女子高生が書いた揺れる想い~高校演
劇リブート企画第2弾『水深ゼロメー
トルから』演出家&出演者に聞く

子どもから大人へ変わるココロとカラダに揺れる10代の想いを、女子高生が等身大の言葉でつづった舞台『水深ゼロメートルから』が、2021年11月3日(水)~7日(日)、東京・下北沢 「劇」小劇場で上演される。
脚本は、執筆当時、徳島市立高等学校の生徒で演劇部に所属していた中田夢花。同作は、2019年の第49回四国地区高等学校演劇研究大会で、最優秀賞の文部科学大臣賞を受賞した。『アルプススタンドのはしの方』(2019)に続き、高校演劇をリブートするプロジェクトの第2弾として企画された本作では、大学生になった中田自身が、脚色も担当。出演者は、オーディションで選ばれた濵尾咲綺、宮﨑優、仲吉玲亜、花岡すみれのフレッシュな女子高生役4名に加え、彼女たちの先生役は椙山さと美が演じる。演出・美術は、「虚構の劇団」メンバーで、主宰する「EPOCH MAN」でも活躍する小沢道成が手掛ける。このほど、演出の小沢、そして出演の濵尾、仲吉、花岡、椙山に、舞台のテーマや見どころ、意気込みについて聞いた。
【あらすじ】故障中で水の入っていない高校のプールの底を、水泳部で2年生のチヅル(宮﨑優)が、服を着たまま腹ばいになって進んで「泳いでいる」。大会をイメージした練習のつもりだ。プールサイドには、同じ2年生のココロ(濵尾咲綺)とミク(仲吉玲亜)が、体育の補習で体育教師の山本(椙山さと美)から呼び出され、グラウンドから飛んできた砂が積もったプールの清掃を指示される。その手伝いのために、引退した元水泳部部長で3年のユイ(花岡すみれ)もやって来る。女子高生4人の何気ないガールズトークから、見た目や「女らしさ」への悩み、気になる男子のことや生理の憂鬱など、それぞれが抱える思いが浮き彫りになり、交錯する……。
■女の子らしく VS 自分らしく
―― それぞれの役柄のご紹介と意気込みを。メイクに余念がなく、「一軍女子」と呼ばれているココロを演じる濵尾さんからお願いします。
濵尾 ココロは、人に見られる意識が他の人よりも強くて、「女の子は可愛くなくてはいけない」という固定観念にとらわれている子です。一見、明るいJK(女子高生)で「陽キャ(陽気なキャラ)」だけど、プールにまつわる、ある嫌な思い出や、生徒を縛る先生のやり方にも不満を抱えている。そのギャップを出していきたいです。ココロと同じように、私もメイクしたり、髪を巻いたりするのが好き。誰かのためではなく、自分のために楽しめるようになれたらいいな、と台本を読んで改めて思いました。
濵尾咲綺
―― 一方、ココロの対極の存在がミクです。「何するにしても男女なんか関係ない」と思っていて、幼い頃から親しむ阿波踊りでは、ダイナミックな「男踊り」を踊っている設定。演じる仲吉さんは、そんな彼女をどのように見ていますか。
仲吉 ミクは他の女子高生と比べると、少し落ち着いていて物静かな方。やっていることが本当に合っているのか、常に不安で、自分に自信がないタイプだと思います。
―― 劇中でも、人の目を気にしていますね。オーディションでは、ミク役を演じてみたいと言ったそうですね。
仲吉 ええ、素の自分と似ていないと思ったので、そう言ったのですけれど。台本を掘り下げて読んでみたら、軸が揺れていて、人の意見に流されやすいところは、私とよく似ていると気がつきました。
仲吉玲亜
―― ココロとミクよりも1学年上のユイ役・花岡さんはどうですか。
花岡 先輩感を出していきたいです。1年分だけですが、人生経験が長いので、それを言葉ににじませることができたら。
花岡すみれ
―― 校則を破ってメイクをするココロに厳しく接する山本先生は、どういう人物だと、演じる椙山さんはお考えですか?
