山田裕貴「愛によって何が生まれるの
かという話だと感じています」~音楽
劇『海王星』インタビュー

死後38年たってもなお、人々の心を掴み続けている寺山修司。歌人であり、アングラ演劇のカリスマでもあった寺山が演劇実験室「天井棧敷」結成前の1963年に書き、未上演だった音楽劇『海王星』がついに初演される。出港しない船上ホテルを舞台に、主人公・猛夫、その父・彌平、彌平の婚約者・魔子の3人を中心に繰り広げられる、甘く悲しい恋の物語。山田裕貴、松雪泰子ユースケ・サンタマリアをはじめとする豪華キャストの競演に加え、志磨遼平(ドレスコーズ)のオリジナル楽曲&生演奏も話題だ。本作に主演する山田裕貴に、作品に対する思いを訊いた。
ーー寺山修司といえば、いまだに根強いファンも多い巨匠です。山田さんは映画『あゝ、荒野』('17年)に続いての寺山作品への挑戦ですが、寺山作品に対してどんな印象をお持ちですか。
その質問、ぜったい来ると思っていましたが……寺山修司さんを愛している方はたくさんいらっしゃるので、僕が寺山さんを語ることはできないと思っています(笑)。でも以前『あゝ、荒野』に出演した時に感じたのは、愛を欲している人のお話ということ。今回の『海王星』も、愛によって何が生まれるのかという話だと感じています。寺山さんは、根底に“愛”というものがある作品を書かれる方なのかな、という印象です。
山田裕貴
ーー『海王星』も、愛の物語ですか。
ストーリーをストレートに捉えると、人間の愛憎が入り乱れた話です。でも僕が感じたのは「愛って何?」「愛を求めたことで、何を生むの?」という感覚でした。それって、人にとって永遠のテーマだと思います。恋愛だけでなく様々な愛情がこの世には溢れている。もちろん誰もが経験する恋愛という愛の形も見せつつ、本当に、愛ってなんだろう……と悩んでしまう物語です。愛憎は表裏一体と言いますが、僕は本当の愛情は見返りを求めない“無償の愛”だと思っていて、そこに憎しみが生まれるということは、愛ではなく、それは欲なのではないか……ということまで考えさせられました。
ーー演じるのは灰上猛夫という青年ですね。まだ本格的な稽古前とのことですが、ご自身と重なるところはありそうですか?
現時点では、猛夫と父である彌平との関係性が自分自身とも重なりそうだなと思っています。色々な家族の形、色々な父と子の形がありますし、“普通”とは何か、正直わからないところもあるのですが、自分も小さい頃から、父との関係性が「普通ではない」と感じていました。父の存在がコンプレックスでもあり、尊敬するところもあるので、そこは猛夫とシンクロするところかな。魔子さんの台詞で「あなたはお父さんから作られたんじゃない。自分が自分を作るんだから」というものがあります。それは僕自身も普段から感じているところでもあり、とても共感するところ。おそらく誰もが感じたことがあるであろう感情を掬い上げる言葉が散りばめられているなというのは『あゝ、荒野』でも感じました。こういうところも、寺山作品が人の心を打つポイントかもしれません。
山田裕貴
ーーちなみにこの『海王星』へのご出演のお話があった時、どんな点に一番惹かれましたか?
