんですね。
後藤晋彦
――それはすごい! ちなみにそのオーディションは会社を辞める前に受けたんですか?
はい。受かったら辞めようと思っていたので、そのときはまだ辞めていなかったんです。でも受かっちゃったので、すぐに東京の会社を辞めて大阪のUSJへ行くことになりました。
――コメディアクターとして、USJではどんなことを?
最初は『モンスター・メーキャップ』というコメディショーでクレイジーな博士の役を。2年目からは映画『ビートルジュース』をモチーフにした『ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー』に出演していました。実は僕、USJは一度辞めているんですよ。2年間USJで過ごしたことで、ちゃんとエンターテインメントのことを学びたいと思うようになったんです。辞めてからは三宅裕司さん主宰のSET(スーパー・エキセントリック・シアター)の養成所に1年通い、いろいろと勉強させていただきました。
――エンターテインメントを学ぶ場として、SETを選んだのはなぜですか?
SETはミュージカル・アクション・コメディという3本を柱としているので、すごくおいしいなと思ったんです。僕はどちらかというとコメディが好きだったし、ミュージカルには芝居も含まれていますし、ここならトータル的に学ぶことができそうだなと。卒業公演では劇団員になるかならないかの審査があり、僕はそこで残ることはできませんでした。でもUSJ時代の仕事仲間に「長崎のハウステンボスでミュージカルをメインにしたショーをやろう」と声を掛けてもらったんです。1年間ハウステンボスで活動し、その後USJの演出家、金谷かほりさんに声を掛けていただいて再び大阪へ戻り、またしばらくUSJで活動していました。

『プロデューサーズ』で感じた、コメディ作品の持つ力

後藤晋彦
――キャリアの序盤はテーマパークを中心に活躍されていた後藤さんですが、近年はグランドミュージカルにも多く出演されていらっしゃいます。
USJに戻った頃に、ミュージカル『WICKED』がオープンしたんです。当時、外部からミュージカル界の猛者たちが集まっていたのですが、自分もオープニングキャストに入れてもらえたんですよ。「え、僕がこんな猛者たちと一緒にミュージカルに出させてもらえるなんて!」と驚きました。それまでにもミュージカルを観たことはありましたが、舞台に立つのはこれが初めて。そこから段々と興味を持って、当時の『WICKED』共演者の方たちに「機会があれば外部のミュージカルにチャレンジしたい」と相談したんです。すると「クニだったらいけるよ!」とポジティブな声を掛けてくれました。オーディション情報や履歴書の書き方など全部教えてもらって、念願叶って出演したのが宮本亜門さん演出、井上芳雄さん主演の東宝ミュージカル『ルドルフ・ザ・ラストキス』(2008年)でした。
――それがいわゆるグランドミュージカルへの初出演だったんですね。オーディションはいかがでしたか?
めちゃくちゃ緊張しました! 右も左もわからない状態で行って、わからないまま終わってしまって。そしたら「稽古は○日からです」と言われて「え? 合格なんですか? いいんですか?」みたいな(笑)。本当にびっくりしました。そこからどんどん繋がっていって、ありがたいことに「受けてみませんか?」とオーディション情報をいただけるようになったんです。「1回出演すれば繋がっていくよ」とアドバイスをいただいたことがあったのですが、その言葉通りになりました。
後藤晋彦
――それ以来多くのミュージカルに出演されていらっしゃいますが、特に印象に残っている作品は?
最近では、2020年の『プロデューサーズ』ですね。それまで比較的重厚な作品への出演が続いていたので、久しぶりのコメディだったんですよ。ゲイの役もあって自分の体を活かすこともできました。福田雄一さんの演出なので「まずはとにかく何でもやってみて」というスタンスの稽古。毎回アプローチを変えないといけないようなプレッシャーを自分で勝手に作ってしまって、稽古前に着替えているときに「今日はどうしよう……」とすっごく暗い気分になっちゃって(笑)。でもキャストみんなすごく必死に考えて変えてくるので、いざ稽古が始まるとバンバンウケるんです。そこからいろいろなものが生まれてきて、じゃあこういう演出にしましょうと決まっていく。そんな刺激的な稽古場でした。コメディだからこそ本気で真剣に取り組まなければいけないということを、改めて自分の中で思い出すことができましたね。
――『プロデューサーズ』はちょうどコロナ禍でエンターテインメント業界が大打撃を受けている中での上演でした。改めて、コメディ作品の魅力をどういうところに感じましたか?
やっぱり、“笑う”ということは一番体に良いことだなと思います。最近仕事で大阪に行ったときに新喜劇を観たのですが、ただただ笑うのって本当に気持ちいいんです。一人の観客として見たとき、「笑いを仕事にしている人ってなんてすごいことをしているんだろう」と改めて思いました。もちろんエンターテインメント全体が必要なものですが、中でもコメディというものは明日に繋がるパワーとなる大事なものだと思います。
止まらない筋肉愛「やっと時代が俺に追いついてきた!」
後藤晋彦
――2020年の春には、ご出演予定だった『エリザベート』がコロナ禍の影響で全公演中止となりました。
あのときは受け入れざるを得なかったですね……。でも、不思議と悲しい気持ちにはならなかったんです。上演できなかったことは本当に残念ですが、ずっとやってきた稽古の成果は次に繋がるものだと思うので。むしろ「時間ができて新しいことに挑戦できる!」とポジティブに捉えましたね。
――ちなみに自粛期間はご自宅でどんなことを?
筋トレですね。
――やはりそうなりますよね(笑)。
いろいろな資格を取ることもできたんですよ。プロテインマイスター、ダイエット検定、そして一番目指していたNSCA-CPTというパーソナルトレーナーの資格も。パーソナルトレーナーって必ずしも資格は必要ないんですけど、栄養学や解剖学といった知識を持っている人の言葉の方が、真実味があるじゃないですか。元々自分の体について勉強したいという想いもあったので、好きなことをじっくり学ぶ時間を過ごすことができました。
――もはや筋肉のプロですね! 筋トレを本格的に始めたのはいつ頃からだったのでしょうか?
最初は、学生時代にアルバイトでライフセービングをやっていたことから興味を持ったんです。それ以来筋トレは習慣となっていたのですが、USJでの出会いが本格的に鍛え始めるきっかけだったかもしれません。スタントチームとかターミネーター役の方とか、とにかくすんごい身体が大きい人ばっかりなんですよ! USJの中にトレーニングルームがあったので、そこに通いながらトレーニング仲間にいろいろ教えてもらいました。
――この連載「ミュージカル・リレイヤーズ」に前回登場された大嶺巧さんからは、“帝劇サイズの胸筋”だと伺っています。
なるほど(笑)。自分の体が舞台で活かされるようになったのは、ここ4、5年のことなんです。『ミス・サイゴン』(2012年)のオーディションで、海外のスタッフさんから「上半身の服を脱ぐ屈強な男性が必要なんだ。誰かいませんか?」と言われたので、手を挙げたんです。てっきりGI(アメリカ軍兵士)の屈強な男性の役かと思ったら、実はストリッパーの役だったんですよ(笑)。2幕のバンコクのシーンに登場する、革パン一丁で踊る“レザーボーイ”という役でした。その頃から自分の体が活かせる役を演じる機会が増えてきたように思います。

