「ザ・ブロードウェイ・ストーリー」
VOL.18 映画版『ブリガドーン』と
ジーン・ケリーの輝かしきレガシー

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

VOL.18 映画版『ブリガドーン』とジーン・ケリーの輝かしきレガシー
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
 前号VOL.17で紹介した『フィニアンの虹』と同年の1947年に初演され、好評を得たブロードウェイ・ミュージカルがもう一作ある。タイトルは『ブリガドーン』。こちらも映画版が有名で、『フィニアン』のフレッド・アステアに対し、こちらの主演は、同様にハリウッド・ミュージカル史に多大なる貢献を果たした不世出の天才ダンサー、ジーン・ケリー(1912~96年)だった。今回はこの映画を中心に、当時のハリウッド事情とケリーの功績に迫ろう。
■ド迫力の大画面とステレオ音響で勝負
 まずは粗筋から。狩猟のため、NYからスコットランドにやってきたトミーとジェフは、百年に一日だけ現れる、地図にもない幻の村ブリガドーンに迷い込んだ。トミーは、村の美しい娘フィオーナと恋に落ち村に留まろうとするが、ジェフに説得され帰国する。しかし、彼女が片時も忘れられずスコットランドに戻ると、愛が奇跡を起こし、目の前に再びブリガドーンが現れるというストーリー。初演された1947年は、第二次世界大戦終結から2年を経てはいたものの、未だ傷が癒えぬ観客の心に、どこか懐かしいファンタジーが安らぎを与えヒットした(アイルランドの妖精伝説に材を得た『フィニアン』も全く同じ)。
DVDはワーナー・ホーム・ビデオより発売。Amazonのprime videoなどでも視聴可だ。
 脚本・作詞はアラン・ジェイ・ラーナー、作曲はフレデリック・ロウ。9年後に名作『マイ・フェア・レディ』(1956年)を放つ彼らにとって、出世作となったのが本作だった。映画化は1954年。トミーを演じたケリーの他は、バレエ畑出身のシド・チャリース(フィオーナ)と、親しみ易いパーソナリティーで売ったヴァン・ジョンスン(相棒ジェフ)が共演した。監督はヴィンセント・ミネリ。ケリー主演の「巴里のアメリカ人」(1951年)を手掛けた才人だ。
 1950年半ばから、TVの台頭による観客減少を憂慮した映画会社は、ワイド・スクリーンや立体音響で巻き返しを計り、ブロードウェイのヒット・ミュージカルを次々に映画化したが、本作もその一本。画面横広のシネマスコープ、ステレオ音響で公開された。
脚本・作詞家アラン・ジェイ・ラーナー(右)と作曲家フレデリック・ロウ
■心浮き立つケリーの名パフォーマンス

ケリーとヴァン・ジョンスン(前列左端)を中心に、賑やかに展開する〈可愛いジーンと我が家へ〉
 優雅で洒脱だったアステアに対し、弾力的かつ逞しいダンスで一時代を築いたケリー。自ら振付を兼ねた「ブリガドーン」でも、そのエネルギッシュなスタイルを堪能出来る。まず、村に到着したケリーとジョンスンが、村の青年たちと歌い踊る〈可愛いジーンと我が家へ〉が楽しい。幅広い画面を隅々までダンサーで埋め、民族舞踏にタップを交えた迫力あるナンバーに仕上がった。元々ジョンスンはダンサー出身で、ケリーがブロードウェイで主演した『パル・ジョーイ』(1940年)にも出演。ケリーより長身、大柄な身体を生かした派手な踊りを見せる。
ジョンスンは後年ブロードウェイで、『ラ・カージュ・オ・フォール』(初演/1983年)に主演し好評を博した(ジョルジュ役)。
 ケリーが歌い、チャリースと踊るロマンティックなデュエット〈ヒースの花咲く丘〉も素晴らしい。小高い丘を登り降りしながら、モダン・バレエ風の振付を見事にこなしている。広大なスタジオをフルに使用した高原のセット、そして四方を囲む書き割り見え見えの巨大な背景画も壮観で、これぞ人工美の極致。幻想的な物語を盛り上げる。
〈ヒースの花咲く丘〉を踊るケリーとチャリース
 ベストは、映画中盤でケリーが歌い踊る〈まるで恋をしたみたい〉。本作最大のヒット曲で、ジャズのスタンダードとしても知られる。ケリーの代表作「雨に唄えば」(1952年)で、雨の中でタイトル曲を歌い踊るシーンに相当する、恋の喜び大爆発系ナンバーだ。ここでは前述のセットで縦横無尽に踊り廻り、砂利道でしゃかしゃか音を立てながらタップを踏む凝った振付が秀逸。満面の笑みを湛えたケリーのソング&ダンスに、こちらまで気分が高揚する。