うーん……僕、まだそんなにお仕事を選べる立場ではないですし、超無欲な男なので(笑)、「こういう作品だからやりたい」とか、「映画だから、舞台だからやりたい」というようなものがないんです。何よりも、声をかけていただいたことが嬉しい。求められないと頑張れないタイプなので(笑)、やりませんかという愛をもらったことで、頑張れる。作品に惹かれる前に「僕に何故この作品を」と考え、そこから本を読んだり考えたりし始める。今回も「じゃあ脚本を読んでみよう、なるほど素敵だな」「音楽劇なんだ、じゃあ歌を歌えるんだ」「最近舞台やっていなかったな、そろそろやりたいな」とか色々なめぐり合わせの中で実現した形です。でもあえてひとつ挙げるとしたら……共演者の方でしょうか。松雪さんが魔子さん、ユースケさんがお父さん、それを知ってやらせていただきたい、と思いました。
ーーなるほど、山田さんの俳優としての姿勢も垣間見れた気がします。では、今お話に出た松雪泰子さん、ユースケ・サンタマリアさんの印象を聞かせてください。
おふたりとも「ずっとテレビで見ていた人」という印象です(笑)。ユースケさんは『あゝ、荒野』でもご一緒させていただきましたが、ボクシングの試合に僕が集中しているシーンでお会いしたので会話はほとんどできませんでした。でも昔から色々なタイプの役柄を演じていて、さらにバラエティでもユースケさんにしかない感覚がある。それを肌で感じてみたいと楽しみにしています。
松雪さんは僕が出演していた舞台『終わりのない』('19年)を観に来てくださいました。そのあとで『海王星』のお話をいただき、松雪さんの名前を見た時に、僕と一緒にやってくださるんだ、もしかしたら『終わりのない』を観て認めてくださったのかなと感じ、色々な思いが沸き上がっています。この共演を通しお二方の、俳優さんとしてだけではなく人間的なところを知りたいなと思っています。
ーー今回は音楽劇だというのも注目です。すでに歌稽古は始まっているとのこと、山田さんがソロで歌うシーンもあるようですが……。
以前一度だけミュージカルに出演しましたが、だいぶ前なので、舞台で歌うのは久しぶりです。歌に関して、今の僕はまだ全然イケてないと思いますが、でも僕、とにかくカラオケが大好きなんです! 歌えることに対しての喜びはすごくあります。ただ、音楽劇ということでおそらくミュージカルとは少し違ってくると思います。歌を綺麗に届けることを重視するのか、それとも多少歌が乱れたとしても役の思いを届けることが重要なのか……もちろんきちんと歌えること、きちんと役の感情をもった上で歌うことは大前提ですが、どちらの比率が大きいんだろうというところを、演出の真鍋(卓嗣)さんにうかがいたいと思います。
山田裕貴
ーー志磨遼平さんが手掛けた音楽の印象は?
すごく儚く悲しい感覚があります。これを舞台上で歌うと、どんな空気、どんな世界になるんだろうと感じています。楽譜を読むことができない僕から見ても志磨さんの楽曲は「えっ、次この音が来るんだ」「この間で入るんだ」という面白さがあります。それを僕が猛夫としてどう魅せていけばいいのだろうと考えています。あと自分の中で一番低い声くらいの音があるので、その音も舞台でちゃんと届けられるようにするというのは、日々勉強です。ただ、歌から「猛夫はこういう人だ」と思い込んでしまうのは危険だなと思います。今は歌稽古を行っていますが、ここで研鑽を積んだ上でいったん歌は忘れ、お芝居の中で感じたことに重きをおいて猛夫という青年を作った上で、もう一度歌のことを考えられたらいいなと思います。
ーー現段階の、役作りのプランは?
僕、役作りついてあまり考えたことがありません。いつも役を作るのではなく、「魂まで変われ」「俺、消えろ」と思って演じています。あとは灰上猛夫という人物を、どれほど考えられるか。この言葉を発するのにどんな音を出すんだろう、どんな息をしているんだろう、どんな歌を歌うんだろうと、その人物を徹底的に考えることが役作りだと思っています。そして自分の中で思考するだけでなく、稽古の中で、お芝居でセッションをしていく中で気付くこともたくさんあると思う。俳優というのは人の気持ちがわからないとできない仕事だと思っています。だから役作りは、なぜこういうことを言うんだろう、どうしてこう思うんだろうということをひたすら考える。そして「魂まで変われ」という意識でいることですね。
ーー確かに山田さんは作品によって本当に印象が変わりますよね。
違う人物になれていたら、嬉しいです。マネージャーさんとか周りにいる人には、作品によって人が変わると言われます。それは申し訳ないなと思いつつ、そうなれるということは天職やん? って思います(笑)。
山田裕貴
スタイリスト:森田晃嘉
ヘアメイク:小林純子
取材・文=平野祥恵  撮影=中田智章

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