椙山 山本先生は、この作品に出てくる唯一の大人。生徒とは違う目線で、「大人だから」「先生だから」という枠組みに縛られて、葛藤を抱えている。そんな彼女が生徒たちとどう向き合っていくか、見てほしいです。
椙山さと美
―― 演出の小沢さん。高校演劇の舞台化に当たっての意気込みを教えてください。
小沢 まず、中田夢花さんの言葉を大切にしたいです。当時高校生だった中田さんが書かれた言葉や想いが台本に溢れています。
―― 女子高生役はフレッシュな顔触れがそろいました。
小沢 舞台経験がないと言うけど、みんな芝居がうまいです! 「分からない」「答えを知らない」ということは、魅力的なことでもある。この作品では、山本先生すら答えを知らない。そんな人たちが、水のないプールで必死に足掻く姿が、とても素敵だと思います。
―― 舞台美術に関しては、どんなプランを考えていますか?
小沢 映画やドラマだと、実際に水のないプールで撮影されると思います。でも、演劇だったら、実際に目に見えるプールは必要ないのでは。そこからスタートして美術のプランを立ち上げました。「プール」という空間を作り上げるのは、舞台上の俳優たちだと。彼女らが何に悩み、コンプレックスを抱いているのか。そんなイメージが浮き彫りになる舞台装置や美術を考えています。
小沢道成

■自分にとっての「水深ゼロメートル」
―― 演劇ならではの仕掛けがあるのでしょうか? 本番が楽しみですね。今、お話が出たように「水深ゼロメートルのプール」が、この舞台の象徴だと思います。そこで、皆さんにとっての「水深ゼロメートル」をお伺いします。
花岡 今、パッと浮かんだのが、東京の街。私は地元から東京に行くことが、大きな目標でした。でも、上京しただけで自分から働き掛けないと、何も状況は変わらない。新宿や渋谷の雑踏にいると、自分がどこへ向かっているのか、たまに分からなくなる。そのときの感覚と、「水深ゼロメートル」が似ていると思いました。
―― 私も、渋谷のスクランブル交差点を歩いていて、そんな気持ちになったことがあります。
濵尾 私は、朝起きるときのベッドの上かなって思いました(笑)。朝がすごく苦手で、起きたい時間の30分前から5分おきにアラームの音楽を変えて、10センチ、20センチ、30センチ……と起き上がっていくんです(笑)。
―― 面白いですね! 少しずつ浮上していく感じ、とてもよく分かります(笑)。
仲吉 私の場合は、「普通の高校生に戻りたい」と思って、気持ちが一番下がったときが、「水深ゼロメートル」でした。友達や母の励ましの言葉で、芸能界を目指した初心を思い出して、浮上できました。
―― 椙山さんはどうでしょう?
