片岡仁左衛門と片岡千之助が語る、今
だからこその『連獅子』~歌舞伎座『
吉例顔見世大歌舞伎』取材会レポート

11月の歌舞伎座で、片岡仁左衛門と孫の片岡千之助が『連獅子』に出演する。狂言師右近後に親獅子の精に仁左衛門、狂言師左近後に仔獅子の精に千之助。『連獅子』と言えば、後半(後シテ)に狂言師が獅子の精となり、長い獅子の毛を振る場面の印象が強い。喜寿77歳を迎えた仁左衛門が、どのような親獅子の姿をみせるのか。開幕を前に取材会で、仁左衛門と千之助が思いを語った。
■35年の願いが叶う公演
『連獅子』について、「この年になったら、やりたいと思っていた」と仁左衛門は言う。
仁左衛門「35年前(1986年)、17代目の中村屋(勘三郎)のおじさんが喜寿記念として、勘九郎くん(18世勘三郎)と踊られました。それを見た時に、もし私が歌舞伎座で『連獅子』を踊らせていただける役者になれたならば、おじさんと同じ年の時に、倅(片岡孝太郎)と踊りたいと決めました。35年経ち、倅は女方になりました。それから私には、孫がおりまして」
千之助に目をやり、場を和ませる。そして「35年間抱いた願いが叶う公演です」と笑顔で語った。
初めて千之助と『連獅子』を勤めたのは、2011年6月。当時、仁左衛門は67歳、千之助は11歳だった。きっかけは千之助が仁左衛門に宛てた手紙だと振り返る。
仁左衛門「オーパ(仁左衛門)と『連獅子』をおどりたい、とメッセージをもらいました。その公演は、爺バカではありますが、小さい子供がよくがんばったなと大変嬉しく思いました。2回目(2014年)は、もっと成長してほしいという思いが、入り乱れました。身内の甘さと、先輩後輩としての厳しさが、難しいところです。そして彼は、21歳になりました。しっかりと踊ってもらわなくてはいけません。今までは作らなくても(実年齢どおり)仔獅子でしたが、今回は、そのあどけなさを芸で表す難しさが加わります。どこまで克服してくれるか、期待しております」
千之助にとっては、3回目の『連獅子』となる。
千之助「21歳というこの年にできる、自分のベストを尽くし、一生懸命に勤めさせていただきます。10年前に祖父と『連獅子』を、という願いが叶ったことへの喜びは、今も続いています。その嬉しさとありがたさの気持ちが大きいです」
初役で勤めたのは10年前のこと。
千之助「それまで祖父は、大先輩でありつつ、優しいオーパとしての存在でした。10年前の『連獅子』の稽古から、僕の中で祖父は、役者の大先輩という存在に変わりました。稽古では、仔獅子のように谷底に突き落とされるような感覚も、そして、そこから這い上がりたいという思いも経験しました。それが『連獅子』につながったように思います。今回は、仔獅子のあどけなさをいかに表現できるか。それが作品にあてはまるように踊ることを意識して、チャレンジを続けていきたいです」
「手紙をくれたのはいつ?」と仁左衛門。「小学4年生の時です」と千之助。
■仔獅子の若さと親獅子の貫禄
『連獅子』で意識するポイントは、前シテにあるという。
仁左衛門「親と子であり、兄弟に見えてはいけません。難しいのは、前シテで清涼山の話をする時です。お客様に、霊山の楚々たる風景、空気の冷たさをどこまで表現し、お伝えできるか」
そう語る仁左衛門を、35年前にひきつけた中村屋の『連獅子』には、どのような魅力があったのだろうか。
仁左衛門「劇場を包むようなあの雰囲気。このような空気を作れる役者になりたい、と思いました。おじさんの喜寿記念の演目でしたから、体力が充分にあったわけではありません。しかし、それを感じさせない親獅子でした。親獅子としての貫禄と、仔獅子がぴちぴちと跳ねる対比がとても素敵でした」
仁左衛門「私自身、昔のようには動けません。若い頃は、お客様に喜んでいただきたく、親獅子もひっちゃけになってやっておりました(笑)。しかし獅子は、例えるならばライオンと虎の間のイメージ。百獣の王である雄ライオンならば、ゆったりとしているものでしょう。子どもと同じように跳ねる必要はありません……と、いうのが、私の言い訳です(笑)。通常の『連獅子』を見慣れた方には、意外なものに見えるかもしれません。しかし、こういう『連獅子』もあって良いのでは? と、ご覧いただければと思います」
なお、本興行以外での歌舞伎俳優の最高齢は、中村富十郎の79歳(2009年5月の自主公演『矢車会』)だという。また、祖父と孫による『連獅子』は、戦後の本興行で、仁左衛門と千之助のみとなっている。
■困ったもんだ、でもね
