luzの貪欲なる表現欲求を具現化、“
信仰”を意味する『FAITH』と名付け
られた4thアルバムを紐解く

古今東西、地球上のあらゆる民族や社会の中で“宗教”が存在しない例というのは、歴史学や人類社会学などの見地からみると見事なほどに皆無なのだそうだ。
たとえば、この2年近い日々の中で世界中の人々が願ってきた疫病退散の思い。そして、昔から日常の場面で繰り広げられてきた雨乞いや日照り乞い。まさにこれらは最も原始宗教に近い“願い”の典型的な例だと言えるのではなかろうか。また、自分の周囲で新しい命が生まれれば祝い、近しい間柄の人間が亡くなれば弔うという、おおよそ“あたりまえ”の習わし。これも人間が有する死生観から生まれた、宗教的な行いのひとつであることは間違いないと思われる。
それではここから本題に入らせていただくとしよう。今年で活動開始から11周年を迎えているluzが、このたび10月27日に発表する4年ぶりのアルバムには、なんと信仰を意味する『FAITH』というタイトルが冠せられたのだが、この事実は実に興味深い。
人々を蠱惑するような甘い歌声と、カリスマティックなパフォーマンスを駆使しながら、ライブ空間を独裁的に完全支配することが出来る人物・luzが、信仰やそこにともなう愛をテーマに教祖であるluzの目線からうかがえる光景、信者(ファン)たちからの目線の有り様、はたまた曲によって第三者から見えるluzと信者たちの姿と、計3つの視点を交えながら徹底的に描き切っている今作。10周年を経て11年目のあらたな境地に踏み込み出したluzの挑戦的とも言うべき貪欲なる表現欲求が具現化したものとなっており、各曲の仕上がり具合やluz自身がしたためている歌詞の内容からも、それは存分にうかがい知ることが出来る。
luz
<“我”を捧げろ>という強烈な一節や<キョウソスウハイ キョウアイ>というカルトなコールが響きわたる圧巻の表題曲「FAITH」で幕を開ける今作は、ボカロP・kemuとしてもシーンに多大なる影響力を与えてきたPENGUIN RESEARCH・堀江晶太をサウンド・プロデューサーに迎えた1枚となっている。この曲ではそんな堀江のコンポーズとアレンジメント、さらにはluzの書く秀逸な詞世界が、いきなり冒頭から絶対的な空間を生み出すことになっているのだ。
日本のロックシーンの最前線で邁進し続けている、THE ORAL CIGARETTES山中拓也からの楽曲提供によるラウドな轟音と背徳の香りが漂う歌詞を、luzが絶妙なサジ加減のボーカリゼイションにて刹那的に表現している「SPIDER」。良い意味で一癖も二癖もある作風が身上のケンカイヨシによる刺激的な色合いの曲と、このアルバムにおける重要フレーズ<キョウソ スウハイ>を何度も織り込み独特な世界観を形成する歌詞が響く「涅槃」。昨年から、教祖=luzを崇めるための曲としてライブの場では信者=ルスナーたちが熱狂的に髪を振り乱しながら秘儀に興じる姿がすっかりお馴染となっている、ヘヴィなアグレッシブチューン「FANATIC」。もともとluzがいちファンとして愛聴していたという、シド・明希が御恵明希として楽曲提供をしたうえで、luzと歌詞を共同で書いたというスリリングにしてドラマティックな「Void」。Royal Scandalでもluzとは良いチームワークを組んでいる奏音69が、得意の華やかな音像と物語性の強い歌詞でライブの情景を毒気たっぷりに描き出し、luzがそれを意図的に軽やかに歌いあげてみせる「ブラックレディー」。絶望というタイトルを掲げながらも、賛美歌にも似た雰囲気を放つ冒頭のコーラスワークと、<絶望の巡礼 瓦礫の中で 君を見つけた 罪も罰も 今 歌になれ>というくだりをもって、今作における最終的な救済と癒やしの歌として聴き手の心をリカバリーしてくれる、爽快感に満ちた「Despair」。
おそらく、このアルバム『FAITH』を一通り聴き終わった頃、ほとんどの人はひとつの悟りのようなものを得ることになるのではないか、と思えてならない。宗教だの信仰だのという単語を使うことによって、時に問題がややこしくなってしまいがちな傾向があるとはいえ、コトの本質自体はもっとシンプルで“自分は何を大切に思っていて、何をよすがにして生きているのか”ということがわかりさえすれば、さらにはその事実を自分自身できちんと認めることが出来れば、人は誰でもある種の悟りに近づくことが出来るはず。
そう、要するにこのアルバム『FAITH』を聴いて「やっぱり自分はluzの生み出す世界が大好き!」と感じたり、luzの歌声に対して「自分はこの歌に救われている」と自覚したり、あるいはもっと具体的に「luzをもっと応援したい!!」と決心したり。そうした心の動きは、それぞれの人にとって“今の自分を知ること”であり、それぞれの人にとっての前向きな自己肯定感にもやがてはつながっていくのではあるまいか。
luz
宗教音楽。宗教美術。宗教建築。宗教文学。宗教から生まれた多くの芸術と文化はどれも素晴らしく尊重すべきものであり、広く見渡せば被服デザインや食文化など、生活全般に至るまで宗教から派生したさまざまなファクターが、人間にもたらしたものは数知れない。一方で、宗教には政治の道具にされてしまったり、戦争のエクスキューズとして使われて来てしまっている側面もあるにはあるが……。信じるもの・愛するものへの尊敬と畏怖を持つという、人間が根源的に持っている心理欲求そのものは、良くも悪くも人間が生きている限りなかなか捨て去れない概念だとも解釈が出来る。
ちなみに、日本には信じる者と書いて“儲ける”という単語が存在するため、そのことだけは何とも皮肉だなと思う反面、好きなものや推しの為の課金や手間であれば一切何も厭わない!というファン心理もまた、正真正銘の信仰心であるのだろう。そうした意味からいけば、luzのアルバム『FAITH』は既存ファンたちの信仰心をより加熱させ、それだけでなく新たなる信者たちを取り込むための啓蒙作品としても強い効力を発する、圧倒的なバイブルに仕上がったと言えそうだ。
愛に飢える者たちよ、迷える者たちよ、興味を抑えられない者たちよ。ここはいっそ、「FANATIC」の歌詞のごとくluzに<シンコウヲ シメシナサイ>。

文=杉江由紀

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