椙山 今、自分の見えている目線が「水深ゼロメートル」というイメージです。自分の現在地というか。そこから、目指している目線に足を着きたい。「10で」とお話が来たら、「100にして返す」気合いは、人一倍持っているつもりですけれど、いつも誰かに声を掛けてもらうのを待っている感じで、受け身であることが多かった気がします。目指す場所へ行くためには、相手にもっと自分の意思を積極的に伝えていかなければ、と考えています。
―― 私にとっての「水深ゼロ」は、「電池残量ゼロ」状態。動けなくなってしまうイメージです。
小沢 「ゼロ」という数字がそもそも何も無い状態なので、マイナスにとらえがちですよね。何もない、何者でもない自分になりたくないから、ゼロの方へ行きたくない。創作する過程も、いつもゼロからのスタート。焦るんですよ、ゼロという状態は。何とか「1」や「2」にしたい。でも、考え方を変えると、ゼロは無限の可能性を秘めている。何をやってもいいと、言い換えもできるんですよね。だからゼロをどうとらえるかは、自分次第。余談ですが、僕が落ち込んで寝ていたとき、母からこう言われたんです。「疲れたら寝てていい。そのうち、おなかが空いたら、食べ物を買いに行こうとするでしょ。その一歩から始めればいい。無理に頑張らなくてもいい」って。
―― 今のお話を伺って、この作品に登場する女子高生たちは、まさに「水深ゼロメートル」にいると思いました。まだ何者でもない自分に葛藤して、「見た目」や「らしさ」の中で揺れ動いているのではないでしょうか。
椙山 私が高校生だった頃は、自分が女性であることをシンプルに考えていて、男性と女性を明確に区別していました。それが普通だと思っていましたし。でも、10数年経って、女子高生を演じる彼女たちと話をすると、「男らしさ」「女らしさ」というジェンダーの問題は、今の高校生たちにとって、とても敏感に思うテーマなんだなと感じました。
―― 「女って見た目よな」「見た目が醜かったらさ、生きたいって思っても、生きることすらできんやん」。台本にも、外見によって人を判断する考え方「ルッキズム」のせりふが散りばめられて、思わずドキッとしました。
濵尾 それは全部、ココロのせりふですよね。でも、そういうことを言うココロだって、自分に自信がない。だから、校則で禁止されているのに、あそこまで濃いメイクをするんだと思います。
仲吉 ミクの視点でいうと、すごく難しい。「女らしさ」と言われると、「どういうこと?」と疑問に思うところがあって……。
―― どういうところですか?
仲吉 「みんな違っていい」と個性を肯定する割には、女の子が男っぽい格好をしていると「メンズライク」と呼ばれて、カッコイイと言われる。でも、反対に男の子が女っぽい歩き方やメイクをすると、ネガティブにとらえられる気がしています。性別によって自分のやりたいことが、周囲の反応の違いで、やりにくくなるのは、なんか違うかなって……。
花岡 私は先輩-後輩の関係にこだわるユイの姿を見せていきたいです。男女の違いではなくて、年齢の違いや才能がある/なしとか、そういう別の一面を出せたらと思います。
―― それでは最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
小沢 登場人物たちはみんな意見が違うので、どの言葉に共感するのかを通じて、考えるきっかけになると思います。あなたにとっての「水深ゼロメートル」は何ですか?という問い掛けも含めて、見ていただきたいです。
仲吉 女子高生たちが、学校のプールサイドで何気ない日常会話を繰り広げているだけで、特に何が起きるわけでもない。でも、誰かが投げ掛けた言葉をきっかけに、波紋が広がるように、彼女たちの気持ちが少しずつ変わっていく。最初は「水深ゼロメートル」にいたのに、足掻いているうちに前向きになっていく。その姿を見て、何かを感じてもらえたらうれしいです。
濵尾 正解はないかもしれないけれど、登場人物の誰かに共感できて、前向きな気持ちにきっとなれると思うので、ぜひ見に来てください。
花岡 ユイはあと半年で「JK」を卒業してしまう役で、「まだJK」という謎の自信がある一方で、「もっと頑張っておけば良かった」という後悔も抱いている。ユイのように、後悔を引きずったまま、大人になった方もたくさんいると思います。「そのままでもいいんだな」と肯定される部分も、この舞台にはあるので、劇場に足を運んでほしいです。
椙山 10代の思い出がよみがえったり、新しい発見があったりして、きっと自分自身を見つめ直せるきっかけになると思います。登場自分たちの言葉や叫びを、生の芝居で感じてほしいです。お待ちしています!
(前列左から)仲吉玲亜、濵尾咲綺、花岡すみれ(後列左から)小沢道成、椙山さと美

取材中、私は自分自身の高校時代を思い返していた。傷つき、悩み、笑い、恋をした、あの濃厚な3年間。青春の一刻の輝きを結晶化させたこの舞台は、多くの人に響くはずだ。青春まっただ中の人たちにも、かつて高校生だった大人たちにも。
取材・文=鳩羽風子

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