後藤晋彦

――後藤さんの出演作を振り返ってみると、確かに強そうな役が多い印象です。特に『フランケンシュタイン』(2017年、2020年)※では、後藤さんの自慢の胸筋を最大限に活かせたのでは?
※後藤さんは闘技場で怪物と戦う屈強な男チューバヤを演じていらっしゃいました。
胸筋ピクピクですね(笑)。あれは一度稽古場でやってみたときに、アクション演出の渥美(博)さんに「死ぬときに胸筋をビクビクビクビクってさせて死んでください」って言われたんです。なのであれは演出です(笑)。『モーツァルト!』でも、一瞬ですが胸筋を動かしているシーンがあるんですよ。
――『モーツァルト!』で共演された山崎育三郎さんからは、“ミュージカル界一のマッチョ”とお墨付きをもらっていましたね。
ミュージカル界には無駄のない引き締まった筋肉を持つダンサーさんがいっぱいいらっしゃいます! 僕はそれと違って無駄な筋肉がいっぱいついているんですよ(笑)。周りを見る限り、僕のような“ゴリゴリ系マッチョミュージカルアクター”はあまりいないですね。個人的に近いなと思うのは、最近『エニシング・ゴーズ』に出演していた さけもとあきらさん。よくトレーニング情報をTwitterで呟いています(笑)。ミュージカルに僕らのようなマッチョの需要があるのかわからないですが……(笑)。
――マッチョを活かせる作品がもうすぐあるじゃないですか!
そうなんです! ミュージカル『北斗の拳』に出演できるのがもう本当に嬉しくて。「やっと時代が俺に追いついてきたか!」と思いました(笑)。出演のきっかけは、『フランケンシュタイン』のチューバヤを見たプロデューサーさんからオーディション情報をいただいたことなんですよ。これは筋肉ありきでご連絡いただけたんだろうなと(笑)。
――『北斗の拳』のオーディションでは、やはり筋肉を見せるのでしょうか?
いや、筋肉は見せなかったです(笑)。一般的なミュージカルのオーディションのように、歌とダンスとアクションを。でも絶対に筋肉アピールは必要だと思ったので、ピチッピチのタンクトップを着て行きましたよ(笑)。そんな風にムッキムキなのは僕だけだったので、これはもう合格したなと。原作漫画『北斗の拳』ファンの方も劇場に来てくださると思うので、ガッカリさせないようにさらに鍛えていかないとですね!
――この連載では、毎回注目の役者さんを伺っています。後藤さんが注目している方は?
僕の推しは花岡麻里名さん。最初に出会ったのは『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で、彼女はダンサーとして出演していました。その後『グレイト・ギャツビー』で共演したときにペアダンスを組ませていただいたのですが、ダンスが苦手な僕にすごく丁寧に教えてくれて、何より僕のダンスを上手く見せてくれているなと感じたんです。『マタ・ハリ』でのソロ歌唱も素晴らしく、芝居に対してもすごく真面目。ダンサーという枠に囚われず、全てを吸収しようとしている尊敬できる人です。トレーナーとしても共通するところがあって、筋膜リリースのマスタートレーナーでもあり、ミュージカルを目指す子どもへのプライベートレッスンをしたりと、自分の体を周りの人のために使う姿勢が素晴らしいなと思います。
――最後に、後藤さんがこれから挑戦していきたいことを教えてください。
トレーニングして出来上がった体を活かした舞台に出たい、という想いがあります。コロナ禍でせっかく取れたパーソナルトレーナーの資格を活かしながら、トレーニングと舞台を両立できたらいいなと思っているんです。夢はいつか自分のトレーニングスタジオを持つこと。そうすれば自分のトレーニングに使えるだけでなく、舞台に出ていないときにトレーナーとして人に教えることもできます。最近、大阪のスタジオでパーソナルトレーナーとして登録させていただいたので、これからは少しずつ教える時間も持ちながら、自分の舞台も頑張っていきたいです。
後藤晋彦
取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=荒川潤

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