松本幸四郎と片岡愛之助、冬の風物詩
である京都南座での『吉例顔見世興行
』への思いを語る

京都の冬の風物詩でもある『京の年中行事 當る寅歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』が南座にて12月2日(木)より幕を開ける。今年は三部制で、第一部は昨年11月に亡くなった坂田藤十郎の三回忌追善狂言として、藤十郎の孫である中村壱太郎らが出演する「晒三番叟(さらしさんばそう)」と長男の中村鴈治郎と次男の中村扇雀、そして中村梅玉も顔を合わせ「曽根崎心中」を上演。第二部では、中村芝翫、片岡孝太郎、中村隼人による「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」と、片岡仁左衛門と中村芝翫が夫婦を演じる「身替座禅(みがわりざぜん)」を上演。そして第三部では片岡仁左衛門監修による「雁のたより」と、「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」を松本幸四郎、片岡愛之助らが勤める。「雁のたより」は滑稽味のある世話物で、最後にはまさかの大逆転も待ち受ける上方歌舞伎の代表作。「蜘蛛絲梓弦」は土蜘蛛退治を題材にしたスペクタクルに富んだ舞踊劇で、五役の早替わりも見どころだ。先日、開幕を前に松本幸四郎と片岡愛之助がそろって大阪での取材会に出席し、『顔見世興行』への意気込みや、坂田藤十郎、そして今年5月に亡くなった片岡秀太郎への思いを語った。
『雁のたより』幸四郎の髪結三二五郎七 (c)松竹
「雁のたより」で髪結三二五郎七役を初めて勤める幸四郎。三二五郎七はかつて坂田藤十郎が演じていた役でも知られている。「(三二五郎七役を勤めることを)誰よりも一番驚いているのは僕だと思います。会社からお話をいただいたので、自分から(やりたいと)言った役ではありません(笑)。ただ、お話をいただいて、断らない自分の勇気をほめたたえたいと思っております(笑)。歴史のある歌舞伎の中でも東京の俳優が演じるのはおそらく初めてではないでしょうか。それくらい無謀なことだと私自身、認識しているということを御承知の上で、皆さまに温かくご覧いただきたいと思います」と幸四郎。
幸四郎は、坂田藤十郎による「雁のたより」を初めて観て、その物語に衝撃を受けたという。その後、幸四郎は2014年の福岡・博多座で若殿前野左司馬役を、2018年には南座で若旦那万屋金之助役を勤めた。「今回は松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門)が監修で、十三世仁左衛門さんの襲名披露公演で上演した際の演出でやらせていただくことになりました。「雁のたより」はこれぞ上方歌舞伎というお芝居だと思います。三二五郎七という役になりきって、また上方俳優だと思い込んで、そして誰よりも楽しんで勤めるとことに尽きると。せっかくいただいたチャンスなので、精一杯勤めたいと思います。また、愛之助さんをはじめ上方の俳優さんに出ていただくことが支えになります。自分も上方俳優だと思いながら勤めさせていたただこうと思います」と意気込んだ。
松本幸四郎
三二五郎七が大役であるということについては、「(役を)勉強するなかで二枚目であり三枚目という言葉を見つけました。それは、面白いことをするということではなく、その人物がやっていることが面白く見える、面白く感じられるということだと思うので、決して笑わせるのではなく、お客様に笑っていただくような役になれば」と展望を語り、続けて「このお芝居は日常的な生活感もあると思うので、「東京の俳優が上方の言葉をしゃべって、上方のお芝居をやる」ということを超えたところを目指したいと思います」と目標を語った。
そんな幸四郎が「蜘蛛絲梓弦」では源頼光を勤める。
