ティン・パン・アレー
『キャラメル・ママ』は
音楽の達人たちが遺した
レジェンド級アルバム

バラエティー豊かな楽曲群

まず、そのM2、M3から見ていこう。M2「チョッパーズ・ブギ」はタイトル通り、ベースのチョッパーから始まる。演奏は後藤次利。ブイブイと鳴るそのベースプレイに、斉藤ノブのパーカッションとアコギのストロークが重なって、躍動感を与えていく。アコギは林が弾いている。出だしの15秒くらいで聴いているこちらが身震いを覚えるほどのグルーブ感だ。金属音っぽい硬質な音と相俟ってシャープに迫ってくる。その15秒を過ぎた辺りからエレキギターの流麗な単音弾きが聴こえてくる。その音色とメロディーでピンとくる人はピンとくるであろう。高中正義以外しか出せない艶めかしいギターである。歌詞はあるにはあるが、林の《チョッ、チョッ、チョッパー》との歌の桑名ハルコのソウルフルなコーラスが重なる程度で(とは言っても、そこはそこで印象的なのだが)、ほとんどインスト、フュージョン=ジャズロックと言うべき代物である。林がバカテクなメンバーを集めて理想のロックを実現させたナンバーといった感じだろうか。

一方、鈴木が手掛けたM3「はあどぼいるど町」はポップでシャレオツな雰囲気。テンポは決して遅くないけれど急かされる感じがしないのは、音数が多いわりにアンサンブルが妙に複雑ではなく、各楽器が変に突出してしていないからだろうか。ブラスが入っているものの、それがソウル、リズム&ブルースのような派手なセクションを占めることもないし、ギターもベースも比較的淡々と進行していく。そうかと思えば、間奏ではブルージーなキーボードが聴こえてきたり、マリンバやフリューゲルホーンが絶妙な位置に配されていたり、ベースがちらりとスラップを披露していたりと、あくまでもさりげなくセンスの良さを見せているところが心憎い。歌詞は、はっぴいえんど時代の盟友、松本 隆が担当。恋愛の駆け引きをポエミーに可愛らしく描いている。かようにM2、M3で対極的にあるような楽曲を置いているのが相当面白い。作家が異なるだけでなく、演奏陣もまるっと異なるので、まったく異なる楽曲になることは当たり前で、“そりゃあバラエティー豊かにもなるだろう”と思わなくもないけれど、出来上がった楽曲を聴き比べると、ちょっと目から鱗の制作形式ではあると思う。

ついでに…と言っては何だが、M4、M5と続けると、M4「月にてらされて」は松任谷正隆のナンバーで歌詞は荒井由実が書いている。松任谷が弾くアコーディオンとマリンバが印象的で、主旋律と音色は欧風でありつつ、斉藤ノブのラテン調なパーカッションが彩るという、(歌詞で描かれた世界観はメキシコのようだが、総体的には)どこか無国籍な感じ。山下達郎がコーラスアレンジを手掛け、山下と大貫妙子とのハーモニーで松任谷のヴォーカルを支えている。これも派手さはないが、他とは異なる空気感を持つ楽曲に仕上がっている。

M5「チュー・チュー・ガタゴト‘75」は細野晴臣のソロ1stアルバム『HOSONO HOUSE』(1973年)に収録された「CHOO CHOO ガタゴト」のセルフカバー。ブラスセクションも配されて、歌詞にもあるようにニューオーリンズ風のファンキーなアレンジが施されている。『HOSONO HOUSE』版も悪くはないが、このM5の方がポップな印象だ。こちらもコーラスは山下と大貫で、パーカッションは斉藤ノブ。そして──申し遅れたが、M4も、このM5もティン・パン・アレーの4人が演奏している。言うまでもないことだが、コーラス、パーカッションを含めて、タイプの違う楽曲を実に器用に演じている。個性的ではない…とは言わないが、それぞれのパフォーマンスが決して角が立ったものではなく、楽曲ライクとでも言おうか、あくまでも楽曲の世界観を活かすものになっていることには注目せざるを得ないとは思う。

OKMusic編集部

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