仁左衛門は現在77歳。十七世勘三郎は、当時76歳だった。本興行では、仁左衛門が最高齢になる。会見の半ばに記者から知らされると仁左衛門は、「同い年かと思いましたが……困ったもんだ」と困り顔をみせつつ、「でもね」と柔らかな表情で続ける。
仁左衛門「矛盾しますが、役者は年ではありません。ただ先輩方の76歳は、芸を重ねて76年。私の77歳は、ただ時が流れて77年。大先輩の皆さんは、私くらいの時には皆さん大物でした。50代の写真を拝見してもどっしりとされています。父やおじさま方の年代の方々は、修行の積み重ねが違います」
平成26年9月歌舞伎座『連獅子』上より親獅子の精=片岡仁左衛門、仔獅子の精=片岡千之助  撮影:福田尚武
その違いを説明するのは難しいという。
仁左衛門「まず時代が違います。そして芸事はアナログなもの。ゼロやイチで数えられるものではありませんから、言葉にするのが難しい。芸を積み重ねた先輩方は、『なんか、ええなぁ!』という感じです(笑)。今も素敵だった先輩方の姿が目に浮かびます」
■請われる役者になってほしい
今の歌舞伎界を代表する仁左衛門を祖父にもつ千之助。どのようなところを受け継ぎたいか問われると、考えもしなかったというような表情を一瞬見せ、その後、謙虚な姿勢で、しかしまっすぐと答えた。
千之助「受け継げることがあるのならば、どんな形であれ全部です」
そんな祖父からの教えで、大切にしている言葉がある。
千之助「祖父からよく言われ、大切にしているのは『人に求められる役者になってほしい』ということ。僕の目標であり、モットーです。周りに求めていただけるのは、本当にありがたいことです。役者としてだけでなく人としても、求めていただけるようになることを大事にしたいです」
千之助へ、そして若い世代の歌舞伎俳優へ伝えたいことを問われ、マイクをとった仁左衛門。「人に請われる役者」について、思いを語る。
仁左衛門「お客様から『どんな役でも、あの人が出ていればこの芝居が楽しくなる』と思っていただける役者になってほしい。そのためには、まず役者仲間に必要とされること。可愛がってもらって必要とされるだけでなく、たとえ人としては嫌だなと思われても(笑)、『この芝居には、あの役者がほしい』と言われるほどの役者になってほしいですね」
そのためには大切なのは、「自分を磨くこと」。
仁左衛門「アンテナを磨き、吸収する。舞台に立つときだけでなく、観に行く時も吸収しようという姿勢です。私はいまだに、研究のために、開幕後の公演期間中もその芝居の先人の映像を、繰り返し見直しています」
仁左衛門「すでに何度も観た映像でも、残念ながら、その都度発見があります。なぜもっと早く気がつかなかったのか、という残念さ。分かったつもり、理解したつもりにならず、見直します。ただし映像は、動きは分かっても、その心までは分かりません。左から右を向くにしても、その時どんな気持ちなのかで芝居は変わります。映像を見る時は、ただ見て動きをなぞるだけではなく、心の内を考える気持ちを大切にしてほしいですね」
仁左衛門と千之助による『連獅子』は、歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』の第二部で上演される。浄土僧専念は、市川門之助、法華僧日門は中村又五郎という配役で、2021年11月1日(月)~26日(金)までの公演だ。
撮影の終わり際、「こういうのはいらない?」と千之助の肩に手をおく仁左衛門(右)と、笑顔がこぼれる千之助(左)。
片岡仁左衛門
スーツ、シャツ、ネクタイ (すべて)Ermenegildo Zegna
シューズ Paraboot
その他スタイリスト私物
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Ermenegildo Zegna カスタマーサービス 03-5114-5300
Paraboot 03-5766-6688
片岡千之助
スーツ ¥410,300、シャツ ¥80,300、ネクタイ ¥26,400 (すべて)LOUIS VUITTON
その他スタイリスト私物
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ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854

取材・文・撮影=塚田史香

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