「僕自身は「雁のたより」の三二五郎七よりも源頼光のイメージが強いのではないかと自分では思っていますが、最近は比較的おもしろい役をやる俳優というイメージに変わりつつあるので、この二つの狂言を一度に観ていただけるのはありがたいです。「蜘蛛絲梓弦」は歌舞伎を観たという実感が味わえるお芝居ではないかと思いますし、一年の最後に、見納めとして観ていただくものとしては最たるものだと思っています」と笑顔を見せた。
一方、愛之助も「雁のたより」の若旦那金之助は初役となる。「今回は松嶋屋の本で演じるということで、成駒家さんとは違うので、そこは非常に楽しみです。そしてすっかり上方俳優である幸四郎さんとお芝居ができることは、上方俳優として嬉しく思います(笑)」と冗談も交える。
令和元年10月歌舞伎座『蜘蛛絲梓弦』愛之助の蜘蛛の精 (c)松竹
愛之助は「蜘蛛絲梓弦」で五役を演じ分け、そのうち傾城薄雲太夫という女方も演じる。薄雲太夫は幸四郎が勤める源頼光と手と手を取り合うシーンもあることから、「幸四郎さんと男女の役で見つめあうというのは久しぶりなので、楽しみですね(笑)」と共演を心待ちにしている様子だ。続けて、「「蜘蛛絲梓弦」は劇場によって(舞台への)出入りが変わります。できるだけお客様に楽しんでもらえたらと思いますので、今回は南座の劇場に合った出入りをしたいと。それは観てのお楽しみです」といざなった。
そんな二人は藤十郎への思いをますます募らせる。「山城屋のおじさま(藤十郎)がいらっしゃらないということがすごく不自然だと去年の『顔見世興行』に出させていただいた時に強烈に思いました。それだけ存在が大きかったのだと改めて思います。ただ、『顔見世興行』はこれからも続いていきます。おじさまがやられてきたから、今年も上演できます。第一部でも追善と銘打っていますが、おじさまのすごさを知ってもらうためにも舞台に立っていきたいです」と気を引き締める幸四郎。
藤十郎との思い出がたくさんあるという愛之助は、約10年前の『顔見世興行』での一幕を教えてくれた。「楽屋で「あなた、「雁のたより」をやりなさいよ」と言われて。まさか自分にと思いましたが、先輩に言われて否定するのもよくないと思って、「機会があれば教えてください」と約束しました。結局、その時の約束は果たせませんでしたが、今後、幸四郎さんのように私も(三二五郎七を)演じる機会があれば、鴈治郎兄さんに教わって成駒家さんのやり方で勤めさせていただいたり、今回と同じく松嶋屋の本で上演する際は幸四郎さんやうちのおじ(仁左衛門)にも伺ったりしてやりたいと思います」
片岡愛之助
今年5月に亡くなった秀太郎へも次のように語った。幸四郎は「秀太郎のおじさまにはいろいろ教わって、一緒に出させていただいたことなど思い出がたくさんあります。去年の『顔見世』が最後になってしまったことが残念で悔しくてなりません。ただ、今度の「雁のたより」ではお弟子さんの片岡千壽さんが愛妾司を勤められ、松嶋屋の演出で上演されます。今年の7月(大阪松竹座『七月大歌舞伎』)では(亡くなったことを)信じないと思って舞台に立っていましたが、この『顔見世』では追善の思いも込めて勤めたいと思います」と、感謝の気持ちを込めた。
1993年に秀太郎の養子になった愛之助は、「僕としては今年、父のいない『顔見世』が初めてで、いまだに信じられず、今回もどこかから出てきてくれそうな気がします。もっといろんなお芝居を一緒にしたい、いろんなことを聞きたいと思っていた矢先の事で、そういったことももう叶わないので、あとは(片岡)我當のおじや仁左衛門のおじに教えていただきたいと思っています。父は天国から見守ってくれていると思って、すべての役をしっかりと勤めたいと思います」と前を見据えた。
『京の年中行事 當る寅歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』は12月2日(木)から23日(木)(7日(火)、15日(水)は休演日)まで南座で上演される。
取材・文=Iwamoto.K

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