■作品後半に漂う不穏な雰囲気
 ところが快調なのはここまで。後半一気にペースが緩む。これはストーリーにも問題があった。劇中では、フィオーナの妹と村の青年の結婚が大きくフィーチャーされるのだが、妹に横恋慕する村の嫌われ者が、婚礼の儀をブチ壊す。その後、逃亡した彼をジェフが射殺。それも鴨と間違えて射撃するという、珍奇なエピソードが興を削ぐのに加え、トミーとフィオーナの重要なナンバーも割愛された。訳は単純。バラードだったのだ。ミュージカル映画では、「テンポが落ちる」という理由だけで、スローな楽曲はカットの憂き目に会うケースが多かった。
日本初公開時のプログラム表紙
 そして何よりも、沈滞ムードの原因は当時の映画界事情が影響していた。本作を生み出したのはMGM映画。ミュージカル映画にかけては、ハリウッドのトップ・ランナー的存在で、ケリーの主演作だけでも、「踊る大紐育」(1949年)や、前述の「巴里のアメリカ人」に「雨に唄えば」など、芸術と興行面に秀でた傑作を放つ。しかし新たに就任した社長は、芸術面より予算削減を重視。おまけに、メッセージ性の強いシリアスなドラマを好んだため、ケリーらとソリが合う訳もなかった。事実本作で、ケリーとミネリ監督はスコットランドでのロケ敢行を望んだものの、予算超過を危惧した社長は即却下。徐々に溜まったクリエイター陣の不満が、暗雲の如く作品を覆い尽くしているような気がする。以降、1958年公開の「恋の手ほどき」を最後の頂点に、MGMミュージカル黄金時代は終焉を迎えるが、その予兆は既に表れていたのだ。

■61年振りに甦るケリー創作のバレエ
1960年に、パリ・オペラ座バレエ団を演出・振付中のケリー Photo Courtesy of Patricia Ward Kelly
 しかし舞台版は、ブロードウェイでの初演以降も再演を繰り返した。NYだけでも、1950年のリバイバルを皮切りに、シティ・センターでは1950年代~60年代末にかけ頻繁に上演。最近では2017年に、パトリック・ウィルソン(『フル・モンティ』)とケリー・オハラ(『王様と私』再演)の共演で、再びシティ・センターでリバイバルされた。これは、スコットランド民謡のエッセンスを巧みに取り入れた、荘厳でエレガントなラーナー&ロウの楽曲の魅力が大きい。ちなみに今年、『ブリガドーン』を含む、往年のブロードウェイ・ミュージカルのパロディー満載のTVドラマ「シュミガドーン!」が、Apple TV+で配信され話題を呼んだ。
スコティッシュ・バレエ団『スターストラック』(2021年)の一場面 Photo by Andy Ross

 最後に、スコットランド繋がりで新たな情報を。ケリーは1960年に、パリ・オペラ座バレエ団のために新作の演出と振付を手掛けた。この作品がスコティッシュ・バレエ団により、2021年9月末から10月初旬に再演され、公演を収録した映像が11月末から期間限定で配信される。タイトルは『スターストラック』。副題に『ジーン・ケリーのバレエへのラブレター』とあるように、「踊る大紐育」や「巴里のアメリカ人」などで、自ら振り付けた長尺のバレエ・ナンバーで観客を感嘆させた彼が、長年培ったダンス・テクニックを駆使した渾身の一作となった。1960年の南フランスに降り立った、ギリシャ神話の女神アフロディーテのアバンチュールを軸に、ジョージ・ガーシュウィンの名曲〈コンチェルト・イン・F(ピアノ協奏曲ヘ長調)〉などに彩られた、躍動感と瑞々しさ溢れるダンスが堪能出来る。

これも同作より。レズ・ブラザーストン(マシュー・ボーンの『白鳥の湖』)のデザインによる、セットとコスチュームが美しい。 Photo by Andy Ross

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