人が人を観るおもしろさ、その醍醐味
を伝える大竹しのぶ主演『ザ・ドクタ
ー』観劇レポート

生身の人間同士が目の前でセリフを交わし、互いに反応し合う。大竹しのぶが主演する『ザ・ドクター』は、そんな人の姿を見守ることのできる劇場という空間、そこに身を置くおもしろさを堪能できる優れた会話劇である。イギリスの演出家/劇作家ロバート・アイクが、アルトゥル・シュニッツラーの『ベルンハルディ教授』をもとに、現代のさまざまな問題を加えて構成したこの戯曲。演出の栗山民也は、11人のキャスト全員から、高い目的意識をもって作品を観客に届けようとする演技を引き出し、2時間55分(休憩含む)の上演時間中、一本のロープがピンと張られた様を思わせるような、緊張感に満ちた舞台を作り出している(10月31日13時の部、彩の国さいたま劇術劇場大ホール)。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
医師ルース・ウルフ(大竹しのぶ)は、医療機関エリザベス研究所の創設者で所長。自ら妊娠中絶を試みて失敗した14歳の少女の看取りを前に、カトリックの神父ジェイコブ・ライス(益岡徹)が臨終の典礼を授けにやってくる。医師としての信念から神父の病室への入室を拒むルース。このときの対応が、彼女を波乱へと巻き込んでいくこととなり——。

撮影:宮川舞子
一瞬の出来事が、録音され、インターネットで拡散される。そして、宗教、人種、ジェンダー、セクシャリティといった論点から論じられる大事件へとなり、ルースは窮地に立たされる。医師としての強い信念、職業倫理に基づいて行動する主人公を演じて、大竹しのぶがきりっと理知的な一面を見せる。輝かしいキャリアをもつ一方で、プライベートをあまり公にすることはない彼女が、次第に見せていく素の顔。——そして語られる痛切な愛の記憶が心を打つ。大竹のその演技は、決して完璧な人間というわけではない主人公の、人としての重層的な魅力を描き出すことに成功している。

撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
さまざまな立場の人々と対峙することとなるルース。栗山の演出は、誰かを敵、誰かを味方とするのではなく、人それぞれにそれぞれの信念、立場があるということを基本ニュートラルに描き出してゆく。だからこそ、活発な議論が交わされるこの会話劇を見守るうち、登場人物一人ひとりの言動に対し、——自分ならどう考え、どう判断するのか、観客一人ひとりが刺激的な思考の機会を与えられることとなっていく。そして、この作品で描かれる状況、すなわち、さまざまな意見をもった人間が議論を交わす状況とは、この広い世界の縮図にも重なるということが見えてくる。カトリック、ユダヤといった単語が飛び交うけれども、このイギリス発の作品は、決して日本に住む我々と遠い話ではない。
撮影:宮川舞子
——我々一人ひとりは、今のこの社会において、どう生きていったらよいのか。そんなシンプルな問いを投げかけてくる、人間存在に対する哲学的考察をはらみつつも実にアクチュアルな作品である。そしてシンプルに、人が人を観ることの飽くなきおもしろさがそこにある。2021年を代表する作品のひとつとなるであろう舞台である。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
本公演は2021年10月30日(土)埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて開幕。11月4日(木)からは東京・PARCO劇場にて上演。その後、兵庫、豊橋、松本、北九州でも行われる。
文=藤本真由(舞台評論家)

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